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2020年9月 5日 (土)

令和元年度相談事例集について

令和元年度相談事例集について気がついたことをメモしておきます。

■事例1

銀行2社のATM相互開放が不当な取引制限にあたらないとされた事例です。

結論はとくに問題ないのですが、地理的市場の画定について、

「次に,一般消費者は,自らの行動範囲の近くにあるATM又は店舗の窓口で預金取引等を行うことが多いと推測されるため,

一般消費者の行動範囲を基準に,ATM及び店舗の窓口ごとに地理的範囲を画定すべきであるとも考えられる。

もっとも,ATM及び店舗の窓口は日本全国に存在しているところ,地域によって預金取引等に係る競争の状況が異なるという事情は存在しないことから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。」

とされているのは、理屈としては疑問です。

ファミマとサンクスの統合に関する企業結合審査では店舗ごとにこまかく競合関係が審査されましたが、本質的にはこの相談事例も同じだと思います。

注目している競争は「預金取引等に係る競争」なので、要は預金獲得競争ですが、勤め先か自宅の近くに支店か、支店がないならATMがある銀行に預金したいと考えるのはふつうのことと思われるので、預金獲得競争はローカルでおこなわれていると思います。

そういう意味では、コンビニと同じです。

たぶん相談事例がいいたいのは、

預金獲得競争は、そういう、ローカルな支店設置競争や、ATM設置競争が、相似形をなしながら全国で展開されている(たくさんのローカルな市場が日本中にちらばっている)のだけれど、

それぞれの地域(ローカル)ごとに個別にみていくほどの特徴が各地域にあるわけではないので、

全部まとめてみる(各地域ごとに個別に見ることはしない)ので十分だから、

そんな抽象的な(頭の中で想像した)ローカル市場(the local market)を分析することで全国を分析したことにできる、

ということで、さらにいえば、

コンビニみたいに店舗の立地が競争上決定的に重要というような事情が、預金獲得競争におけるATMの立地にはみとめられない(ATMの場所で預金獲得額が増えることはあまりないし、コンビニの店舗と違ってATMの設置場所を探すのはそんなに困らない)ので、そんなに目くじら立てることはない

というようことではないか、と想像します。

■事例2

空調設備メーカー2社(シェア10%と1%)間の相互OEMが問題ないとされた事例です。

相互OEMの相談では、両方にOEM供給を受ける必要性があるという相談事例が多いのですが、この事例では、X社(シェア10%)は小型機種に特化したいというのでY社(シェア1%)から大型機種のOEM供給を受けないという事実は出てくるのですが、Y社がX社から小型機種のOEMを受けたい理由はよくわかりません。

まあビジネスの世界ではバーターということはよくあるので、お互いにそうしなければならないという理由がなくても、X社が、Y社に、

「おたく(Y社)の大型を買ってあげるんだから、うち(X社)の小型を買ってよ」

と言っても、そりゃそういう話になるだろうな、と思います。

なので細かいことをいえば、Y→Xの大型については、Xのラインアップを充実させるという効率性が認められるものの、X→Yの小型については、Yの効率性をあげる要素が見当たりません。

とすると、Xが大型の製造競争をやめ、Yが小型の製造競争を(少なくとも部分的に)やめることの競争緩和効果がどこで帳消しになるのか、よくわかりません。

あえて想像してみると、Xは小型が得意だということなので、Yは小型を自前で作るよりXから買ってきたほうがより効率的だ(XがYに対して絶対的優位であるシナリオ)、という理屈か、Xは大型よりも小型、Yは小型よりも大型が得意なので、自分の得意分野に集中するのが効率的だ(比較優位のシナリオ)、といった理屈なのではないか、と思いますが、たぶん回答はそんな細かいことは考えていないのでしょう。

もともと当事者のシェアが低いですし、たんなる売買だ、くらいの発想なのでしょうね。

相互OEMは双方に効率性の改善がなくてもシェアが低ければOKになる、という事例だといえます。

■事例5

家電メーカーが、売れ残りリスク等を自ら負うことを条件に、小売店への価格指示をしても再販売価格拘束にあたらないとしたものです。

似た事例として平成28年度事例1があり、そちらの契約関係は、

「ア X社は,家電製品Aの販売業務を小売業者に委託し,小売業者はこれを受託する(委託販売契約)。

イ 小売業者の店舗への家電製品Aの納入・補充は,X社と小売業者との間で個別に売買契約を成立させることにより行う(これにより,小売業者が通常の買取り契約による販売のときと同様に商品販売代金を自らの売上げとすることを可能とする。)。

