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2020年9月

2020年9月14日 (月)

ブラックリストの作成と独禁法

事業者団体ガイドライン9-8(顧客の信用状態に関する情報の収集・提供)には、「原則として違反とならない行為」として、

「○ 構成事業者の取引の安全を確保するため、顧客の信用状態について客観的な事実に関する情報を収集し、構成事業者に提供すること

(構成事業者間に特定の事業者と取引しないこと又は特定の事業者とのみ取引することについての合意を生ぜしめるようなことのないものに限る(注)。)。

(注) 例えば、特定の事業者を不良業者又は優良業者として掲載したリスト(いわゆるブラックリスト等)を作成し、配布することは、このような合意を生ぜしめるおそれがある。」

とさだめられています。

これを素直に読むと、事業者団体や競争者間で代金不払いなどのある不良顧客をブラックリストにのせて共有することは独禁法違反である、というように読めます。

じっさい、岩本章吾編著『事業者団体の活動に関する新・独禁法ガイドライン』p168では、

「参考例9-8は、その(注)において、どのような場合にそのようなボイコット的合意が生じやすいかを例示しており、その一つとして、いわゆるブラックリスト(不良業者リスト)やホワイトリスト(優良業者リスト)を作成して配布するような場合が挙げられている。

こうしたリストを作成・配布することは、共同ボイコットに直結しやすく、極めて危険であることから、事業者団体においては十分な注意が必要である。」

と、事業者団体によるブラックリストの作成に対してきわめて否定的な説明がなされています。

しかし、実際の公取委の運用はそこまできびしいことは言っていません。

というのは、公正取引365号29頁では、外国のバイヤーに変換条件付きで無償貸与している輸出商品に付随する運送用具の回収を確保するために、用具を変換しないバイヤーに関する情報を会員から収集して公表するとともに、以後当該バイヤーと取引するときには運送用具の代金相当額を徴収する旨の申し合わせをしていいか、との質問に対して、公正取引委員会事務局経済部団体課の回答として、

「無償貸与する運送用具の返還に関する申合わせ事項は、繊維品を輸出する際の取引条件の一つであり、活動指針6-3の『営業の種類、内容又は方法を制限すること』に該当するかどうか議論のあるところであるが、これは当然に返還すべき運送用具を変換しないといういわば取引の前提条件としてのルール違反に関する問題でもあり、輸出業者間における市場の状況に基本的な変化をもたらすものではなく、問題はないと言える。」

「返還条件付で無償貸与している輸出商品に付随する運送用具を適切に返還してこないバイヤーについて、バイヤー名を公表することは、活動指針7-7の『ブラックリスト等の作成』に該当するかどうか議論のあるところであるが、これは当然返還すべきものを返還しない業者のリストを公表するもので、取引の安全を確保するための経営上必要とされる顧客の信用状態に関する情報を提供するものであり、基本的には問題がないといえる。」

と回答されています。

これ自体は旧ガイドラインのもとでの回答ですが、現行ガイドラインも同じ内容なので、同じ回答が妥当すると考えられます。

この回答はとても常識にかなった内容であり、異論はないところでしょう。

それに対して、ガイドラインの、ブラックリストが特定業者と取引しない合意を生じさせるという評価自体が、事実認識としてどうかと思います。

というのは、そういうリストに載っていても、たとえば物の売買契約なら前金で取引するとか、いくらでも取引する方法はあるのであって、取引しない合意を必然的に生じさせるとは思われないからです。

それよりも、そういう不届きな取引先がいるかもしれない(とくに上記相談事例のような外国の事業者)という懸念のために取引ができなくなる事業者もいるであろうことを考えると、このような取り組みは、むしろ情報の非対称性を解消することによって取引の成立を促進することで競争上も望ましいといえます。

事業者団体ガイドラインは、ブラックリストが持つこのような競争促進効果をまったく考慮していない点で、そもそも妥当ではありません。

きっと、「ブラックリスト」という言葉の否定的な響きが、このようなガイドラインになったのだと想像されます。

(この点、流通取引慣行ガイドラインで「パトロール」「価格監視」といった、否定的な響きが使われているのも、インターネットの時代になってネットで価格を閲覧できるようになると、「『パトロール』といっても、ネット閲覧と何が違うの?」という当然の疑問にたどり着くわけで、言葉の響きではなく論理で読む者を説得できなければならないと思います。)

なので、現行の事業者団体ガイドラインに改正するときも、上記回答に沿った改正をすべきだったのですが、そのまま残ってしまいました。

ですが、ガイドラインに書いてあることと実際の運用がここまで違うと混乱のもとなので、きちんとガイドラインを改正したほうがいいと思います。

ただ、実際にブラックリストを作るときには、客観的な内容になるように注意すべきでしょうね。

たとえば、下請事業者の団体が、「買いたたきをする親事業者のリスト」みたいなものを作成するとしたら、何が買いたたきなのかについては主観が大いに入りうることを考えると、ちょっと問題だと思います。

上記の相談事例も、無償で借りた物を返すという、義務としては客観的に明確なものだからこそ、問題ないと回答されたのだろうと思われます。

2020年9月 5日 (土)

