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2020年7月24日 (金)

サンリオに対する勧告と令和元年11月版下請法テキストの不当な経済上の利益の提供要請に関する記述について(無料サンプル)

平成30(2018)年12月12日サンリオが下請法違反で勧告を受けました

違反行為とされた行為のうち返品は下請法テキストにも載っている違反行為なのでしかたないとして、気になるのは不当な経済上の利益の提供要請について認定された以下の事実です。

「サンリオは,下請事業者に対し,

平成28年7月から平成30年8月までの間,

納品する商品と同一の商品をサンプルとして無償で提供させることにより,

当該下請事業者の利益を不当に害していた。

無償で提供させていた商品の対価は,574万3335円及び9970.08ドル(参考:それぞれの違反行為時点のレートで円換算すると118万3435円)である(下請事業者175名)。」

サンプルの無償提供が不当な経済上の利益の提供要請だとされたのですが、サンプルの無償提供なんて、世の中でふつうに行われているのではないでしょうか?

この点についての担当者解説をみると、

「サンリオは、下請事業者に対し、下請事業者から提供される試作品を確認するなどして発注を行っているが、納品時に、商品と同等のものをサンプルとして蕪償で提供させていた。

本件サンプルは、サンリオが市場に流通させる前に、商品が自社基準を満たしているのか最終チェックを行うために無償で提供させていたものであるが、あくまでもサンリオの検査のみに利用されるもので、商品の販売促進につながるといった効果はなく、また、下請事業者が商品を量産し納品する時点であるため、不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く、何ら下請事業者にメリットが生じているものではなかった。

このため、サンプルを提供することによる負担が下請事業者に生じ、下請事業者に対する不利益が生じていたことから、不当な経済上の利益の提供要請の禁止の規定に違反するものである。

無償によるサンプル提供については、「下請取引適正化推進講習会テキスト」(以下「テキスト」という。)に、違反行為事例として紹介されておらず、予見し難い行為であったかもしれないが、本件サンプルは親事業者であるサンリオの検査行為のみに使用されるもので、本来であればサンリオがその経費を負担すべきところ、下請事業者に負担させていたことから違反となったものである。」

と説明されています(公正取引821号64頁)。

しかも、同解説では、

「サンプルの無償提供について、サンリオは、事前に下請事業者と合意をして提供させていたと考えており、下請法上の問題が生じているものと認識していなかったものである。」(同頁)

とされており、無償サンプル提供についてはあらかじめ合意があったようです(書面か口頭かは、解説からは不明ですし、解説はそれを区別していません)。

わたしはこの説明はおかしいと思います。

そして勧告の結論もおそらくまちがいだと思います。

いちばんおかしいのは、

「あくまでもサンリオの検査のみに利用されるもの」

だから不当だ、という点です。

サンプルなんて、「検査のみに利用」されるのがあたりまえで、それ以外どんな用途があるというのでしょうか?

こんなことを言い出すと、サンプルの無償提供はいっさいみとめられないということになり、発注者は、有償で提供を受けた商品を分解して不良品かどうかを検査しないといけないことになってしまいます。

さらに続けて、

商品の販売促進につながるといった効果はなく

といっていますが、これも、少なくともサンプル一般にはあてはまらない、論理的に誤った認識です。

というのは、サンプルで品質に問題がないと確認できるからこそ流通にまわせるわけで、品質が確認できなければ「販売促進」どころか、そもそも「販売」してもらえない可能性があるわけであり、そのリスクを回避できていることが十分に「販売促進」であるはずです。

公取委は勝手に、「販売促進」というのを、宣伝広告とか、いわゆるプロモーションと読み替えて、サンプルには販売促進効果がないと認定しているのですが、論理的に考えれば、サンプルも上記のような意味で「販売」を「促進」するものであることはあきらかです。

