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2021年4月

2021年4月17日 (土)

新手形通達(「下請代金の支払手段について」)について

2021年3月31日に「下請代金の支払手段について」という公取委・中企庁連名の通達(新手形通達)が出ました

同通達には、

「1 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。

2 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。

3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。

4 前記1から3までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。」

と記載されています。

手形サイトを60日以内にするのはおおむね3年以内でよいとされており(3年後にまた通達が出るのでしょう)、直ちに60日にしなければならないわけではないのですが、仮に3年後、60日以内にしなければならないと公取委が解釈・運用したら、私はその解釈・運用は下請法違反だと思います。

というのは、下請法4条2項2号(割引困難な手形による決済の禁止)では、

「2 親事業者は,下請事業者に対し製造委託等をした場合は,次の各号(役務提供委託をした場合にあつては,第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて,下請事業者の利益を不当に害してはならない。

二 下請代金の支払につき,当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。」

と定められています。

つまり、だめなのは、

一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形

で支払うことです。

ということは、割引が困難ではない手形で支払うかぎり、下請法違反にはなりようがありません。

この点、1つ前の平成28年12月の通達(「下請代金の支払手段について」、旧手形通達)では、

「3 下請代金の 支払に係る 手形 等 の サイトについては、 繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として、段階的に短縮に努めることとし、将来的には 60 日以内とするよう努めること。」

と、60日以内は将来の努力目標である、という書きぶりでしたので、「一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形」の意義の解釈には関係ない、と読むのが当然でした。

ところがもし、3年後に「60日以内とすること」という通達が出て、これを超える手形を下請法4条2項2号違反とする解釈・運用を公取委がしたとしたら、なぜそれまでは繊維業90日、その他120日であれば割引困難でなかったのに、これからは60日を超えると割引困難になるのか、説明できなければなりません。

繰り返しますが、下請法の条文はあくまで、

一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形

かどうかだけが違法・適法の基準なのであって(もっといえば、割引困難な手形であっても、「下請事業者の利益を不当に害して」いないのでOK、という場合が、条文上はありえます。)、下請事業者の保護のためであれば公取委はなにをやってもいいということにはなりません。

もし3年後、金融機関の方針が変わって、60日を超える手形は割り引かないということにでもなれば、こういう解釈もありえますが、そんなこと、現実にはありえないでしょう。

そもそもさかのぼれば、昭和41年3月の「下請代金の支払手形のサイト短縮について」(旧々手形通達。繊維業以外向け)で、

「⼿形サイトは業種業態に応じかなりの⻑短があるので,今後実情に即した標準を定める⽅針であるが,(繊維以外の業種)については,さしあたり,親事業者は,下請代⾦の⽀払のために振り出す⼿形のサイトを原則として120⽇以内とし,さらに経済情勢の好転に即応しつつ短縮するよう努⼒することとする。

上記のサイトを越える⼿形を振り出している親事業者に対しては,実情聴取のうえ業種業態に応じ所要の改善指導を⾏なうとともに下請事業者の利益を不当に侵害している親事業者に対しては,下請代⾦⽀払遅延等防⽌法に基づき必要かつ適切な措置をとるものとする。」

とされたのが事の発端で、最初はどこかで線を引かないといけないので、鉛筆なめなめえいやーで120日、というのも、まあありえない解釈ではないのでしょう(でもどうして繊維業だけ90日なのかは謎ですが)。

それがあるときから突然、金融機関が60日超の手形を割り引かなくなるという前提での解釈をする(3年後からそうなると予想する)なんて、解釈の限界を超えていると思います。

ちなみに中企庁のFAQの10番では、

「Q10:新通達の記中3において「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として」、「将来的には」といった記載を削除した趣旨を教えてください。」

という質問に対して、

「旧通達では「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として」とすることにより、従来の「割引を受けることが困難であると認められる手形」等の期間を緩めることがないのは当然のこととして、さらに、下請事業者が直面している現状を踏まえ、将来的に60日以内に短縮するよう努めることを要請したものです。

その一方で、令和元年度のフォローアップ調査によれば、下請代金を手形等で支払う場合の手形等のサイトについて、「90日超120日以内」(繊維業では「60日超90日以内」)と回答した割合が、多くの業種でおおむね過半数を占めており、60日以内と回答した割合も2割に留まっているなど、改善は道半ばとなっています。

このため、新通達では、「繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然」、「将来的には」といった記載を削除することにより、手形等のサイトを60日以内に短縮することを強く求めるものです。」

と回答されています。

「強く求める」という説明も意味がよくわかりませんが(行政指導にも、強い求めと、弱い求めがあるのでしょうか?)、この説明と、

「3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。

4 前記・・・3・・・の要請内容については、・・・おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。」

の部分をあわせて読むならば、要は、3年以内に手形サイトを60日にすることを「強く求める」ということであって、少なくとも新手形通達では、3年後からは60日を超える手形が違法になると宣言しているわけでもない、とも読めます。

日本は法治国家です。条文の文言を無視していては、法治国家の名に値しません。

公取委には、適正な下請法の執行をお願いしたいと思います。

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