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2021年6月

2021年6月29日 (火)

インボイス導入時の免税事業者への値下げ要求と消費税転嫁法

2023(令和5)年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が導入されます。

これにともない、免税事業者に対して消費税相当額の値下げを要求することが消費税転嫁法の買いたたきにあたるのではないか、ということが議論されることがあるようです。

たとえば、税務研究所のウェブサイトでは、

インボイス導入時の免税事業者への値下げ要求。条件次第では可能なケースも?」(2019/07/03 13:00)

というタイトルで、

「消費税にインボイスが導入されると、インボイスを発行できない免税事業者が取引上不利になると言われています。その中には、仕入税額控除ができない分だけ免税事業者に値引きが要求されるという懸念もあるようです。

こうした値引き要求はすぐさま消費税の転嫁対策特別措置法違反になると思われがちですが、何が何でもダメとはなっていないようです。

今回はその辺りの話を紹介しましょう。」

という説明がなされています。

そして、「後輩ちゃん」と「先輩さん」の会話形式で、

(後輩ちゃん)「消費税分の値引きですか...。でも、それをやると公正取引委員会にお目玉もらっちゃうって聞きましたよ?」

(先輩さん)「ええ、いわゆる"買いたたき"ね。公正取引委員会は実際の社名を挙げてまで問題ケースを出しているものね」

(後輩ちゃん)「でも、公正取引委員会のQAを見ると、「合理的な理由」があれば買いたたきにはならないって言ってますよね?」

(先輩さん)「ふふ、あなたも一丁前に裏読みをするようになったのね」

という具合に話が進み、結局、公取委のQ&Aで「合理的な理由」があれば買いたたきも許される、ということになり、たとえば、いままでボールペンを1000本単位で発注していたのを5000本単位にする代わりに値引き交渉するなら「合理的な理由」がある、というような結論になっています。

ですが、まず現時点においては、この説明は誤りです。

というのは、消費税転嫁法は2021(令和3)年3月31日で失効しているからです。

念のため根拠条文を挙げておくと、転嫁法附則2条1項に、

「第二条  この法律は、平成三十三年三月三十一日限り、その効力を失う。」

と規定されています。

もともと消費税転嫁法は民主党政権下で決まった消費税の二度の値上げで転嫁が円滑に進むようにとの目的で制定されたもので、最初から時限立法だったのですが、二度目の消費税率引き上げが安倍政権のもとでたびたび延期されたために、ついこないだまで生きていた、という法律です。

ちなみに上記税務研究所の記事が書かれた2019(令和元)年7月1日時点でも、失効は2021年3月31日でした。

というわけで、インボイス制度の導入は上述のとおり2023年10月からですから、いずれにしても、2021年3月末で失効する消費税転嫁法が適用される余地はないことになります。

このように、上記記事は消費税転嫁法が失効した現在からみれば明らかに間違いなのですが、仮にインボイス制度導入時点で消費税転嫁法が失効していないとしても、やはり問題があります。

というのは、消費税転嫁法上の買いたたきというのは、同法3条で、

「(特定事業者の遵守事項)

第三条  特定事業者は、平成二十六年四月一日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して、次に掲げる行為をしてはならない。

一  ・・・商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」

と定められていて、ここでの、

「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」

の意味については、消費税転嫁法ガイドラインで、

「(2) 「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,

通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。

(3) 「通常支払われる対価に比し低く定めることにより,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒む」とは,

特定事業者が,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務の対価について,合理的な理由なく通常支払われる対価よりも低く定める行為である。

例えば,平成26年4月1日の消費税率引上げに際して,本体価格が100円の商品について,消費税率引上げ後の対価を105円のまま据え置く場合である。」

と定められています。

つまり、

「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」

とは、(「通常は」という限定付きですが)

「消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額」

であるという、ちょっとふつうの日本語では考えられないような定義がガイドラインで与えられているのです。

なので、インボイス制度導入にともなって消費税率が引き上げられるわけではないので、インボイス制度導入にともない消費税分の値下げを要求することは、

「消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額」

より対価を「低く定める」ことだ、とはいえないため(∵そもそも「消費税率引き上げ」がないので「消費税率引上げ前の対価」なるものは存在せず、結果として、この定義が空振りになる)、買いたたきにはあたらないことになります。

まあ、ものすごく形式的に解釈すれば、「消費税率引き上げ前の対価」というのは直近の2019(令和元)年10月1日の8%から10%への引き上げの直前の価格だ(たとえば本体価格100円の商品なら108円)だ、なのでこれに引き上げ分の2円を足して110円にしないと買いたたきだ、という解釈もありえなくはないのでしょうけれど、転嫁法1条では同法の目的について、

「(目的)

第一条  この法律は、

平成二十六年四月一日及び平成三十一年十月一日における消費税率(地方消費税率を含む。以下同じ。)の引上げ・・・に際し

消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)の転嫁を阻害する行為の是正・・・に関する特別の措置を講ずることにより、

消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的とする。」

と規定されており、消費税引き上げに際しての転嫁拒否を是正する法律なのだ(だからこそ時限立法だったわけです)とされています。

ですので、インボイス制度が導入される2023年10月に、消費税率引き上げ(8%→10%)の直前である2019(令和元)年9月30日の価格(たとえば108円)に税率引き上げ分の価格を加えた価格(110円)と比べて安い価格(たとえば100円)となるよう値下げを求めたからといって、消費税率「引上げ・・・に際し」ての転嫁阻害行為だとはいえないと考えられます。