あとのほうの、

「本件サンプルは親事業者であるサンリオの検査行為のみに使用されるもので、本来であればサンリオがその経費を負担すべき

というのもめちゃくちゃな言いぶんで、この理屈だと、発注者が商品の品質を確認する費用を負担すべき(品質確認は発注者の義務である)ということになってしまいます。

もちろんふつうはそんなことはありえなくて、納入する商品の品質を確保する義務を負うのは下請事業者でしょう。

改正民法でも、売買の瑕疵担保の規定である565条が559条で請負に準用される結果、請負契約では請負人が瑕疵担保責任を負います。

なので、「検査の費用は発注者が負担すべき」というのは、おかしいと思います。

しかも下請法は基本的に当事者の合意で覆せない強行法規なので、こういうことを言い出すと、下請事業者にサンプルの無償提供をさせることがいっさいみとめられなくなってしまいます。

以上の理由だけで不当な利益提供になるとするとさすがに公取委もまずいと思ったのか、

「下請事業者が商品を量産し納品する時点であるため、不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く

という説明がなされ、これが本件で唯一特殊な事情といえるかもしれません。

しかし、これも、ひかえめにいって分析が甘いです。

というのは、この解説を文字どおりに受け取るならば、

「商品を量産し納品する時点」

でサンプルを無償提供させることはできないことになってしまいます。

でもほんとうに必要なのは、量産に入ってからの、量産ラインで製造した商品の(少なくとも最初の納入時の)検査なのではないでしょうか?

これだと、試作品段階でしかサンプル無償提供はみとめられないことになってしまいます。

さらにしつこく繰り返せば、

サンリオの検査のみに利用される」

とか、

商品の販売促進につながるといった効果はなく

といった理由で下請法違反になるなら、試作段階でのサンプル提供も下請法違反になってしまいます。

なのでもしこれが、量産品が継続的に納品されるようになってからもその都度サンプルが要請されていたということなら、

不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く

というのは、場合によっては正しい認定かもしれません。

でも、この解説は、量産品だから大量に納品するのだとか、量産品の不良は一律に発生するのだとかいう認識を前提にしており、そもそも「不良品の大量発生を未然防止する」効果がなければだめなのだと考えているようで、やはり、少々おかしいです。

量産品だって、ほんのちょっとしたことで、一部に不良品が発生することはいくらでもあるでしょう。

むしろ、量産品の全体に発生する不良品のほうが、少ないかもしれません。

というわけで、「不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く」という理由で下請法違反になるというのも、やはり一般論としてはまちがいだと思います。

ただ、サンリオの事件では、ほんとうにサンプルとしては形骸化していて、およそ意味のない、たんなる長年の慣行にもとづくサンプル提供だった、ということなのかもしれません(そうだといっているわけではなく、そのように考えないと、この勧告を正当化できない、ということです)。

ですが、私の意見では、このような、サンプルとして意味があるのかどうかという判断を公取委がおこなうべきではないと思います。

というのは、そんな品質管理についての必要性の判断を公取委ができるわけがないからです。

当事者が多少なりとも必要性があると考えているのであれば、公取委はそれをくつがえす積極的な証拠を提示すべきでしょう。

ただこれも私がこれまで公取委や中企庁と交渉してきた経験からすると、いずれも、そんな緻密な立証とか取引の実態とかを考えている様子がありません。

なので、こういうサンプル提供などのビジネス上の実務の必要性の微妙なところに下請法が踏み込むのには、私は反対です。

じっさい解説でも、

「無償によるサンプル提供については、「下請取引適正化推進講習会テキスト」(以下「テキスト」という。)に、違反行為事例として紹介されておらず、予見し難い行為であった

とまで書かれており、前例のないケースであったことがうかがえます。

こういう案件は、いきなり勧告を出すのではなくて、まずはテキストに載せて、講習会とかでも「こう変わりましたよ」と説明をして、注意の実績を重ねてから、勧告にいくべきでしょう。

