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2021年7月17日 (土)

消費税のインボイス制度非登録事業者に対する値下げ要求と下請法

2023年10月に消費税法のインボイス制度が導入されますが、導入に際してインボイス制度の非登録事業者である下請事業者に対して値下げ要求することは、下請法上の買いたたきにあたるでしょうか。

(なお消費税転嫁法は既に2021年3月31日に失効しているので問題になりません。)

たとえば、導入前にある下請事業者から税込110円で購入していた場合に、その下請事業者がインボイス制度の登録をしないため、親事業者が108円に値引きすることを要求することが、買いたたきにあたるか、という問題です。

(「108円」としているのは、経過措置で2026年9月末までは80%を控除できるなどとされているからです。)

また前提として、インボイス制度導入前の110円という価格は通常の価格であり、それ自体は買いたたきにはあたらないものとします。

結論としては、108円に値下げ要求しても買いたたきにはあたらないと考えます。

買いたたきは、

「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」(下請法4条1項5号)

です。

そして、インボイス制度導入前の110円が「通常支払われる対価」なのであれば、導入後に非登録事業者に「通常支払われる対価」は108円と考えざるを得ません。

というのは、親事業者は登録事業者である下請事業者から同じ物を110円で購入した場合には消費税相当額10円を丸々親事業者が納める消費税額から控除できるのに、非登録事業者から110円で購入したら8円しか控除できない(経過措置が完全に終わったあとはまったく控除できない)ために、親事業者の立場からすると非登録事業者の商品は2円割高になってしまうからです。

つまり、非登録事業者の商品は2円安くてはじめて登録事業者の商品と実質的には同価格になる、ということです。

これは、競争上当然のことであり、下請法も競争法の一部である以上、この当然の前提を無視するわけにはいきません。

下請法4条1項5号の条文に照らして言えば、インボイス制度導入後は、登録事業者に「通常支払われる対価」は110円、非登録事業者に「通常支払われる対価」は108円、ということになるので、非登録事業者に108円支払っている限りは買いたたきにはあたりません。

また、インボイス制度の登録をできるだけすべきというのが消費税法の建前であり、下請法で非登録事業者に110円支払わなければならないとすると登録が進まなくなり、消費税法と下請法が矛盾抵触することになり問題だ、とも言えます。

また、こういう値下げ要求が予想されるからこそインボイス制度の経過措置が設けられているのであって、経過措置に沿った2%の値下げを求めることが下請法違反になるというのでは、やはりインボイス制度(の経過措置)と下請法が矛盾抵触することになってしまうといえます。

本来できるだけ登録させて益税を吐き出させるのがインボイス制度の趣旨に適うのであり、親事業者が下請事業者に登録を要請することが不当だともいえません。

登録することで下請事業者に何か不利益があるのかといえば、免税事業者は今まで顧客から預かった消費税を納めなくてよかったのが納めないといけなくなる、ということですが、これは本来納めるべきものを納めているだけで、むしろ今まで納めなくてもよかったのが法の不備だったのであって、正常に戻っただけのことです。

正常な姿にさせることが下請法上問題とされるべきではありません。

そして、108円だと非登録事業者である下請事業者が赤字になってしまう場合であっても、以上の結論は変わらず、買いたたきにはあたらないと言うべきでしょう。

そのような薄いマージンで商売をしているのであれば、なおさら登録事業者になるべきでしょうし、実際なるでしょう。

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