« 「直接の利益」とは | トップページ | 会社法A2Zに寄稿しました »

2020年8月18日 (火)

他の法律分野との協働について

調べ物で『新版注釈民法(3)』p162の90条のところ〔森田修執筆部分〕を読んでたら、

「公正競争阻害性には①自由競争減殺、②競争手段の不公正、③競争基盤の侵害という3つの契機が存在するとされている」

「②の契機は、実質的な競争制限がどの程度生じているかを直接問題とせずに、当該行為の不公正さそのものを問題とするものであり、価格維持行為などがこれに含まれる。」

と書いてあって、ひっくり返りそうになりました。

ふつう、②の競争手段の不公正といえば、ぎまん的顧客誘引とかで、価格維持行為(再販売価格拘束など)は①ですよね。

注釈民法で引用されている独禁研報告書でも、②の例としては、

①ぎまん的取引

②不当な利益提供による顧客誘引

③抱き合わせ販売

④取引強制

⑤競争者に対する取引妨害・内部干渉

があげられています。

というわけで、単純な誤解といえばそれまでなのかもしれませんが、これが天下の注釈民法で、しかも経済法学会年報に「独禁法違反行為の私法上の効力(試論)」といった論考も寄せられている森田先生ですから、たんなる誤解ですませられないように思います。

つまり何が言いたいのかというと、独禁法の用語って、部外者にはとてもわかりにくいんじゃないかと思います。

それはたんに言葉のわかりにくさだけではなくって、競争という、得体の知れないもの、あるいは、あまり法律的でないものをあつかっているからなんではないか、と思います。

(アメリカには、競争法は法律なのか、政策なのか、という議論があるらしいです。)

基礎的なミクロ経済学がわかればすっきりわかるのですが、逆にミクロ経済学を知らないと、いつまでももやもやしたままです。

しかも、かつては大半の人が、そして今でもそれなりに多くの人が、経済学を知らずに独禁法を語っていたので、独禁法の内部でも議論が噛み合わないことがめずらしくありません。

公正競争阻害性の3分類だって、独禁研報告書当時の通説に正田説を継ぎ足すという「大人の事情」でそうなっただけの分類なので、とてもいびつで、なにか深い思索があってこうなったというわけではありません。

しかもそれを公取委の研究会の報告書で発表すると、それがあたかも定説であるかのようなとらえられかたをするので困ったものです。

これは別に公取委を責めているわけでも、競争法の研究者の方々をけなしているわけでもないのですが、独禁法の特徴として、公取委という絶対的な執行官庁があり、しかも、社会的に重要な独禁法という法律をあつかっていたわりに歴史的には存在感がうすく、そのために研究者の層も他の分野に比べればうすい(しかもかつては公取OBが幅をきかせていた)、という弊害がもろに出ているように思うのです。

これが民法や刑法だったら、我妻先生とか団藤先生とか、泣く子も黙る大学者の先生がいらっしゃいますし、反面、お役所のほうには民法を執行する役所とか、刑法を執行する役所とかいうものはありません。(検察庁は訴追機関に過ぎないので、検察庁の解釈が公権的解釈だなんて誰もいいません。)

金商法とか保険法は監督官庁はありますが、商法学者の層が厚いので、金融庁の見解がすべて、みたいなことはたぶんありません。

話がそれてしまいましたが、言いたいのは、独禁法の概念というのは非常にわかりにくく、門外漢には誤解されがちだ、ということを、独禁法に携わる者は強く意識しないといけないのではないか、ということです。

そうしないと、民法と独禁法の協働なんておぼつかないと思います。

むかし、公正取引委員会の委員になられた検察官の方が、委員になって独禁法の条文を読んでみて、「条文を読んでなにがいいたいのかわからなかったのははじめてだ」とおっしゃった、というエピソードがあります。

検察官といえば、司法試験にも合格しているばりばりの法律実務家ですから、その人が、条文を読んで意味がわからない、というのは異常なことです。

でも、それは非常によく理解できます。

独禁法の概念は、ふつうの法律(とくに、あらゆる法律の基礎といっていい民法)とはだいぶちがうからです。

それにひょっとしたら、独禁法の研究者や実務家の中には、心の中で、

「独禁法を条文を読んで理解しようなんて、そもそも間違っている」

とひそかに思っているひとが、かなりいるんじゃないか、と思います。

(わたしはそれには強く異議を申し立てたくって、このブログのサブタイトルに「独禁法も法律です」と入れているのは、そのような、独禁法も一人前の、条文解釈からスタートする法律になってほしい、という思いが込められています。)

だから独禁法にたずさわる人は、門外漢にもわかるような言葉で話すように気をつけないといけないと思います。

それから、なんでも公取委の発表文ありきで議論すると、他分野との交流はままならないと思います。

注釈民法を読んで、公正競争阻害性の3分類がいい例だと思いました。

せまいサークルで議論しているだけなら、「自分たちさえわかればそれでいい」ということなのかもしれませんが、専門外の人たちに説明するときにはそうはいかないでしょう。

きちんと理論的に詰めないと、理解してもらえないに決まっています。

学説のつぎはぎの3分類説を採用するくらいなら、我妻説みたいな一本筋のとおった見解をとったほうが、よっぽど理解されやすいと思います。

司法試験科目だったせいもありますが、民法や刑法の議論が「理解できない」といった経験は、少なくとも弁護士になってからはわたしはありません。

税法も、細かいけれど概念やものの考え方自体がわからないということはありませんし、特許法はむずかしいのは技術の部分で、法律の部分は基本的に民法が土台ですので、わからないことはありません。

少なくとも、物の考え方や、議論の筋は理解できます。

でも、(独禁法をやっていながら言うのもなんですが)独禁法は門外漢にはわからないだろうなぁと、今でも思います。

今回の注釈民法の記述を見て、あらためてそのことを思い出しました。

というわけで、独禁法にかかわる人は、門外漢にも通じるような、わかりやすく、かつ、鍛え抜かれた議論を展開するよう心がけないといけないと思います。

« 「直接の利益」とは | トップページ | 会社法A2Zに寄稿しました »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 「直接の利益」とは | トップページ | 会社法A2Zに寄稿しました »

フォト
無料ブログはココログ