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2021年3月

2021年3月21日 (日)

事実関係を記載した弁護士意見書のとりあつかいについて

判別手続パブコメ37番に、

「事業者から弁護士への相談や弁護士から事業者への回答に係る文書の中に事実に関する記載が含まれている場合は,全体として相談文書・回答文書であるかを判断するとの理解でよいか。

その場合,例示に「弁護士から特定行為者への回答文書(事実関係のサマリーが記載されている場合を含み得る。)」などと追記すべきである。(団体)」

という質問があり、

「本取扱いの対象となるか否かは,

事実に関する記載が含まれているか,事実に関する記載が法的意見に関する記載の分量より多いかといった形式的なことのみによって判断するものではなく,

全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえるかどうかによって判断することとなります。」

と回答されています。

まずここで問題にされているのは、判別指針で「特定通信の内容を記録した物件」の具体例としてあげられている「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」(パブコメ37番でいう、「相談文書・回答文書」)の意味の解釈です。

なので、3月16日に書いた「『特定通信の内容を記録した物件』の論理構造」の、

①「特定通信」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者が弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士が秘密に行った回答」、つまり、相談と回答というやりとり自体

②「特定通信の内容」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者が弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士が秘密に行った回答」の内容、つまり、相談と回答の内容

③「特定通信の内容を記録した物件」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者が弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士が秘密に行った回答」の内容を記録した物件、つまり、相談と回答の内容を記録した物件

という3段階(①やりとり自体→②やりとりの内容→③やりとりの内容を記録した物件)の整理もふまえて上記37番の回答を補足すると、

「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」が本取扱いの対象となるか否かは,

「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」に事実に関する記載が含まれているか,事実に関する記載が法的意見に関する記載の分量より多いかといった形式的なことのみによって判断するものではなく,

「特定行為者から弁護士への相談文書」「弁護士から特定行為者への回答文書」が全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえるかどうかによって判断することとなります。」

ということになると思います。

なので、

「全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえる」

場合には、その通信が全体として「①特定通信」であり、その内容が全体として「②特定通信の内容」であり、当該内容を記載した物件が全体として「③特定通信の内容を記録した物件」となります。

つまり、これら事実関係を含む相談文書と回答文書の内容は全体として「②特定通信の内容」であるということになり、たとえば、弁護士の回答の事実関係の部分が特定通信の内容以外の内容であり意見の部分だけが特定通信の内容である、ということにはなりません。

これに対して、このような相談文書・回答文書の内容を引用(「記録」)した文書、たとえば稟議書を考えると、稟議書の中で相談文書・回答文書を引用した部分(事実関係の記載を引用した部分を含みます)は「②特定通信の内容」を記録した物件であるといえますが、それ以外の、たとえば、リニエンシーの申請をしないと決定した決裁権者の意思表示を記録した部分は、「②特定通信の内容」ではないので、その部分は「③特定通信の内容を記録した物件」ではないことになります。

したがって、判別手続では、審査規則23条の3第1項2号の、

「⼆ 特定通信の内容の基礎となる事実その他の特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが含まれていないこと

⼜は

当該特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが含まれている場合に特定⾏為者が当該内容と同⼀の内容のものを委員会に提出⼜は報告したこと。」

の要件をみたすためには、

「リニエンシーの申請をしないと決定した決裁権者の意思表示を記録した部分」

は、

「当該特定通信の内容に当たらない内容を記録したもの」

にあたるため、事業者は、

「当該内容と同⼀の内容のもの」

つまり、

「リニエンシーの申請をしないと決定した決裁権者の意思表示を記録した部分」

と同一の内容のもの(当該意思表示を記録した部分のコピー)を公取委に提出することになります。

実務的には、特定通信の内容にあたる部分(弁護士からの意見の内容を記録した部分)を黒塗りにして、稟議書のコピーを提出することになるでしょう。

まとめると、

弁護士からの回答文書に事実関係が記載されていても、全体として弁護士の回答文書と認められれば、当該事実関係の部分をふくめ「②特定通信の内容」となり、

当該意見書(事実関係を含む)を引用した稟議書等は、当該引用部分は「③特定通信の内容を記録した物件」にあたるので提出しなくていいが、稟議書のその他の部分(事実関係の記載があれば事実関係の記載も含む)は提出する必要がある、

ということになります。

少々ややこしいですが、弁護士の回答書に事実関係の記載があっても、当該回答書が全体として弁護士の回答文書といえる場合には、当該事実関係の記載は、たとえ回答の基礎となる事実であっても、審査規則23条の3第1項2号前段の、

特定通信の内容の基礎となる事実その他の特定通信の内容に当たらない内容」

にはあたらない、ということになります。

論理的には、回答書中の事実関係の記載は、「特定通信の内容の基礎となる事実 」ではなく、「特定通信の内容」そのものである、よって、「特定通信の内容に当たらない内容」ではない、ということなのでしょう。

正直、かなり不細工な解釈だと思いますが、そもそもパブコメ回答の「全体として課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見についての弁護士との相談文書・回答文書といえるかどうか」という基準が審査規則のどこにも書いていないので、しかたないのでしょう。

規則が「特定通信の内容の基礎となる事実」を一律に特定通信の内容から除外するかのような規定にしてしまった(それを指針やパブコメで修正している)のが、そもそもよくなかった(「特定通信の内容の基礎となる事実」なんて書くと、意見書の前提事実が対象にならないように読めてしまう)のですが、ガイドラインを読みながらそういうもんだと頭の中で規則を読み替えながら理解するしかないのでしょう。

ほんらい、そういうのはよくないのですが、日本で例のない制度だし、しかたないのかもしれません。

2021年3月20日 (土)

優越的地位の濫用の確約における金銭補償

優越的地位の濫用について、2020年8月のゲンキー、同年9月のアマゾン、2021年3月のBMWの確約認定が出そろいましたので、実務上特に関心の高いと思われる金銭補償についてまとめておきます。

まずゲンキーでは、

「⑶ 前記2⑴の行為に関する納入業者における金銭的価値を回復すること。」

となっており、「前記2⑴の行為」というのは新装開店などにおける従業員無償派遣です。

違反行為は他にもクリスマスケーキを買わせたり金銭を提供させたり返品をしたり、という定番の濫用行為もあったのですが、これらの行為については金銭補償の対象にはなっていません。

次にアマゾンでは、

「(2) 前記2の行為の対象となった本件納入業者に対し,それぞれ,金銭的価値の回復を行うこと。」

となっており、「前記2の行為」というのは違反行為全部(商品の値下げをしたときにはアマゾンの在庫について値下げ相当額を補償する「在庫補償契約」、さまざまな金銭提供、返品)であり、これら全部が金銭補償の対象であることがわかります。

またアマゾンの件では公取委のプレスリリースで、

「なお,当該計画が実施されることにより,前記3(2)の金銭的価値の回復については,現時点において,本件納入業者のうち約1,400社に対し,総額約20億円と見込まれる。」

と、補償金額について公表されています。

ゲンキーには、このような金額の公表はありません。

最後にBMWについては、金銭補償の規定はありません。

まとめると、

ゲンキー→従業員派遣のみ補償

アマゾン→全部補償

BMW→補償なし

です。

どうしてこのような差が出るのか、いろいろ理屈をこねてみたところでそもそもが金銭補償は必須ではない(確約ガイドラインでも「有益である」とされているだけ)ので詮ないのですが、それでもあえて想像すると、濫用行為がお金での解決になじむ類いのものかどうか、という、感覚論なのだろうと思います。(もちろん、当事者がすすんで申し出たかどうか、というのも大きいのでしょうけれど。)