いきなり勧告が出てしまった以上、今後は同様の行為が取り締まりの対象になることはあきらかで、前記解説でも、本件のような無償サンプルは、

「サンリオのみならず、他の事業者間においても商習慣として行われていることが十分に考えられるところ、下請法が及ぶ範囲の取引だからこそ発覚したものである。」

と述べられており、今回が特殊なケースではないとの認識が示されています。

(ところで、「下請法が及ぶ範囲の取引だからこそ発覚したものである」というのは、下請法がおよばない取引でも同様のことはやってはいけないかのような言いぶりですが、そんなことはありません。下請法以外では、優越的地位の濫用というきわめてまれな例外をのぞき、同様の行為はなんら禁止されていません。)

下請法テキストも令和元年版から、

「⑤ サンプルの提供要請親事業者

H社は,キャラクター商品の製造を下請事業者に委託しているところ,下請事業者に対し,納品する商品と同一の商品をサンプルとして無償で提供させた。」(p81)

というのが違反行為の例に加わりました。

これなんか読むと、量産段階だとか何だとか、担当者解説でいわれていた理由付けもすべて吹っ飛んでしまって、ともかくサンプルは一切だめとしか読めない書きぶりになっています。

これだと検査の必要性があるサンプルでもだめということになり大問題だと思いますが、書かれてしまったものはしかたありません。

(わたしなら、テキストに書かれてしまってもあきらめずに必要性を主張して争いますが、おおかたの人はあきらめるでしょう。)

さらにいえば、検査用のサンプルなのか、それ以外(たとえば展示用)のサンプルなのかについても、区別せずに一律にだめとしているのも問題です。

この点については以前から、「下請かけこみ寺事例集」で、展示会用のサンプルについて無償提供要請にあたる(事例7)とされていました。

この事例集は、下請テキスト以上に分析が甘かったり下請事業者寄りだったり間違っていたり、いろいろ問題があるのですが、そんな事例集ですら展示会用のサンプルで踏みとどまっていたのです。

(でも展示会用のサンプルなんて、上記サンリオの担当者解説だと、むしろ「商品の販売促進につながるといった効果」があるんじゃないか、と皮肉の一つも言いたくなります。理由付けをするときは、常に、当該事例を離れた一般的妥当性を考えないといけません。リーガルマインドの基本中の基本です。)

検査用のサンプルもだめなんて、中小企業庁ですらびっくりしたのではないでしょうか。

なので事業者の方々へのアドバイスとしては、「下請法では、公取委は突然こういうことをやってくるので、注意して下さいね」ということしかできません。

もちろん、量産段階に入ってからの無償サンプルは禁止です。

あるいは、サンプルの必要性をきちんと説明できる資料を残しておくべきです。

(テキストは検査の必要性の有無を問わず違法だという書きぶりですが、やはり説明できるようにしておくべきでしょう。)

それで、「よく考えてみたら必要性がなかったね」ということなら、この機会にやめてしまうのもいいでしょう。

もちろん、サンプルとして提供されたものを検査にもちいず商品として販売していたりしたら、検査の必要があったということ自体うそではないか、ということになるので、サンプルはちゃんと検査に使わないといけません。

もし余分にサンプルをもらう必要があるなら、「検査をした結果、場合によってはさらに追加検査する必要がある可能性がある」など、よぶんにもらう必要性についても説明できないといけません。

今回はサンプルでしたが、これを一般化すると、下請事業者から何か経済上の利益を受けるときには、常にそれが不当なものでないのかチェックしないといけない、ということです。

商慣習として、なんとなくなぁなぁでやっていることって、たぶん世の中では多いと思いますが、こういうのって、やってる当人がぜんぜん問題意識がないので、法務からすると吸い上げるのがたいへんですが、できるだけ具体的に聞いて、情報を収集するしかありません。

最後に申し上げたいのは、最近の公取委の下請法運用は、ほんとうに、こういうよく考えていない(ということが担当官解説をよんでよくわかりました)運用が目立ちますので、担当官にだめだといわれても、ねばりづよく交渉して下さい。

じっさい、それで結論がくつがえることはあります。

今の時代、「おかみの言うことは常に正しい」なんて思っている事業者なんて少数派だと思いますが、最近の下請法はとくにそう(公取委が常に正しいわけではない、あるいは、公取委の解釈が突然かわる)なので、十分気をつけて下さい。

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