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2021年7月 2日 (金)

1年を超えてやり直しをさせることができるための下請事業者との合意

令和2年版下請法講習テキストp84では、

「(エ) 通常の検査で瑕疵等のあること又は委託内容と異なることを直ちに発見できない下請事業者からの給付について,受領後1年を経過した場合」

には、(下請事業者に過失があっても)親事業者は下請事業者にやり直しをさせることができず、ただし、

「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

は、「それに応じた瑕疵担保期間」についてはやり直しをさせることができる、とされています。

「1年を超えた」であり、上限はないので、下請法上は、たとえば、

「親事業者が顧客・・・に対して永久保証瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者が永久保証の瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

には、親事業者は下請事業者に対して永久にやり直しをさせることができます。

なお、改正前民法570条、566条の瑕疵担保責任は同167条1項の10年の消滅時効にかかるとする最高裁判例(最判平成13年11月27日)がありますが、これは法廷の瑕疵担保責任について引渡しから10年で時効にかかるといっているだけであって、契約でそれを超える期間の保証をした場合には、もちろんその保証契約は有効であり、「永久保証」であっても有効であると考えられます。

ちなみに改正民法566条では、

「(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

第五百六十六条 

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、

買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、

買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」

と規定されていますが、これは、知ったときから1年以内に通知しないと契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及する権利を失う(権利保全の要件)といっているだけですので、時効については、上記最高裁判例に従えば、

①知ったとき→1年以内に通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

②知らなかったとき→引渡しから10年で時効(民法166条1項2号)

となると考えられます。

もちろん、当事者間の契約で民法566条をなぞったような条項、たとえば、

「甲が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を乙に引き渡した場合において、

乙がその不適合を知った時から1年以内にその旨を甲に通知しないときは、

乙は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

ただし、甲が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」

というような条項を設けていても、これは権利保全の条件を定めたものにすぎず、1年以内に通知すれば売主は永久に保証責任を負うことまで合意したものではないと解されるでしょう。

ちょっとややこしいのは、上記のような条項を合意している場合に、商法526条、つまり、

「(買主による目的物の検査及び通知)

第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。」

という規定を排除したことになるのか、という問題があります。

あくまで当事者の意思解釈の問題なので一概には言えないですが、たとえ民法566条と実質的に同じ内容であれ、ともかく当事者が明示的に合意しているわけですから、商法526条は排除される、と考えておきます。

つまり、前述のとおり、

①知ったとき→1年以内に通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

②知らなかったとき→引渡しから10年で時効(民法166条1項2号)

となる、ということです。

ちなみに、もし商法526条が適用されるとすると、

①知ったとき→直ちに通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

②知らなかったとき→6か月以内に発見して通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

となる、と考えられます。

では、下請事業者に1年を超えてやり直しをさせるための、

「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

における、

「親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

に該当するためには、どのような合意を下請事業者としておけばいいでしょうか。

まず、下請法テキストp86のQ99では、

「最終顧客への保証期間が5年であれば,受領から5年後にやり直しを要求することは問題ないか。」

との設問に対して、

「最終顧客への保証期間が5年であり,

下請事業者との間でも事前に受領から5年の瑕疵担保期間を定めているのであれば,

その期間内に下請事業者の給付に直ちに発見できない瑕疵があることが判明した場合に,費用を負担せずにやり直しを要求しても

不当なやり直しには該当しない。」

と回答されています。

なので、「受領から5年」のように、具体的に年数を特定しておけば問題ない(5年間はやり直しをさせられる)、ということになります。

ただ、「受領から5年」でなければならないというわけではないと考えられます。

もし「受領から5年」に限られるとすると、下請事業者から部品を受領して、1か月後に製品を完成させて最終顧客に納品したような場合(しかも、最終顧客に対する保証期間は納品から5年と合意されている場合)、最終顧客に対して保証義務を負う期間よりも、下請事業者に対して保証を請求できる期間のほうが、1ヶ月間早く終わってしまいます。