ゲンキーの従業員無償派遣は、「さすがにただ働きはまずいでしょ」ということで、適正な対価を払わせる、というのになじみます。

金額もある程度合理的にはじけそうです。

協賛金などの金銭提供要請は、提供させた金銭を返させればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、金銭提供することによって納入業者が利益を得ていることもありえ、直接得る利益の範囲内であるかぎり問題ないと優越ガイドラインでもされている以上、単純に全額返せとはいいにくいものがあるのでしょう。

それが端的に出ているのがアマゾンで、担当者解説(公正取引842号64頁)では、妥当な補償額をさだめるのにアマゾンと公取が経済分析を使ったことが触れられています。

この担当官解説は、他の確約の担当官解説が、ほとんど相互にコピペみたいな味も素っ気もないなかで、異例に詳しく書かれていて、たいへん参考になります。

ぜひ、こういう解説をお願いしたいものです。

(唯一、p70に、

「公取委が確約計画を認定すると、当該事件において違反行為は認定されず、排除措置命令及び課徴金納付命令は行われないため、確約手続が「甘い対応」であると批判する向きもあるが、本件確約計画の内容からすれば、そのような批判が当たらないことは明らかである。」

と書かれている部分だけが、「そんなこといったって、課徴金受けたら20億じゃすまないよなぁ」と鼻白みますが😞、こういうことを書いてくれること自体、公取委も「甘い対応」といわれることを気にしていることがわかるわけですから、よく書いてくれたと思います。)

というわけで、金銭提供要請は単純に全額返金すればいいというものでもないので、公取委が当事者に金銭補償をうながすのにも、かなり気合いがいるものと想像されます。

ゲンキーでは納品業者にクリスマスケーキを買わせたことが濫用になっていますが、これも金銭補償の対象になっていません。

クリスマスケーキの代金を返金させるというのも、現に納入業者がクリスマスケーキを取得している以上、なかなかよい説明が思い当たりません。

美味しくいただいた納入業者には返金しないけれど、食べずに捨てちゃった納入業者には返金する、というのが大岡裁き的(=理屈はさておきなぜかみんなが納得できる)でいいかも、と思いますが、さすがに正式な制度としては認めにくいでしょう。

理屈をこねる人なら、被濫用者間での平等性が確保されていない、といって反対するかも知れません。

いちおう金銭補償を計画に入れて、美味しくいただいた納入業者は辞退することで帳尻を合わせる手もありますが、美味しくいただいたけれどもらえるものはもらっておく人もいるでしょうから、任意の辞退にゆだねるというのも具合がよろしくありません。

クリスマスケーキを通常価格で売っているかぎりは納入業者に損害がないともいえます。

このように、経済上の利益提供要請の場合には全額返金させればいいというわけではありません。

とすると、アマゾンの件で、経済分析合戦の末、アマゾンは何%相当額を返したのか(反対に言えば何%まではOKになったのか)に関心が向くところですが、それについては公表されていません(公表は総額のみです)。

ですがこれについては2020年10月8日通販新聞などによると、確約のあとアマゾンは独禁法違反の疑いありとされたベースコープとは別に、あらたに取引金額の2%のベースコープを導入したと報じられています。

とすると、公取とのやりとりの中で2%までなら濫用にならない、という話があったのだろうと推測されます(もちろん、取引先の同意があることが前提です)。

以上に対して、BMWには金銭補償がありません。

BMWの違反被疑行為はディーラーに新車の押しつけ販売をした、ということですが、ゲンキーのクリスマスケーキと同じく、さすがに新車販売代金全額返金というわけにはいかないでしょう。

(クリスマスケーキくらいなら「食べちゃいましたので返却できません」ですむかもしれませんが、BMWの新車を「売っちゃいましたので返却できません」ではすまないでしょう。)

新車を自腹で購入して新古車登録することでリベートを獲得できていたりしたら、なおさらディーラーに補償すべき損害などあったのか、という疑問がわきます。

なので、新車の押しつけ販売は金銭補償にはなじまない、ということなのでしょう。

「なじまない」というのがあまりに情緒的で気になる、というのであれば、被濫用者が受けた損害額を合理的に算定することが困難である、といってもよいかもしれません。

でも、従業員派遣が金銭補償の対象になるのに新車の押しつけ販売がならないというのも、どちらのほうが相手方にとってダメージが大きいのかと考えると、なんだかバランスが悪いような気もします。

ふつうに考えたら、従業員の派遣くらいはまあしかたないか、となりそうですが、新車の押しつけ販売は、ディーラーにとってはかなりきついはずです。

考えられる説明としては、BMWのケースは、押しつけとはいえ一応ほんらいの取引なので、将来の取引さえ正常化すればディーラーも納得できる、というのが「なじまない」ということなのかもしれません。

でもやっぱり、どういう場合に金銭補償を求められてどういう場合に求められないのか、あまりよくわかりません。

BMWの件についてはまだ担当者解説が出ていませんが、「甘い対応」という批判にはどう答えるのでしょうね。楽しみです。

でも、ひょっとしたら、BMWの件で金銭補償がないのは、実はものすごく形式的な理由かも知れません。

というのは、確約ガイドラインでは、

「(カ) 取引先等に提供させた金銭的価値の回復

例えば,被通知事業者が取引先に対して,商品又は役務を購入した後に契約で定めた対価を減額することや,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購購入させることが違反被疑行為に該当する場合には,被通知事業者が収受した利得額や当該取引先の実費損害額を当該取引先に返金することが措置内容の十分性を満たすために有益である。」

とされています。

これを文字どおり読むならば、BMWの新車押しつけ販売は、「対価の減額」でもなければ、「当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購購入させること」でもない(∵購入させたのはほんらいの取引に係る商品そのものなので)、したがって、金銭補償は措置内容の十分性を満たすために有益とはいえない、と読めます。

つまり、

「例えば,被通知事業者が取引先に対して,商品又は役務を購入した後に契約で定めた対価を減額することや,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購購入させることが違反被疑行為に該当する場合には」

ではないわけです。

う~ん、確約ガイドラインを作ったときに、そこまで厳密に考えていたんですかねぇ。

なんだか腑に落ちませんが、いったん紙に書いたものができてしまうとそのとおり運用するのが役所というものなので、あんがい、減額でも購入強制でもないから、という形式的な理由が、BMWの件で金銭補償がない理由なのかもしれません。

当事者としても、ガイドライン上考慮されることが明記されていない措置を申請するインセンティブはなさそうですし、公取としても、ガイドラインに書いていないことを当事者に示唆したり、確約計画認定の条件とすることは、はばかられるような気がします。

でもアマゾンやゲンキーの件では、減額でも購入強制でもない経済上の利益の提供要請が返金対象になっていますし。。。

ますますBMWの担当官解説が楽しみです。

2021年3月16日 (火)

「特定通信の内容を記録した物件」の論理構造

カルテルにおける弁護士依頼者秘匿特権の対象である「特定通信の内容を記録した物件」の考え方について整理しておきます。

判別手続によって特定物件(=審査規則23条の2第1項により留め置きの申出がなされた物件)が還付されるための要件は、

①〔特定物件が〕特定通信の内容を記録したものであること

②特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが〔特定物件に〕含まれていないこと

又は

特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが含まれている場合に、特定行為者〔=秘匿特権の扱いを求めた被疑事業者〕が当該内容(=「特定通信の内容に当たらない内容」)と同一の内容のものを委員会に提出又は報告したこと。

