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2021年6月29日 (火)

インボイス導入時の免税事業者への値下げ要求と消費税転嫁法

2023(令和5)年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が導入されます。

これにともない、免税事業者に対して消費税相当額の値下げを要求することが消費税転嫁法の買いたたきにあたるのではないか、ということが議論されることがあるようです。

たとえば、税務研究所のウェブサイトでは、

インボイス導入時の免税事業者への値下げ要求。条件次第では可能なケースも?」(2019/07/03 13:00)

というタイトルで、

「消費税にインボイスが導入されると、インボイスを発行できない免税事業者が取引上不利になると言われています。その中には、仕入税額控除ができない分だけ免税事業者に値引きが要求されるという懸念もあるようです。

こうした値引き要求はすぐさま消費税の転嫁対策特別措置法違反になると思われがちですが、何が何でもダメとはなっていないようです。

今回はその辺りの話を紹介しましょう。」

という説明がなされています。

そして、「後輩ちゃん」と「先輩さん」の会話形式で、

(後輩ちゃん)「消費税分の値引きですか...。でも、それをやると公正取引委員会にお目玉もらっちゃうって聞きましたよ?」

(先輩さん)「ええ、いわゆる"買いたたき"ね。公正取引委員会は実際の社名を挙げてまで問題ケースを出しているものね」

(後輩ちゃん)「でも、公正取引委員会のQAを見ると、「合理的な理由」があれば買いたたきにはならないって言ってますよね?」

(先輩さん)「ふふ、あなたも一丁前に裏読みをするようになったのね」

という具合に話が進み、結局、公取委のQ&Aで「合理的な理由」があれば買いたたきも許される、ということになり、たとえば、いままでボールペンを1000本単位で発注していたのを5000本単位にする代わりに値引き交渉するなら「合理的な理由」がある、というような結論になっています。

ですが、まず現時点においては、この説明は誤りです。

というのは、消費税転嫁法は2021(令和3)年3月31日で失効しているからです。

念のため根拠条文を挙げておくと、転嫁法附則2条1項に、

「第二条  この法律は、平成三十三年三月三十一日限り、その効力を失う。」

と規定されています。

もともと消費税転嫁法は民主党政権下で決まった消費税の二度の値上げで転嫁が円滑に進むようにとの目的で制定されたもので、最初から時限立法だったのですが、二度目の消費税率引き上げが安倍政権のもとでたびたび延期されたために、ついこないだまで生きていた、という法律です。

ちなみに上記税務研究所の記事が書かれた2019(令和元)年7月1日時点でも、失効は2021年3月31日でした。

というわけで、インボイス制度の導入は上述のとおり2023年10月からですから、いずれにしても、2021年3月末で失効する消費税転嫁法が適用される余地はないことになります。

このように、上記記事は消費税転嫁法が失効した現在からみれば明らかに間違いなのですが、仮にインボイス制度導入時点で消費税転嫁法が失効していないとしても、やはり問題があります。

というのは、消費税転嫁法上の買いたたきというのは、同法3条で、

「(特定事業者の遵守事項)

第三条  特定事業者は、平成二十六年四月一日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して、次に掲げる行為をしてはならない。

一  ・・・商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」

と定められていて、ここでの、

「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」

の意味については、消費税転嫁法ガイドラインで、

「(2) 「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,

通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。

(3) 「通常支払われる対価に比し低く定めることにより,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒む」とは,

特定事業者が,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務の対価について,合理的な理由なく通常支払われる対価よりも低く定める行為である。

例えば,平成26年4月1日の消費税率引上げに際して,本体価格が100円の商品について,消費税率引上げ後の対価を105円のまま据え置く場合である。」

と定められています。

つまり、

「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」

とは、(「通常は」という限定付きですが)

「消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額」

であるという、ちょっとふつうの日本語では考えられないような定義がガイドラインで与えられているのです。

なので、インボイス制度導入にともなって消費税率が引き上げられるわけではないので、インボイス制度導入にともない消費税分の値下げを要求することは、

「消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額」

より対価を「低く定める」ことだ、とはいえないため(∵そもそも「消費税率引き上げ」がないので「消費税率引上げ前の対価」なるものは存在せず、結果として、この定義が空振りになる)、買いたたきにはあたらないことになります。

まあ、ものすごく形式的に解釈すれば、「消費税率引き上げ前の対価」というのは直近の2019(令和元)年10月1日の8%から10%への引き上げの直前の価格だ(たとえば本体価格100円の商品なら108円)だ、なのでこれに引き上げ分の2円を足して110円にしないと買いたたきだ、という解釈もありえなくはないのでしょうけれど、転嫁法1条では同法の目的について、

「(目的)

第一条  この法律は、

平成二十六年四月一日及び平成三十一年十月一日における消費税率(地方消費税率を含む。以下同じ。)の引上げ・・・に際し

消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)の転嫁を阻害する行為の是正・・・に関する特別の措置を講ずることにより、

消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的とする。」

と規定されており、消費税引き上げに際しての転嫁拒否を是正する法律なのだ(だからこそ時限立法だったわけです)とされています。

ですので、インボイス制度が導入される2023年10月に、消費税率引き上げ(8%→10%)の直前である2019(令和元)年9月30日の価格(たとえば108円)に税率引き上げ分の価格を加えた価格(110円)と比べて安い価格(たとえば100円)となるよう値下げを求めたからといって、消費税率「引上げ・・・に際し」ての転嫁阻害行為だとはいえないと考えられます。

というわけで、結論としては、インボイス制度導入時に免税事業者(適格請求書発行事業者に該当しない事業者)に対して消費税額相当の値下げを要求しても消費税転嫁法には違反しません。

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