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2021年8月23日 (月)

平成16年度相談事例集事例5(共同研究開発に伴う排他的購入義務)の問題点

掲題の相談事例では、

建築資材メーカー(シェア約10%)とその製品のユーザーである建設業者(業界12位の総合建設業者)の2社が,

建築工法について共同で開発し,

建設業者が当該工法において使用する資材については,当該建築資材メーカーのみが供給するよう取り決めることは,

制限が課される期間が研究開発の成果を当事者間で配分するために合理的に必要な範囲にとどまる限りは,

直ちに独占禁止法上問題となるものではない

とされました。

ですが、この相談事例の論理にはいろいろと問題があります。

具体的に相談対象になっている条項は、

「ア 本件工法で使用される建築資材Xについては,B社〔資材メーカー〕が全量を生産し,A社〔建設会社)に供給するものとする。

イ B社は,両社からライセンスを受けて当該工法を実施しようとする建設業者に対し,建築資材Xを販売することができるが,その際の販売価格は,A社への供給価格を下回らないものとする。

ウ 本件契約期間は5年とするが,当該工法に係る特許が取得された場合には,当該特許が有効な期間(出願日から20年間)は,原則として自動更新する。」

の3つです。

まず回答は、

「(1) 共同研究開発の成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限することは,不公正な取引方法に該当するおそれがある。[共同研究開発ガイドライン 第2-2(3)イ[4]]」

と述べます。

ここで引用されている共同研究開発ガイドライン 第2-2(3)イ[4]は、

「[4] 成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア[2]の場合を除く。)」

を、不公正な取引方法に該当するおそれがある事項(灰条項)としており、その中で除かれている「(3)ア[2]の場合」というのは、

「[2] 成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ[4]参照)」

を、原則として不公正な取引方法に該当しない事項(白条項)としています。

その上で回答は、まず、

「ア 当事者であるA社〔建設会社〕及びB社〔資材メーカー〕は,原材料メーカーとそのユーザーという関係であり直接の競争関係にはないところ,競争関係にない事業者間の共同研究開発については,通常,独占禁止法上の問題を生じるおそれは小さい。

また,このような事業者間の共同研究開発であれば,その成果を実施する場合の原材料等の供給者は当該参加事業者とすることが当然の前提とも考えられる。」

と述べます。

しかし、直接の競争関係にないことから直ちに「通常,独占禁止法上の問題を生じるおそれは小さい」というのは問題です(まあ、公取がそれでいいというなら、弁護士としては、目くじら立てることはないのですが)。

そんなこと言い出すと、購入先制限が灰条項であるとするガイドラインと正面から矛盾してしまいます。(まあ、公取がそれでいいというのなら、いいのですけれど。)

購入先制限(建設会社A社が資材メーカーB社からしか購入できないこと)の競争制限の機序は、B社と競合する資材メーカーがA社に売れなくなる(排除される)ことであるはずです。

流通取引慣行ガイドラインでも、その旨明記されています。(市場閉鎖効果)

さらに、この手の共同開発では、排他的購入が「当然の前提」というのも、(たしかにそのとおりなのですが)市場閉鎖効果には目もくれず公取が正面切って認めるとは驚きです。(まあ公取が良いというなら良いのですけれど。)

続いて回答は、

「イ B社〔資材メーカー〕が建築資材Xを全量生産し,A社〔建設会社〕に他社より有利な条件で供給することを義務付けることは,

共同研究開発の成果を両者の間で配分する手段として行われる場合においては,

制限が合理的な期間にとどまる限り不当性を有するものではない。」

と述べます。

しかし、ここでいう、「共同研究開発の成果を両者の間で配分する手段として行われる場合」というのは、たいへん不明確で、基準になっていません。

それに、建設会社A社が専ら資材メーカーB社から購入する、というのはまだ、資材メーカーB社に成果を分配するものと説明できそうですが、どうして「A社〔建設会社〕に他社より有利な条件で供給すること」が、「成果を両者の間で配分する手段」となるために必要なのか、不明です。