令和元年度相談事例集について

令和元年度相談事例集について気がついたことをメモしておきます。

■事例1

銀行2社のATM相互開放が不当な取引制限にあたらないとされた事例です。

結論はとくに問題ないのですが、地理的市場の画定について、

「次に,一般消費者は,自らの行動範囲の近くにあるATM又は店舗の窓口で預金取引等を行うことが多いと推測されるため,

一般消費者の行動範囲を基準に,ATM及び店舗の窓口ごとに地理的範囲を画定すべきであるとも考えられる。

もっとも,ATM及び店舗の窓口は日本全国に存在しているところ,地域によって預金取引等に係る競争の状況が異なるという事情は存在しないことから,「日本全国」を地理的範囲として画定した。」

とされているのは、理屈としては疑問です。

ファミマとサンクスの統合に関する企業結合審査では店舗ごとにこまかく競合関係が審査されましたが、本質的にはこの相談事例も同じだと思います。

注目している競争は「預金取引等に係る競争」なので、要は預金獲得競争ですが、勤め先か自宅の近くに支店か、支店がないならATMがある銀行に預金したいと考えるのはふつうのことと思われるので、預金獲得競争はローカルでおこなわれていると思います。

そういう意味では、コンビニと同じです。

たぶん相談事例がいいたいのは、

預金獲得競争は、そういう、ローカルな支店設置競争や、ATM設置競争が、相似形をなしながら全国で展開されている(たくさんのローカルな市場が日本中にちらばっている)のだけれど、

それぞれの地域(ローカル)ごとに個別にみていくほどの特徴が各地域にあるわけではないので、

全部まとめてみる(各地域ごとに個別に見ることはしない)ので十分だから、

そんな抽象的な(頭の中で想像した)ローカル市場(the local market)を分析することで全国を分析したことにできる、

ということで、さらにいえば、

コンビニみたいに店舗の立地が競争上決定的に重要というような事情が、預金獲得競争におけるATMの立地にはみとめられない(ATMの場所で預金獲得額が増えることはあまりないし、コンビニの店舗と違ってATMの設置場所を探すのはそんなに困らない)ので、そんなに目くじら立てることはない

というようことではないか、と想像します。

■事例2

空調設備メーカー2社(シェア10%と1%)間の相互OEMが問題ないとされた事例です。

相互OEMの相談では、両方にOEM供給を受ける必要性があるという相談事例が多いのですが、この事例では、X社(シェア10%)は小型機種に特化したいというのでY社(シェア1%)から大型機種のOEM供給を受けないという事実は出てくるのですが、Y社がX社から小型機種のOEMを受けたい理由はよくわかりません。

まあビジネスの世界ではバーターということはよくあるので、お互いにそうしなければならないという理由がなくても、X社が、Y社に、

「おたく(Y社)の大型を買ってあげるんだから、うち(X社)の小型を買ってよ」

と言っても、そりゃそういう話になるだろうな、と思います。

なので細かいことをいえば、Y→Xの大型については、Xのラインアップを充実させるという効率性が認められるものの、X→Yの小型については、Yの効率性をあげる要素が見当たりません。

とすると、Xが大型の製造競争をやめ、Yが小型の製造競争を(少なくとも部分的に)やめることの競争緩和効果がどこで帳消しになるのか、よくわかりません。

あえて想像してみると、Xは小型が得意だということなので、Yは小型を自前で作るよりXから買ってきたほうがより効率的だ(XがYに対して絶対的優位であるシナリオ)、という理屈か、Xは大型よりも小型、Yは小型よりも大型が得意なので、自分の得意分野に集中するのが効率的だ(比較優位のシナリオ)、といった理屈なのではないか、と思いますが、たぶん回答はそんな細かいことは考えていないのでしょう。

もともと当事者のシェアが低いですし、たんなる売買だ、くらいの発想なのでしょうね。

相互OEMは双方に効率性の改善がなくてもシェアが低ければOKになる、という事例だといえます。

■事例5

家電メーカーが、売れ残りリスク等を自ら負うことを条件に、小売店への価格指示をしても再販売価格拘束にあたらないとしたものです。

似た事例として平成28年度事例1があり、そちらの契約関係は、

「ア X社は,家電製品Aの販売業務を小売業者に委託し,小売業者はこれを受託する(委託販売契約)。

イ 小売業者の店舗への家電製品Aの納入・補充は,X社と小売業者との間で個別に売買契約を成立させることにより行う(これにより,小売業者が通常の買取り契約による販売のときと同様に商品販売代金を自らの売上げとすることを可能とする。)。

ウ 前記イにより,小売業者は,自らが所有する家電製品Aを消費者に対して販売することとなるところ,これに伴って生じるリスクは,次のとおり分担する。

(ア)商品売れ残りのリスクについて,小売業者は,家電製品Aの納入代金の支払日以降,自らの判断でいつでも返品できることとする。X社は,小売業者から返品を受けた場合には,これに応じることとし,納入代金に相当する金額を当該小売業者に支払う。

(イ)在庫管理のリスクについて,X社は,小売業者の責に帰すべき事由によるものを除き,商品の滅失・毀損その他の損害を負担することとし,小売業者は,善良な管理者としての注意義務の範囲でのみ責任を負う。

(ウ)消費者への商品販売に係る代金回収のリスクについては,小売業者が負う。

エ 小売業者が消費者に販売する家電製品Aの価格は,X社が指示する。」

というものであったのに対して、今回の契約関係は、

「ア X社と小売業者は,家電製品Aについて,基本契約に基づく個別契約により売買を行う。

イ X社は,小売業者に対し,X社の指定する価格で家電製品Aを販売することを義務付ける。指定する価格は,競合品の市況等に合わせて変更することがある。

ウ X社は,

商品受領時の検査義務及び商品に瑕疵を発見した場合の売主への通知義務が小売業者によって履行されたか否かにかかわらず,

小売業者に納入した家電製品Aについて瑕疵担保責任を負い,

当該家電製品Aに瑕疵が発見された場合には,自己の負担の下で返品を受けるとともに,

速やかに代替商品を納入する。

エ 小売業者に納入後の家電製品Aについて滅失,毀損等の損害が生じた場合(例えば,自然災害等に伴う損害が生じた場合)には,小売業者が善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて,原則としてX社が当該損害を負担する。