③課徴金減免対象違反行為を行うこと若しくは行うことを容易にすること又は検査を妨害することその他違法な行為を行うことに関する内容を記録したものでないこと。

④特定物件の表面その他の見やすい箇所に特定通信の内容を記録したものである旨が表示されていること。

⑤④に規定する表示がされていることのほか、特定物件が特定の保管場所に特定物件以外の物件と外形上区別して保管され、特定通信の内容を知る者の範囲についてその内容の秘密を保持するための措置が講じられていることにより、適切に保管されていたこと。

⑥概要文書の記載に誤りがないこと。

ですが(審査規則23条の3第1項)、重要なのは①②(内容要件)と③④(管理要件)でしょう。

以下では、①②(特定物件がみたすべき内容要件)について説明します。

まず「①特定通信の内容を記録したものであること」が必要なのですが、「特定通信」とは、

「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について当該事業者と弁護士・・・との間で秘密に行われた通信

と定義されています(審査規則23条の2第1項)。

これだけ見ると、事業者(たとえば社内弁護士)が弁護士に法的意見を述べた通信も「特定通信」にあたりそうですが、指針で、

「特定通信は,課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士秘密に行った回答である。」

と、相談するのは事業者で、回答するのは弁護士、ということになっています。

まあこれくらいの限定は制度趣旨からしてありうるところでしょうし、実際には、社内弁護士から外部弁護士への法的意見(ないしは社内弁護士と外部弁護士との法的意見交換)は、すべて事業者(社内弁護士)から外部弁護士への相談である、といってしまえばいえないことはないので、運用上はとくに問題は起きないのでしょう。

「特定通信」は「通信」でなければなりません。

「通信」は、「郵便・電信・パソコンなどによって意思や情報を通ずること。」(広辞苑)です。

以上をふまえて、「①特定通信の内容を記録したもの」を書き下すと、

①「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士秘密に行った回答」の内容記録したもの

ということになります。

短くすると、「①特定通信の内容を記録したもの」は、

<弁護士への相談または弁護士からの回答>の内容記録したもの

です。

指針ではこれを、

「特定通信の内容を記録した物件

と呼んでいます。

つまり、

もの=物件

です。

まとめると、

「特定通信の内容を記録した物件

は、

「特定通信」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士秘密に行った回答」、つまり、相談と回答というやりとり自体

「特定通信の内容」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士秘密に行った回答」の内容、つまり、相談と回答の内容

「特定通信の内容を記録した物件」=「課徴金減免対象被疑行為に関する法的意見について課徴金減免対象被疑行為をした事業者弁護士に対して秘密に行った相談又はそれに対して当該弁護士秘密に行った回答」の内容を記録した物件、つまり、相談と回答の内容を記録した物件

という3段階(やりとり自体→やりとりの内容→やりとりの内容を記録した物件)で構成されています。

同じように、還付の要件の2つめの、

②特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが〔特定物件に〕含まれていないこと

又は

特定通信の内容に当たらない内容を記録したものが含まれている場合に、特定行為者〔=秘匿特権の扱いを求めた被疑事業者〕が当該内容(=「特定通信の内容に当たらない内容」)と同一の内容のものを委員会に提出又は報告したこと。

については、

②弁護士とのやりとりの内容に当たらない内容を記録したものが含まれていないこと

又は

弁護士とのやりとりの内容に当たらない内容を記録したものが含まれている場合に、特定行為者が弁護士とのやりとりの内容にあたらない内容と同一の内容のものを委員会に提出又は報告したこと

ということになります。

ここで、

「特定通信」(やりとり自体)

「特定通信の内容」(相談と回答の内容)

「特定通信の内容を記録した物件」(相談と回答の内容を記録した物件)

の3段構造をもう一度思い出しましょう。

まず、保護される物件自体は、依頼者と弁護士とのやりとり(メール等)にかぎりません。

保護されるのは「特定通信の内容」を記録した物件であればいいわけで、物件自体がそれにより依頼者と弁護士との間の通信がなされたもの(例、依頼者から弁護士宛のメール)である必要はありません。

どうして「特定通信」と「特定通信の内容を記録した物件」の区別をくどくど述べるのかというと、ここの違いがあいまいだと肝心なところで誤解が生じかねないからです。

たとえば、ある解説で、

「判別手続を利用するためには、立入検査の前に事業者側で特定通信について『適切な保管』がなされていなければならない。」

と説明されているのを見たのですが、これだとまるで依頼者と弁護士のやりとりだけが「適切な保管」の対象であるかのように見えかねません。

正しくは、

「判別手続を利用するためには、立入検査の前に事業者側で特定通信の内容を記録した物件について『適切な保管』がなされていなければならない。」

です。

同じく、

「稟議書等の社内メモも弁護士の法的意見が記載されていれば特定通信となり得る」

という説明も、正しくは、

「稟議書等の社内メモも弁護士の法的意見が記載されていれば特定通信の内容を記録した物件となり得る」

でしょう。

このあたりをあいまいなままにしておくと、いろいろと誤解のもとです。

たとえば、公取委の「概要文書作成要領」p2には、

「1つの特定物件(特定物件が,複数の文書等を1つのファイルなどにつづり保管している場合には,そのうちの1つの文書等)に複数の特定通信の内容が記録されている場合には,その特定通信ごとに,それぞれ行を設けて,複数の特定通信に関する概要を記載してください。

(例2)上記の例1の「佐藤弁護士との打ち合わせ報告書」(D)に,令和3年8月23日に行った相談の内容(特定通信a)と,同年8月31日に行った相談の内容(特定通信b)が記載されている場合。

⇒ 概要文書には特定通信aと特定通信bの行を分けて設け,必要な事項を記載してください。

(概要文書(物件)記載例3の枝番4,5)」

と記載されていますが、これなどは、「特定通信」が、弁護士とのやりとり(通信)(の内容)のことで、当該内容が1つの物件に記録されている、ということを言っているのだ、と理解できないと、すぐには頭に入らなさそうです。

ほかには、審査規則23条の2第2項では、

「前項の求めに係る事業者(以下「特定⾏為者」という。)は、・・・

前項の規定により留め置かれた物件(以下「特定物件」という。)について、

標題、作成⽇⼜は取得⽇、特定通信をした者、特定通信の内容を知る者、保管場所、概要その他必要な事項を

特定通信ごとに記載した⽂書(次条第⼀項第六号において「概要⽂書」という。)を委員会に提出しなければならない。」

と規定されていますが、ここでも「特定通信ごとに」記載しないといけないことになっているので、上の「「佐藤弁護士との打ち合わせ報告書」の例であれば、

「令和3年8月23日に行った相談の内容(特定通信a)」

と,

「同年8月31日に行った相談の内容(特定通信b)」

のそれぞれにわけて(「特定通信ごとに」)、具体的には、行をわけて、概要文書に記載しないといけないことになります。

さらに、これもきちんと読めばわかることですが、

「標題、作成⽇⼜は取得⽇、特定通信をした者、特定通信の内容を知る者、保管場所、概要」

というのは、

「標題」は、当該特定物件の標題のことであり、

「作成⽇⼜は取得⽇」は、当該特定物件の作成日または取得日のことであり(※特定通信の、ではありません)、

「特定通信をした者」は、当該特定物件に記録されている特定通信をしたもの(弁護士と担当者)のことであり、

「特定通信の内容を知る者」は、当該特定物件に記録されている特定通信の内容を知る者のことであり、

「保管場所」は、当該特定物件の保管場所のことであり、

「概要」は、当該特定物件の概要(記載例では、「佐藤弁護士が当社従業員からヒアリングを行い,不当な取引制限に当たる可能性の可否について法的意見をまとめた報告書」という例になっています。)のことであり(※特定通信の概要、ではありません。)

