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2021年2月

2021年2月28日 (日)

将来価格ガイドラインのパブコメを読んで

「将来の販売価格を比較対照価格とするこ重価格表示に対する執行方針(案)」に関する御意見の概要及び御意見に対する考え方

を読んで気がついたことをメモしておきます。

最初に全体的な印象としては、今回のパブコメ回答を読んで、消費者庁はパブコメに対して正面から答える姿勢があって、これはたいへんすばらしいな、と思いました。

公取委と比べると、ずいぶん消費者庁は誠実だと思います。

景表法の課徴金ガイドラインがでたときのパブコメでも、公取委の木で鼻をくくったような回答に慣れていた身からすると、「消費者庁は役所なのにずいぶんちゃんと答えるんだなぁ」と感心したものですが、今回のパブコメで、課徴金のときのも別に担当者の個性が原因だったのではなく、役所としての体質の違いなのかな、と思い始めました。

とくに、公取委の個人情報優越ガイドラインのパブコメ回答なんて、(私もパブコメ出しましたが)ほんとうにひどかったです。

どうしてこういうことになるのか考えてみると、公取委は、独禁法という重い看板を背負ってしまってる上に、過去の膨大な(中には不合理な)蓄積がある中で、必ずしも一刀両断の回答ができない事情なんかもあって、さらに回答が一般化されやすいという独禁法の性質もあり、「変な回答したら企業に揚げ足をとられる」という気持ちが強いんじゃないか、と想像します。

それに対して消費者庁は、不当表示はやめましょうという、あまり関係者に異論のでにくい(あっても、胸を張って言いにくい雰囲気のある)景表法という法律をあつかっているので、正々堂々清々しい答えができるんじゃないか、と想像します。

さて前置きが長くなりましたが本題に入りますと、p1の

「「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示」とは、各事例にあるように「O月O日からは△円になります」と将来の販売価格を明示した場合に限るのか。「当店通常販売価格○○円、10月31日まで△△円」と表示したとき、消費者は、11月1日以降は通常販売価格である○○円に戻ると認識することから、このような場合も将来の販売価格を比較対照価格とするこ重価格表示になるのではないか」

という、いかにもありそうな質問に対して、

「御指摘のような表示は、一般的には過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示と考えられますが、当該表示が行われている具体的な状況によっては、将来の販売価格を比較対照価格と暗示した二重価格表示でもあるとみられる可能性もあります。」

と回答されています。

要は、「通常」といえば、ふつうは過去の実績ある価格を指すだろう、ということです。

将来の価格なら、将来の価格とはっきり分かるように書きましょう。

そうしないと、過去の価格とみなされて、さかのぼる8週間の過半等(8週間ルール)をみたさないのでアウト、ということになってしまいます。

そもそもまだ売ってもいない将来価格を「通常価格」と呼んでいいのか、というp3で質問されていて、消費者庁は、

「本執行方針の第1に記載のとおり、商品やサービスの販売実績がない場合は、販売実績がある場合と比較して「通常価格」、「値下げ」、「プライスダウン」と表現するための確定した事実に乏しいと考えられますので、このような表現は消費者への適切な情報提供の観点から適当ではないと考えられます。」

と回答されています。

「適当ではない」というのが、悩みがよくでていますが、将来価格が「通常」だ、ということは論理的にはありうるわけで、「違反である」と言いきれないのは仕方ないのでしょうね。

p5で、将来価格を比較対照とする場合には、A過去価格が存在する場合と、B.存在しない場合があるがいずれにも本指針が適用されるのか、という質問に対して、いずれにも適用されると回答されています。これも、ひょっとしたら疑問が生じるかも知れない、大事なポイントです。

p9に、

「価格表示ガイドラインが「表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき」の例として挙げる「実際に販売することのない価格であるとき」に、「市場価格からみて相当高額であって売れそうにない」場合は含まれるか。」

という、たいへん鋭い質問がなされ、これを受けてガイドライン原案p2に、

「・・・比較対照価格とされた将来の販売価格が当該将来の販売価格での購入者がほとんど存在しないと考えられるほど高額であるなど一般的な価格ではない場合のように、比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として当該価格で販売するものであるとみられるような場合には、「比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する」とはみられないものである。」

という追記がなされました。

正面からこう聞かれたら消費者庁としてはこう答えざるを得ないだろうという、実に鋭い質問であり、消費者庁が上記追記をしたのも理解できなくはないのですが、理論的にはこれはけっこう難問です。