ウ 前記イにより,小売業者は,自らが所有する家電製品Aを消費者に対して販売することとなるところ,これに伴って生じるリスクは,次のとおり分担する。

(ア)商品売れ残りのリスクについて,小売業者は,家電製品Aの納入代金の支払日以降,自らの判断でいつでも返品できることとする。X社は,小売業者から返品を受けた場合には,これに応じることとし,納入代金に相当する金額を当該小売業者に支払う。

(イ)在庫管理のリスクについて,X社は,小売業者の責に帰すべき事由によるものを除き,商品の滅失・毀損その他の損害を負担することとし,小売業者は,善良な管理者としての注意義務の範囲でのみ責任を負う。

(ウ)消費者への商品販売に係る代金回収のリスクについては,小売業者が負う。

エ 小売業者が消費者に販売する家電製品Aの価格は,X社が指示する。」

というものであったのに対して、今回の契約関係は、

「ア X社と小売業者は,家電製品Aについて,基本契約に基づく個別契約により売買を行う。

イ X社は,小売業者に対し,X社の指定する価格で家電製品Aを販売することを義務付ける。指定する価格は,競合品の市況等に合わせて変更することがある。

ウ X社は,

商品受領時の検査義務及び商品に瑕疵を発見した場合の売主への通知義務が小売業者によって履行されたか否かにかかわらず,

小売業者に納入した家電製品Aについて瑕疵担保責任を負い,

当該家電製品Aに瑕疵が発見された場合には,自己の負担の下で返品を受けるとともに,

速やかに代替商品を納入する。

エ 小売業者に納入後の家電製品Aについて滅失,毀損等の損害が生じた場合(例えば,自然災害等に伴う損害が生じた場合)には,小売業者が善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて,原則としてX社が当該損害を負担する。

オ 小売業者は,家電製品Aの納品日以降,いつでも,自らの判断により家電製品Aを返品することができる。X社は,返品費用を負担するとともに,代金相当額を返金する(納品月の末日までの返品の場合には,小売業者は代金の支払自体が不要)。

カ 家電製品Aの新モデル発売から一定の期間が経過した後においては,旧モデルの家電製品Aについては,前記イ,ウ及びオの定めは適用されない(通常の商品と同様の取引条件となり,値引き販売も可能となる。)。

というものです。

両社で違う点に下線を引きましたが、いずれもあまり本質的な点ではないので、それらの部分についてはみたさなくてもOKといえそうです。

前回の相談では、委託契約と売買契約の二本立てである点になにか大きな意味があるのかな、というふうにも読めなくはありませんでしたが、今回の相談は売買一本なので、二本立てには意味がないことがわかりました。

唯一、今回の相談で特徴的なのは、「カ」の、旧モデルについては価格は指定しないという点ですが、これも、前回の相談がある以上、仮に旧モデルについて指定をしても、問題なしなのでしょう。

■事例6

化学品メーカーの事業者団体が会員間の定期修理の日程を調整することが問題ないとされました。

この事例では、学識経験者をまじえた外部機関が日程調整するというしくみがとられていますが、定期修理の日程調整くらいなら、このような仕組みをとらずに当事者が直接やっても、なんら問題ないでしょう。

なお回答では、取って付けたように、

「なお,定修会議は工事業者等の団体,製品メーカーの団体等から選出された委員によって構成されるものであり,同業者間で情報交換を行うことになるため,本件取組を通じ,これらの団体によって,定期修理に係る料金又は受注予定者の決定,化学品Aを原料とする製品の販売価格の決定等の独占禁止法違反行為が誘発されないように留意する必要がある。」

と述べられていますが、大きなお世話だと思います。

■事例7

工事業者の団体が構成員と発注者に作業時間短縮の要請をすることが不当な取引制限にあたらないとされた事例です。

需要者に不利益をおよぼすにもかかわらず働き方改革を理由に共同行為がOKとされた点が注目されます。

すなわち回答では、

「平成30年6月29日に成立した働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による労働基準法(昭和22年法律第49号)の改正により,建設業界においては,労働時間の上限規制が令和6年4月1日から適用されることから,長時間労働の是正に向けた取組を進めていくことが必要不可欠な状況にある。」