というわけで、結論としては、インボイス制度導入時に免税事業者(適格請求書発行事業者に該当しない事業者)に対して消費税額相当の値下げを要求しても消費税転嫁法には違反しません。

2021年6月28日 (月)

ジュリスト判例速報に寄稿しました(ラルズ)

ジュリスト7月号に、

「優越的地位の濫用に関する審決取消訴訟が全部棄却された事例――東京高判令和3・3・3」

というタイトルで、ラルズの審決取消訴訟東京高裁判決の評釈を書きました。

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伝統のある法律雑誌ですからあまり過激なことは書かないように気をつけたのですが(紙面も限られますし)、なんと言いますか、ひどい判決です。

何がひどいかというと、優越的地位の一般論として述べているところと個別のあてはめが、まったく噛み合っていません。

といいますか、個別の当てはめをしていません。

これは判決の体裁のせいもあるのだと推測されます。

というのは、この判決は、対象となる取引相手方ごとに個別事情を別紙にまとめる、というちょっとかわった形になっています。

このような体裁をとったのは、取引相手方の数が多いので判決を読みやすくする、という配慮があったのではないかと思われます。

ところがそのために、判決の規範によれば優越的地位が認められるかどうかかなり微妙な限界線上の取引相手方についても、判決本文ではなにも具体的に触れることなく、「別紙の通りなので優越的地位あり」みたいな、たいへんそっけない書きぶりになっています。

そのため、本文だけをみるとその違和感に気づきにくく、別紙を細かく見て初めて、「これって優越的地位ありっていえるほどのことなのか?」と気づくことになります。

それに、優越的地位の濫用の取消訴訟で請求全部棄却というのも珍しいです。

というのは、これまでの優越の事件がすべてそうでしたが、優越的地位の認定は個別の取引相手方ごとに行わなければならないので、少なくとも一部については、優越的地位なしということになり、その分課徴金が減額されるのが通例でした。

ところがこの判決では、審決で認定された取引相手方全員について優越的地位が認められています。

優越的地位の存否の限界線上の取引相手方について、ほとんど実質的な理由を述べずに(別紙にもたいした事実は書いていない)優越的地位が認められているのは上述のとおりですが、原告ラルズが力を入れて優越的地位について反論している取引相手方についても、「ああいえばこういう」みたいな感じで、そんなこといわれたらおよそ優越的地位がないなんていうことはありえないんじゃないか、という理由で原告の主張が排斥されています。

たとえば判決p127では、

「① 原告は,原告との取引の継続が困難になることが事業経営上⼤きな⽀障を来すか否かは,売上⾼よりも,原告との取引上の「利益」の多寡によるから,粗利や経常利益も明らかでない売上⾼のみを基準とする取引依存度に基づく判断は不⼗分であり,損益分岐点⽐率等の指標を参考に,固定費,営業外費⽤,営業外収益等を考慮して⾏わなければならないなどと主張する。

しかしながら,前記1⑵イのとおり,売上⾼による取引依存度は,優越的地位の有無を判断するに当たって考慮すべき諸事情の⼀つにとどまる上,

そのような取引依存度であっても,前記のとおり,原告との取引関係において相当の取引依存度が継続的に認められる場合には,原告との取引による相応の利益が存在することがうかがわれ,

また,売上⾼による取引依存度が⾼ければ,その事業経営上,原告と取引を継続する必要性が⾼いものといえる。

そうすると,原告との取引の継続が困難になることが事業経営上⼤きな⽀障を来すか否かの判断において,売上⾼による取引依存度ではなく,損益分岐点⽐率等の指標を参考に,固定費,営業外費⽤,営業外収益等によらなければならないということはできず,原告のこの点についての主張を採⽤することはできない。」

と判示されています。

ここでは原告は、売上の依存度ではなく利益の依存度によるべきだと主張しているのですが、判決は、売上の依存度は優越的地位認定の一要素に過ぎないといってこの主張を排斥しています。

しかも、「一要素に過ぎない」というのなら、他の要素が大事になってくるわけですが、他の要素がまともに考慮された形跡はありません(というのが、今回の評釈の一番のポイントです)。

万事この調子で、アンケート結果に基づいて優越的地位を認定すべきではないという主張に対しては、アンケート結果だけで判断しているわけではない、として排斥しています。

これを称して、「○○だけで判断しているわけではない論」と呼びたいと思います。

上記引用部分でも、続けて、

「そのような取引依存度であっても,前記のとおり,原告との取引関係において相当の取引依存度が継続的に認められる場合には,原告との取引による相応の利益が存在することがうかがわれ

と判示されていますが、これは結局利益が大事だと認めているわけであり、原告の主張を排斥する理由になっていません。

せめて、売上は外部から観察が容易だけれど取引先ごとの利益は固定費やリベートなどもあり容易に特定できない(あるいは、めんどう)、とかいえばいいのに、と思います。

さらに続けて、

「また,売上⾼による取引依存度が⾼ければ,その事業経営上,原告と取引を継続する必要性が⾼いものといえる。」

という部分も、結論先取りというか、トートロジーというか、まったく答えになっていません。

というのは、原告は、

「売上⾼による取引依存度が⾼いからといって取引必要性が高いとは限らない」

と主張しているのに対して、判決は、

「売上⾼による取引依存度が⾼ければ、取引必要性が高いといえる」

と言って排斥しており、何の説明にもなっていないからです。

まあ、経済合理性を超えた企業経営の観点からは、特にメーカーの場合、売上が大きい事業は利益が小さくても撤退できない(従業員を大量に解雇しないといけないので)、といった事情があったりはするので、売上が大きいとやめられないということはなくもないのですが、判決がそんな「高度な」配慮をしている気配はありません。

