アマゾン事件のアンケート調査の問題点
アマゾンの二重価格表示に関する措置命令取消訴訟一審判決(東京地裁令和元年11月15日)では、アマゾン側が、問題の二重価格表示を見せたグループと見せていないグループで、「購入したい」と答えた人の割合に統計上有意な差がないというアンケート調査を提出しました。
これに対して消費者庁側は、統計学的な観点からこのアンケート調査をさまざまに批判し、裁判所もおおむね消費者庁の主張に沿った判断をしてアンケート調査の有効性を否定しているのですが、そもそも法律的な観点からこのアンケート調査には問題があったのではないかと思われます。
というのは、このアンケートでは、要するに、問題の表示を見せて「購入したい」と思う人がどれだけ増えるかを調べているわけですが、有利誤認表示が成立するためには、
「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(景表法5条2号)
であればよいので、買いたくない人に買いたいと思わせる必要はないからです。
つまり、表示を見てお得だと思って買ったけれど、実は、表示から理解されるほどにはお得ではなかった(なのでちょっと損した気にはなるけどやっぱり買った)、というのでも、有利誤認表示になります。
たとえば、2012年のコスモスイニシアに対する措置命令では、同社が販売していたマンションについて、鉄筋コンクリートの水セメント比が全て50%以下であるかのような表示をしていたのに、実際には、対象物件の鉄筋コンクリートのうち、外構の塀、花壇の基礎、土間など建物本体以外の部位の一部については、水セメント比が50%を超えるコンクリートが施工されていた、というので措置命令がなされています。
このマンションを買った人が、花壇の基礎の水セメント比率が実際どおりとわかっていたら買わなかったか、といえば、まずそんなことはないと思います。
中には補償を求める(減額交渉する)人もいるかもしれませんが、ほとんどの人はそれさえもしないでしょう。
つまり、買うか買わないかという意思決定に影響しない不当表示でも(あるいは、不当表示と購入意思決定の間に因果関係がなくても)、問題なく、不当表示になるのです。
ちょっと経済学的な説明をすると、「買うか買わないか」というのは、価格が支払意思額を超えるか超えないか、というレベルの問題ですが、不当表示は、不当表示により支払意思額を上げれば成立する、ということです。
つまり、不当表示の結果、
不当表示のない状態では支払意思額が価格を下回っていた人が、不当表示により支払意思額が価格を超えると、買わなかった人が買うことになりますし、
不当表示のない状態ですでに支払意思額が価格を上回っている人は、不当表示があってもなくても買うけれど不当表示になることに変わりはないし、
不当表示のない状態で支払意思額が価格を下回っていて、不当表示後の支払意思額が引き続き価格を下回っている人は、いずれにしても買わないけれど、こういう人との関係でも不当表示は成立しますので、
いずれにしも(支払意思額が上昇する限り、購入の意思決定に影響がなくても)不当表示は成立します。
景表法が競争法であった時代には、競合他社から不当に需要を奪うこと(競争をゆがめること)が不当表示の問題点だったので、競合他社から顧客を奪わない限り違法ではない、という議論も不可能ではなかったかもしれません。
しかし、今や景表法は消費者保護法ですから、条文どおり、「表示を見てお得だと思ったのに、表示から理解されるほどにはお得ではなかった(「実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認」)という場合でも違反になることに異論の余地はないと思います(条文どおりなのであたりまえですが)。
アマゾンとしては、「購入したい」という人の割合くらいしかアンケートで測定できる設問がなかったのでこういうアンケートにならざるをえなかったのかもしれませんし、それを理解した上で、「購入したい人の割合が増えないなら、実際より有利と思う人の割合も増えないだろう」という論理を噛ませて、こういうアンケートにしたのかもしれません。
あるいは、たんに「3000円」という表示と「通常5000円のところ、3000円」という表示を見せたら、後者のほうがお得に見えるに決まっていて、どっちがお得に見えるかダイレクトに聞いたら負けるに決まっているから、購入したいかどうかを聞くことにしたのかもしれません(深読みのしすぎかもしれませんが)。
しかし、消費者庁が、統計学や社会調査上の批判はしながら(その中には妥当なものも、そうでないものもあります)、法律の執行官庁なのに、肝心の法律上の批判をしないのは、なんだかなぁ、という感じがします。
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