オ 小売業者は,家電製品Aの納品日以降,いつでも,自らの判断により家電製品Aを返品することができる。X社は,返品費用を負担するとともに,代金相当額を返金する(納品月の末日までの返品の場合には,小売業者は代金の支払自体が不要)。

カ 家電製品Aの新モデル発売から一定の期間が経過した後においては,旧モデルの家電製品Aについては,前記イ,ウ及びオの定めは適用されない(通常の商品と同様の取引条件となり,値引き販売も可能となる。)。

というものです。

両社で違う点に下線を引きましたが、いずれもあまり本質的な点ではないので、それらの部分についてはみたさなくてもOKといえそうです。

前回の相談では、委託契約と売買契約の二本立てである点になにか大きな意味があるのかな、というふうにも読めなくはありませんでしたが、今回の相談は売買一本なので、二本立てには意味がないことがわかりました。

唯一、今回の相談で特徴的なのは、「カ」の、旧モデルについては価格は指定しないという点ですが、これも、前回の相談がある以上、仮に旧モデルについて指定をしても、問題なしなのでしょう。

■事例6

化学品メーカーの事業者団体が会員間の定期修理の日程を調整することが問題ないとされました。

この事例では、学識経験者をまじえた外部機関が日程調整するというしくみがとられていますが、定期修理の日程調整くらいなら、このような仕組みをとらずに当事者が直接やっても、なんら問題ないでしょう。

なお回答では、取って付けたように、

「なお,定修会議は工事業者等の団体,製品メーカーの団体等から選出された委員によって構成されるものであり,同業者間で情報交換を行うことになるため,本件取組を通じ,これらの団体によって,定期修理に係る料金又は受注予定者の決定,化学品Aを原料とする製品の販売価格の決定等の独占禁止法違反行為が誘発されないように留意する必要がある。」

と述べられていますが、大きなお世話だと思います。

■事例7

工事業者の団体が構成員と発注者に作業時間短縮の要請をすることが不当な取引制限にあたらないとされた事例です。

需要者に不利益をおよぼすにもかかわらず働き方改革を理由に共同行為がOKとされた点が注目されます。

すなわち回答では、

「平成30年6月29日に成立した働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による労働基準法(昭和22年法律第49号)の改正により,建設業界においては,労働時間の上限規制が令和6年4月1日から適用されることから,長時間労働の是正に向けた取組を進めていくことが必要不可欠な状況にある。」

「X協会が会員を対象に行った調査によれば,会員が雇用している特定建機のオペレーターの年間の時間外労働時間は,規制の上限である720時間を大幅に超過している状況にあり,時間外労働時間を適正な水準まで抑制するためには,工事現場における1日当たりの特定建機の作業時間を最低でも2時間短縮する必要がある。」

という認識のもと、

「 イ 需要者である発注者においては,本件取組によって,工期が長期化する可能性がある。

もっとも,本件取組は,正当な目的に基づく合理的なものである。また,発注者は,作業工程の見直し等の方法によって工期への影響をある程度緩和することが可能である。これらの点を踏まえると,本件取組によって発注者の利益が不当に害されるとはいえないと考えられる。」

と述べています。

労基法の上限規制は令和6年からでまだだいぶ先なので、たんに労基法を守りましょうという取り組みを超えていることはあきらかです。

そういう意味では、この回答はかなり踏み込んだものといえると思います。

ただ、このような需要者に不利益がおよぶ取り組みがこの回答によって一般論としてどの程度みとめられることになったのかは微妙なところでしょう。

公取は昔から、レジ袋削減とか、震災復興とか、今回の働き方改革みたいに、大義名分のある取り組みの場合には比較的ゆるやかにカルテルをOKにする傾向がありますが、逆に、法律を守るカルテル(たとえば、不当廉売をしないカルテル)だったら常に正当な目的でOKになるのかといえば、必ずしもそうではないように思われます。

まあ公取委は、自分が独禁法を執行する立場なので、どんな利益が独禁法に優先し、どんな利益が劣後するのかは自分たちが決められてあたりまえ、という発想なんでしょうね。

事業者団体が取引先に適正取引を呼びかけることが相談された事例は過去にもありますが(たとえば、様々な付属サービスが無償で提供されている不当な取引慣行の改善を事業者団体が訴えるのは問題ないとした平成7年事例5や平成5年事例6)、業界の窮状を訴える文書を事業者団体が出すことが問題ないとした事例(平成19年事例10)、反対に、問題ありとした事例(平成16年事例12))があります。

今回の事例はさらに1つ事例を加えるものといえます。

■事例8

こちらは、包装資材メーカーの事業者団体が納品先での附帯作業(事務所での仕分け作業など)を削減・有料化することを要望する文書を取引先に配布することが不当な取引制限にあたるおそれがあるとされた事例です。

回答では、

「 ア(ア) 包装資材Aの納品時の条件に附帯作業が含まれているか否か,また,附帯作業の料金が幾らであるかは,X協会の会員の取引先が包装資材Aの購入先を選択する際の考慮要素となっており,当該会員にとって競争手段の一つになっていると考えられる。

