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2021年7月 9日 (金)

西村担当大臣の"金融機関発言"と優越的地位の濫用

西村担当大臣が、コロナの緊急事態宣言に伴い、休業要請に従わない飲食店に関する情報を金融機関に提供すると発言しました(翌日撤回)。

これに従って金融機関が融資先の飲食店に圧力をかけたら優越的地位の濫用になるのではないかが問題視されましたが、確かに、なると思います。

優越的地位の濫用は、条文上は、

「五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること

ということになっていますが、国の休業要請に応じないと融資を引き上げるなどといえば、「その他取引の相手方に不利益となるように・・・取引を実施すること 」に該当すると考えられます。

現在の公取は、甲(優越者)が乙(被優越者)と乙の取引先との間の取引条件に介入すること自体が濫用行為にあたりうるという解釈に立っているので、乙(飲食店)が営業するかしないかに甲(金融機関)が介入するのは、明らかに濫用行為だと思います。

国の休業要請に応じさせることが「正常な商慣習に照らして」正当だ、という理屈もありえなくはないですが、休業要請はあくまで要請であり、営業しないと潰れてしまうお店もあるでしょうから、とうてい、「正常な商慣習に照らして」正当だとはいえない、と思われます。

もう1つの独禁法上の論点としては、行政指導に従った行為には公正競争阻害性が認められないのではないか、というのがありますが、本件では公正競争阻害性が認められないというのは無理でしょう。

かえって、「行政指導に関する独占禁止法上の考え方」では、

「法令に具体的な規定がない行政指導の場合、行政機関は、当該行政指導の中には、その目的、内容、方法等によっては、公正かつ自由な競争を制限し、又は阻害するとともに、独占禁止法違反行為を誘発する場合さえあることに、十分留意する必要がある

行政指導によって誘発された行為であっても独占禁止法違反行為の要件に該当する場合には、当該行為に対する同法の適用が妨げられるものではないことは言うまでもない。」

と書かれており、違反を誘発するような行政指導は慎むべきであると述べられています。

という具合に、本件は、独禁法上はイージーケースですが、それはともかくとして、こういうやりかたは本当に卑劣だと思います。

行政指導としても、そもそも違法でしょう。

昭和の時代にもいろいろと根拠不明な行政指導はありましたが、こんなふうに、第三者(=金融機関)の影響力を利用して言うことを聞かせようなんていうのは、さすがになかったと思います。

とくに若いみなさん、今の政府が当たり前だと思わないで下さい

今の政権は、法律の観点からは、もう、「何でもあり」の感じですが、独禁法も絡みましたし、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」とする(弁護士法1条)弁護士として、何か言わないといけないと思いましたので、コメントいたしました。

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コメント

ライオンズ石油事件では通産省が城南信用金庫に融資を止めさせてガソリンの輸入を阻止したそうです

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