まず、極めて高額な将来価格(たとえば、「クリアホルダ1枚10万円」)であっても、現に比較対照として表示している以上、消費者には誤認はないのではないか、という疑問です。

これを不当表示というためには、

「その比較対照価格で購入する人がそれなりに存在するのだ(=「ほとんど存在しない」わけではない)」

と消費者が誤認したことが問題だ、といわざるをえなくなりますが、一見して極めて高額とわかる価格なら、わかっているので「誤認」はない、ということになりそうですし、一見して極めて高額とはわからない価格なら、現にその比較対照価格で販売している以上、結果的にほとんど売れなかったとしても、だからといって不当表示になるわけではない(∵表示に何も嘘はないので)と思われます。

事業者の立場からしても、これをいわれると、結果的に売れなかっただけで違反になりそうで、怖いものがあります。

ところでそもそも論ですが、私は、ガイドラインが違法か適法かの基準として採用している、

「合理的かつ確実に実施される販売計画」

というのが正しいのか、やや疑問に思っています。

というのは、「確実に実施される販売計画」であればいいのではないか、と思うのです。

せいぜい、「合理的に確実に実施される販売計画」でしょう。

販売計画の内容が合理的でないといけない理由が、正直、いまひとつわかりません。

ともあれ、極めて高額な将来価格がだめだというのは、そのような価格での販売計画は、「合理的・・・〔な〕販売計画」にあたらない、と説明することになるのでしょう。

結果的に、追加部分はガイドライン内の論理的整合性を保っているとはいえそうですが、私はそもそもなぜ「合理的」でなければならないのかよく理解できないので、やっぱり、極めて高い価格だとだめだという理由も、よく理解できません。

(この点は面白い問題なので、またゆっくり考えてみます。)

ほかにこの追加部分を正当化する理屈としては、極めて高額の比較対照価格を表示することで、その商品があたかもそれだけの価値があると消費者に誤認させるのだ、という理屈があるかも知れません。

でもこれも考えてみると、過去価格の二重価格表示の場合だって「その商品があたかもそれだけ(=過去価格)の価値がある」と消費者に誤認させるのがいけないわけで、過去価格の場合にはいくらそれが極めて高い価格であってほとんど買う人がいない場合であっても、実際にその価格で販売に供している以上は違反にはならないのに、将来価格の場合には実際に販売に供していても「極めて高額」というだけで違反になる、というのは、理屈に合わないような気がします。

というわけで、この追加部分は、鋭い質問を受けた消費者庁の背筋が伸びて、「なかなか鋭い。そのとおりだ!」と思ってしまい、それ以上の批判的検討をしなかった(しかも、一見それらしく見える指摘である上に、規制を強化する方向の追加なので抵抗感もなかった)、ということなのではないか、と思います。

なのでこの追加部分は私はまちがいだと思いますが、実務上は、あきらかに売れないと分かりながらべらぼうに高い将来価格を付けるのはやめるべきでしょう。

反対に言えば、そんなべらぼうな価格ではなくて結果的に売れなかった、というだけなら、違反にはならないというべきでしょう。

p10で、「一般的な場所とはいえない場所に商品を陳列する」場合の意味について、

「個別の事情にもよりますが、インターネット通販サイトにおいてセール価格で販売された商品が、セール期間経過後においても当該サイトで検索等を行うことにより、他の商品と同様に容易に購入可能であるようなものであれば、販売場所が一般的なものとはいえないという理由で「将来の販売価格で販売していない場合」とみられることは通常ないものと考えられます。」

と明確化されたのはよかったですね。結論も妥当だと思います。

たとえば、セール中はその商品をホームページのトップに掲載していたけれど、セール後はそのようにしなくても検索して普通に探せればOK、ということです。

p12の最後に、原案(注3)の、

「(注3)セール期間については、合理的かつ確実に実施される販売計画を有している事業者であれば、当然これを確定させており、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示の中で具体的なセールの期間や期限を示していると考えられる。したがって、事業者が、例えば「現在セール中にて300円、セール終了後は500円」といった、具体的なセールの期限を示さないで将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行っている場合には、通常、そのこと自体により、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが推認される。」