利益を分配するためなら、購入総額が大事なはずで、競合他社より有利か不利かは基本的には関係ないはずです。

これも、細かいことを言えば、資材購入市場で建設会社A社が競合より有利に調達できることにより川下の建設市場で建設会社A社が競合建設会社よりも競争上優位な地位に立ち、ひいては、そこから生じた独占利潤を有利な購入価格として資材メーカーB社に分配する、というメカニズムも考えられなくはないですが、それって、川下市場での排除を前提にしているので、あまり胸を張って競争的だというにははばかられる内容だと思います(まあ、公取がそれでいいっていうなら、いいのですけれど。)

あるいは、すごく深読みをすれば、「他社より有利な条件で供給することが成果の分配に必要だといえるのは川下での排除を前提にするほかないので、実は他社より有利に供給することを義務づけることが『成果の分配に必要』な場合というのは論理的にあり得ないのだ(なので空振りだ)」という読み方も可能かも知れませんが、そんなだまし討ちみたいなのはさすがにあり得ないでしょう。

さらに続けて回答は、

「ウ A社〔建設会社〕は,当該工法以外の工法においてはB社〔資材メーカー〕以外の事業者から建築資材Xを購入することが制限されるものではなく,

B社も,当該工法のライセンス先事業者に対して建築資材Xを販売することは認められ,

また当該工法向けの販売以外には何ら制約を課されていないことから,

これによって競争事業者の取引先が減少し,事業活動が困難になるとは認められない。」

と述べます。

しかし、契約対象以外の資材購入・販売が制限されていないからといって、排他条件付取引が違法にならないわけではない(市場閉鎖効果があれば違法になる)のは、前述のとおりです。

回答は、契約対象以外の取引を制限しないことから、「これによって競争事業者の取引先が減少し,事業活動が困難になるとは認められない」と言っていますが、そんなことはありません(まあ、公取が良いというなら良いのですが。)

そして回答は、結論部分において、

「(3) したがって,本件共同研究開発に伴う制限ついては,制限が課される期間が研究開発の成果を当事者間で配分するために合理的に必要な範囲にとどまる限りは,

直ちに独占禁止法上問題となるものではない。」

と、突如として、制限期間が合理的な範囲を超えれば問題になるかのようなことを言い出します。

しかし、これは、前の部分で、さんざん、「直接の競争関係にない」から問題ないとか、排他的購入は「当然の前提」であると言っていたことと、明らかに矛盾します。

もともと競争制限がない(「直接の競争関係にない」ため)のに、どうして、成果分配に必要な期間を超えると突如として競争が制限されることになるのでしょうか?

まったく、支離滅裂というほかありません。

やっぱり、「資材市場で市場閉鎖効果が生じないならOK。以上」、と回答すべきでした。

さらに回答は続けて、

「この点,当該工法に係る特許の存続期間にわたり自動的に更新されるとの取決めは,当該合理的に必要な範囲を逸脱するおそれもあることから,契約更新時には制限の内容を再検討する必要がある。」

と述べますが、これも、前の理由の部分に矛盾し、支離滅裂です。

こういう余計なことを言われると、事前相談なんてやるもんじゃない、と思ってしまいます。

この回答をみていると、公取委も、平成15年頃までは、あまり反競争性発生機序の理屈がよく分かっていない人が、なんとなく気分でそれらしく(合理的な期間を超えられない、など)回答していたんだなぁ、ということがわかります。

(今はさすがに、ここまでひどいものはあまり見かけません。)

でも、共同研究開発における成果物の排他的購入義務については、相談事例もこれくらいしか事例がなく、困ったものです。

結果的に非常にユルユルになっているのは朗報ですが(ほんとうは、他社に不利な価格でしか供給しない、というのは、MFNとの関係で問題になりうるところです)、それでも、定期的に見直せ、みたいな余計なことが言われています。

こういう、論理的に破綻した回答は、ほんとうに、やめていただきたいものです。

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