という意味だと、「特定通信」と「特定物件」の関係が理解できていると、すんなりと理解できるはずです。

また、概要文書で求められている記載を見ればわかるように、必要な情報の中心はあくまで「特定通信」に関する情報です。

「特定物件」に関する情報で大事なのは、適切な保管をしていることを裏付けるための(特定物件の)「保管場所」くらいで(保管の態様が問題になるのは特定物件についてであり、特定通信の「保管の態様」のようなものは観念できないので、これは当然でしょう。)、たとえば、特定物件の作成者は記載する必要がありません。

これは、「特定通信の内容を記録した物件」の作成者は誰でもかまわない(厳密には、特定通信の内容を知る必要のある人であれば誰でもかまわない)、ということを物語っているといえます。

ついでにいえば、このように、特定物件で大事なのはあくまで特定通信なので、特定物件に記録されている情報(弁護士の意見等)がたしかに弁護士からの意見であることが特定できる情報(具体的には、弁護士名と日付)は「特定通信の内容を記録した物件」に必ず記載しておく必要があるでしょう。

また、「特定通信の内容を記録した物件」の、どこからどこまでが「特定通信の内容」なのかもわかるように、たとえばカギ括弧を使って、明示しておくべきでしょう。

このように、判別手続については細かいところでいろいろと迷うところがでてくるので、一番の基礎である、「特定通信」「特定通信の内容」「特定通信の内容を記録した物件」の概念は、きちんと区別して押さえておくべきだと思います。

ちなみに、「特定物件」の定義は、「〔審査規則23条の2第1)項の規定により留め置かれた物件」(審査規則23条の2第2項)です。

したがって、とくにかく留め置かれることにさえ成功すれば、「特定物件」です。

なので、たとえば、当該物件に記録されいている通信が実は弁護士の意見ではなく、法律事務所に勤務する弁護士資格のない元公取委職員の意見であったとしても、「特定物件」の定義にはあたることはあるので、「特定通信の内容を記録した物件」とはまったく毛色の違う概念だといえます。

2021年3月13日 (土)

稟議書は秘匿特権の対象か

判別手続パブコメ41番に、

「弁護士から取得した法的意見を引用した社内の稟議書は、『弁護士から特定行為者への回答文書』に準ずるものとして、特定物件と扱われるという理解でよいか。(団体)」

という質問に対して、

「本取扱いの対象となる相談文書や回答文書の内容を記載した文書であり,かつ,内容を知る者の範囲が適切に制限されているのであれば,菓議書によって情報共有が行われる場合においても,本取扱いの対象となり得ます。」

との回答がなされています。

これをぼーっと読むと(そういう人はいないかもしれませんが)、知るべき人だけが知っている(「内容を知る者の範囲が適切に制限されている」)のであれば稟議書も当然に秘匿特権の対象になるかのように考えてしまいそうですが、そうではありません。

稟議書は稟議書でそれ自体1つの文書(物件)ですから、稟議書自体が、審査規則23条の3第1項の、

四 特定物件の表面その他の見やすい箇所に特定通信の内容を記録したものである旨が表示されていること。

五 前号に規定する表示がされていることのほか、

特定物件が特定の保管場所に特定物件以外の物件と外形上区別して保管され、

特定通信の内容を知る者の範囲についてその内容の秘密を保持するための措置が講じられていることにより、適切に保管されていたこと。

等の要件をみたす必要があります。

回答の、

「内容を知る者の範囲が適切に制限されている」

というのは、審査規則23条の3第1項5号の、

「特定通信の内容を知る者の範囲についてその内容の秘密を保持するための措置が講じられている」

の部分を指していますが、そのほかの部分についてはたんに当然だから言っていないだけです。

ですので、稟議書についても、稟議書本体やそれを綴じたファイルの背表紙に、「弁護士依頼者秘匿特権対象文書(公取審査規則特定通信)」などの記載をして、他の秘匿対象物件と同様、法務部のキャビネットなどで保管する必要があります。

稟議書はその稟議が関係する対象部署で保管していることが多いのではないかと思いますが、秘匿特権の対象については法務部で保管する必要があります。

もしその稟議書のコピーが稟議の対象部署で保管されていたら、そのコピーは公取委に持って行かれます(還付されません)。

コピーはコピーで1つの「物件」ですから、当然です。

もちろん、原本を稟議の対象部署で保管し、そのコピーを法務部で適切に管理していても、原本は持って行かれます。

なので、紙で稟議するときは、原本を法務部で保管するか、原本を保管する必要もないならPDFを取って法務部で保存して原本は破棄してしまうなりすればいいと思います。

立入検査中に原本やコピーを破棄したりしたらもちろんだめですが、立入検査の前なら、別に検査妨害とかにはなりません。

社内システムを使ってオンラインで稟議をしている会社は、そのシステムのなかに記録を残しているとそのデータも持って行かれますので、そのときだけ紙でやるとか、別ルートでやるとか、工夫すべきでしょう。

パブコメの質問も回答も、法務部での保管についての説明が端折られているので、法務部での保管はお互い当然の前提ということなのかもしれませんが、第三者が読むと勘違いするかもしれませんので、念のため注意喚起しておきます。

2021年3月 7日 (日)

不当な相互取引に関する旧流通取引慣行ガイドラインの記載について

平成29年の改正で流通取引慣行ガイドラインの「不当な相互取引」に関する規定は削除されました。

つい最近までこんな前時代的な(=経済的根拠のない)ガイドラインが生きていたことは、驚きに値します。

しかも、公取委もまちがいを認めて削除したのではなく、摘発例がないから削除した、というにすぎません。

相互取引は日本企業ではよくあることですし、今後も独禁法で話題にならないともかぎらないので、いちおうコメントしておきます。

改正前ガイドラインでは、不当な相互取引を、「購買力を利用した相互取引」と「事業者間の任意の取り決めに基づいて行う相互取引」にわけて説明していました。

前者は基本的に優越(と不要品強要型抱き合わせ)の話なのであまり見るべきものはありませんが、後者については、それらしいことを言っているようにみえて実はぜんぜん的はずれ、というたいへん困った内容のガイドラインになっていました。

(なお流通取引慣行ガイドラインには、競争者間の総代理店契約に関する規定など、ガイドラインから削除はされたけれどいまでも参考になる規定もありますが、この相互取引に関する規定は、もともと参考にならない、あるいは深刻な誤解を招くリスクがきわめて大きいものでした。)