という記載が問題ではないか、終了時期を明示するかどうかは事業者の自由とすべきではないか、というコメントがあり、「推認される」が、

「・・・強く疑われることから、具体的なセールの期間や期限を示すことが望ましい。

というように変更されました。

これは、「推認される」という、立証責任を意識した法律用語から「強く疑われる」という通常の日本語になったのと、「望ましい」というマイルドな表現になったことから、原案から緩くなったような印象もありますが、パブコメ回答を読むと、必ずしもそうではありません。

この回答は今回の回答中でも一番力の入っている回答なので引用すると、終期の表示を義務づけるべきではないとのコメントに対し、まず消費者庁は、

「セール期限が事業者内で決まっており、それを変更するつもりがないにもかかわらず、明示しないとする合理的な理由はないものと考えます。

また、セール期限が事業者内で一応存在していたとしても、それが明示されていない場合は、事業者がセール期間中に当該期限を恣意的な判断により変更しても、外部の者がそのことに気付くことは通常ないため、セール期限が明示されている場合と比較して、当初の販売計画をそのとおりに実施するよう事業者が自らを規律する仕組みが不十分になると言わざるを得ません。」

と述べています。

ここでいっていることは、まことにごもっともです。

その上で消費者庁は、

「そのため、セール期限が事業者内で存在していても、それが消費者に明示されていない場合は、当該期限のとおりセールが終了し、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売が行われることを確実に担保する他の仕組みが存在すれば格別、一般的には、合理的かつ確実に実施される販売計画であると認められるための重要な要素を欠いている疑いが強いと考えられますので、この点がより明確になるよう以下のとおり修正しました。」

と言っているのです。

つまり、だめであることをよりはっきりさせた、ということです。

というわけで、原案から緩くなったというよりも、むしろ厳しくした、というのが消費者庁の意図のように思われます。

少なくとも、

「実際に終了時期は決めていないのだから、終了時期を表示しなくても事実と異なることはなく、不当表示とはならない。」

という主張は、「合理的かつ確実に実施される販売計画」の要件をみたさないので認められなさそうです。

もし終了時期を表示しない場合でも、内部的にはいつセールを終わらせるかは決定しておく必要があり、実際に、その時期に終了させる必要があるでしょう。

そうだとすると、事業者にとっても、終了時期を表示しないことのメリットというのがあまりなく(通常は、終了時期を明示したほうが煽る効果が生じやすい)、表示しないとそれだけで消費者庁から「強く」疑われるリスクがあることをふまえると、今後は、終了時期を明示しない将来価格の二重価格表示というのは、基本的に行われなくなるでしょう。

p19に、

「第2の2(2)イ(ア)にある「将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在すると認められる事例」のA、B、D、E、F及び同(イ)の「将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在するとは認められない事例」のIは、セール期間終了後に予告していた価格での販売自体をしなかった事例」

についてのコメントがあります。

たとえば、Iの事例というのは、

「I通信販売業者が、「エアコン ただ今限りのセール特価38,000円 8月以降48,000円」との表示を5月から開始していたところ、セール開始後の気温上昇による一般的な需要増の結果、売行きが増加して在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかったため、セール期間経過後の8月以降にエアコンを販売しなかったとき。」

というのが、「通常、将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在するとは認められない」例としてあげられている、というものです。

私は、ここはパブコメのコメントのほうが正しくて、ガイドラインはまちがっていると思います。

というのは、

「エアコン ただ今限りのセール特価38,000円 8月以降48,000円」

がなぜ不当表示になりうるのかといえば、8月以降48,000円で販売されるからではなく、特価の38,000円では購入できなくなるからでしょう。

今ならお得だと思うからかったのに、別にお得でなかった、というわけで不当表示になるのです。

なので、「8月以降は48,000円になるんだ」と消費者に思わせておいて、たとえば実際には8月以降は10万円で売ったら、セール中に38,000円で買った消費者は、思っていた(8月以降は48,000円)よりも実はもっとお得だったと感じる(∵8月以降は10万円に値上がりしたので)のではないでしょうか?

