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2021年3月21日 (日)

事実関係を記載した弁護士意見書のとりあつかいについて

判別手続パブコメ37番に、

「事業者から弁護士への相談や弁護士から事業者への回答に係る文書の中に事実に関する記載が含まれている場合は,全体として相談文書・回答文書であるかを判断するとの理解でよいか。

その場合,例示に「弁護士から特定行為者への回答文書(事実関係のサマリーが記載されている場合を含み得る。)」などと追記すべきである。(団体)」

という質問があり、

「本取扱いの対象となるか否かは,

事実に関する記載が含まれているか,事実に関する記載が法的意見に関する記載の分量より多いかといった形式的なことのみによって判断するものではなく,

全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえるかどうかによって判断することとなります。」

と回答されています。

まずここで問題にされているのは、判別指針で「特定通信の内容を記録した物件」の具体例としてあげられている「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」(パブコメ37番でいう、「相談文書・回答文書」)の意味の解釈です。

なので、3月16日に書いた「『特定通信の内容を記録した物件』の論理構造」の、

①「特定通信」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者が弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士が秘密に行った回答」、つまり、相談と回答というやりとり自体

②「特定通信の内容」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者が弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士が秘密に行った回答」の内容、つまり、相談と回答の内容

③「特定通信の内容を記録した物件」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者が弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士が秘密に行った回答」の内容を記録した物件、つまり、相談と回答の内容を記録した物件

という3段階(①やりとり自体→②やりとりの内容→③やりとりの内容を記録した物件)の整理もふまえて上記37番の回答を補足すると、

「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」が本取扱いの対象となるか否かは,

「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」に事実に関する記載が含まれているか,事実に関する記載が法的意見に関する記載の分量より多いかといった形式的なことのみによって判断するものではなく,

「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」が全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえるかどうかによって判断することとなります。」

ということになると思います。

なので、

「全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえる」

場合には、その通信が全体として「①特定通信」であり、その内容が全体として「②特定通信の内容」であり、当該内容を記載した物件が全体として「③特定通信の内容を記録した物件」となります。

つまり、これら事実関係を含む相談文書と回答文書の内容は全体として「②特定通信の内容」であるということになり、たとえば、弁護士の回答の事実関係の部分が特定通信の内容以外の内容であり意見の部分だけが特定通信の内容である、ということにはなりません。

これに対して、このような相談文書・回答文書の内容を引用(「記録」)した文書、たとえば稟議書を考えると、稟議書の中で相談文書・回答文書を引用した部分(事実関係の記載を引用した部分を含みます)は「②特定通信の内容」を記録した物件であるといえますが、それ以外の、たとえば、リニエンシーの申請をしないと決定した決裁権者の意思表示を記録した部分は、「②特定通信の内容」ではないので、その部分は「③特定通信の内容を記録した物件」ではないことになります。

したがって、判別手続では、審査規則23条の3第1項2号の、

「⼆ 特定通信の内容の基礎となる事実その他の特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが含まれていないこと

⼜は

当該特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが含まれている場合に特定⾏為者が当該内容と同⼀の内容のものを委員会に提出⼜は報告したこと。」

の要件をみたすためには、

「リニエンシーの申請をしないと決定した決裁権者の意思表示を記録した部分」

は、

「当該特定通信の内容に当たらない内容を記録したもの」

にあたるため、事業者は、

「当該内容と同⼀の内容のもの」

つまり、

「リニエンシーの申請をしないと決定した決裁権者の意思表示を記録した部分」

と同一の内容のもの(当該意思表示を記録した部分のコピー)を公取委に提出することになります。

実務的には、特定通信の内容にあたる部分(弁護士からの意見の内容を記録した部分)を黒塗りにして、稟議書のコピーを提出することになるでしょう。

まとめると、

弁護士からの回答文書に事実関係が記載されていても、全体として弁護士の回答文書と認められれば、当該事実関係の部分をふくめ「②特定通信の内容」となり、

当該意見書(事実関係を含む)を引用した稟議書等は、当該引用部分は「③特定通信の内容を記録した物件」にあたるので提出しなくていいが、稟議書のその他の部分(事実関係の記載があれば事実関係の記載も含む)は提出する必要がある、

ということになります。

少々ややこしいですが、弁護士の回答書に事実関係の記載があっても、当該回答書が全体として弁護士の回答文書といえる場合には、当該事実関係の記載は、たとえ回答の基礎となる事実であっても、審査規則23条の3第1項2号前段の、

特定通信の内容の基礎となる事実その他の特定通信の内容に当たらない内容」

にはあたらない、ということになります。

論理的には、回答書中の事実関係の記載は、「特定通信の内容の基礎となる事実 」ではなく、「特定通信の内容」そのものである、よって、「特定通信の内容に当たらない内容」ではない、ということなのでしょう。

正直、かなり不細工な解釈だと思いますが、そもそもパブコメ回答の「全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえるかどうか」という基準が審査規則のどこにも書いていないので、しかたないのでしょう。

規則が「特定通信の内容の基礎となる事実」を一律に特定通信の内容から除外するかのような規定にしてしまった(それを指針やパブコメで修正している)のが、そもそもよくなかった(「特定通信の内容の基礎となる事実」なんて書くと、意見書の前提事実が対象にならないように読めてしまう)のですが、ガイドラインを読みながらそういうもんだと頭の中で規則を読み替えながら理解するしかないのでしょう。

ほんらい、そういうのはよくないのですが、日本で例のない制度だし、しかたないのかもしれません。

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