今般のX協会による附帯作業の削減・有料化は,会員の取引先に対して一律に附帯作業の削減又は有料化を要望するという内容であり,会員の競争手段を制限するものである。X協会の会員の中には市場シェアが大きい大手の事業者が含まれているので,X協会がかかる制限を行うことによる競争への影響は大きい。」

と述べられています。

まあ本当に附帯作業が競争手段になっているのかもしれませんし、純粋に事実認定の問題かもしれませんが、相談内容では、

「ウ 最近,運送業者からX協会の会員に対し,予定外の附帯作業に関する苦情,納品時における長時間の待機に関する苦情等が多数寄せられており,これらの苦情に対応した運送業者の労働条件改善が業界内での課題となっている。」

ということらしいので、少なくとも相談者としては、契約内容に含まれていない作業をさせられる(優越的地位の濫用の従業員派遣のようなもの)、という問題意識で相談しているのではないか、と思います。

なので、もし公取委がちゃんと事実を調べて附帯作業が競争手段の一つになっていると認定したならこの回答でもやむをえないのでしょうけれど、たんに作業内容から受けるイメージで競争手段の一つになりうるといっているだけなら、実態を無視した、かなり相談者に気の毒な回答だということになると思います(たぶんこちらが事実なのでしょう)。

本件では附帯作業をするのは第三者である運送業者なので、運送業者にどのような附帯作業をさせるかまで包装資材メーカーと運送業者との間で料金をふくめ合意しているとは、ちょっと考えにくいというか、少なくとも一般的ではないと思います。

事例7との比較でいえば、事例7は労基法の上限規制を守るために必要だということを具体的な数字を示しながら公取を説得できたのに対して、事例8は、同じ働き方改革を目的とするとはいえ、附帯作業がどれだけ不利益になっているのか(たとえば附帯作業がどれくらいの時間ロスにつながるのか)を具体的に示せなかった、ということなのかもしれません。

■事例9

特定の工事方法の普及活動をおこなう事業者団体が標準施工歩掛かりを策定・公表することが問題ないとされた事例です。

歩掛かり(必要な作業員数と作業時間など)だけで価格が決まるわけではないので共通の目安をあたえないから問題ない、という公共入札ガイドラインにしたがって回答されています。

この公共入札ガイドラインは、策定時に政治的な圧力があって、「あまあま」であるという批判が一般的だと思われますが、公取実務ではちゃんと生きているのですね。

ただ、公共入札ガイドラインをひとまずおいて、ゼロから考えると、このような取り組みには場合によっては競争制限効果がありうると思われます。

まず、公共入札ガイドラインの該当部分(第2-2-4〔標準的な積算方法の作成等〕)では、

「中小企業者の団体が、構成事業者の入札一般に係る積算能力の向上に資するため、標準的な費用項目を掲げた積算方法を作成し、又は所要資材等の標準的な数量や作業量を示すこと(事業者間に積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないものに限る。)。」

が、原則として違反とならないとされています。

(ちなみに以前耳にしたところでは、土木工事の標準的な公示価格積算ソフトをつかうと、指定されたスペックや材料を入力するとどうやっても同じような金額になるらしく、ガイドラインでは原則シロと明記されているのであまりおとがめを受けることはないものの、「積算金額についての共通の目安を与えるようなことのないもの」といえるかどうかは、じつはけっこう微妙な問題なんだそうです。)

そして、相談の事実関係では、

「本件標準施工歩掛については,X協会の事務局が会員の施工業者から特定土木工事でのA工法に必要となる標準的な作業員の人数及び作業時間のデータを収集して集計し,その平均値を用いる。」

とされています。

ここで気になるのは、会員には多いめの歩掛かりを提出するインセンティブがあるのではないか、ということです。

たとえばいろいろな業界紙に商品の価格動向が公表されていたりすることがありますが、あれは新聞記者さんが各社に電話で取材したりして集計することが多いらしいです。

そして、取材を受ける側は、安い価格を公にするとお客さんから値下げ要求を受けるので、「標準的な価格」としては、まさに「定価」とか、いわゆる「リストプライス」を伝え、実際の取引では、とくに得意客にはかなり値引きをする(なので、実勢価格は業界紙に公表される価格よりかなり安い)、ということが少なくないみたいです。

まあこれは考えてみたら当然で、新聞などで価格が公表されるような標準的な商材の場合、お客さんも当然それをみているでしょうから、公表価格よりも高い価格で購入してくれることはちょっと考えにくいです。

つまり、公表価格は事実上の上限価格だ、ということです。

というような実態を考慮すると、相談事例で会員が提出する歩掛かりの「データ」というのも、多いめに申告するインセンティブがはたらくように思われます。

公表する標準歩掛かりよりもたくさん工数がかかりますとはなかなか言いづらいでしょうから、これは当然のことのように思われます。

しかもこの「データ」というのが、各会員の実際の取引でその歩掛かりで施行したという情報なのか、会員が好きなように申告しているのか、相談事例からはよくわかりません。(きっと好きなように申告しているのではないかと思われます。)

相談では、この工事(コンクリート構造物の補修工事)を売り込んでいくためには「標準的な工事価格を算出できるようにする必要がある」と断定されていますので、じゃあ標準歩掛かりも必要ですねといいやすいですが(逆に言えば「必要がある」というのは、かなりきつい前提です)、もしそういう事情がないなら、会員の自主申告データを平均して標準歩掛かりを決めるというのは、根拠になっている公共入札ガイドラインが「あまあま」であることともあいまって、ちょっと慎重に考えたほうがいいと思います。