そう考えると、8月以降に「販売しなかった」というのは、理屈の上では、8月以降は∞円で販売に供した、というのと同じですから、10万円で売ったのと同様、不当表示にはならないと思うのです。

もしこの事例が、実はもともと8月以降売る気がなかった、という事例なら、あるいは不当表示とするのにも合理性があるかもしれません。

ちょっと似たような事例で、ジュピターショップチャンネル株式会社に対する件(H31.3.29)で、テレビショッピングで「明日以降」の比較対照価格を表示していた場合に、

「実際には、本件2商品の各商品がセール企画終了後に販売される期間は2日間又は3日間のみであって、ごく短期間のみ「明日以降」と称する価額で販売するにすぎず、当該価額での販売実績もジュピターショップチャンネルにおいて実質的に問われないものであって、将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められない。」

ということで不当表示になったことがありました。

これは2日とか3日という短期間であったというのが本質ではなく、仮に1か月販売していても本気で売る気がなかった場合は「販売実績も・・・実質的に問われない」ということでアウトだった可能性があります。

こういう例ならわかるのですが、ガイドラインのIのエアコンの例は、

「売行きが増加して在庫が売り切れたが、追加仕入れをしなかった」

ということなので、はじめから売る気がなかったわけではなさそうです(むしろセール中売れ行きが増加しなければセール後も売っていたであろうことをうかがわせる)。

もしこういう、表示した比較対照価格より高く売る(∞円で売るのを含む)ことを不当表示だと言い出すと、たとえば期間限定セールを延長した場合だけでなく、予定期限よりも早く終わらせた場合や、閉店セールを予定期限よりも早く終了した場合にまで不当表示になりかねず、影響が大きすぎます。

たしかに、期間限定セールを予告より早く終わらせると、「まだ間に合う」と思っていた消費者が買い損ねて(あるいは予定より高く買わされて)不利益を受ける、ということはあるかもしれませんが、二重価格表示はお得だと思わせて実はお得ではないというのがいけないのであって、こういう場合はなにも誤認していません。

なぜなら、取引時点では二重価格表示をそもそもしていないからです。

このような誤認は、「以前の表示を信じて購入しようとしたら、現在はその条件で購入できなかった」というだけであり、購入時点での「お得と思わせてお得でなかった」という誤認はないのです。

なので、ガイドラインの例は、売ると言った以上は売るべきだ、という意味では理解できますが、やはり、不当な二重価格表示として処理するのは無理があると思います。

p24に、2週間だけ売ったら値下げしてもいいのか、という質問がたくさん寄せられていますが、これに対して消費者庁は、

「一般的には、セール自体の期間にかかわらず、比較対照価格とされた将来の販売価格での販売が2週間以上継続されれば「ごく短期間」であったとは考えられませんが、本執行方針第2の1に記載のとおり、合理的かつ確実に実施される販売計画を有しているかどうかが問われることになります。将来の販売価格は、将来における需給状況等の不確定な事情に応じて変動し得るものですので、長期間のセールを実施した後に、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができるかどうかの検討が必要となります。

なお、長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、そのことが消費者にも認識され、将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、当該将来の販売価格での販売が「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として」行われているとみられる可能性があることに注意する必要があります。

と回答しています。

ここで、

比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として

というのは、ガイドラインp7の、

「・・・比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がごく短期間であったか否かは、そもそも当該将来の販売価格での販売が、比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として行われていたものではないかなどにも留意しつつ、具体的な事例に照らして個別に判断されるが、一般的には、事業者が、セール期間経過後直ちに比較対照価格とされた将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えられない(注6)。」

にありますね。

つまり、2週間売れば、「一般的には」大丈夫だけれど、長期のセールをやって、2週間だけ値上げして、また長期のセールをやって、2週間だけ値上げして、ということを繰り返していると、さすがにだめだと言うことでしょう。

2週間というのだけみると結構短いなあ(こんなのでいいんだ)、と思われた方も多いと思いますが、やっぱり度が過ぎるとだめだということですね。

2021年2月27日 (土)

「○○比2倍」という表現について

景表法上問題ないかとの質問をよく受ける表示のパターンの1つに、たとえば、

「新製品は有効成分が当社従来品の2倍入っています」

みたいな表現が問題ないと言えるためにはどのような条件をみたす必要があるのか、という質問があります。

製品誤差がないと仮定するなら話は簡単で、たとえば旧製品に有効成分が100ミリリットルあたり1グラム入っていたなら、新製品には2グラム以上入っていればよい、ということになります。