確かに判決も、その前の部分(第8の3⑵イ、p117)では、

「イ 認定事実1⑵イの27社(《納⼊業者(1)》等27社)について

前記⑴のとおり認められる原告の市場における地位に係る事実に加え,

《納⼊業者(1)》等27社については,認定事実1⑵ア及びイの事情並びにその主要な点を認定事実1⑵イ(エ)に記載したとおりの別紙5の記載に係る前記アの事実が,それぞれ認められるところ,

27社については,年間総売上⾼に占める原告に対する年間売上⾼の割合である原告に対する取引依存度がいずれも1割を超える企業であり,中には《納⼊業者(66)》のように,それが70%を超える企業もあるのであって,27社にとっては,原告との取引が困難になれば,その事業経営上⼤きな⽀障を来すことになるといえる。

すなわち,原告との取引関係において相当取引依存度が継続的に⾼いと認められる場合には,その事業経営上,原告と取引を継続する必要性が⾼いものといえるから,原告との取引の継続が困難となれば,事業経営上⼤きな⽀障になることは明らかというべきである。

このことは,認定事実1⑵イ(エ)の①ないし㉗の各aに記載した各企業の規模に照らした総売上⾼及び原告に対する年間売上⾼並びに原告に対する取引依存度に加え,

各bに記載した代表取締役等の認識,27社にとっての取引先変更の可能性や,原告と取引することの必要性,重要性に関する88社の報告書における回答内容により裏付けられているというべきであり,

認定事実1⑵イ(ウ)のとおり,27社がいずれも88社の報告書の取引重要性設問に肯定的な回答をしていることを併せ考えると,原告と取引することが重要かつ必要であったと認めるのが相当である。

そして,この点については,例えば,認定事実1⑵イ(エ)②のとおり,

《納⼊業者(8)》は,原告に対する年間売上⾼は約《⾦額》円ないし約《⾦額》円であり,原告に対する取引依存度は約30%⼜は約31%であるが,原告との取引を失う場合には,⼤幅な⼈員削減等の経営規模の縮⼩をせざるを得ないとしており,

現実的にも,認定事実1⑵イ(エ)⑤のとおり,平成25年6⽉に原告との取引を終了した《納⼊業者(17)》は,原告に対する年間売上⾼は約《⾦額》円ないし約《⾦額》円であり,原告に対する取引依存度は約29%ないし約38%を占めていたところ,原告との取引を終了したことが⼤きな打撃であり,新たな取引先を確保することも,既存の取引先に対する売上げを伸ばすことも困難であったため,平成27年3⽉末での廃業を予定することになった。」

と述べられているのですが、まったく説得力がありません。

というのは27社の中で70%を超える取引依存度がある取引相手方がいたとしても、残りの26社の取引依存度には何の関係もないからです。

そのほかの理由にも、「《納⼊業者(8)》」が「⼤幅な⼈員削減等の経営規模の縮⼩をせざるを得ない」としていることは他の26社には何の関係もないですし、「《納⼊業者(17)》」が「廃業を予定することになった」ことも、他の26社には何の関係もありません。

つまり、判決の論理は、27社のうち1社が70%を超える取引依存度であり、別の1社が人員削減を要し、別の1社が廃業する予定だ、という事実から、取引依存度が10%を超えると優越的地位がみとめらるだ、という結論を導いているのです。

(ほかにも「取引先として重要か」というアンケートに全社が「はい」と答えている事実も挙げられていますが、結局、27社に共通するのはこれだけなので、極論すれば、27社に共通して言えるのはアンケートに「はい」と答えた事実だけ、ということになります。)

とくに、70%を超える依存度の取引相手方がいるので他の26社も劣後的地位にある、というのは論理が破綻しています。

それをいうなら、70%を超える取引相手方だけをまとめて優越的地位を認定すべきでしょう。

このような判決の考え方を、私は、「十把一絡げ論」と呼びたいと思います。

判決は万事このような感じで、菅内閣の答弁もかくやというほどの議論のすり替えばかりであり、論理的には完全に破綻しており、私のように判決は論理的であるべきだと考える者にとっては、読むに堪えない代物です。

・・・と、読むに堪えない判決の評釈を書くのが苦痛かというとそんなこともなく、いろいろと突っ込みどころがあるほうが、評釈するほうは楽しいです。

まあ判決には同情の余地もあり、優越的地位を88社もある取引相手方についてそれぞれまともに認定していたら判決なんていつまでたっても書けない、という事情は理解できます。

というわけで、ある意味、この裁判所も、取引先ごとに優越的地位を認定する必要があるとした優越の課徴金制度の被害者だといえると思います。

公取委が88社に絞ったのも、トイザらスなどに懲りて手堅くいったのではないかと想像されますが(それでも、ほとんど取引依存度がなさそうな相手方まで課徴金の対象にしていますが)、それにしても1社も脱落しないというのは異様なことで、裁判所が最初から個別認定するつもりがなかったことが全部棄却の結論と判決内容によく現れています。

いずれにせよ、確約制度の導入で優越に課徴金が出ることはもうないでしょうから、この判決は、優越的地位の濫用の黒歴史として一部の好事家(こうずか)の記憶の片隅に留められるだけのことになるのでしょう。