「X協会が会員を対象に行った調査によれば,会員が雇用している特定建機のオペレーターの年間の時間外労働時間は,規制の上限である720時間を大幅に超過している状況にあり,時間外労働時間を適正な水準まで抑制するためには,工事現場における1日当たりの特定建機の作業時間を最低でも2時間短縮する必要がある。」

という認識のもと、

「 イ 需要者である発注者においては,本件取組によって,工期が長期化する可能性がある。

もっとも,本件取組は,正当な目的に基づく合理的なものである。また,発注者は,作業工程の見直し等の方法によって工期への影響をある程度緩和することが可能である。これらの点を踏まえると,本件取組によって発注者の利益が不当に害されるとはいえないと考えられる。」

と述べています。

労基法の上限規制は令和6年からでまだだいぶ先なので、たんに労基法を守りましょうという取り組みを超えていることはあきらかです。

そういう意味では、この回答はかなり踏み込んだものといえると思います。

ただ、このような需要者に不利益がおよぶ取り組みがこの回答によって一般論としてどの程度みとめられることになったのかは微妙なところでしょう。

公取は昔から、レジ袋削減とか、震災復興とか、今回の働き方改革みたいに、大義名分のある取り組みの場合には比較的ゆるやかにカルテルをOKにする傾向がありますが、逆に、法律を守るカルテル(たとえば、不当廉売をしないカルテル)だったら常に正当な目的でOKになるのかといえば、必ずしもそうではないように思われます。

まあ公取委は、自分が独禁法を執行する立場なので、どんな利益が独禁法に優先し、どんな利益が劣後するのかは自分たちが決められてあたりまえ、という発想なんでしょうね。

事業者団体が取引先に適正取引を呼びかけることが相談された事例は過去にもありますが(たとえば、様々な付属サービスが無償で提供されている不当な取引慣行の改善を事業者団体が訴えるのは問題ないとした平成7年事例5や平成5年事例6)、業界の窮状を訴える文書を事業者団体が出すことが問題ないとした事例(平成19年事例10)、反対に、問題ありとした事例(平成16年事例12))があります。

今回の事例はさらに1つ事例を加えるものといえます。

■事例8

こちらは、包装資材メーカーの事業者団体が納品先での附帯作業(事務所での仕分け作業など)を削減・有料化することを要望する文書を取引先に配布することが不当な取引制限にあたるおそれがあるとされた事例です。

回答では、

「 ア(ア) 包装資材Aの納品時の条件に附帯作業が含まれているか否か,また,附帯作業の料金が幾らであるかは,X協会の会員の取引先が包装資材Aの購入先を選択する際の考慮要素となっており,当該会員にとって競争手段の一つになっていると考えられる。

今般のX協会による附帯作業の削減・有料化は,会員の取引先に対して一律に附帯作業の削減又は有料化を要望するという内容であり,会員の競争手段を制限するものである。X協会の会員の中には市場シェアが大きい大手の事業者が含まれているので,X協会がかかる制限を行うことによる競争への影響は大きい。」

と述べられています。

まあ本当に附帯作業が競争手段になっているのかもしれませんし、純粋に事実認定の問題かもしれませんが、相談内容では、

「ウ 最近,運送業者からX協会の会員に対し,予定外の附帯作業に関する苦情,納品時における長時間の待機に関する苦情等が多数寄せられており,これらの苦情に対応した運送業者の労働条件改善が業界内での課題となっている。」

ということらしいので、少なくとも相談者としては、契約内容に含まれていない作業をさせられる(優越的地位の濫用の従業員派遣のようなもの)、という問題意識で相談しているのではないか、と思います。

なので、もし公取委がちゃんと事実を調べて附帯作業が競争手段の一つになっていると認定したならこの回答でもやむをえないのでしょうけれど、たんに作業内容から受けるイメージで競争手段の一つになりうるといっているだけなら、実態を無視した、かなり相談者に気の毒な回答だということになると思います(たぶんこちらが事実なのでしょう)。

