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2021年7月27日 (火)

7月26日日経「EU競争政策新領域に 『技術カルテル』摘発、企業ショック」という記事について

掲題の記事は、排ガス浄化技術に関する競争を阻害したフォルクスワーゲン等のカルテル事件はEU競争政策が新領域に入ったものだ、という論評なのですが、個人的には(法解釈論としては)、そこまで大騒ぎするほどのことなのか、という気がしています。

たとえば日本の独禁法では、不当な取引制限は、

「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(2条6項)

と定義されており、「技術」に関する相互制限がカルテルにあたることが明文で規定されています。

欧州機能条約101条(共同行為)1項でも、

「1. The following shall be prohibited as incompatible with the internal market: all agreements between undertakings, decisions by associations of undertakings and concerted practices which may affect trade between Member States and which have as their object or effect the prevention, restriction or distortion of competition within the internal market, and in particular those which:

(a) directly or indirectly fix purchase or selling prices or any other trading conditions;

(b) limit or control production, markets, technical development, or investment;

(c) share markets or sources of supply;

(d) apply dissimilar conditions to equivalent transactions with other trading parties, thereby placing them at a competitive disadvantage;

(e) make the conclusion of contracts subject to acceptance by the other parties of supplementary obligations which, by their nature or according to commercial usage, have no connection with the subject of such contracts.」

とされており、技術開発制限がカルテルにあたることは明文で定められています。

たぶん今回のフォルクスワーゲン等の技術カルテルについても、競争法の弁護士に聞けば誰でも違法だと言ったでしょう。

私もかつてあるクライアントから技術カルテルにあたりそうな事案の相談を受けて、違法だと答えたことがあります。

弁護士に相談にくるということは、法務の方は「まずい」と思ってこられているわけで、なかなかよく分かっておられるなぁと思いました。

なので、「技術カルテルの摘発は初!」といえば確かにそうなのかも知れませんが、私の目には、たとえば景表法の世界でことあるごとに、「目のサプリで初摘発!」、「置き換えダイエットを初摘発!」、といって騒いでいるのとどっこいどっこいに映ります。

独禁法の世界ではかつて、溶融メタルの購入カルテルが摘発されたときに、「これからは購入カルテルにも注意」みたいな論調が一部の実務家に見られましたが、今回のVWの技術カルテルもせいぜいそれと同じくらいのインパクトかな、と思います。

つまり、目新しい事例なのでセミナーなどでは紹介しますが、「こういう事件もありました」というくらいの扱いです。

というわけで、価格カルテルも技術カルテルも本質的な(法解釈上の)違いはなく、あまり大騒ぎするのもどうかと思います。

とはいえ、技術カルテルがどういう場合に起きがちなのかは、予防法務的な観点から考えてみる価値があると思います。

私の見るところ、今回のVWのケースもそうですが、規制に絡む技術の場合に技術カルテルがなされやすいのではないか、という気がします。

同日経記事では、

「欧州委は、フォルクスワーゲン(VW)やBMW、ダイムラーなど5社が定期的に会合を持ち、有害な排ガスを浄化する法令基準以上の技術があるにもかかわらず、競争の激化を避けるために利用を控えるよう合意した」

と説明されていますが、背後の力学として2つ想像できます。

1つは、優れた技術を用いるとコストアップにつながるのでそれを避けたい、ということです。

もう1つは、優れた技術を用いてしまうと将来規制がさらに強化されてしまい、さらにコストアップになるのでそれを避けたい、ということです。

1つめの力学は、優れた技術でもコストアップを正当化するだけの需要がなければ落ち着くところに落ち着くので、あまりカルテルをする必要性がないような気がします。

それでも、排ガス規制というのは、各国政府が自動車メーカーのお尻を叩いて消費者の望んでいないもの(あるいは追加的対価を払ってでも購入したいと望まないもの)を作らせる、という面があるので、自動車メーカーにしてみたら、ほんとうはやりたくないことを無理矢理やらされている、という感じは強く、規制がらみであることが背景として無視できないと言うことはあると思います。

(余談ですが、二酸化炭素による温暖化に科学的根拠が乏しい(近時の温暖化の原因は宇宙線の可能性が高い)ことは、深井有『気候変動とエネルギー問題』という本に簡潔にまとめられています。)

これに対して2つめのほうは、もろに規制の絡む技術であることの影響といえそうです。

常識的に考えて、技術に関する政府規制がなく、市場力学だけがはたらいて、企業が消費者のより強く望むものを供給するという素朴な競争の場合には、どの企業もコストの許す範囲で他よりできるだけよい技術を開発すべく競争するでしょうから、あまり協調の要因がないような気がします。

これに対して、消費者が望んでもいないような技術開発を政府規制によって強いられると、コストに見合った利益が得られないことも多く、「お互いそこまでやらなくてもほどほどに」と言いたくなるのもうなずけます。

別の言い方をすると、規制が競争を歪めている(資源の最適な分配を阻害している)可能性があるのではないか、ということです。

私が以前相談を受けたのも、今思えば、そんな感じでした。

というわけで、予防のためには、そういう観点から網を張っておくのがよいかと思います。

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