「事業者間の任意の取り決めに基づいて行う相互取引」では、

「市場における有力な事業者が、

継続的な取引の相手方と、

それぞれ自己の商品を相手方が購入する旨の条件を付けて相手方から商品を購入することを任意に取り決めて相互取引を行い、

これによって当該相互取引の対象となる商品を販売する他の事業者の取引の機会が減少し、

他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、

当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引))。」

とされていました。

ここで、当事者をA、B、それぞれが販売する商品をa, bと置いて、有力事業者や継続性など枝葉(=効果で考慮すべき事情)を端折ると、

「AとBとが、

BAからaを購入することを条件に、AがBからbを購入し、・・・①

かつ、

ABからbを購入することを条件に、BがAからaを購入し、・・・②

これによって、

〔①によって〕aを販売する他の事業者の取引の機会が減少し、・・・③

または、

〔②によって〕bを販売する他の事業者の取引の機会が減少し、・・・④

これによって、

〔③により〕aを販売する他の事業者が、他に代わり得るaの購入者を容易に見いだすことができなくなるおそれがあり、・・・⑤

または、

〔③により〕bを販売する他の事業者が、他に代わり得るbの購入者を容易に見いだすことができなくなるおそれがある・・・⑥

場合には、

当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引))。」

上記のように、

①→③→⑤の流れ(Bが拘束される)

と、

②→④→⑥の流れ(Aが拘束される)

がありますが、旧ガイドラインで有力な事業者とされているAの行為が問題になる①→③→⑤の流れ(Bが拘束される)をみてみましょう。

そこで①→③→⑤を取り出すと、

BAからaを購入することを条件に、AがBからbを購入し、・・・①

〔①によって〕aを販売する他の事業者の取引の機会が減少し、・・・③

〔③により〕aを販売する他の事業者が、他に代わり得るaの購入者を容易に見いだすことができなくなるおそれがある・・・⑤

場合には独禁法違反だ、ということです。

でも、こんなことは普通起こらないだろうということは、少し考えてみればわかります。

まず指摘できるのは、

BAからaを購入することを条件に、AがBからbを購入し、・・・①

といいながら、どれだけの量を購入するのか明らかにされていません。

つまり、「a」が、「Bが購入するすべてのa」のことなのか、「Bが購入する一部のa」のことなのかが、わかりません。

文言的には、ぜんぶ、と明示されていないのだから一部も含むのだ、ということなのですが、この点は、相互取引の排除効果を考える上で意識しておく必要があります。

たとえば、商品aの市場での購入量に占めるBの購入割合(aの購入シェア)が、20%だとしましょう。

これはかなり多いといえます。

その上で、①が、

BAからaの全需要量を購入することを条件に、AがBからbを購入し、・・・①’

だとしても、閉鎖される需要量は20%どまりです。

もし、Bのa購入量の50%をあから購入する条件だとすると、閉鎖される需要量は10%どまりです。

さらに相互取引がふつうの排他条件付取引とちがうところは、aの全部をbの供給者が買うとはかぎらない、ということです。

なんとなく、相互取引を不当視する発想には、

aの需要者=aの需要者かつbの供給者・・・⑥

かつ

bの需要者=bの需要者かつaの供給者・・・⑦

というのが、暗黙の前提となっているような気がします。

たしかに、⑥がなりたつなら、bの供給者全員に全a購入を義務づければ、aの全需要が閉鎖されることになります。

しかし実際には、

aの需要者⊃aの需要者かつbの供給者・・・⑥’

のことのほうが多いでしょう。

この場合、bの供給者全員(=B1, B2, ..., Bn)がa市場において占める総購入シェアが30%だとすると、bの供給者全員に全aを購入させても閉鎖されるのは30%にとどまります。

そして、ふつうの相互取引では、すべてのa購入者と相互取引をするなんていう無茶なことをするのではなく、自分がたまたまbを需要する場合に、たまたまaを需要する一部のbの供給者(B1, B2)とだけ、相互取引をする、ということなのではないでしょうか。

たとえaの独占的供給者でも、もともとaをほしくもないbの供給者に「bを買ってあげるからaを買って」というのは、ふつうは無理でしょう。

ありうるとすれば、Aがbの独占的購入者(少なくとも有力な購入者)である場合(※aの独占的供給者ではない)であり、これなら、bの購買力をテコにaを買わせられるかも知れません。

しかしこれも、

bの需要者=bの需要者かつaの供給者・・・⑦

であることを前提にしており、aの供給者(=A1, A2, ..., An)のbに対する需要を全部を合わせてもbの総需要のほんの一部でしかない場合、つまり、

bの需要者⊃bの需要者かつaの供給者・・・⑦”

には、bの購買力をテコに大量のaを買わせる、というシナリオは、簡単にはなりたたないと思われます。

というわけで、相互取引が問題になりそうなのは、aの販売シェアとbの購入シェアがともに大きいAと、bの販売シェアとaの購入シェアがともに大きいBとの間で行われた場合、という、かなりまれな場合に限られるように思われます。

このように、どうも不当な相互取引の規定は机上の空論であった可能性が高いように思います。

これを裏付けるのが、ガイドラインの立案担当者解説である、

山田昭雄他『解説 流通・取引慣行に関する独占禁止法ガイドライン』

の記述です。

同書p103には、以下のような図があります。

 Ryutori2     

文字で書き下すと、

bの購買市場で有力な事業者であるaの供給者Aが、

bの供給者であり、かつ、aの需要者であるB1~Bnと相互取引をすると、

b供給市場への新規参入者Byの参入が阻害される

ということのようです。

でもふつう、bの購買市場で有力な事業者(A)が、bの供給者かつaの需要者らと相互取引をしたら、排除されるのはa供給市場への新規参入者なのではないでしょうか(∵B1~Bnにaを買ってもらえないので)。

同様に、以下のような図もあり、

Ryutori1

これも文字で書き下すと、

a販売市場で有力な事業者Aが、

a需要者かつb供給者であるB1~Bnと相互取引をすると、

Aの競争者(a供給者)Xが排除される

ということのようですが、ここでも、仮に排除されるとしたら「Aのa販売における競争者X」ではなく、「Aのb購入における競争者X」なのではないか、と思われます。(∵aを購入できないと困るb供給者らが、bをA以外に売らなくなるので。)

むしろ、a販売市場で有力とはいえ、Aが、「うちからaを買わないと、bを買ってやらないよ」なんてB1~Bnに言ったら、「Aのa販売における競争者」としてのXにとっては、願ってもないチャンスではないでしょうか。(∵B1~Bnは「そんな面倒なこというAからaを買うのはやめて、Xから買おう」と考えるので。)

このように、改正前ガイドラインの不当な相互取引に関する部分は、立案担当者自身が、なぜ、どういう場合に、相互取引が競争を制限するのか、よくわからずに起草していた可能性が濃厚です。

この本の相互取引の部分を読むと1930年代のFTCの審決例とかが先例として引用されてて、ガイドライン作成の発端となった日米構造協議当時の1980年後半においてすらアメリカではすでに死んでいた相互取引(reciprocal dealing)の解説を延々としています。

Google Scholarで調べるとわかりますが、reciprocal dealingについてのまともな論文は、せいぜい1960年代までです。

その後1970年代には、シカゴ学派の嵐が吹き荒れて、反トラスト法の解釈がすっかりかわってしまったのは周知の事実です。

立案担当者がどうして、すでに死んでいる1960年代のアメリカの議論を持ち出しているのかは、想像の域を出ませんが、きっと、アメリカに、

「日本企業は相互取引ばかりしていて、米国企業にとっては非関税障壁だ。アメリカでは相互取引は反トラスト法違反だ。」

とかいって、うまく丸め込まれたんじゃないか、と想像します。

日本人としては、日本の競争当局であり高い専門性を誇る公正取引委員会がアメリカにうまくしてやられたなんて思いたくないですが、どうも、この立案担当者解説を読むと、ほんとうに、相互取引がなぜ違法なのかよくわからないままアメリカに言いくるめられてしまったのではないか、という疑念が湧いてきます。