本件では附帯作業をするのは第三者である運送業者なので、運送業者にどのような附帯作業をさせるかまで包装資材メーカーと運送業者との間で料金をふくめ合意しているとは、ちょっと考えにくいというか、少なくとも一般的ではないと思います。

事例7との比較でいえば、事例7は労基法の上限規制を守るために必要だということを具体的な数字を示しながら公取を説得できたのに対して、事例8は、同じ働き方改革を目的とするとはいえ、附帯作業がどれだけ不利益になっているのか(たとえば附帯作業がどれくらいの時間ロスにつながるのか)を具体的に示せなかった、ということなのかもしれません。

■事例9

特定の工事方法の普及活動をおこなう事業者団体が標準施工歩掛かりを策定・公表することが問題ないとされた事例です。

歩掛かり(必要な作業員数と作業時間など)だけで価格が決まるわけではないので共通の目安をあたえないから問題ない、という公共入札ガイドラインにしたがって回答されています。

この公共入札ガイドラインは、策定時に政治的な圧力があって、「あまあま」であるという批判が一般的だと思われますが、公取実務ではちゃんと生きているのですね。

ただ、公共入札ガイドラインをひとまずおいて、ゼロから考えると、このような取り組みには場合によっては競争制限効果がありうると思われます。

まず、公共入札ガイドラインの該当部分(第2-2-4〔標準的な積算方法の作成等〕)では、

「中小企業者の団体が、構成事業者の入札一般に係る積算能力の向上に資するため、標準的な費用項目を掲げた積算方法を作成し、又は所要資材等の標準的な数量や作業量を示すこと(事業者間に積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。)。」

が、原則として違反とならないとされています。

(ちなみに以前耳にしたところでは、土木工事の標準的な公示価格積算ソフトをつかうと、指定されたスペックや材料を入力するとどうやっても同じような金額になるらしく、ガイドラインでは原則シロと明記されているのであまりおとがめを受けることはないものの、「積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないもの」といえるかどうかは、じつはけっこう微妙な問題なんだそうです。)

そして、相談の事実関係では、

「本件標準施工歩掛については,X協会の事務局が会員の施工業者から特定土木工事でのA工法に必要となる標準的な作業員の人数及び作業時間のデータを収集して集計し,その平均値を用いる。」

とされています。

ここで気になるのは、会員には多いめの歩掛かりを提出するインセンティブがあるのではないか、ということです。

たとえばいろいろな業界紙に商品の価格動向が公表されていたりすることがありますが、あれは新聞記者さんが各社に電話で取材したりして集計することが多いらしいです。

そして、取材を受ける側は、安い価格を公にするとお客さんから値下げ要求を受けるので、「標準的な価格」としては、まさに「定価」とか、いわゆる「リストプライス」を伝え、実際の取引では、とくに得意客にはかなり値引きをする(なので、実勢価格は業界紙に公表される価格よりかなり安い)、ということが少なくないみたいです。

まあこれは考えてみたら当然で、新聞などで価格が公表されるような標準的な商材の場合、お客さんも当然それをみているでしょうから、公表価格よりも高い価格で購入してくれることはちょっと考えにくいです。

つまり、公表価格は事実上の上限価格だ、ということです。

というような実態を考慮すると、相談事例で会員が提出する歩掛かりの「データ」というのも、多いめに申告するインセンティブがはたらくように思われます。

公表する標準歩掛かりよりもたくさん工数がかかりますとはなかなか言いづらいでしょうから、これは当然のことのように思われます。

しかもこの「データ」というのが、各会員の実際の取引でその歩掛かりで施行したという情報なのか、会員が好きなように申告しているのか、相談事例からはよくわかりません。(きっと好きなように申告しているのではないかと思われます。)

相談では、この工事(コンクリート構造物の補修工事)を売り込んでいくためには「標準的な工事価格を算出できるようにする必要がある」と断定されていますので、じゃあ標準歩掛かりも必要ですねといいやすいですが(逆に言えば「必要がある」というのは、かなりきつい前提です)、もしそういう事情がないなら、会員の自主申告データを平均して標準歩掛かりを決めるというのは、根拠になっている公共入札ガイドラインが「あまあま」であることともあいまって、ちょっと慎重に考えたほうがいいと思います。

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