かといって、そういう判決の評釈を書くことが嫌なわけでもなんでもなく、将来参照されるべきではない判決にとどめを刺すことは、批評者として大事なことなのではないかと思っています。

ご興味のある方は、記事と、判決を合わせてお読みいただけると嬉しいです。

2021年6月23日 (水)

目的物の一部納入の下請法上の取り扱い

下請法が適用される取引について、目的物の一部に瑕疵があったり納入遅滞があったりした場合に、全部の納入を拒否したり全下請代金の支払を拒否したりできるのか、という問題があります。

つまり、100個納入すべき取引について、

90個の納品があった場合に、全部受領拒否すると受領拒絶として4条1項1号違反になるのか

90個の納品があった場合に、全部受領拒否して代金を一切支払わないと支払遅延として4条1項2号違反になるのか

納品検査で10個に瑕疵(契約不適合)が見つかった場合に、当該10個のみならず100個全部を返品すると4条1項4号違反になるのか

といった問題です。

この問題については、公取委職員による文献で、

「数量が不足している場合、

例えば、100個発注したのに90個しか納入がなかった場合で、

100個の一括納入でないと困る事情がありその旨があらかじめ三条書面に明記されている場合には、

90個の受領を拒むこともできるが、

それ以外は、100個の一部(90個)を分納したものとみなされるので、受領を拒むことはできない。」

(「下請法の新運用基準について」公正取引438号12頁(1987年))

と解説するものがあります。

しかし、私はこれはおかしいと思います。

債務は全部履行してこそ完全な履行なのであり、一部の履行は不完全な履行である、というのが民法の常識です。

もちろん契約ごとですから、当事者の意思がまず第一であり、契約書に一部分の履行でも認めると書いてあればそれに従いますし、一括納品しなければならない(一部納品は認めない)と明記されていればそれに従えばいいわけですが、どちらかはっきりしないときには当事者の意思を探るほかありません。

そして実際には、一部でもいいという場合はかなり珍しいのではないかと思います。

少なくとも、たんに契約書上「100個納品」と書いてあれば、100個納品する義務がある、というのが当然の自然な文理解釈でしょう。

債権法改正で新設された請負人の一部報酬請求権に関する民法634条では、

「(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)

第六百三十四条 

次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。

一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。

二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。」

と規定されていますが、ご覧のように、仕事の完成不能など、かなり要件が厳しく、当然に一部報酬請求が認められるわけではありません。

また下請法上の典型的な部品の製造委託では、一部納品ではラインが止まってしまい、「注文者が受ける利益」はない(むしろ損害が発生する)、ということも多いと思われます。

上記解説では、一括納品でないと困る事情を3条書面に書けといっていますが、3条書面の法定記載事項にはそのような記載はありませんので、上記解説は法令上の根拠がありません。

(まあ、下請法の解釈なんて、法令上の根拠はおろか、下請法運用基準上の根拠もないものがいくらでもまかり通っているのが実態ですが。)

3条書面の記載事項でない以上は、仮に書面への記載を求めるにしても、3条書面でなければならない理由があるはずもなく、そうすれば契約書に書いてあれば十分(「100個納品」と書いてあれば十分)ということになると思います。

また、細かいことを言えば、上記解説では、①一括納入でなければ困る事情と、②3条書面への記載の、両方が必要だと言っています。

ということは、仮に3条書面に「一括納入に限る」と書いてあっても、実際には一括納入でなければ困る事情がなければ、やはり90個の納品の受領を拒否できないことになってしまいます。

そのような、「困る事情」の有無をビジネスの実態を知らない公取委の下請法検査官が判断するなんて無理ですし、考えただけでもぞっとします。

というわけで、私は上記解説は間違いであり、無視して構わないと考えていますが、役所の言うことは常に聞くのだという方針の企業は日本には少なくないと思うので、その場合には、3条書面に「一括納品しなければならない」と書き、一括納品でなければ困る事情を記録化しておけばよいでしょう(けっして、おすすめするものではありません)。

ただし、90個の履行を一部履行と認めて受領した場合には、90個分の代金を契約上の支払期限まで(かつ受領から60日以内)に支払うべきでしょう。

一部を履行として受領する以上は、「10個が遅れたことによる将来の損害賠償請求に備えて全額の支払を留保する」というのは、ちょっと難しいと思いますし、とりあえず90個は用をなしているわけなので、代金支払を強制しても親事業者にも不利益はないでしょう。

いずれにせよ、90個だけでも受け入れるか、100個揃って初めて受け入れるかは、双方の利益を考えて柔軟に処理できるべきであり、ここに下請法が介入すると、いきなり「双方納得しても何もできない」ということになります。

下請法にはこのような双方を不幸にする側面が常にあるので、条文を超えた介入は厳に控えるべきだと考えます。

2021年6月22日 (火)

納入後長期間経過後の瑕疵発見とやり直しに関する下請法の規制

下請法の適用のある製造委託にかかる製品について、納品後相当期間(たとえば5年)が経過したあとに故障などが起きて、実は設計上の瑕疵(契約不適合)などがあったことがわかる、ということは少なくありません。

しかも、下請事業者との契約では長期間の保証(たとえば10年保証)がついていたりして、故障は保証期間内だったりすることもあります。

ではこのような場合、契約の保証条項にもとづき下請事業者に代替品の納品を無償でさせることができるでしょうか。

結論からいうと、できません。

理由は以下のとおりです。

下請法4条2項4号では、「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,下請事業者の給付の内容を変更させ,又は下請事業者の給付を受領した後に・・・給付をやり直させること」によって「下請事業者の利益を不当に害してはならない。」とされています。そして、令和2年版下請法テキストp84では、