ところが実際には製品ごとに誤差がありうるわけで、これだけの事実では単純に2倍といえないことのほうが普通です。

一番単純に考えれば、平均だけを比べて、たとえば旧製品の有効成分が100ミリリットルあたり平均1グラム入っている場合には、新製品に2グラム以上入っていればいい、ということになりますが、製造誤差を考えると、平均だけを比べるというのは乱暴すぎます。

やはり、誤差(分散ないし標準偏差)を考慮して2倍といえるかどうかを判断すべきでしょう。

極端な場合、仮に旧製品から新製品で平均が2倍になっても、標準偏差も2倍になっていたら、平均が2倍になったというだけでは新製品のなかに旧製品の平均にも満たない成分しか含まれない製品がけっこうな数ある、ということが起こりかねません。

(このあたりは、正規分布のグラフを思い浮かべながら読んでいただければと思います。)

次に、標準偏差を考慮すべきとして、では信頼区間を1σでみるのか、2σでみるのか(σは標準偏差)、という問題があります。

(σの簡単な説明はこちらをどうぞ。)

このあたりは、消費者が「2倍」という表現をみてどの程度の期待をするのか、ということで決まるので、一概には言いづらいところです。

少なくとも、「雑貨なんだから1σでいいんじゃないか」とか、「人命にかかわりうる製品なので3σでなきゃいけない」というような、品質の誤差としてどれくらの幅まで許されるか、ということとは直接関係がありません。

(ただ、いかにも精度が高そうな商品の場合には、結果的に、消費者の期待値も上がる結果、誤差を厳しめに見ないといけない、ということはあるかもしれません。)

なので、決まったルールはないと言わざるを得ないのですが、

1σ 区間におさまる確率→ 約 68.27%

2σ 区間におさまる確率→ 約 95.45%

ということからいえるのは、1σでみると、信頼区間の下端(有効成分の下限)よりも少ない製品が全体の約15.9%(=(1ー0.6827)÷2)もあるので、それはちょっと多すぎるんじゃないかな、という印象を受けます。

これに対して2σなら、信頼区間の下端を下回る製品は全体の約2.3%(=(1ー0.9545)÷2)なので、まあこれくらいだったらいいか、という感じがします。

別に1σか2σでなきゃいけないという理由もなく、1.5σでも1.7621σでもなんでもいいのですが、とりあえず統計学でなじみがあるので、2σなら消費者庁にも文句をいわれないだろう、ということで、2σにしておきます。

以上を踏まえて、では、「2倍」という表現をするためには、どのような条件をみたせばいいのかというと、究極的には、

①新製品の信頼区間下端(μー2σ)の数値(有効成分量)が、旧製品の信頼区間下端の数値の2倍以上であること、

②新製品の平均値が、旧製品の平均値の2倍以上であること、

の2つの条件をみたせば良いと思います。

①だけでもいいかな、と少し思ったのですが、新製品の標準偏差が旧製品の標準偏差よりずっと小さくなった場合(正規分布の釣り鐘型がとんがった形になった場合)を考えてみると、①だけだと、新製品の中で旧製品を下回る有効成分を下回るものが大量に出てきそうなので、やっぱり平均値2倍(②)は外せないと思います。

これに対して、もし旧製品と新製品で標準偏差が同じであるなら(ないしはそのように合理的に仮定できるなら)、単純に平均値が2倍以上になっていればよいと思います。

中にはすごく厳しい見方をする人もいるみたいで、そういう人は、

③「新製品の95%信頼区間の下限が、旧製品の95%信頼区間の上限を上回っている必要がある」(釣り鐘の信頼区間の部分は重なってはいけない)

とおっしゃるのですが、個人的には、少なくとも理屈の上ではそこまで厳しいことを言わなくてもいいんではないか、と思っています。

ですがこれも具体的な場面で考えてみると、もし上の①②をみたしていながら③をみたさない場合があるとすると、それは標準偏差がかなり大きい商品です。

そういう商品で、そもそも「2倍」というような数字を示すこと自体が妥当なのか、という問題は、大いにあると思います。

なので、「2倍」というような、数値で比較した情報を広告に使う場合には、そもそもの前提として、品質のばらつきが小さい製品に限って使う、ということが必要でしょう。

2021年2月13日 (土)

