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2020年7月25日 (土)

サトープリンティングへの勧告の担当者解説の疑問(原料発注システムの利用料控除は減額か)

サトープリンティングに対する勧告(平成30年3月26日)の担当官解説(公正取引812号72頁)に、気になる記述があります。

この事件で減額とされたものの1つに、「生産システム利用料」というのがありました。

これについて担当官解説では、

「サトープリンテイングは、下請事業者に対し、発注書面の交付に代えて発註システムにより発注数量、発注単価、納期等を入力した発注データを送信しており、また、発注に応じて有償支給する原材料に係るデータについても送信していた。

下請事業者は当該システムにより発注されたデータを確認するとともに、生産に必要な原材料の手配を当該システムで、行っていたところ、サトープリンテイングは「生産システム利用料」の名目で当該発注システムの開発費用と保守改修費用及び原材料の発注に係る費用について一定額を、当該システムを利用している下請事業者の毎月の下請代金から差しいていた。

サトープリンテイングが下請事業者に対して行う発注業務や下請事業者に有償支給する原材料の発注業務は、本来、親事業者の責任において行うべきもので、これらの費用は親事業者であるサトープリンテイングが負担すべきものである。」

とされ、なので生産システム利用料は下請事業者が負担すべき費用でないから減額だ、といっています。

最後の文の、親事業者が下請事業者に対して行う発注業務が親事業者の費用負担でおこなわれるべきというのはいいのですが、問題はその後の、

下請事業者に有償支給する原材料の発注業務は、本来、親事業者の責任において行うべき

という部分です。

これって、逆ではないでしょうか?

つまり、原材料は下請事業者→親事業者、と発注するのであり、発注者は下請事業者なのだから、当該発注業務は下請事業者の責任においておこなうのがむしろ当然なのではないでしょうか。

もちろん、原材料の納入業務は原材料引き渡し義務を負う親事業者がその責任においておこなうべきですが、ここで解説が述べているのはあくまで「原材料の発注業務」です。

このように、まず形式論として、原材料の発注業務は発注者(=下請事業者)の責任でおこなうものではないか、というのが疑問の1点目です。

次に取引の実態として、原材料の有償支給において原材料の発注を発注者である下請事業者の裁量でおこなっているケースなんていくらでもあります。

下請事業者のほうが手元に原材料を置いているので、在庫量の管理も容易であり、親事業者としては、原材料の在庫管理に逐一口を出すのではなく、下請事業者の好きなときに好きなだけ買ってもらったほうが楽だし、合理的なわけです。

また取引によっては、購入した原材料を下請事業者が当該親事業者への納品以外に使ってもいい(発注するときに、当該親事業者へ納品するための原材料と他の発注者に納品するための原材料をいちいち区別しない)ということも、いくらでもあります。

どうも公取委の発想は、原材料と発注品が常に当事者間で1対1で対応していて、常に単発のペアで発注され、しかもその全体を親事業者がコントロールしている、というような、実務ではありえないわけではないけれどどちらかというと少数派の、非常にプリミティブな場合を念頭に置いているような気がします。

そうでないと、原材料の発注業務は「本来、親事業者の責任において行うべき 」なんていうことを軽々しく言えるはずがありません。

善意に解釈するならば、サトープリンティングのケースではたまたま親事業者が原材料まで完全に管理していたケースなのかもしれませんが、それならそういう事実認定が必要なはずだし、そのあたりをすっ飛ばしていきなり「受注者が発注業務の責任を負うべき」とか言われたらたまりません。

そしてたぶんこのような善解はほんとうに善解であって、実際には、納入商品と原材料を一体にみて、「これは減額だ」と決めつけてしまっていたので、受注者が発注業務の責任を負うべきだという説明の不自然さは、担当官の意識にも上らなかったというのが実態ではないかと思います。

仮にこのような(受注者が発注業務の責任を負うべきとの)説明を正当化するような事情があったとしても、それを言葉に表さないと「解説」の意味がありません。

そして、書いた文字はいったん書いてしまった以上は書いた人の頭を離れてしまうのですから、字づらだけをみて意味がとおるかを、ちゃんと読みなおさないといけません。

下請法テキストp54には、システム利用料についての解説があって、そこでは、

「システム利用料等の徴収

親事業者が下請事業者に電磁的記録の提供を行うこととした場合に,

システム開発費,保守費,発注情報の提供に要する費用(3条書面の交付義務は親事業者にあることに留意)等の本来親事業者が負担すべき費用をシステム利用料等として下請代金から徴収している場合・・・には,

下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることに該当する。」

と説明されています。

ここでも、「3条書面の交付」つまり発注が、親事業者の義務であることを、システム利用料を下請事業者に負担させるべきではないことの根拠にしています。

有償支給材の発注業務も親事業者の責任で行うべきなどとは読み取れません。

私は問題の本質は、発注品の発注業務だからとか原材料の発注業務だからとかいうことが問題なのではないと思っています。

そうではなくて、問題の本質は、親事業者が自分のシステムをとおしてでしか原材料の受注を受け付けていない(いわば親事業者の自己都合である)から、ということだと思います。

もし原材料の発注を下請事業者の書式の発注書でおこなうことがみとめられていて、親事業者のシステム利用はあくまで任意であって、でも親事業者のシステムを利用すると原材料を値引きする(事務の手間を考えれば合理的でしょう)、というアレンジであれば、そのようなシステム利用料を徴収しても「減額」ということにはならないのではないでしょうか。

ただ、そもそも親事業者が自己のシステムを利用させることを親事業者の自己都合だ、とまで言い切っていいのかは、(自分で言っておきながらなんですが)妥当性に疑問があります。

つまり、事務処理の便宜だとか取引費用の削減だとかは双方にメリットがあるわけですから、すべて親事業者が取引費用削減コストを負担すべきだというのは経済合理性がないと思います。

でも、経済合理性を無視して下請事業者を保護するのが下請法ですから、まあ下請法の解釈としては、「親事業者の自己都合だ」といいきってしまうほうが、おさまりがいいのではないか、といった程度の意味です。

こういう、言葉尻をとらえたような、重箱のすみをつつくような議論って、とても大事です。

法律解釈にかぎらず、言語をもちいたあらゆるコミュニケーションは、このようなあいまいな表現をもちいることにあります。

(法律解釈は、立法者の意思を法律の適用を受ける者が読み取る、一種のコミュニケーションです。)

極論すれば、表現にもちいられる語(あるいは名辞。ドイツ語でNamen)が指示する対象を、1個1個丹念にみていき(言語の意味は言語が指示する対象であるという「意味の対象説」を参照)、それぞれの名辞と他の名辞の関係をみていけば、法律の文理解釈のような比較的単純な(論理的な)コミュニケーションにおける誤解はたいてい避けられます。

というわけで、解説を書かれる担当官の方々は、ぜひ、言葉尻にまで気を配って書いていただければと思います。

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