これでは、テキストp84の、

「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

というのがまっとうできなくなってしまいます。

つまり、「それに応じた」期間のやりなおしなら認めるということは、親事業者が顧客に対して保証義務を負っている期間中はミラーで下請事業者に保証をつけ回すことができるべきでしょう。

というわけで、「受領から5年」である必要はなく、最も抽象化していえば、

「親事業者がその顧客に対して瑕疵担保責任を負っている期間は、下請事業者は瑕疵担保責任を負う。」

というような条項があれば、下請法上はやり直しをさせられる、と考えられます。

この点、具体的な期間を定めないのは下請事業者に不利益ではないか(なので下請事業者とは特定の期間を合意すべき)、という意見もあるかもしれませんが、前述のとおり、下請法テキスト上はやり直しをさせられる期間の上限はなく、つまり、「永久」という合意でも認められるわけですから、具体的な期間を定める必要があると考える必要はないと思います。

そのような解釈を受け入れたくないと公取委が言うなら、

「親事業者が顧客等・・・に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

というテキストの記述を修正すべきでしょう。

さらにいえば、下請事業者が親事業者がその顧客に提供している保証期間を知っている必要もないと考えられます。

上記テキストの記述からは、下請事業者が親事業者とその顧客との間の保証期間を知っている必要があるとの解釈は読み取れず、むしろ、下請事業者との間の瑕疵担保保証期間が結果的に親事業者のその顧客に対する保証期間内におさまっていればいい(「それに応じた」にあたる)、としか読めないからです。

実際、前述のように、親事業者が下請事業者から部品の納入を受けてから顧客に完成品を引き渡すまでにタイムラグがありうることを考慮すると、具体的な期間を定めないといけないとすると何かと不都合なように思われます。

つまり、起算点を(たとえば、納入後と)書いてしまうと、どうしてもタイムラグにより下請の保証期間のほうが早く終わってしまう、という問題が生じますし、それを嫌って余裕を見て、たとえば顧客への保証が5年のときに、下請の保証義務の期間は6年、としたりすると、かえって、たとえば3年後に明らかになった瑕疵だとしても、合意が「それに応じた」といえないのでだめだ、と解釈されるリスクすらあると思われます。

これを、結果的に顧客に対する保証期間内であれば(またその旨合意があれば)問題ない、と解するのであれば(そう解するしかないと思いますが)、突き詰めれば、具体的な期間を定める必要はない(結果的に親事業者が顧客に負っている保証期間内であればいい)と解さざるをえないと思われます。

またこのように解しないと、下請事業者が納めた部品を使って完成品を完成させ、複数の顧客に販売する場合、顧客ごとに保証期間が異なることは当然あり得るので、下請事業者との契約に規定しようとするとたいへん面倒なことになりそうです。

これに対して、保証期間について何も定めないのはさすがに

「親事業者が顧客等・・・に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

にはあたらない、というべきでしょう。

何も定めていない場合には、前述のとおり、商法526条が適用されて、

①知ったとき→直ちに通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

②知らなかったとき→6か月以内に発見して通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

となるので、②の場合ですら、6か月以内に発見しないと請求できませんし、仮に前述の民法566条をなぞったような、

「甲が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を乙に引き渡した場合において、

乙がその不適合を知った時から1年以内にその旨を甲に通知しないときは、

乙は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

ただし、甲が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」

という条項を合意していた場合には、前述のとおり、

①知ったとき→1年以内に通知する必要があり、かつ、知ってから5年で時効(民法166条1項1号)

②知らなかったとき→引渡しから10年で時効(民法166条1項2号)

となるので、契約上は10年間は請求できるのですが(②)、それでも、このような条項では、権利保全要件の1年以内の通知については定めているものの、下請法テキストに言うところの、

「親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

にあたるとはいえないと思われます(「瑕疵担保期間」については何も定めていないので)。

というわけで、下請法テキストの、

「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合」

は、「それに応じた瑕疵担保期間」についてはやり直しをさせることができる、という記述は、うまくつかえばかなり使い勝手がよいですが、いろいろと細かいところで気をつかわないといけなさそうです。

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