作用機序の虚偽表示と不当表示

健康食品や健康器具などで、表示したとおりの効果がない場合には、優良誤認になるのは当然です。

では、表示どおりの効果はあるけれど、その効果の発生のメカニズム(機序)について、事実と異なった表示をしていた場合、不当表示になるでしょうか。

私は、そういうのも不当表示になりうると考えています。

ただ結論だけ、「○○に効く」という結論を述べただけでは説得力が弱いときに、「○○が放出する××が身体の△△に作用して効く」という作用機序まで表示されると、効きそうな気がする、というのが消費者の心理だと思います。

少なくとも、結論だけ表示している事業者と、作用機序まで具体的に表示している事業者がいる場合、後者のほうがお客さんにアピールしてよく売れそうです。

もし作用機序がよくわかっていない商品についてこういう表示がなされているのを放置したら、やっぱり消費者の合理的な選択を阻害していることになると思います。

景表法においては、客観的な品質や性能というのは意味がない、とは言いませんが、それよりも、その商品が良さそうに見えるかどうか、ということが大事だったりします。

たとえば、「有名人の○○が愛用している」と表示していたのに実際には愛用していなかった、という場合には、それだけで不当表示になりえます。

むかし、「炭火焙煎コーヒー」と表示しながら、実はガス焙煎していた、という事件がありましたが、そこでは、炭火焙煎とガス焙煎のどちらがおいしいかということは問題にされず、消費者の目からみてどちらのほうがよりよいものに見えるか、ということが重視されます。

わたしが以前かかわった消費者庁の調査案件でも、事業者が「江戸時代から伝わる伝統の製法」みたいな表示をしていたところ、消費者庁から、実際にそのような製法で作っているのか、その製法は江戸自体から続いているのか、といったようなたぐいの質問を受けました。

世の中には、論者によっては「えせ科学」呼ばわりするけれど、世の中では比較的幅広く受け入れられている商品というのが、あんがいあります。

そういう場合には特に作用機序を具体的に書きたくなるわけですが、いまだ仮説にすぎないものをさも真実であるかのように表示することは、やはり問題だと思います。

こういうのをはじめとして、不当表示の事件が争いになると当事者からは、「このような表示は消費者の選択に影響を及ぼさない」という反論がよく事業者側からなされるのですが、常識的に考えて、「では、どうしてそういう表示をしたの? 売れると思ったからじゃないの?」という疑問がただちに湧きます。

そして、それが裁判官の通常の感覚だと思います。

なので、よほどその表示がたんなるミスだったという事情でもないかぎり、消費者の購買意欲に影響があると考えたからその表示をしていたのだろうという推定をくつがえすのは難しいといえます。

そのようなこともあり、結果的に効果があるならその作用機序の表示は虚偽でもよい、とはなかなかいえないと思います。

2021年2月 8日 (月)

JAROでの西川表示対策課長の講演について

2020年12月号のReport JARO(JAROの会員誌)に、消費者庁表示対策課の西川課長の講演録が載っており、その冒頭で西川課長は、

「しかし、重要なのは措置命令の件数や課徴金の金額を増やすことではなく、表示適正化の意識をいかに広めていくかということです。

行政が動く前に、自発的に正しい表示が行われている状態こそが本来あるべき姿です。

社会全体にそうした意識を広げるために、今後は景品表示法の抜け道ばかり探すような悪質事業者に対しては厳しく、他方、適性表示に真剣に取り組む事業者の方々とは、互いに協力していくというメリハリのある運用を行っていきたいと思います。」

と発言されています。

これは非常に大切なメッセージだと思います。

とくに、

「適性表示に真剣に取り組む事業者の方々とは、互いに協力していく」

という部分は、事業者がミスで不当表示をしてしまった場合にはすみやかに対応すれば措置命令は出さない、というように私には読めます。

というのは、前の課長さんのときは、不当表示を見つけ次第消費者庁に自主申告したら措置命令を受けたという事案が相次いだので、私も依頼者には、

「もし不当表示が見つかっても、消費者庁に申告したりしたら措置命令受けるから、自主申告なんかしないで、こっそり表示なおしたほうがいいですよ。」

とアドバイスせざるを得ませんでした。

独禁法の課徴金制度をコピペしたために、景表法でも、措置命令を出すときには課徴金が義務的に課されることになったのが消費者庁の運用に心理的に影響していたのかも知れませんし、なにより、自主申告して課徴金を半額にするという制度が正式に導入されてしまったために、正式な制度で半額なのに任意の措置(注意)でゼロにまで落とすわけにいかない(?)という発想がはたらいてしまっているのかもしれません。