2020年9月 4日 (金)

#「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」に反対します。 (その2)

前回に引き続いての、掲題報告書についてのコメントです。

報告書を読んでいて気づいたのですが、24時間営業に関する記述は、他の取引条件に関する記述とバランスが取れていないという点でも問題があると思います。

たとえば、「6 採算の取れない新規事業の導入」(p144)では、

「フランチャイズ・ガイドライン3(1)アでは,

「取引上優越した地位にある本部が加盟者に対して,フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて,例えば,次のような行為等により,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には,本部の取引方法が独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当する。」

としている。

(フランチャイズ契約締結後の契約内容の変更)

○ 当初のフランチャイズ契約に規定されていない新規事業の導入によって,

加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなるにもかかわらず,

本部が,新規事業を導入しなければ不利益な取扱いをすること等を示唆し,

加盟者に対して新規事業の導入を余儀なくさせること。」

とされています。

つまり、採算の取れない新規事業の導入については、

「フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて」

いるという要件と、

「加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなるにもかかわらず・・・加盟者に対して新規事業の導入を余儀なくさせる」

という要件をみたす場合に優越的地位の濫用になる、ということです。

しかしよく考えてみると、採算の取れない新規事業の導入は、少なくとも契約書に書かれていないことをさせるという点においては、契約で義務づけられている24時間営業に比べれば、より店舗に対する不利益(あらかじめ計算できない不利益)が大きいはずです。

もちろん、ちょっとだけ採算割れの新規事業と、ものすごく採算割れになる24時間営業(たとえば、深夜にはほとんど客の来ない店舗の24時間営業)とで、どちらが不利益が大きいか、といえば、24時間営業の方が不利益が大きいかもしれません。

(なお、24時間営業の深夜営業だけをみるべきではなくて、24時間空いていることによる安心感や利便性やブランドイメージから24時間営業により店舗の利益が全体として(昼間の営業分も含めて)増えているはずだ、なので、深夜営業だけ切り出して利益・不利益を論じるのは適切ではない、という議論は当然ありうるし、おそらく正しいのだと思いますが、事実認定の問題でもありますし、ここではこれ以上深入りしないこととします。)

でも、いずれの不利益が大きいかは、新規事業の内容と各店舗が置かれた事情しだいなので、一律には決まらず、どちらの不利益が大きいこともありうる、といえます。

ということは、類型的に24時間営業の方が不利益が大きいと判断する理由は何もなく、かえって、24時間営業のほうは契約書に明記されていることからすると、24時間営業のほうが一般的には不利益性が小さい、と考えるのが当然だと思います。

とすれば、不利益の小さい24時間営業のほうが違法になりにくい、というルールでないと、バランスが悪いでしょう。

それに、

「フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施するために必要な限度を超えて」

の要件については、24時間営業はコンビニの代名詞ですから、24時間営業がコンビニの営業を的確に実施するために必要な限度を超えているというのは、新規事業が必要な限度を超えているというのよりも、ずっとハードルが高いように思います。

ところが、報告書では、24時間営業については、前回も説明したとおり、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」(p150)

というように、協議を拒絶しただけで濫用だ、ということになっています。

でもそういうなら、24時間営業よりも不利益の大きく、かつ、「必要な限度」を超えやすい、採算の取れない新規事業についても、協議を拒絶しただけで濫用になる(実際に新規事業の追加の申し入れをするのは本部側でしょうから、そのような本部の申し入れに対して店舗が拒絶するのをみとめない、という形になるでしょう)としないとおかしいでしょう。

でも上に引用したとおり、採算の取れない新規事業については、協議を拒絶しただけで濫用になるわけではなく、「加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなる」場合に初めて濫用になるとされています。

完全に予測できるという意味では不利益性が小さく、かつ、コンビニの代名詞として「必要な限度」を超えるとは想定しにくい24時間営業も、最低限(=最も厳しくても)これと同じ基準になるはずです。

つまり、24時間営業の強制が濫用になるためには、「必要な限度」を超えることと、「加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなる」ことが、最低限必要だということです。

具体的には、深夜営業は採算割れで、かつ、コンビニの営業のために「必要な限度」を超えている、といった事情が最低限必要なわけです。

しかしもちろん実際には、深夜営業が採算割れだというだけで24時間営業の強制が濫用になるわけではないでしょう。

なぜなら、まず第一に、(くりかえしになりますが)24時間営業は契約時からわかっているからです。

それから第二に、深夜営業が採算割れになるというようなことは、一般的にはいえないからです。

新規事業の場合だって、採算割れになる店舗と利益の出る店舗は当然ありうるわけです(「事業」なんだから当然です)。

何千、何万とある店舗のすべてに必ず利益が出ないと濫用だ、なんていうのはむちゃくちゃです。

たとえばコンビニの収納代行の強制が優越的地位の濫用かが争われた東京地裁平成23年12月22日(判例タイムズ1377号221頁)では、ちょっと長いですが引用すると、

「次に、平成22年2月末の時点で、本件対象業務1件当たりの手数料収入額(チャージ控除前のもの)は、約66円(来店客の支払手数料を加算した場合には約77円)であり、おにぎりを2個販売した場合の粗利益を若干上回る程度のものである。

