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2020年7月12日 (日)

不可抗力により成果物が納入できなかった場合の下請代金の支払い義務

コロナ禍で下請事業者が原材料や部品を調達できないなど、下請事業者の不可抗力(※)で製造委託等の成果物を親事業者に納入できない場合に、親事業者は、それでもなお下請代金を支払う義務を負うでしょうか。

(※なお、新型コロナが原因だからといって常に不可抗力になるわけではなく、法務省のサイトでは、「新型コロナウイルス感染症の影響で,商品を仕入れることができなくなった場合の留意事項について」として、

「商品を仕入れて顧客に売却する契約を締結していたところ,商品を仕入れることができなくなり,顧客に契約どおり商品を引き渡すことができなくなった場合には,契約上の義務を履行することができなかったことの責任(債務不履行責任)として,相手方に対する損害賠償義務等を負うこととなります。

もっとも,新型コロナウイルスの影響があったために債務者に帰責事由がないと評価される場合には,その責任を負いません。帰責事由の有無の判断は事案ごとに判断されるものであり,一概にはいえませんが,個々の契約の性質,目的,締結に至る経緯等の諸事情や社会通念を勘案して判断されます。」

と説明されており、ケースバイケースの判断ということになっていますが、まあコロナがこれだけ世界中で騒動になれば不可抗力であることが多いでしょうし、日本企業は基本的にまじめなので自分の怠慢を不可抗力だと言い張ることも少ないでしょうから、以下では一応、コロナは不可抗力であるという前提で説明します。)

この点については、下請代金を支払う義務はないと考えてよいでしょう。

下請法4条1項3号では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」

が親事業者の禁止行為とされています。

これを文字通り読むと、「下請事業者の責に帰すべき理由がない〔=不可抗力〕のに、下請代金の額を減ずること」はできず、代金の減額ができないのなら当然、代金全額の支払い拒否(=100%減額)もできない、ということになりそうです。

ですが、目的物の納品を受けていないのに代金だけは支払わないといけないなんて、どう考えても非常識でしょう。

そんなことを下請法が強制しているとはとうてい思えません。

(もちろん、契約で不可抗力なら代金支払義務はあると定めておけばできるのでしょうが、実務上、下請事業者にそこまで有利な契約があるはずもなく、特に特約がない場合にも代金全額の支払いを下請法が強制するのか、というのがここでの問題です。)

実際、令和元年版下請法テキストp52では、

「「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして,下請代金の額を減ずることが認められるのは,具体的には,以下の場合に限られる。

(ア) 下請事業者の責め〔ママ〕に帰すべき理由(瑕疵の存在,納期遅れ等)があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合に,受領拒否又は返品をして,その給付に係る下請代金の額を減ずるとき。〔以下省略〕」

とされており、「瑕疵の存在」や「納期遅れ」が、当然に「下請事業者の責に帰すべき理由」にあたることを前提にしているとしか読めない解説がされています。

つまり、不可抗力による瑕疵や不可抗力による納期遅れを「下請事業者の責に帰すべき理由」にあたらないという解釈なのであれば、この部分は、

「下請事業者の責に帰すべき理由(下請事業者の過失による瑕疵の存在、下請事業者の過失による納期遅れ等)」

とでもしたはずであり、何も限定を付けずに「瑕疵の存在、納期遅れ等」を下請事業者の責に帰すべき理由の例として挙げている以上、瑕疵や納期遅れは例外なく「下請事業者の責に帰すべき理由」にあたると考えるほかないと思います。

このように、瑕疵や納期遅れという外形的によって下請事業者の責に帰すべき理由かどうかを決定するのは、形式的に解釈すべき下請法の趣旨にも合ったものだと思います。

もし瑕疵や納期遅れ(その極端な例としての納入不履行)があったにもかかわらず、さらに下請事業者の過失の有無を判断しなければならないとすると、公正取引委員会が過失の有無という民法上のきわめて微妙な判断をしなければならないことになり、実務上、とうてい無理です。

公正取引委員会と交渉した私の過去の経験からですが、公正取引委員会の下請法の運用をしている人たちは、民法上、どの時点で申し込みの意思表示があって、どの時点で承諾の意思表示があったのかすらまともに認定できない(する気がない)くらい、民法に無頓着な人たちなので、そういう人たちが民法上の過失の有無を判断するつもりがあるとはとうてい思えませんし、おそらくその能力もないと思います。

というわけで、下請法上は、瑕疵や納期遅れがあれば当然に下請事業者に責に帰すべき理由があったことになると考えて差し支えないと思われます。

とすると、仮にコロナの不可抗力のために原材料や部品が調達できないために下請事業者が委託物を納入できない場合も「責に帰すべき理由」があり、親事業者は代金を支払う必要はないと考えられます。

ちなみに公正取引委員会から公表されている「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」でも、この、コロナによる原材料調達不能という、もっともありそうな事例についてまったく触れられていません。

このQ&Aをみればわかりますが、全体的に(いつもながら)とても下請事業者寄りの説明がなされています。

それにもかかわらず下請事業者が最も困りそうな、しかもコロナで典型的にありそうな、原材料調達不能の場合についてなにも触れていないということは、公正取引委員会としても、「コロナで原材料が調達できないために製造委託物を納品できない場合には、親事業者は、納品を受けなくても代金は全額支払う義務がある」などとは、はなから考えていない(論点になるとすら気づいていない)というべきでしょう。

ふつうの経済状況では、不可抗力による納入不能なんてまず問題にならないのですが、今回のコロナのような異常事態があると、こんなところに隠れた論点があることがわかる、という例だと思います。

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