「以下の場合には,親事業者が費用の全額を負担することなく・・・下請事業者の給付に瑕疵等があることを理由として・・・やり直しを要請することは認められない。

〔中略〕

(エ) 通常の検査で瑕疵等のあること・・・を直ちに発見できない下請事業者からの給付について,

受領後1年を経過した場合

ただし,親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,

親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合は除く

(注) 通常の検査で直ちに発見できる瑕疵の場合,発見次第速やかにやり直しをさせる必要があることはいうまでもない。」

と解説されています。

つまり、隠れた瑕疵については受領後1年を経過するとやり直し(代替品を納入させることを含む)をさせることはできない、ということです。

当然ですが、下請事業者に過失があってもなくても同じで、やり直しは命じられません。

過失の有無を問わない根拠をいちおう説明しておくと、テキストp84に、

「「下請事業者の責めに帰すべき理由」があるとして,親事業者が費用を全く負担することなく,下請事業者に対して・・・「やり直し」をさせることが認められるのは,以下の場合に限られる

〔中略〕

(ウ) 下請事業者の給付の受領後,・・・下請事業者の給付に瑕疵等があるため,やり直しをさせる場合」

と解説されており、受領後に瑕疵が発見された場合にやり直しを要求できる場合を下請事業者に過失があった場合に限定していません。

つまり、この部分と前述の「受領後1年」の部分をあわせ読むと、

①瑕疵があれば(下請事業者の過失の有無を問わず)やり直しをさせられることができるのが原則だが、

②隠れた瑕疵を発見できず1年経過したときには、①にもかかわらず、(かつ下請事業者の過失の有無を問わず)やり直しをさせることはできない、さらに、

③通常の検査で直ちに発見できる瑕疵の場合には、発見し次第すみやかにやり直しをさせる必要がある(受領後1年経過後などは、もちろん認められない)

と読むのが自然、ということです。

整理すると、

A 直ちに発見できる瑕疵は、すみやかにやり直しをさせることは認められる

B 直ちに発見できない瑕疵は、

(a)受領後1年以内なら、やり直しをさせることができる

(b)親事業者が顧客に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に,親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合には、やり直しをさせることができる

ということになります。

では、下請法の適用がある下請事業者に長期間の保証をしてもらっても意味はないのでしょうか。

そんなことはありません。

まず考えられる(けどたぶん認められない)理屈は、下請法テキストp84では、

「また,「受領後に給付をやり直させること」とは,給付の受領後に,給付に関して追加的な作業を行わせることである。」

と定義されているので、「やり直させること」には、修理などは該当するけれど、代替品を納品させることは(「給付に関〔する〕追加的な作業」とはいえないので)該当しない、という理屈です。

ですが、「追加的な作業」だけがやり直しで、まるごとのやり直しはやり直しではない、というのは、「やり直させ」という通常の言葉の意味に反するので、さすがに無理な解釈だと思います。

きっと下請法テキストのやり直しの上記定義も、そこまで深いことを考えて「追加的な作業」という言葉を使っているのではないと思われます。

そこで考えられる解釈としては、やり直しはさせられないけれど、瑕疵により被った損害の損害賠償請求をする、という整理です。

下請法上禁止されているのは受領後1年以上経過したやり直しなので、受領後1年以上経過したからといって損害賠償請求までできなくなるわけではありません。

この点、返品の文脈での解除や完全履行に関する解説ですが、

「下請法において返品が禁止されている場面において、親事業者が、下請事業者に対し、民法上の法理から、広く完全履行請求や解除を認めてしまうと、下請事業者の保護を図ろうとした下請法の規制が功を奏しない。

完全履行請求としての代物請求や暇庇修補請求、あるいは原状回復請求を伴う解除権の行使は、下請事業者からすると、実質的に、返品の強要をされるのと同じ意味を持つからである。

したがって、この場面においては、債務不履行の要件解釈、信義則違反または権利濫用法理などを通じて、親事業者の完全履行請求や解除権の行使を制限しなければならないと考える。

また、同法第4条1項3号〔減額〕は、下請事業者への代金支払確保を実質的に図るために、下請代金の減額の禁止を定めている。

下請法運用基準第4、3(2)によれば、原則は減額禁止で、例外的に返品(または受領拒否)が可能なときに限り減額ができるとされる。

代金減額の禁止の趣旨を全つするためには、返品が禁止される場面においては、実質的に減額と同視されるような損害賠償請求権と代金支払債務との相殺も制限されるべきであると考える。」

というものがありますが(NBL930号35頁)、実務ではこのような解釈は採られていないので、無視していいでしょう。

というわけで、やり直しと損害賠償請求は別物と考えられます。

そこで、たとえば、当初発注した下請事業者とは別の業者(今度は下請法対象でないところに頼んだ方がいいでしょう)に同等品を発注し、その発注代金を瑕疵により被った損害であるとして当初発注した下請事業者に損害賠償請求することが考えられます。

そして、このように別の業者に発注して代金をつけ回すこともできるのだったら、同じ下請事業者に再度発注してその代金を損害賠償として請求することもできると言うべきでしょう。

これが認められると、無償でやり直しをさせたのと実質的に同じではないかという批判もあり得るところなので、それが気になる場合には、別の業者に発注する方が無難と言えば無難でしょう。