物品販売の場合には、仕入商品の種類及び数量の決定、商品の陳列、売れ残り商品の廃棄等に要する手間や、廃棄に伴う仕入原価相当額の損失等のコストが生じるのに対し、本件対象サービスの場合には、これらのコストは発生しないこと等も考慮すると、本件対象業務によって加盟店が取得する手数料収入が不当に低廉であるということはできない。

他方、上記時点で、1店舗当たりの本件対象業務の取扱件数は、1日当たり約70件であり、1件当たりの取扱金額は、約9485円であった。

その処理に要する所要時間は、払込票1枚当たり約40秒(一度に複数枚を処理する場合の払込票1枚当たりの所要時間はさらに短縮される。)程度にとどまる上、

被告は、本件対象業務の負担軽減や過誤防止のために、払込票のサイズの統一、レジシステムの改良、現金カウント機の割安価格での購入やリースの斡旋、取扱金額の上限設定、料金収納業務保険の導入等を行い、

さらに強盗被害の発生を防止するために、加盟店に侵入防止扉や防御盾を設置し、警備会社との間で警備契約を締結した上で、警備会社への通報機能を備えた携帯用非常ボタンを貸与し、自ら保険料を負担して現金盗難被害保険に加入するなどの対策も講じている。

これらの点からすると、本件対象業務によって原告らの被る負担がこれによって得られる利益に比して過重なものであるとまでいうことはできない。」

という判断がされています。

ここで取り上げたいポイントは、「1店舗当たりの本件対象業務の取扱件数」という認定が示すように、裁判所は、一般的に(≒多くの店舗にとって)収納代行が過重な負担になるかどうかを基準にしているのであって、当該原告が採算割れになるかどうかを問題にしているのではない、ということです。

24時間営業の場合なら、裁判所は、それが一般的に(≒多くの店舗にとって)過重な負担であるかどうかを判断するでしょう。

同じことを裏から言うと、当該原告が深夜営業について採算割れであったとしても、かなりの割合(7~8割くらい?)の店舗において、深夜営業で利益が出ているなら、原告は勝てない、ということです。

24時間営業の強制は、裁判所であれば、最低限これくらいの立証をしないと勝てないはずなのですが(「最低限」というのは、24時間営業は契約当初からわかっていたことを踏まえると、裁判所はそれだけで十分原告店舗敗訴という判決を出す可能性が高いので、これくらいの立証は「最低限」であって、これを立証したら勝てるというわけではない、という意味です)、報告書では、本部が交渉を拒否しただけで店舗は勝訴できることになってしまいます。

(ちなみに、契約当初からわかっていたかどうかという点については、上で引用した東京地裁判決は、これも長いですが引用すると、

「被告は、本件フランチャイズ・チェーンの運営者として、加盟者との間で本件基本契約等を締結し、自らの保有するコンビニエンス・ストアの経営に関するノウハウや商標、サービスマーク、意匠等を用いて、同一のイメージの下に加盟店の営業を行う権利を与え、経営指導や技術援助等を行う一方、加盟者から、その対価としてチャージの支払を受けている。

一般に、このようなフランチャイズ・システムにおいては、フランチャイジーがフランチャイザーから提供されるノウハウや商標、サービスマーク、意匠等を用いて、同一のイメージの下に商品の販売やサービスの提供等を行い、フランチャイズ・チェーン全体が統一的に運営されており、そのために業務マニュアル、商品やサービスの品ぞろえ、接客方法等の統一が図られるとともに、その時々の状況に応じて合理性の認められる限度でこれを変更していくことが予定されているものと解される。

本件フランチャイズ・チェーンに関しても、・・・加盟者は、本件基本契約等において、その加盟店が共通の仕様や品ぞろえ、接客方法、便利さ等の特色を有しており、これが本件イメージとして広く認識されていることによって、加盟店の信用が支えられていることを確認した上で、商品構成や品ぞろえ等を含む経営ノウハウを組織化した本件システムに反する行為や本件イメージの変更を行わないことを約している。

したがって、加盟者は、本件基本契約等に基づき、本件フランチャイズ・チェーンの利便性にかかわるもので、本件イメージの重要な要素を構成する商品やサービスについては、特段の事情のない限り、これを提供する義務を負っており、商品やサービスの内容、構成等が合理性の認められる限度で随時変更されることも了解していたというべきである。

とも述べており、ある程度の変更は店舗も了解していたという認定をしており、事前の合意を比較的ゆるやかに(常識的に)みとめている、といえますし、24時間営業がコンビニの「イメージの重要な要素」でないというのも、まず無理なんじゃないかと思います。)

逆に、採算の取れない新規事業に報告書の24時間営業の基準を適用すると、本部からの新規事業導入の申し入れに対して店舗が見直しを求めたときに、その要求を一方的に無視しただけで、不採算の程度にかかわらず濫用になる、というこれまたわけのわからない結論になってしまいます。

まとめると、新規事業とのバランスを考えると、24時間営業の強制は、通常の(あるいは、多くの)店舗にとって、「店舗が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなる」場合にかぎり、濫用になる、とすべきです。

さらに適切に限定するなら、24時間営業がコンビニの営業を「的確に実施するために必要な限度を超えて」いるかどうかも、慎重に検討されるべきでしょう(そして、たぶん必要な限度は超えていないでしょう)。

このように見ていくと、報告書は24時間営業だけに独自の基準を立てていることがよくわかります。

報告書の24時間営業の基準がおかしなものであることは、優越ガイドラインやフランチャイズガイドラインにこの基準を書き込んだらどれくらい違和感があるかを想像してみたらわかると思います。

