抽選参加券(権)がもらえる企画の景表法上の考え方
抽選に参加できる権利(抽選参加券)を景品類としてもらえる企画は、景表法上どのように考えればいいでしょうか。
抽選参加券を総付で与える場合(例、来店者全員に抽選参加券を配る)と、懸賞で与える場合(例、商品購入者にくじを引かせて、くじに当たった人に抽選参加券を与える)に分けて考えてみましょう。
まず、「抽選に参加できる権利(抽選参加券)」のような、それ自体には価値のない権利(券)は、それと引き換えに結局何がもらえるのかを基準に、権利(券)の価値を判定すべきでしょう。
ですので、ここでも、抽象的に「抽選に参加できる権利(抽選参加券)」を考えるのではなく、その「抽選」の結果なにがもらえるのか、を具体的に考えたほうがわかりやすいでしょう。
そこで、「抽選」で当たった場合には、1万円相当の商品(賞品)がもらえるものとします。
まず、抽選参加券を総付であたえる場合、1万円相当の賞品をもらうためには「抽選」で当選しなければならないので、結局、この企画は全体として懸賞にあたると考えられます。
したがって、抽選の当選者に与えることができる賞品は、取引価額の20倍か10万円の、いずれか安い方、ということになりますので、たとえば取引価額が1000円(その20倍は2万円)であれば、1万円の賞品は、制限の範囲内となります。
次に、抽選券を懸賞であたえる場合、これは、どう転んでも懸賞でしょう。
なので、抽選券を総付であたえる場合と同様、1000円の取引の場合には、1万円の賞品は制限の範囲内となります。
このように考えると、
抽選に参加できる権利を総付で与える企画
抽選に参加できる権利を抽選で与える企画
抽選に参加できる権利がもらえる抽選に参加できる権利を抽選で与える企画
抽選に参加できる権利がもらえる抽選に参加できる権利がもらえる抽選に参加できる権利を抽選で与える企画
抽選に参加できる権利がもらえる抽選に参加できる権利がもらえる抽選に参加できる権利がもらえる抽選に参加できる権利を抽選で与える企画
・・・(以下同様に続く)
のすべてが、結局最後にもらえる1万円の賞品をもらえる懸賞だ、ということになります。
念のために告示に照らして確認しておきましょう。
懸賞告示1項では、
「1 この告示において「懸賞」とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。
一 くじその他偶然性を利用して定める方法
二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法」
と「懸賞」が定義されています。
なので、抽選参加券を総付で与える場合には、抽選の結果当選した賞品(景品類)の「提供の相手方」および「提供する景品類の価額」を、抽選という「偶然性を利用して定める方法」で定めていることになるので、「懸賞」に該当することになります。
抽選参加券を抽選で与える場合が賞品の「提供の相手方」および「提供する景品類の価額」を「偶然性を利用して定める方法」によって定めるものであることはあきらかでしょう。
では、少しひねって、物品(たぶん粗品程度)に交換することもできる抽選参加券を景品類として提供する場合はどうでしょうか。
このような抽選券の提供は、物品(粗品)を総付で提供するのと、抽選の結果当たる(たぶん立派な)賞品を懸賞で提供することを、あわせて行っているとみるべきでしょう。
ですので、たとえば取引価額が1万円で、このような抽選参加券が総付であたえられる企画の場合、総付で提供するとみなされる粗品については2000円まで、抽選の結果当選者にあたえられる賞品は10万円まで、ということになります。
同様の抽選券が懸賞であたえられる企画の場合は、粗品も懸賞で与えられることになるので10万円まで(粗品とは言えませんね。笑)、抽選の結果当選者にあたえられる賞品も10万円まで、ということになります。
また少しひねって、複数枚集めてはじめて抽選に参加できる抽選参加券をあたえるの場合はどうでしょうか。
単純に、「2枚集めて1回くじを引ける券」みたいなものを考えてみましょう。
このような、「2枚集めて1回くじを引ける券」を総付で提供する場合、くじに参加するために(最低限)必要な取引額が、取引価額になります。
したがって、たとえば1000円の取引1回で「2枚集めて1回くじを引ける券」を1枚もらえる場合、取引価額は2000円となり、くじに当たったらもらえる豪華賞品の上限は2000×20=4万円となります。
次に、このような、「2枚集めて1回くじを引ける券」を懸賞で提供する場合は、このような「くじ」に参加できるために(最低限)必要な取引額が取引価額となります。
そして、「2枚集めて1回くじを引ける券」がもらえる抽選に全部あたるとしても、賞品をもらえる「くじ」に参加するためには最低2回取引をしなければならないので、取引価額はやはり2000円となり、くじに当たったらもらえる豪華賞品の上限は同じく4万円となります。
では、「2枚集めて1回くじを引ける券」を、総付と懸賞の両方で提供する企画はどうでしょうか。
たとえば、商品1万円購入すると「2枚集めて1回くじを引ける券」を1枚必ずもらえて、かつ、商品1000円ごとに「2枚集めて1回くじを引ける券」をもらえる抽選に1回参加できる、というような場合です。
上記の検討からあきらかなように、この場合の総付による提供も懸賞による提供も懸賞による提供ですから、「2枚集めて1回くじを引ける券」を2枚獲得できるために(最低限)必要な取引の価格が取引価額となりますので、1000円の商品を2個購入した場合の2000円が取引価額となります。
ではさらに、「2枚集めて1回くじを引ける券」を、総付でも、取引付随性のない形態でも、もらえる場合はどうでしょう。
たとえば、1000円の商品1個を購入しても「2枚集めて1回くじを引ける券」を1枚もらえるし、取引とは関係のない行為(たとえば、商品名を答えさせるような簡単なクイズを記載した新聞広告への回答をはがきで送る、オープン懸賞のような行為)でも同じく1枚もらえる、というような場合です。
この場合については、指定告示運用基準4(2)で、
「(2) 取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、次のように取引の相手方を主たる対象として行われるときは、「取引に附随」する提供に当たる(取引に附随しない提供方法を併用していても同様である。)。」
とされています。
この「同様である」の意味について、西川編『景品表示法〔第6版〕』では、
「例えば、〔運用基準4⑵ア~エ〕の場合のように取引の相手方を主たる対象として行われるときは、たとえ取引を条件としない提供方法を併用していても、取引付随性がある(4⑵)。」
と説明されています。
つまり、上の例でいえば、1000円の商品1個を購入して「2枚集めて1回くじを引ける券」を1枚もらえるのであれば、たとえ、商品名をはがきで回答してももらえる場合であっても、抽選の結果もらえる賞品は取引付随性がある、ということです。
ここで問題は、取引価額はいくらなのか、とくに、取引付随性のない形だけで「2枚集めて1回くじを引ける券」を2枚もらい賞品のくじに当たった人(商品名を書いたハガキを2枚送って券を2枚獲得してさらにくじで賞品が当たった人)について、取引価額はいくらなのか、が問題となります。
これは、指定告示運用基準が、取引付随性のある方法と無い方法を併用しても全体として取引付随性ありとする趣旨であると考えられることから、取引付随性がない方法で「2枚集めて1回くじを引ける券」を2枚獲得した人についても、取引付随性がある方法で獲得したものとみなして、取引価額は商品2個分の2000円であると考えられます。
というわけで、「2枚集めて1回くじを引ける券」を、総付でも、取引付随性のない形態でも、もらえる場合は、総付の方法で2枚券を獲得するのに最低限必要な取引の価額が取引価額であると考えられます。
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