でも、特注品の場合には別の業者に作らせると言っても簡単ではないことが多いでしょう。

少なくとも同じ業者にやらせた方が安く上がることが多いでしょう。

なので、下請事業者が「自分にやらせて下さい」といっているのに下請法リスクを理由に別の業者に発注して割高な発注代金を損害として請求するというのはいかにもバランスが悪いと思われます。

そこで、あくまで別の取引だという整理にして、もちろん3条書面もあらたに発行して、同じ下請事業者にやらせるのが、私は一番よいと思います。

こういう解釈をしないと、親事業者は、長期品質保証が必要な商品は怖くて下請法適用事業者に発注できなくなってしまうので、この解釈は下請法適用下請事業者のほうにこそメリットがあると思います。

2021年6月21日 (月)

『類型別独禁民事訴訟の実務』発刊のお知らせ

有斐閣から、私の所属する日比谷総合法律事務所と大江橋法律事務所のコラボにより、『類型別独禁民事訴訟の実務』を発刊させていただきました。

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執筆者で何度も打ち合わせを行い、練りに練った内容です。

民事訴訟に特化していますので、独禁法の基礎的な内容は一応知っている読者が想定されており、それだけに、かなり玄人受けするのではないか(そうであればいいな)と思っております。

アメリカなどと異なり日本では独禁法が正面から民事訴訟で争われることはあまり多くなく、独禁法が攻撃防御の手段として利用されることがままあるくらいではないかと思います(とくに、裁判所にはあまり相手にされない優越的地位の濫用など)。

独禁法を専門とする者としては、民事訴訟は独禁法が争点になる場合でも公取実務の独禁法とは意味合いが異なるので、一般的な訴訟弁護士の方々でもなんとかなるんじゃないかと思ったりもするのですが(どうせ裁判官も独禁法のことなんか知らないので、知らない者同士でちょうどいい)、独禁法に普段馴染みのない弁護士さんの立場からするとなかなかそういうわけにはいかないようで、やはり、独禁法を使った民事訴訟においても独禁法の専門性が必要になることがそれなりにあるようです。

相手方に独禁法に詳しい代理人がついたらこちらも付けざるを得ない、というパターンもあるかもしれません。

というわけで、ふだん独禁法に馴染みがなく、でも独禁法を避けて通れない状況に置かれた、という弁護士さんにも有益なのではないか、と思います。

独禁法の上っ面を嘗めただけのものは作らない、というコンセプトなので、かなり深い議論もしています。

私自身、今後独禁法民事訴訟を起こしたり起こされたりすることになったら、必ずこの本は参照するだろうと思います。

・・・という本です。

なので、独禁法を既に専門にされている弁護士さんにも有益なのではないか(そうあってほしい)と思っています。

それから、民事訴訟を担当する裁判官の方にも読んでいただけたらな、と思ったりもします。

これは私だけが感じていることかもしれませんが、どうも、公取委の方の書いたものは、違法認定がしやすように、しやすいように、あるいは、取り締まる側の裁量が大きいように、大きいように、というバイアスがかかることが少なくないように思います。

この点、弁護士は、攻める側にも守る側にも立つので、一方的にどちらかの立場に偏った立場で書くということはあまりないのではないか、と思います。

最後に個人的な想い出を述べると、この本の執筆をしていたころは私は大江橋法律事務所に所属していましたので、今、日比谷総合に移ってようやくこの本が日の目を見たというのは、なかなか感慨深いものがあります。

というわけで、ご興味のある方はご一読いただけるとうれしいです。

2021年6月17日 (木)

流通取引慣行ガイドラインの並行輸入不当阻害の「(具体例)」について

平成29年の流通取引慣行ガイドライン改正で、並行輸入の不当阻害についての「(具体例)」が追加されました。

長いですが大事なので引用すると、

X社は,A国所在の医療機器メーカーY社が製造する医療機器及び同機器で使用する消耗品の輸入総代理店である。

X社が,自社の取り扱う消耗品について,並行輸入品の品質を疑問視するユーザーからの要望もあって,正規輸入品と並行輸入品とを区別するために,

当該消耗品に「X社検査済み」のシールを貼ること及び

「このボトルの製品はX社の品質管理試験を通ったものであることを証明します。X社の品質管理試験を経ない製品によるデータや機器の責任は負いかねますのでご留意願います。」というシールを貼ること

は,並行輸入品を偽物扱いするものではないが,

[1] 当該消耗品の品質検査や品質管理試験は,メーカーであるY社自身も既に行っているものであり,

X社が実施しているのは,消耗品の効能についての抜取り検査程度にとどまるため,

独自の品質管理等を行っているかのような印象を与える表示を行うことは,ユーザーに対し,並行輸入品は,品質保証がなされていない旨の誤解を生ぜしめるおそれもあること

[2] メーカーであるY社自身が品質管理を行っている真正の並行輸入品であっても,

流通過程で並行輸入品に生じた欠陥が原因で本体装置に異常が生じた場合には,X社は保証の責任を負わないのであるから,

X社の行為に正当な理由があるとはいえず,

むしろ当該シールの貼付が並行輸入品の取引を妨害する手段として用いられるおそれも否定できないこと

から,並行輸入品を偽物扱いすることと同様,販売妨害効果を生じると考えられ,

並行輸入品の取引を妨害する手段として行われる可能性もあるため,独占禁止法上問題となる。(不公正な取引方法に関する相談事例集(平成3年7月~平成7年3月)「11 並行輸入された消耗品を使用した場合に本体装置の性能を保証しない旨の文書の作成等」)」