それくらい、報告書の24時間営業に関する部分は、ほかとの整合性がとれていないということです。

このように、報告書は24時間営業だけを露骨に狙い撃ちして、無理な理屈で濫用だとしていることが、よくわかると思います。

2020年9月 2日 (水)

#「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」に反対します。

本日(2020年9月2日)公表された掲題の報告書p150に、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。」

という記載があります。

しかし、わたしはこれに反対です。

もう少し前から引用すると、

年中無休・24時間営業を行うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統一イメージを確保する等の目的で行われており,加盟者募集の段階で十分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁止法上問題となるわけではない。

しかしながら,本部が,加盟者の募集に当たり,年中無休・24時間営業に関する重要な事項について,十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。

また,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。

という文脈での記述です。

同時に公表されたスライド「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書(概要)」17枚目では、24時間営業について「従来から示してきた考え」は、

「年中無休・24時間営業を⾏うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統⼀したイメージを確保する等の⽬的で⾏われており,加盟者募集の段階で⼗分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁⽌法上問題となるものではない」

という考え方であったとみとめたうえで、「今回の調査結果を踏まえた考え⽅」として、

「しかしながら,今回調査した8チェーンにおいては,本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移⾏が認められているところ,そのような形になっているにもかかわらず,本部がその地位を利⽤して協議を⼀⽅的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には,優越的地位の濫⽤に該当し得る。」

というように、今回解釈を変更したのだ、というように明記されています。

これって、あまりにもひどいと思います。

勝手に解釈変更するなんて、集団的自衛権が合憲だと閣議決定したり、検察庁法の定年の規定よりも国家公務員法の定年の規定が優先すると解釈変更した安倍内閣のやりかたと同じです。

これでは法治国家とはいえません。

百歩譲って、従来からの解釈変更をするならその理由を述べるべきですが、報告書を読んでもその説明はありません。

たしかに報告書をみると、コンビニ本部側にも「これはいかんなぁ」と思えるところはあります。

それは、契約前の説明で、休みを取れるかのような説明をしているのがうかがわれる点です。

(ひょっとしたら、これをあきらかにしたことが今回の報告書の一番の成果かもしれません。)

具体的には、報告書p114以下に、コンビニ本部が勧誘時に示すQ&Aの例として、

「Q コンビニエンスストア経営を始めると,365日休めないのではないかと心配です。

A 多くの加盟店は,信頼できるストアスタッフに店頭業務や発注業務をまかせることにより,定期的に休暇をとっていらっしゃいます。」

というのがあったりして、そのあとにp183あたりに出てくる本部の支援制度に対する店舗のアンケート回答として、

「・3 年前に父が亡くなったときに本部にお願いしたが〔支援制度の利用を〕断られた」

「・子供が亡くなったときに申請して〔支援制度を〕使うことができなかった」

などの回答例とあわせてみると、これはそもそも加盟時の説明に問題があったのではないか?という気にさせられます。

そのほかにも、娘の結婚式に出られなかったとかいう話も出ていたりして、コンビニというのは事業者といいながら経営の独立性はないのだなぁと、いちおう同じ個人事業者の身として思わざるをえません。

ですが、だからといってこれが優越的地位の濫用になるのかというと、話は別です。

まず、上記に引用したQ&Aの例がいちばん危なそうですが、それでも、仮に成立するとしたら欺まん的顧客誘引でしょう。

そして、欺まん的顧客誘引については、先に報告書の該当部分を引用したとおり、

「本部が,加盟者の募集に当たり,年中無休・24時間営業に関する重要な事項について,十分な開示を行わず,又は虚偽若しくは誇大な開示を行い,これらにより,実際のフランチャイズ・システムの内容よりも著しく優良又は有利であると誤認させ,競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には,不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当し得る。」

とされています。

先に引用したQ&Aが最も危なそうですが、それでも「虚偽若しくは誇大な開示」といえるほどのものかというと、たぶんいえないでしょう。

というわけで、やるとしたら欺まん的顧客誘引なのですが、実際の例ではこれで違反とするにはどうしてもたりないわけです。

そこで優越的地位の濫用が登場するわけですが、そこでの報告書の論理はめちゃくちゃです。

問題の箇所は、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,

本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,

加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には

優越的地位の濫用に該当し得る。」

といっています。

ここで違反になる要件の中心は、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっている」

という部分です。

つまり、合意があれば時短営業できること、です。

でも、これって、民法上あたりまえのことをいっているだけなので、論理的には、特別に「合意すれば時短営業に移行できる」というような条項がフランチャイズ契約書になくても、この「合意があれば時短営業できる」の要件はみたすことになります。

ということは、この要件は、本部が悪質である(約束を破った)かのような印象をあたえる意味はあるかもしれませんが、論理的には、まったく絞りになっていません。

次に、報告書は、「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し」というのがいけない、といっていますが、

「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し・・・」

といっていることからすると、合意すれば時短営業できることになっていることが、協議義務を発生させる、と考えているように読めます。

しかし、これも契約の解釈としてむちゃでしょう。

前述のとおり、合意すれば時短営業できるために、その旨の特別な条項はいりませんが、説明のわかりやすさのために、

「本部と店舗が合意した場合には、店舗は時短営業をすることができる。」

という条項があったとしましょう。

でもこの条項からいえるのは、文字どおり、「合意すれば時短営業できる」ということだけです。

この条項から、協議義務など出てくるわけがありません。

なので報告書のこの部分は、優越劣後関係にある当事者間では、劣後側が協議を申し入れれば、これに応じなければならない、応じないと優越的地位の濫用になる、ということをいっているわけです。