このあたりの事情をもしご存じの方がいらっしゃたら、ぜひうかがってみたいものです。

2021年3月 5日 (金)

飲食ポータル報告書の検索順位に関する記述

公正取引委員会が2020(令和2)年3月18日に公表した

飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書

では、有料プランのレストランを検索結果の上位に表示することについて、

「飲食店ポータルサイトがある飲食店の表示順位を落とすことが,直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,

例えば,市場において有力な地位を占める飲食店ポータルサイトが,

同じ契約プランの飲食店のうち,表示順位の決定について,

合理的な理由なく,恣意的にルール(アルゴリズム)を設定・運用することなどにより,

特定の飲食店の表示順位を落とすなど,

他の飲食店と異なる取扱いをする場合であって,

当該行為によって,特定の飲食店が競争上著しく不利になり,当該飲食店の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼし,飲食店間の公正な競争秩序に悪影響を及ぼす場合等

には,独占禁止法上問題(差別取扱い)となるおそれがある。」

「例えば,飲食店に対して優越的地位にある飲食店ポータルサイトが,正当な理由なく,

通常のルール(アルゴリズム)の設定・運用を超え

特定の飲食店のみ適用されるようなルール(アルゴリズム)を恣意的に設定・運用等をし,

当該飲食店の表示順位を落とすことにより,

当該飲食店に対し,自らの飲食店ポータルサイトにとって都合のよい契約プランに変更させるなど,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合,当該行為は独占禁止法上問題(優越的地位の濫用)となるおそれがある。」

とされています(p49)。

これをみてわかるのは、公取委は、ポータルサイトが有料プランのレストランを上位に表示するアルゴリズムを採用すること自体は、独禁法上問題視していない、ということです。

差別的取扱いについては、「同じ契約プラン」の中で差別的取扱いをすることがいけないのだ、といっており、これは裏返すと、異なる契約プランの間で差別的取扱いをしてもいいのだ、よって、有料プランのレストランを上位に表示するアルゴリズムでもいいのだ、ということだと理解できます。

優越的地位の濫用についても、「特定の」レストランを不利に扱うようなアルゴリズムはいけないといっているので、有料プランを上位に表示するアルゴリズムを採用して有料プランへの変更に誘導する(「都合のよい契約プランに変更させる」)ことは問題ないのだ、と理解できます。

このような考え方は、同じp49の冒頭で、

「一般的に広告は,より消費者の目につきやすいスペースに掲載するためには,より高い掲載料金が掛かるものであるところ,より上位に店舗情報を表示させるために,より高い手数料が必要となる表示順位は広告に類似の側面を持っていると考えられる。」

という考え方を公取委が取っていることを知ると、首尾一貫しているといえます。

つまり、飲食ポータルサイトの検索結果は広告と同じものだと位置づけ、「いい場所に表示されるためには高い広告料を払うのは当然でしょ」という理屈です。

さらに同報告書では、「ウ 望ましい対応」(p49)として、

「表示順位を決定する際の重要な要素が明らかでないなど,その取扱いが著しく不透明な状況で運用を行うような場合には,

飲食店に対して優越的地位にある飲食店ポータルサイトからみれば,例えば,自らにとって都合のよい契約プランに変更させるなど,自己の販売施策(営業方針)に従わせやすくなるという効果が生じやすくなると考えられる。」

「加えて,この不透明な状況は,飲食店からみれば,飲食店ポータルサイトにとって都合のよい契約内容に変更しなければ表示順位を落とされるかもしれないとの懸念を生じさせる。」

「この不透明な状況を改善させることは,かかる効果や懸念を減少させることになると考えられるため,不透明な状況を改善することが公正かつ自由な競争環境を確保する観点から望ましい。」

と言っています。

これは、有料プランが上位に表示されるかどうかわからないと飲食店は表示順位を落とされるかもしれないと懸念してポータルのいうことを聞かざるを得なくなる、ということと思われます。

(ただ、わたしはここには異論があって、はっきり「有料プランのほうが上位に表示されますよ」と言った方が、有料プランに誘導する(「自己の販売施策(営業方針)に従わせやすくなる 」)効果は、普通は大きいのではないか、という気がします。)

と同時に報告書では、

「しかし,実際に表示順位を決めるルール(アルゴリズム)等は,飲食店ポータルサイトの特徴を直接的に表す重要な競争手段である中で,特定の飲食店ポータルサイトがその全てを公開することは,その飲食店ポータルサイトの競争事業者に対する競争力を弱めることとなる可能性がある。

このため,飲食店ポータルサイトは,表示順位に関係する重要な要素について,飲食店及び消費者に対して,可能な限り明らかにするなど,表示順位の取扱いについて,透明性を確保することが公正かつ自由な競争環境を確保する観点から望ましい。」

といっており、アルゴリズムの全ての公開までは不要で、せいぜい、「重要な要素」について「可能な限り」あきらかにするのが「望ましい」というにとどまっています。

以上まとめると、同報告書では、

①特定店舗を恣意的に不利に扱うアルゴリズムは、独禁法違反のおそれ

②有料プランの(=「自己の販売施策に従う」)店舗を上位に表示するアルゴリズムは、合法

③②のようなアルゴリズムであることを明らかにすることが望ましい(望ましいだけなので、そうでなくても独禁法上違法にはならない)

ということになると思います。

案外穏当なことを言っており、妥当な結論だと思います。

ところで、この報告書について、日経新聞電子版2020年3月18日の記事では、

「グルメサイト、点数操作は独禁法違反 公取委が調査」

という見出しで紹介されていて、見出しだけ見ると、いかにも有料プランを上位に表示する(←これが当時の一番の話題でした)「点数操作」をすると独禁法違反であるかのような印象を、私は受けました。

また記事の中でも、

公取委が目をつけたのは、表⽰する点数や掲載順の決め⽅だ。例えば、あるエリアで飲⾷店を検索した場合、多くのサイトでは⾼額の⼿数料を⽀払うプランで契約している飲⾷店ほどサイトの上の⽅に表⽰されることが判明した。

無料や低額のプランで契約している飲⾷店は、掲載順位が低いので検索しても消費者の目にとまりにくい。」

と書いてあり、高額の手数料を払うプランを上位に表示することは、公取委に目を付けられた(だめだと言われた)のだな、という印象を持ちます。

その後を読むと、

「運営会社側は飲⾷店が⽀払う⼿数料に加え、残席数や予約実績の多さなどの要素を加えて掲載順位を決めていると主張した。

消費者の9割がこうした評価のしくみを知らずに使っており、公取委はサイト側に透明性の向上を求めた。

ある特定の店の点数や表⽰順位を落とすことで⾼額プランに変更させるなどの⾏為があれば独禁法上の「優越的地位の乱⽤」にあたる恐れがあるとした。」

と書いてあるのですが、これもちょっとわかりにくくて(よく読めばわかるのかもしれませんが)、最後の「「優越的地位の乱⽤」にあたる恐れがある」という結びをみると、あたかも高額プランの飲食店を優遇すると優越的地位の濫用にあたるかのような印象を受けますが、ここで問題視されているのは、

