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2020年9月14日 (月)

ブラックリストの作成と独禁法

事業者団体ガイドライン9-8(顧客の信用状態に関する情報の収集・提供)には、「原則として違反とならない行為」として、

「○ 構成事業者の取引の安全を確保するため、顧客の信用状態について客観的な事実に関する情報を収集し、構成事業者に提供すること

(構成事業者間に特定の事業者と取引しないこと又は特定の事業者とのみ取引することについての合意を生ぜしめるようなことのないものに限る(注)。)。

(注) 例えば、特定の事業者を不良業者又は優良業者として掲載したリスト(いわゆるブラックリスト等)を作成し、配布することは、このような合意を生ぜしめるおそれがある。」

とさだめられています。

これを素直に読むと、事業者団体や競争者間で代金不払いなどのある不良顧客をブラックリストにのせて共有することは独禁法違反である、というように読めます。

じっさい、岩本章吾編著『事業者団体の活動に関する新・独禁法ガイドライン』p168では、

「参考例9-8は、その(注)において、どのような場合にそのようなボイコット的合意が生じやすいかを例示しており、その一つとして、いわゆるブラックリスト(不良業者リスト)やホワイトリスト(優良業者リスト)を作成して配布するような場合が挙げられている。

こうしたリストを作成・配布することは、共同ボイコットに直結しやすく、極めて危険であることから、事業者団体においては十分な注意が必要である。」

と、事業者団体によるブラックリストの作成に対してきわめて否定的な説明がなされています。

しかし、実際の公取委の運用はそこまできびしいことは言っていません。

というのは、公正取引365号29頁では、外国のバイヤーに変換条件付きで無償貸与している輸出商品に付随する運送用具の回収を確保するために、用具を変換しないバイヤーに関する情報を会員から収集して公表するとともに、以後当該バイヤーと取引するときには運送用具の代金相当額を徴収する旨の申し合わせをしていいか、との質問に対して、公正取引委員会事務局経済部団体課の回答として、

「無償貸与する運送用具の返還に関する申合わせ事項は、繊維品を輸出する際の取引条件の一つであり、活動指針6-3の『営業の種類、内容又は方法を制限すること』に該当するかどうか議論のあるところであるが、これは当然に返還すべき運送用具を変換しないといういわば取引の前提条件としてのルール違反に関する問題でもあり、輸出業者間における市場の状況に基本的な変化をもたらすものではなく、問題はないと言える。」

「返還条件付で無償貸与している輸出商品に付随する運送用具を適切に返還してこないバイヤーについて、バイヤー名を公表することは、活動指針7-7の『ブラックリスト等の作成』に該当するかどうか議論のあるところであるが、これは当然返還すべきものを返還しない業者のリストを公表するもので、取引の安全を確保するための経営上必要とされる顧客の信用状態に関する情報を提供するものであり、基本的には問題がないといえる。」

と回答されています。

これ自体は旧ガイドラインのもとでの回答ですが、現行ガイドラインも同じ内容なので、同じ回答が妥当すると考えられます。

この回答はとても常識にかなった内容であり、異論はないところでしょう。

それに対して、ガイドラインの、ブラックリストが特定業者と取引しない合意を生じさせるという評価自体が、事実認識としてどうかと思います。

というのは、そういうリストに載っていても、たとえば物の売買契約なら前金で取引するとか、いくらでも取引する方法はあるのであって、取引しない合意を必然的に生じさせるとは思われないからです。

それよりも、そういう不届きな取引先がいるかもしれない(とくに上記相談事例のような外国の事業者)という懸念のために取引ができなくなる事業者もいるであろうことを考えると、このような取り組みは、むしろ情報の非対称性を解消することによって取引の成立を促進することで競争上も望ましいといえます。

事業者団体ガイドラインは、ブラックリストが持つこのような競争促進効果をまったく考慮していない点で、そもそも妥当ではありません。

きっと、「ブラックリスト」という言葉の否定的な響きが、このようなガイドラインになったのだと想像されます。

(この点、流通取引慣行ガイドラインで「パトロール」「価格監視」といった、否定的な響きが使われているのも、インターネットの時代になってネットで価格を閲覧できるようになると、「『パトロール』といっても、ネット閲覧と何が違うの?」という当然の疑問にたどり着くわけで、言葉の響きではなく論理で読む者を説得できなければならないと思います。)

なので、現行の事業者団体ガイドラインに改正するときも、上記回答に沿った改正をすべきだったのですが、そのまま残ってしまいました。

ですが、ガイドラインに書いてあることと実際の運用がここまで違うと混乱のもとなので、きちんとガイドラインを改正したほうがいいと思います。

ただ、実際にブラックリストを作るときには、客観的な内容になるように注意すべきでしょうね。

たとえば、下請事業者の団体が、「買いたたきをする親事業者のリスト」みたいなものを作成するとしたら、何が買いたたきなのかについては主観が大いに入りうることを考えると、ちょっと問題だと思います。

上記の相談事例も、無償で借りた物を返すという、義務としては客観的に明確なものだからこそ、問題ないと回答されたのだろうと思われます。

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