というものです。

原文の相談事例でもほぼ同じことが書かれていますが、引用されていない部分として、原文では、冒頭部分で、

「本件においては,正規ルートの純正品であることを強調するなどを表示するものであって,並行輸入品を偽物扱いするものではないが,それが並行輸入品の販売を妨害する効果を生じるかどうかが問題となる。」

ということも言っています。

理屈はさておき結論としては、妨害効果を問題にするこの相談事例のほうが、「契約対象商品の価格を維持するために行われる場合」には違法、という、ガイドラインのよくわからない基準(「ために」ということは、行為者の主観の問題なのか?という疑問が常に湧く)よりもましだとは思います。

それはさておき、この相談事例とそれを引用する流通取引慣行ガイドラインは、大いに問題があると思います。

まず、総代理店が自ら販売する正規品に「X社〔=総代理店〕検査済み」というシールを貼るのすら問題といっています。

抜き取り検査とはいえ検査しているのは事実であり、事実を事実のまま記載しているだけなのに妨害だというのは、行政の不当な介入も甚だしいと思います。

ガイドラインは、

「消耗品の効能についての抜取り検査程度にとどまる」

といいますが、「効能について」の検査であることは当たり前で(ほかにどんな検査をするのでしょう?)、問題視されるはずもなく、そうすると「抜取り」であることを問題視するようですが、全数検査しないと「検査済み」と書けないというのは、独禁法の解釈としては出てこないでしょう。

ガイドラインでは、メーカーがすでに検査していることも指摘されていますが、総代理店自らが責任を負う(「X社の品質管理試験を経ない製品によるデータや機器の責任は負いかねます」の裏返し)以上は総代理店自身が検査をしている必要があることはあたりまえで、メーカーが品質管理しているから総代理店はそれを信じるべきで、自ら検査しなくても責任は負わなければならない、というのはとんでもない議論だと思います。

そのほか、ガイドラインは、

「メーカーであるY社自身が品質管理を行っている真正の並行輸入品であっても,

流通過程で並行輸入品に生じた欠陥が原因で本体装置に異常が生じた場合には,X社は保証の責任を負わないのであるから,

X社の行為に正当な理由があるとはいえず」

といいますが、まったく論理的ではありません。

というより、何が言いたいのか私には理解できません。

おそらく、総代理店が出荷後にたとえば卸が医療機関に搬送する過程で生じた瑕疵は責任を負わないじゃないか(正規品も並行輸入品も同じじゃないか)、と言いたいのでしょうけれど、総代理店が受領し出荷前には品質が確保されていることを証明しているだけなので(出荷後の瑕疵のことなんて一言も言っていないので)、なぜ正規品に流通過程で瑕疵が生じた場合に責任を負わないことが当該シールを貼ることについての「正当な理由」を否定することになるのか、まったく理解できません。

「X社検査済み」というシールは、文字どおり、総代理店(X社)が、出荷段階で品質を検査し、保証していることを示すものでしょう。

これに対して、少なくとも総代理店の立場からみれば、並行輸入業者が出荷段階で検査してるかどうかなんて、知りようもないわけです。

このシールはその問題のことをいっている(「ほかはしらないけれど、うちはちゃんと検査してるよ」といっている)だけです。

並行輸入業者が一律に劣った品質管理をしているとは言いませんが、正規代理店というのはメーカーからちゃんと指導を受けたり管理されたりしているわけですから、そういうメーカーとのつながりもない並行輸入業者がどんな管理をしているのかわかったものではない、とメーカーや正規代理店が考えるのは当然のことだと思います。

それに、

「メーカーであるY社自身が品質管理を行っている真正の並行輸入品であっても,

流通過程で並行輸入品に生じた欠陥が原因で本体装置に異常が生じた場合には,X社は保証の責任を負わないのであるから

X社の行為に正当な理由があるとはいえず」

ということは、論理的には、

「メーカーであるY社自身が品質管理を行っている真正の並行輸入品であっても,

流通過程で並行輸入品に生じた欠陥が原因で本体装置に異常が生じた場合には,X社は保証の責任を負うのであれば

X社の行為に正当な理由があるといえる

となるはずですが、どうして「検査済み」というシールを貼るだけで流通過程の瑕疵まで責任を負わないといけないのでしょうか? 

やっぱり、理解できません。(毒を食らわば皿まで?)

流通過程の瑕疵も責任を負うかのように表示していながら責任を負わないのが問題だ、というなら、不当な顧客誘引の話になるかも知れませんが、そういう問題意識はなさそうですし、そもそもここでの問題は並行輸入への取引妨害です。

そのほかにも、

「並行輸入品の取引を妨害する手段として行われる可能性もあるため,独占禁止法上問題となる」

なんていうふうに、可能性があるから違反だ、なんていうのもきわめて乱暴な議論でしょう。

こんなことを言い出すと、妨害する手段として行われているのかどうかわからないけれど、その可能性があるから違反だ、ということになってしまいます。

きちんと、相談を受けた件では妨害する手段として行われたのかそうでないのかを判断、回答しないと、相談の意味がないのではないでしょうか?

これでは、「あなたは妨害する手段として行っていないかもしれないけれど、妨害する手段として行われる可能性もあるので、あたなも違反です」といっているに等しいです。

ほかには、正規品にシールを貼るだけで、べつに並行輸入品の購入者のところを回って「うちは並行輸入品の責任は負いませんよ」と言い回っているわけではないのですから、効果も限定的でしょう。

そもそも並行輸入品を買うようなひとが、正規品に「検査済み」っていうシールが貼ってあるだけで、並行輸入品を買うのを控えたりするでしょうか?