といったような事情は推測できるものの、いずれにせよ、大して重い違反でもなく、どちらかというとうっかりミスみたいな不当表示で、たいした性能上の問題もなく、違反が見つかったらすぐに対応して、希望する購入者には返金にも応じているのに、消費者庁に報告に行ったら措置命令と課徴金を受ける、というのでは、申告するインセンティブがなくなってしまいます。

もちろん、前の課長さんの時代にも、自主申告してきたのに対して注意ですませたという事件が、実はたくさんあったのかもしれません。(外から見ているだけなのでわかりませんが。)

でもやっぱり、「こんなうっかりミスみたいな事件でも申告したら措置命令なのか?」と驚くような事件が続いたのは事実ですから、この運用を変えるというのは重要なメッセージだと思います。

過去の例は残るので、課長さんが変わってこういうメッセージを出したからといって、どれだけの企業が行動を変えるのかは未知数ですが、少なくとも弁護士としては、消費者庁に申告してけじめを付けるかどうか迷っている依頼者に対して、前向きなアドバイスをできる材料がいただけたな、と思います。

少なくとも、

①こっそり不当表示をなおしてあとで消費者庁にみつかって措置命令を受けるリスクと、

②最初から消費者庁に申告することで措置命令を受けてしまうリスクと

を比較するときには、後者のリスクが下がれば下がるほど(最初から申告すれば注意ですむ可能性が高まるほど)、最初から申告しようという気になるのはまちがいないと思われます。

それから、毎年出ている景表法運用に関する報告書(「○○年度における景品表示法の運用状況及び表示等の適正化への取組」)では、注意の事例も対象企業の名前を伏せて公表されていますが、その中に、「事業者から自主申告があったので注意にとどめた」みたいなことを書いていただくと、一層よろしいのではないかと思います。

2021年2月 6日 (土)

平成14年6月28日北海道電力長期契約警告事件について

北海道電力が、長期契約の相手方に対して、

①途中解約した場合等には、既に適用した長期契約割引額の返還に加え、契約残存期間における契約保証電力に係る基本料金の20%に相当する額等を支払うことを義務づけ、

②これらの支払について、事業撤退等による契約解消の場合等は対象外とし、同社から新規参入者に契約先を切り替えた場合等には支払を求めることとしている、

という疑いがあったので警告をした、という事件が昔ありました。

この事件について白石先生の『独禁法事例集』p160では、他者排除で重要なのは排除条件に従う相手方がどれほどの割合に達するかなので、「②の事実は本件とは直接の関係を持たないはずだ、ということがわかる。」と指摘されています。

いつもながら、公取の論理の破綻を一言で撃ち抜く、居合抜きのような凄味を感じますが、では、なぜ公取委は②を問題視したのでしょうか。

想像するに、他社に乗り換える顧客を狙い撃ちにして違約金を取ったのが悪質だ、と言いたかったのだろうと思われます。

あるいは、排除の意思が明確だ、と言いたかったのかもしれません。

でもいずれも②を問題視する理由にはならず、的外れです。

狙い撃ちかどうかについては、白石先生も指摘されているとおり、

「事業から撤退する大口需要家は、いずれにしても電力を買わないわけであって、その者に対して北海道電力が違約金を免除しようがどうしようが、撤退しない大口需要家の取引判断には影響がないはず」

であり、排除効果とは関係がありません。

では、北海道電力はどうして②の扱いをしていたのでしょうか。

もし、②の扱いも長期契約の契約書に書いてあったなら、北海道電力が②の条項を入れる理由は簡単で、

「新規参入者に乗り換えるつもりはない(あるいは、わからない)けれど、事業撤退はありえない話ではないので、そのような場合にまで高額の違約金を取られるくらいなら、新規参入者と契約しよう」

と考える需要家が新規参入者に流れてしまうことを防ぐためでしょう。

そうだとすると、②は、できるだけ幅広い需要家にこの長期契約を受けれてもらうための条項ということになり、排除効果と関係がなくはありません。

ただ、公取はそんな発想はまったくなかったでしょう。

というのは、こういう発想(排他契約の契約率を上げる効果があるという発想)を持って②を問題視していたのなら、まさに排他契約の実際の契約率がどれくらいであったのかが重要なはずなのに、契約率については警告文はなにも述べていないからです。