「ある特定の店の点数や表⽰順位を落とすことで⾼額プランに変更させるなどの⾏為」

という、かなり特殊な、おそらくそんなことどのサイトもやってないだろうと思われるような行為です(中国ではそんなのもありましたね)。

こういうきわめて特殊な行為を、高額プラン優遇という、多くの場合は公に、かつ広く行われている行為と一緒くたに書くと、よほど注意して読まないと誤解しそうです。

このあたりは、報告書では、もちろんきちんと分けて説明しています。

ひょっとしたら、こういう一緒くたに報道されることを見越した、印象操作狙いの報告書だったのかもしれませんが(深読みのしすぎでしょうか?)、やはり、何事も原典に当たらなければならないと感じました。

2021年3月 3日 (水)

北海道新聞事件における「新聞題字対策」の排除効果認定について

北海道新聞事件の同意審決(平成10年3月6日)は、新規参入をもくろむ函館新聞が取りそうな商標を手当たり次第に出願したことが私的独占にあたるとされたことが、知財と独禁の交錯みたいな文脈で取り上げられる有名な事件です。

ですが、ちょっと仕事の関係で同審決を読んでいて気づいたのですが、同事件のいろいろな行為のうち、商標の出願についてだけは、その反競争効果について記載がありません。

つまり、北海道新聞の数々の行為のうち、

「(⼆) 通信社対策について」については、

「(5) これにより、函新社は、⼝頭及び⽂書による再三の配信契約の申込みにもかかわらず、平成9年1⽉1⽇の函館新聞発刊以来現在に⾄るまで、時事通信社と国内外のスポーツニュースを含む⼀般ニュースの配信契約を締結することができない状況にある。」

という事実認定がなされ、

「(三) 広告集稿対策について」については、

「(2) このため、函新社は、平成9年1⽉1⽇の函館新聞発刊以来現在に⾄るまで、広告集稿活動が困難な状況にあり、低廉な広告料⾦による受注を余儀なくさせられている。」

という事実認定がなされ、

「(四) テレビコマーシャル対策について」については、

「(3) このため、函新社は、テレビ北海道を通じて函館新聞発刊に関するコマーシャル放映を⾏うことを断念するに⾄った。」

という事実が認定され、いずれも行為と函館新聞の事業活動に対する具体的影響と因果関係が認定されているのに、

「(⼀) 新聞題字対策について」では、せいぜい、

「(2) その後、道新社は、商標登録出願中の新聞題字のうち「函館新聞」を函新社が使⽤することが明らかとなったことから、平成8年5⽉7⽇ころ開催した役員会において、新聞題字については厳しく対応することを決定し、同年6⽉から平成9年1⽉までの間、計5回にわたり、函新社に対し、前記商標登録出願中の新聞題字「函館新聞」の使⽤中⽌を求めることなどを内容とする⽂書を送達した。」

というだけで、肝心の排除効果について何ら触れられていません。

これは想像するに、「新聞題字対策」については、使える名前が思いつかなくて函館新聞が困ったとか、警告を受けてびびったとか(?)、何らかの事業活動への影響が、何も認定できなかったからだと思われます。

もし函館新聞の事業活動への影響があるなら、ほかでもなく私的独占ですから、絶対に審決に書いたはずです。

つまり、「新聞題字対策」は、いわばアドバルーンにすぎず、これ自体が排除行為といえるかどうかかなり疑問であることは、当の公取委自身が一番よくわかっていた可能性があります。

ちなみにアメリカでも似たような論点があり、特許権の場合には、特許審査官をだまして取得された特許権で他社を排除するのは独占化にあたるとする事例がありますが(Walker Process claim)、商標の場合には、Antitrust Law Developments 第7版 1058頁によると、

「Courts have generally concluded that the right conveyed by a trademark, use of particular name or symbol to identify a product or service, is too insubstantial to support a claim of monopolization.」

ということで、商標は競争者を排除する効果がないので独占化は成立しないとされており、商標に関しては3件の事件でいずれも原告が敗訴しているそうです。

なので、もしアメリカで函館新聞が北海道新聞を商標の不正取得で訴えていたら、少なくとも反トラスト法違反は認められなかった可能性が高いといえます。

日本でも、「新聞題字対策」だけなら、私的独占はもちろん、取引妨害になったかも微妙ではないでしょうか。(取引妨害くらいなら認めてもいいような気はしますが。)

このあたりが日本では、「合わせ技一本」という印象的なフレーズのもと、あまり問題視もされないのが困ったものです。

(ところで、本家の柔道では「合わせ技一本」は廃止されたと思っていたのですが、復活してたのですね。)

行為のえげつなさを忘れて、冷静に客観的事実をながめれば、アメリカの裁判例に説得力があり、こういう冷静な(冷徹な?)判断がなされるところが、両当事者が主張立証を尽くして公平な裁判所が判断するという手続の利点がある(ただし、事実認定については陪審なので、法律論に限る)、といえます。

これに対して、日本の公取委の実務では、いまだに(そして恐らく永久に)違反被疑行為をみて審査官や委員の血圧がどれだけ上があったかが、違法かどうかの基準になっているのではないか、と感じています。

私は、外国人に説明するときには、これを、JFTC's blood-pressure testと言うことにしています😃

ひるがえって北海道新聞事件を見ると、排除効果が認定できない(立証できないというレベルではなく、審決書に書くことすらできない)行為まで命令の対象になっているところが、blood-pressure testが実際に生きていることを、裏から裏付けているように思います。

というわけで、ライバルが手当たり次第に商標を出願したことが排除行為とされたことで有名な同事件ですが、実は排除効果があったと認定されていないわけで、この事件をもってして独禁と知財の交錯だとか声高に叫ぶのは、少なくとも審決書を読む限り、たいへん気恥ずかしいものを感じます。

2021年3月 2日 (火)

マイクロソフト抱き合わせ事件勧告審決の「に伴い」について

標記の勧告審決(平成10年12月14日)を読んでいて気づいたのですが、この勧告審決書では、事実認定の一番最後の排除効果の認定では、

「マイクロソフト社の前記⾏為に伴い、平成7年以降、ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡⼤し、平成9年度には第1位を占めるに⾄っている。また、平成9年度には、スケジュール管理ソフトの市場において、「アウトルック」が第1位を占めるに⾄っている。」

という認定になっています。

この、「に伴い」というのは、けっこう微妙な言い回しだと思います。

というのは、他者排除に関する審決や排除措置命令では、違反者の行為を認定したあと、

「〔前記で認定した〕により

という記載になるのが圧倒的多数だからです。

「により」だと、認定した行為と排除効果との間の因果関係のことを言っているのだ、ということが明確です。

これに対して、「に伴い」というのでは、因果関係なのか相関関係なのか、はたまた偶然の一致なのか、ややあいまいです。

と申しますか、実はそのあいまいさが公取委の狙いだったのではないか、というのが私の読みです。

もしここで、

「マイクロソフト社の前記〔抱き合わせ〕⾏為により、平成7年以降、ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡⼤し、平成9年度には第1位を占めるに⾄っている。また、平成9年度には、スケジュール管理ソフトの市場において、「アウトルック」が第1位を占めるに⾄っている。」