並行輸入品だけを使っていたら、正規品に貼ってあるシールのことなんかずっと知らないままの可能性もあります。

さらにいえば、(これが決定的な理由だと思いますが)もし並行輸入業者が自社の扱う並行輸入品に「検査済み」というシールを貼ったら、正規品に対する(あるいは他の並行輸入業者に対する)取引妨害になるのでしょうか?

これを「なる」といわないと、相談事例の回答は論理的に破綻していると思います。

だって、問題になっているシールは、

「X社検査済み」

「このボトルの製品はX社の品質管理試験を通ったものであることを証明します。X社の品質管理試験を経ない製品によるデータや機器の責任は負いかねますのでご留意願います。」

というだけで、どこにも自分は正規代理店だという表示もなければ、並行輸入品は信用できないと仄めかす表示もないからです。

並行輸入品はそれでなくても品質が疑われるので守ってあげないといけない、という発想が、どうも公取にはあるように思われます。

でもそんなこと言い出すと、そもそも「正規代理店」と名乗ること自体が並行輸入品に不安を抱かせることになる行為だからだめだ、というところにすぐに至りそうです。

あるいは、正規品に「正規品」というシールを貼ることも違反になるのでしょうか?

ひょっとしたら公取は、書かないまでも本音のところでは、「正規品」というシールもだめだと思っている可能性はありますが、それはあきらかに不合理な解釈でしょう。

というわけで、この相談事例は論理的な詰めが非常に甘いうえに、取引の実態を理解していない可能性も大いにあり、かなり問題です。

最近の相談事例集にはさすがにここまでひどいものはないのに、どうしてこんな、平成初期のカビの生えたような「トンデモ」事例をわざわざガイドラインに盛り込んだのか、大いに疑問です。

2021年6月16日 (水)

非純正品使用時の修理拒否と抱き合わせ・取引妨害(令和2年度相談事例集事例4)

6月9日に公開された令和2年度相談事例集の事例4に、

分析機器のメーカーが,

自らが製造販売する分析機器に使用する自社製の消耗品にICチップを搭載するとともに,

当該分析機器に当該ICチップの認証機能を追加する行為について,

当該分析機器に他社製の消耗品が用いられた場合に分析値が表示されないようにすることは独占禁止法上問題となるおそれがあるが,

当該場合に分析値を表示させた上で「保証対象外」等の表示を行うにとどめることは独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例

というのがあります。

これは実務的なインパクトがものすごく大きい(純正品メーカーに有利な)回答だと思います。

というのは、他社製消耗品が「用いられた場合」に、一律に「保証対象外」とすることを、独禁法上問題ないとしているからです。

これまでは、非純正品を使用した場合を一律に(=故障の原因が非純正品側にあろうと、本体側にあろうと、両者の相性が原因であろうと、とにかく原因にかかわらず)保証対象外にすることには独禁法上の疑義があるため、非純正品を原因とした故障については保証の対象外、とすることが多かったのではないかと思います。

たとえば、

「○○純正トナー・インクカートリッジ以外のトナー・インクカートリッジ(トナー・インクを再充填した再生品を含む)の使用を原因とするプリンター本体の不具合につきましては、無償保証期間内または保守契約期間内であっても、保証書または保守契約に基づく修理は実施いたしません。」

といった具合です。

それが、今回の相談事例では、

「他社製の消耗品が用いられた場合に・・・『保証対象外』等の表示を行う・・・ことは独占禁止法上問題となるものではない」

と、はっきりと言ってしまっているので、他社製の消耗品が用いられた場合には常に保証対象外としていい、としか読みようがありません。

しかもこの相談事例では、相談者の市場シェアは60%ということなので、独占(に近い)企業がこういうことをやっても問題ない、ということになりそうです。

どんな場合でも保証を拒否していいわけではないんだなとほのめかす記述としては、

「X社は,これまでに,非純正品を用いてX社製分析機器甲を使用したX社製甲ユーザーから,部品の発熱,分析値の異常等の不具合について,複数の報告を受けている。」

というのがあり、こういう不具合の報告もない場合には一律保証拒否してはいけないんだ、と読む可能性もなくはないですが、他人が作る製品の品質を常に確認するわけにはいかないですから、こういう不具合の報告があった場合に限って保証拒否して良いんだというのは不合理なので、不具合の報告があってもなくても結論は同じというべきでしょう。

というわけで、純正品メーカーの方は保証条項の改定を検討されてはいかがでしょうか。

いち消費者の立場からいえば、非純正品を使っただけで一律保証対象外というのは納得感がないので、消費者向けの商品ではそのあたりも考える必要がありますが、事業者向けの商品なら、「非純正品は安いんだから、故障の時の保証がなくてもあたりまえ」と割り切って使うユーザーも多いでしょうから、検討してみる価値はあるかもしれません。

2021年6月10日 (木)

【お知らせ】海外主要国競争法講座

公正取引協会の標記セミナーの米国反トラスト法部分を担当させていただくことになりました。

オンライン開催です。

米国のほか、EU、中国、インド、東南アジア、中南米、韓国、オーストラリアと、もりだくさんです。

初回(米国)は6月25日です。

全8回ですが、1回ごとの申し込みも可能です。

ご関心のある方はぜひご検討いただければと思います。

申し込み要領については下記リンクのPDFをご覧ください。

https://www.koutori-kyokai.or.jp/chair/2021/2021shuyoukoku.pdf

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