でも、そんなことが一般的にいえるわけがありませんし、公取委も、今までそんなことは一言もいっていないと思います。

たとえば、

「店舗が時短営業の希望を申し入れた場合には、本部はこれに対して誠実に協議するものとする。」

という条項でもあれば、協議義務が発生するでしょう。

でも報告書が協議義務発生の前提として要求しているのは、合意すれば時短営業に移行できること、だけなので、このような誠実協議義務をさだめた条項はなくても、協議義務が発生する、と解釈していることになります。

これは、労働組合法の団交に応じる義務のようなものを、法律もなく発生させているのと同じ、といえます。

さらに、ほんらいであれば、誠実交渉義務は、誠実に交渉すれば果たされるはずです(あたりまえです)。

誠実に交渉しなければならないからといって、相手方の要求をのまなければならないわけではありません。(団交も同じです。)

なので、報告書の、

「本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,

加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には」

の「不当に不利益を与える」の意味は、誠実に交渉しないという不利益をあたえる、という意味になるはずです。

でもたぶん、報告書がいいたいのはそういうことではなく、誠実に交渉に応じなかったら、24時間営業の強要が濫用になる、ということでしょう。

つまり、「不当に不利益を与える」というのは「24時間営業を強要する」ということを意味しているのです。

これはあきらかに論理の飛躍でしょう。

別の言い方をすれば、誠実に交渉する義務に違反した本部に排除措置命令を出すとしたら、「誠実に交渉せよ」という主文になるはずであり、「24時間営業を余儀なくさせてはならない」という主文にはならないはずです。

公取委は昔から、濫用にあたるかどうかを判断するにあたって交渉経緯が重要だ、ということをくりかえしいっていますが、報告書の記載はこれとはぜんぜん違います。

つまり、交渉経緯が重要だ、という場合には、交渉経緯は濫用の一考慮要素にすぎないのであって、誠実に交渉したから即OKだとか、しなかったから一発アウトだとかいうことはいっていません。

ところが今回の報告書は、あきらかに、協議を一方的に拒絶すると即アウト、つまり、協議を拒絶することが濫用成立の十分条件であるかのような記載になっているのです。

もちろん、論理的には、協議を一方的に拒絶し、かつ、不当に不利益をあたえる場合に濫用になるのだ、とよむほうが正しいですが、報告書がそのような論理的思考でこの部分を書いているとはとうてい思えません。(つまり、交渉拒絶、即アウト)

さらに根本的に問題なのは、報告書が、24時間営業強制の不利益行為性という実体的な不当性の問題を、交渉拒否という手続的な不当性の問題にすりかえていることです。

ほんとうは、24時間営業の強制が不当だ(つまり、24時間営業の強要は「不当に不利益」を与えることになるのだ)というべきところを、そうはいえないので、交渉拒否するのが不当だと、議論をすりかえているのです。

(ちなみに、24時間営業の強制が濫用にあたらないことについては、以前このブログで書きましたし日経新聞にも記事にしていただきました。)

もし、24時間営業の強要自体が「不当に不利益」をあたえることにあたるのであれば、交渉をしようがしまいが、不当に不利益になるはずです(誠実に交渉すれば濫用にならない一要素として考慮してもらえる余地はあるものの)。

このように、報告書は何重にも論理が破綻しています。

いったい、この報告書のこの部分に、公取委に出向中の弁護士や裁判官や検察官は、関与したのでしょうか?

たぶん、関与していないと思います。

というのは、こんな論理的に支離滅裂な思考を、法律家は絶対にしないからです。

(まあ最近は、司法試験を受かった人でも、憲法は法律の一種だという人がいるらしいですから、「絶対に」はいいすぎかもしれませんが。)

こういう支離滅裂な解釈変更をするところは、集団的自衛権の根拠として砂川事件を突然持ち出した安倍政権を彷彿とさせます。

ここで、独禁法に普段なじみのない他の法律分野の方々(とくに研究者の方々)に申し上げたいのは、公取委の法律解釈力のレベルはこの程度だ、ということです。

なので、独禁法は特殊(あるいは高尚)だという、怖れなのか畏敬なのか買いかぶりなのかはわかりませんが、そういう独禁法に対する特別な感情はまったく不要です。

独禁法の中でも、公取委の(ときに支離滅裂な)解釈をコピペして、これが通説だ、という研究者や実務家はいくらでもいるわけです。

なので、他分野のひとはなおさら、公取委の見解ありきで議論を進めるのも、仕方ないところなのですが、ぜひ、公取委を変に恐れることなく、自分が正しいと信じるところを発言していただきたいと思います。

今回のような話題は研究者が論文を書くには物足りない内容なので、誰も論文は書かないでしょうし、このようなブログネタになるのがちょうどいい話題なのかもしれませんが、分野をとわず、おかしいと思われた方はぜひ声を上げていただきたいと思います。

「いや、報告書は正しい。植村がおかしい」という意見も、議論が深まるきっかけになるので、ぜひお願いしたいです。

このままでは、「コンビニ24時間営業強制は独禁法違反 公取委」という新聞の見出しだけが一人歩きしそうで、非常にこわいです。

少なくとも、報告書の立場でもちゃんと交渉すれば濫用にならないので、このような見出しはミスリーディングだと思います。

でも公取からしたら、「思うツボ」なんでしょうね。

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