手段(=違約金というハードルを下げること)についてだけ述べて、目的(=契約率を上げること)については述べない、なんていうことは、普通はないでしょう。

そして、需要家が新規参入者に乗り換えるかどうかは、将来の電気代次第です。

つまり、契約時点の電気料金では、そんなに北電と新電力の差がないので多少高くても安心できる北電を選ぶけれども、どんどん新電力が値下げしてきたら、その時点で乗り換えて支払わなければならない違約金と、乗り換えることで節約できる電気代の差額とを天秤にかけて、乗り換えるかどうかを決めるわけです。

この、実際に乗り換えるかどうかを決める時点での意思決定については、事業撤退する顧客から違約金を北電が取ろうと取るまいと、事業撤退せず乗り換えるつもりの顧客の意思決定には関係がありません。

でも、最初に北電と長期契約を結ぼうかどうか新電力と契約しようかを選択する時点では、②の扱いは、撤退するつもりのない顧客の意思決定にも大いに影響します(撤退するつもりはなくても、撤退せざるを得ないことはありうるので)。

排他契約の評価においては、いざ乗り換えるかどうかの意思決定にどう影響をあたえるか(契約後の、事後的な評価)よりも、契約する前の意思決定(事前の評価)のほうが、ずっと大事です。

もし将来が見通せて(不確実性がなくて)、意思決定者が合理的に判断できるなら、事前の評価だけが意味を持つ、といってもいいくらいです。

そして、事前の評価だけが意味を持つなら、契約をする前の段階では、需要家は北電と契約しようか新電力と契約しようか自由に選べるわけですから、なんら競争を阻害していない、というのが理屈の上では正しいといえます。

ただ、電力の場合には、津波で原発が止まったりとか、中東で戦争が起きたりとか、政府が突然カーボンニュートラルを言い出したりとか、将来の電気代なんてどうなるか分かりませんから、事前の評価だけでは割り切れない、というだけなのではないかと思います。

逆に言うと、将来が完全に見通せているような契約の場合には、契約時点で納得の上で双方合意したなら、高額の違約金であっても排除効果はない、ということも、いくらでもありうると思います。(もちろん、排除効果はある、というモデルもポストシカゴ学派からたくさん出ていますから、排除効果があるということもありえます。)

以上が、②の扱いが長期契約書に書いてあった場合の説明です。

ところが、公取の発表文は上記②のとおりで、はたして②の扱いが、契約の明文でさだめられていたものなのか、それとも、契約上はそのような扱いをすることは明記されていなかったけれども、撤退の場合は違約金を事実上請求しないという扱いをしていただけなのかが、はっきりしません。

むしろ、

「②これらの支払について、事業撤退等による契約解消の場合等は対象外とし、同社から新規参入者に契約先を切り替えた場合等には支払を求めることとしている

なんていう、いかにも事実上の扱いであることをにおわせる書きぶりにしているのと、①の中の「同契約において」は、①の中にあること(「同契約において」は、①だけにかかり、②にはかからないこと)からすると、契約書上は撤退でも違約金は取れる条文にしておきながら、実際の運用で撤退者からは違約金は取らないという扱いにしていたんじゃないか、と推測されます。

白石先生の、

「事業から撤退する大口需要家は、いずれにしても電力を買わないわけであって、その者に対して北海道電力が違約金を免除しようがどうしようが、撤退しない大口需要家の取引判断には影響がないはずである。」

という解説(p160)も、きっと②は事実上の取り扱いにすぎないものであったことを想定されているのだと思います。

このように、もし②が事実上の取り扱いに過ぎないなら、たしかに、②は排除効果とは何の関係もないはず。

もし関係があるとすれば、②の扱いが噂で需要者の間にも広まっていて、②の扱いがなければ新電力と契約していた需要家が、②の扱いがあったために北電と契約した、という機序でしょうけれど、公取にはそんな発想はまったくなかったでしょうね。

公取の命令や警告に限りませんが、自分の意見と違う意見を批判、評価するときって、同じ土俵にひとまず下りていかないと、議論がぜんぜんかみ合わないことがあります。

この警告事案についても、契約の明文かどうか、事前評価か事後評価か、不確実性はあるのか、などさまざまな切り口がありうる中で、他者排除における②の意味という、一点突破で問題点をあぶり出したのが、白石先生の解説なのだと思います。

いつもながら、とても勉強になりました。

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