とはっきり言っていたら、抱き合わせ行為がシェア1位になった、唯一ではなくとも、少なくとも最大の原因だ、というニュアンスが強く出てしまいます。

そうすると、読んだだけで普通の人は、「ほんとにそんなこと言えるのか?」という疑問を感じるでしょう。

抱き合わせだけじゃなくて、ワードの性能の向上とか、間接ネットワーク効果とか、エクセルと併せて使うときの使い勝手の良さとか、ほかにもいろいろシェア1位の原因はあるんではないか、という反論が、すぐに浮かびます。

かといって、因果関係の含みを持たせない、たとえば、

「マイクロソフト社の前記⾏為の後、平成7年以降、ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡⼤し、平成9年度には第1位を占めるに⾄っている。また、平成9年度には、スケジュール管理ソフトの市場において、「アウトルック」が第1位を占めるに⾄っている。」

といった表現だと、因果関係がないことがはっきり書かれてしまうことになり、公取委としては取れない選択肢でしょう。

実務では、読んだだけで疑問が浮かぶような文章はそれだけで失格ですが(それなか、書かない方がまし)、もしマイクロソフト事件で「により」という通常の表現を使っていたら、そういった、「読んだだけで疑問が浮かぶ」命令になっていたでしょう。

実は白石先生の『独禁法事例集』p113では、この「に伴い」について、

「従たる商品役務であるワープロソフトについて、ジャストシステムの『一太郎』が第1位であったのに、本件行為『に伴い』、日本MSの『ワード』が第1位になったこと(引用略)。これは、従たる商品の市場そのものに着目した情報である。

『一太郎』が市場シェアを落とした原因は他にもあるのではないか、と考える向きからは、『に伴い』という事実認定に対して批判もあろう。しかし本書は、原則として、判決や審決の事実認定を前提として、そのうえでの法律論を検討対象としている。」

と述べられています。

こういう細かくかつ的確な解釈を読むと、公取委はまさに因果関係について批判がありうるだろうことを予想して、あえて、「により」ではなく「に伴い」としているのだな、という着想が得られるとのだと思います。

私が「伴い」という表現に気がついたのは、たぶん白石先生のこの「に伴い」の論評が頭の片隅に残っていたからだろう、と思っています。

そして、白石先生も、あえて「に伴い」というように括弧書きまでして言及していることからして、「により」とはちがうニュアンスを含んでいるのだと意識されていたのだろうと推測します。

なので、この「に伴い」という表現は非常に重要で、その意味をぼーっとスルーしてはいけません。

そこで、『広辞苑』で「伴う」を調べると、

「同時に生ずる。一方があれば必ず他方がある。『権利と義務とは相ーーう』『危険をーーう』『収入にーーって支出もふえる』」

と定義されています。

「一方があれば必ず他方がある」なので、「に伴い」でも、因果関係があるという意味は、いちおうありそうです。

さらに、

「マイクロソフト社の前記⾏為に伴い、平成7年以降、ワープロソフトの市場における「ワード」の市場占拠率が拡⼤し、平成9年度には第1位を占めるに⾄っている。また、平成9年度には、スケジュール管理ソフトの市場において、「アウトルック」が第1位を占めるに⾄っている。」

というのを、DeepL翻訳で翻訳してみると、

As a result of the aforementioned actions of Microsoft Corporation, the market share of "Word" in the word processing software market has been growing since 1995, and by fiscal 1997, it was in the top position. Also, in 1997, "outlook" became the No. 1 software in the market for schedule management software.」

と翻訳されました。

つまり、「~に伴い」は、「As a result of~」(~の結果として)と翻訳されました。

日本語の「に伴い」のニュアンスよりは、因果関係の意味合いがちょっと強すぎるかなぁという感じですが、まあ、文脈からすると、これくらいが妥当な訳なんでしょうね。

でも逐語訳するなら、「に伴い」は、「accompanying」とか、あるいは、「following」とか、「in the wake of」(~に引き続いて)というほうが正確だと思われます。

「に伴い」が霞ヶ関用語なのかはわかりませんが、実務家としては、細かいところにも気を配り、公権力によるごまかしに目を光らせることが大事だと思っています。

2021年3月 1日 (月)

価格競争が大切なたった1つの(?)理由

競争には、価格やさまざまな品質(アフターサービスなども含め)による側面がある中で、価格競争が特に重要だといわれ、再販売価格拘束が原則違法とされたり、事業提携当事者間でも価格カルテルだけは特に厳しく見られる(ジェネリック医薬品のコマーケティングのケース)ことの根拠ととされたりします。

では、価格競争はなぜ大事なのでしょうか。

ひとことで言えば、他の事情が同じなら、価格は安い方が良いに決まっているからです。

(たまに、高く買ったことを自慢する人がいて、関西人の私には理解できないのですが、そういう人は合理性がない消費者として、無視します。)

なので、価格が安いことはすべての需要者層にアピールするので、極端に言えば、1円でも安ければすべての需要を獲得することも可能です。

実際、経済学のモデルでは、価格が1円でも安いほうが需要を丸取りすることを前提にすることも珍しくありません。

これに対して、品質の場合には、品質の内容によっては、その品質を高く評価する需要者もいれば、まったく評価しない需要者もありえます。

いわゆる、商品差別化です。

しかも、誰にとっても高い性能のほうが好まれるだろうという品質(たとえば、パソコンのハードディスクは大きければ大きいほどいいとか、CPUは速ければ速いほど良いとか)であっても、そういう品質の場合は、性能が高いとコストもかかるのが一般的なので、性能を高くするのにも限度があります(もちろん、技術上の限界もあります)。

あるいは、ハードディスクの容量だって、「あんまり大きいとクラッシュしたときたいへんだな」という人もいるかも知れませんし、CPUだって、「速いと電池を食いそうだから、速さはほどほどでいいな」という人もいるかもしれません。

このように、品質には品質相互間のトレードオフがあったりします(パソコンの軽さと、その他の一般的な性能のトレードオフなど)。

なので、品質競争の場合は、自ずとほどほどに落ち着くわけです。

ところが、価格競争はそういうわけにはいきません。

一言で言えば、価格競争には差別化の余地がない、ということです。

だからこそ、価格競争が活発だと、競争が激烈になるわけです。

しかも、ただ高い品質を目指すなら品質競争も激しければ激しいほどいいですが、実際には、技術上の制約や需要者の嗜好などのために、ただ高みを目指す競争よりも、差別化(ブランドイメージなども含む)が中心の品質競争になることが多いのが品質競争です。

そのような商品差別化は、消費者のさまざまな嗜好に答えて、多様な選択肢を提供するという点では好ましいと言えますが、ブランド間競争の激しさを緩和する効果もあり、はたして消費者のためになるのかは、ケースバイケースです。

これに対して価格競争の場合は、安ければ安いほど、消費者余剰は増えます。

なので価格競争が大事なのですが、それと、価格競争の保護一辺倒でいいかは、また別の話です。

公取は、価格協定があると競争への影響の立証がしやすいためか、価格競争の制限だけを、きわめて厳しく見ているように思われます。

しかし、たとえば供給量を減らす協定の場合には、経済学的な効果としては価格協定と同値なわけですから、価格協定と生産調整を区別する合理性はないはずです。

逆に言えば、たとえば事業提携の当事者間で顧客分割をすることは許されて、価格協定は許されない、というのは、どこかで理屈が破綻している可能性があり、実は、価格協定も許されるべき場合なのではないか、というところに頭が回らない可能性があります。

「価格競争が最も重要」とお題目のように唱えるだけではなく、問題の本質を考える必要があると思います。

 

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