#「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」に反対します。
本日(2020年9月2日)公表された掲題の報告書p150に、
「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」
という記載があります。
しかし、わたしはこれに反対です。
もう少し前から引用すると、
「年中無休・24時間営業を行うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統一イメージを確保する等の目的で行われており,加盟者募集の段階で十分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁止法上問題となるわけではない。
しかしながら,本部が,加盟者の募集に当たり,年中無休・24時間営業に関する重要な事項について,十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。
また,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」
という文脈での記述です。
同時に公表されたスライド「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(概要)」17枚目では、24時間営業について「従来から示してきた考え」は、
「年中無休・24時間営業を⾏うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統⼀したイメージを確保する等の⽬的で⾏われており,加盟者募集の段階で⼗分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁⽌法上問題となるものではない」
という考え方であったとみとめたうえで、「今回の調査結果を踏まえた考え⽅」として、
「しかしながら,今回調査した8チェーンにおいては,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移⾏が認められているところ,そのような形になっているにもかかわらず,本部がその地位を利⽤して協議を⼀⽅的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には,優越的地位の濫⽤に該当し得る。」
というように、今回解釈を変更したのだ、というように明記されています。
これって、あまりにもひどいと思います。
勝手に解釈変更するなんて、集団的自衛権が合憲だと閣議決定したり、検察庁法の定年の規定よりも国家公務員法の定年の規定が優先すると解釈変更した安倍内閣のやりかたと同じです。
これでは法治国家とはいえません。
百歩譲って、従来からの解釈変更をするならその理由を述べるべきですが、報告書を読んでもその説明はありません。
たしかに報告書をみると、コンビニ本部側にも「これはいかんなぁ」と思えるところはあります。
それは、契約前の説明で、休みを取れるかのような説明をしているのがうかがわれる点です。
(ひょっとしたら、これをあきらかにしたことが今回の報告書の一番の成果かもしれません。)
具体的には、報告書p114以下に、コンビニ本部が勧誘時に示すQ&Aの例として、
「Q コンビニエンスストア経営を始めると,365日休めないのではないかと心配です。
A 多くの加盟店は,信頼できるストアスタッフに店頭業務や発注業務をまかせることにより,定期的に休暇をとっていらっしゃいます。」
というのがあったりして、そのあとにp183あたりに出てくる本部の支援制度に対する店舗のアンケート回答として、
「・3 年前に父が亡くなったときに本部にお願いしたが〔支援制度の利用を〕断られた」
「・子供が亡くなったときに申請して〔支援制度を〕使うことができなかった」
などの回答例とあわせてみると、これはそもそも加盟時の説明に問題があったのではないか?という気にさせられます。
そのほかにも、娘の結婚式に出られなかったとかいう話も出ていたりして、コンビニというのは事業者といいながら経営の独立性はないのだなぁと、いちおう同じ個人事業者の身として思わざるをえません。
ですが、だからといってこれが優越的地位の濫用になるのかというと、話は別です。
まず、上記に引用したQ&Aの例がいちばん危なそうですが、それでも、仮に成立するとしたら欺まん的顧客誘引でしょう。
そして、欺まん的顧客誘引については、先に報告書の該当部分を引用したとおり、
「本部が,加盟者の募集に当たり,年中無休・24時間営業に関する重要な事項について,十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。」
とされています。
先に引用したQ&Aが最も危なそうですが、それでも「虚偽若しくは誇大な開示」といえるほどのものかというと、たぶんいえないでしょう。
というわけで、やるとしたら欺まん的顧客誘引なのですが、実際の例ではこれで違反とするにはどうしてもたりないわけです。
そこで優越的地位の濫用が登場するわけですが、そこでの報告書の論理はめちゃくちゃです。
問題の箇所は、
「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,
本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,
加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には
優越的地位の濫用に該当し得る。」
といっています。
ここで違反になる要件の中心は、
「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっている」
という部分です。
つまり、合意があれば時短営業できること、です。
でも、これって、民法上あたりまえのことをいっているだけなので、論理的には、特別に「合意すれば時短営業に移行できる」というような条項がフランチャイズ契約書になくても、この「合意があれば時短営業できる」の要件はみたすことになります。
ということは、この要件は、本部が悪質である(約束を破った)かのような印象をあたえる意味はあるかもしれませんが、論理的には、まったく絞りになっていません。
次に、報告書は、「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し」というのがいけない、といっていますが、
