容易に取り外し可能なマークと製造委託
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』p29の「委託」の説明に、
「・・・汎用品の購入に際して、しばしば問題となるケースとして、受託者が通常販売している物品にマークの取付けなど一定の加工を加えて納品させる場合が挙げられるが、一般的には容易に取り外して汎用品とすることができるようなケースを除き、マーク等の取付けであっても製造委託として下請法の対象となる。」
という記述があります。
この、マークなどの加工部分を容易に取り外して汎用品とすることができるケースは製造委託にはあたらないという記述は、下請法テキストにも同種の記載がなく、この書籍の独自の記述です。
公取委職員の書籍で、このように、下請法テキストにない(極論すれば、下請法テキストに反する)記載があるのはめずらしいですが、実務上はこれで救われるケースもそれなりにありそうなので、ありがたいです。
正直、これをみたときは、こんな大事な記載がこの本にあるのかと知って、とてもびっくりしました。
というのは、その当時相談を受けていた案件でまさにこの例外が使えそうだったからです。
理屈としてはきっと、そもそもなぜ製造委託に汎用品は含まないのかという理由にさかのぼり、他に転売できないため発注者が強い立場に立ちがちであるから、という認識のもと、それなら反対に、簡単に転売できる場合には「委託」にあたらない、という発想だと思います。
なので、これはこれで一貫した考え方だと思います。
ですが、この考え方をあてはめると、実質的に問題がある場合もあるのではないか、あるいは、実はほとんどの場合問題なのではないか、という気もします。
(まあ公取委の課長さんがこれでいいというのだから、めくじら立てることもないのですが。)
たとえばマークを容易に取り外せる場合でも、マーク自体は発注者の特注品であるのが通常と思われ、そうすると、少なくともマーク自体(マークのデザインではなく、ワッペンなど、物理的なマーク)は汎用品とはいえないのではないかと思われますが、上記記載では、そういう場合でもマークを容易に取り外せるなら全体として製造委託でなくなる(マークの部分だけを切り出して製造委託だとはいわない)、といっているように読めます。
そうでないと、上記記載の適用場面がほとんどなくなってしまい、無意味な記載になってしまいます。
という疑問はあるのですが、それでも、この記述は実務上重要だと思います。
たとえば実務上の対応としては、発注者のロゴを汎用品に入れさせてオリジナル商品とする場合、商品自体に刻印(焼き印)で発注者のマークを入れたりすると転売できないので製造委託になりますが、すぐに取り外せるようなかんたんなはめ込み式でマークを入れる場合だと、製造委託にあたらない(よって下請法の対象にならない)、ということになりそうです。
その下請業者が、異なる発注者ごとに、同じ商品に異なるはめ込み式のマークをいれて、各発注者のオリジナル品として納品していたら、なおよいでしょう。
この記載が次回改訂で消去されないことを祈ります。
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