「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し・・・」
といっていることからすると、合意すれば時短営業できることになっていることが、協議義務を発生させる、と考えているように読めます。
しかし、これも契約の解釈としてむちゃでしょう。
前述のとおり、合意すれば時短営業できるために、その旨の特別な条項はいりませんが、説明のわかりやすさのために、
「本部と店舗が合意した場合には、店舗は時短営業をすることができる。」
という条項があったとしましょう。
でもこの条項からいえるのは、文字どおり、「合意すれば時短営業できる」ということだけです。
この条項から、協議義務など出てくるわけがありません。
なので報告書のこの部分は、優越劣後関係にある当事者間では、劣後側が協議を申し入れれば、これに応じなければならない、応じないと優越的地位の濫用になる、ということをいっているわけです。
でも、そんなことが一般的にいえるわけがありませんし、公取委も、今までそんなことは一言もいっていないと思います。
たとえば、
「店舗が時短営業の希望を申し入れた場合には、本部はこれに対して誠実に協議するものとする。」
という条項でもあれば、協議義務が発生するでしょう。
でも報告書が協議義務発生の前提として要求しているのは、合意すれば時短営業に移行できること、だけなので、このような誠実協議義務をさだめた条項はなくても、協議義務が発生する、と解釈していることになります。
これは、労働組合法の団交に応じる義務のようなものを、法律もなく発生させているのと同じ、といえます。
さらに、ほんらいであれば、誠実交渉義務は、誠実に交渉すれば果たされるはずです(あたりまえです)。
誠実に交渉しなければならないからといって、相手方の要求をのまなければならないわけではありません。(団交も同じです。)
なので、報告書の、
「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,
加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には」
の「不当に不利益を与える」の意味は、誠実に交渉しないという不利益をあたえる、という意味になるはずです。
でもたぶん、報告書がいいたいのはそういうことではなく、誠実に交渉に応じなかったら、24時間営業の強要が濫用になる、ということでしょう。
つまり、「不当に不利益を与える」というのは「24時間営業を強要する」ということを意味しているのです。
これはあきらかに論理の飛躍でしょう。
別の言い方をすれば、誠実に交渉する義務に違反した本部に排除措置命令を出すとしたら、「誠実に交渉せよ」という主文になるはずであり、「24時間営業を余儀なくさせてはならない」という主文にはならないはずです。
公取委は昔から、濫用にあたるかどうかを判断するにあたって交渉経緯が重要だ、ということをくりかえしいっていますが、報告書の記載はこれとはぜんぜん違います。
つまり、交渉経緯が重要だ、という場合には、交渉経緯は濫用の一考慮要素にすぎないのであって、誠実に交渉したから即OKだとか、しなかったから一発アウトだとかいうことはいっていません。
ところが今回の報告書は、あきらかに、協議を一方的に拒絶すると即アウト、つまり、協議を拒絶することが濫用成立の十分条件であるかのような記載になっているのです。
もちろん、論理的には、協議を一方的に拒絶し、かつ、不当に不利益をあたえる場合に濫用になるのだ、とよむほうが正しいですが、報告書がそのような論理的思考でこの部分を書いているとはとうてい思えません。(つまり、交渉拒絶、即アウト)
さらに根本的に問題なのは、報告書が、24時間営業強制の不利益行為性という実体的な不当性の問題を、交渉拒否という手続的な不当性の問題にすりかえていることです。
ほんとうは、24時間営業の強制が不当だ(つまり、24時間営業の強要は「不当に不利益」を与えることになるのだ)というべきところを、そうはいえないので、交渉拒否するのが不当だと、議論をすりかえているのです。
(ちなみに、24時間営業の強制が濫用にあたらないことについては、以前このブログで書きましたし、日経新聞にも記事にしていただきました。)
もし、24時間営業の強要自体が「不当に不利益」をあたえることにあたるのであれば、交渉をしようがしまいが、不当に不利益になるはずです(誠実に交渉すれば濫用にならない一要素として考慮してもらえる余地はあるものの)。
このように、報告書は何重にも論理が破綻しています。
いったい、この報告書のこの部分に、公取委に出向中の弁護士や裁判官や検察官は、関与したのでしょうか?
たぶん、関与していないと思います。
というのは、こんな論理的に支離滅裂な思考を、法律家は絶対にしないからです。
(まあ最近は、司法試験を受かった人でも、憲法は法律の一種だという人がいるらしいですから、「絶対に」はいいすぎかもしれませんが。)
こういう支離滅裂な解釈変更をするところは、集団的自衛権の根拠として砂川事件を突然持ち出した安倍政権を彷彿とさせます。
ここで、独禁法に普段なじみのない他の法律分野の方々(とくに研究者の方々)に申し上げたいのは、公取委の法律解釈力のレベルはこの程度だ、ということです。
なので、独禁法は特殊(あるいは高尚)だという、怖れなのか畏敬なのか買いかぶりなのかはわかりませんが、そういう独禁法に対する特別な感情はまったく不要です。
独禁法の中でも、公取委の(ときに支離滅裂な)解釈をコピペして、これが通説だ、という研究者や実務家はいくらでもいるわけです。
なので、他分野のひとはなおさら、公取委の見解ありきで議論を進めるのも、仕方ないところなのですが、ぜひ、公取委を変に恐れることなく、自分が正しいと信じるところを発言していただきたいと思います。
今回のような話題は研究者が論文を書くには物足りない内容なので、誰も論文は書かないでしょうし、このようなブログネタになるのがちょうどいい話題なのかもしれませんが、分野をとわず、おかしいと思われた方はぜひ声を上げていただきたいと思います。
「いや、報告書は正しい。植村がおかしい」という意見も、議論が深まるきっかけになるので、ぜひお願いしたいです。
このままでは、「コンビニ24時間営業強制は独禁法違反 公取委」という新聞の見出しだけが一人歩きしそうで、非常にこわいです。
少なくとも、報告書の立場でもちゃんと交渉すれば濫用にならないので、このような見出しはミスリーディングだと思います。
でも公取からしたら、「思うツボ」なんでしょうね。
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