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2020年7月

2020年7月28日 (火)

容易に取り外し可能なマークと製造委託

鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』p29の「委託」の説明に、

「・・・汎用品の購入に際して、しばしば問題となるケースとして、受託者が通常販売している物品にマークの取付けなど一定の加工を加えて納品させる場合が挙げられるが、一般的には容易に取り外して汎用品とすることができるようなケースを除き、マーク等の取付けであっても製造委託として下請法の対象となる。」

という記述があります。

この、マークなどの加工部分を容易に取り外して汎用品とすることができるケースは製造委託にはあたらないという記述は、下請法テキストにも同種の記載がなく、この書籍の独自の記述です。

公取委職員の書籍で、このように、下請法テキストにない(極論すれば、下請法テキストに反する)記載があるのはめずらしいですが、実務上はこれで救われるケースもそれなりにありそうなので、ありがたいです。

正直、これをみたときは、こんな大事な記載がこの本にあるのかと知って、とてもびっくりしました。

というのは、その当時相談を受けていた案件でまさにこの例外が使えそうだったからです。

理屈としてはきっと、そもそもなぜ製造委託に汎用品は含まないのかという理由にさかのぼり、他に転売できないため発注者が強い立場に立ちがちであるから、という認識のもと、それなら反対に、簡単に転売できる場合には「委託」にあたらない、という発想だと思います。

なので、これはこれで一貫した考え方だと思います。

ですが、この考え方をあてはめると、実質的に問題がある場合もあるのではないか、あるいは、実はほとんどの場合問題なのではないか、という気もします。

(まあ公取委の課長さんがこれでいいというのだから、めくじら立てることもないのですが。)

たとえばマークを容易に取り外せる場合でも、マーク自体は発注者の特注品であるのが通常と思われ、そうすると、少なくともマーク自体(マークのデザインではなく、ワッペンなど、物理的なマーク)は汎用品とはいえないのではないかと思われますが、上記記載では、そういう場合でもマークを容易に取り外せるなら全体として製造委託でなくなる(マークの部分だけを切り出して製造委託だとはいわない)、といっているように読めます。

そうでないと、上記記載の適用場面がほとんどなくなってしまい、無意味な記載になってしまいます。

という疑問はあるのですが、それでも、この記述は実務上重要だと思います。

たとえば実務上の対応としては、発注者のロゴを汎用品に入れさせてオリジナル商品とする場合、商品自体に刻印(焼き印)で発注者のマークを入れたりすると転売できないので製造委託になりますが、すぐに取り外せるようなかんたんなはめ込み式でマークを入れる場合だと、製造委託にあたらない(よって下請法の対象にならない)、ということになりそうです。

その下請業者が、異なる発注者ごとに、同じ商品に異なるはめ込み式のマークをいれて、各発注者のオリジナル品として納品していたら、なおよいでしょう。

この記載が次回改訂で消去されないことを祈ります。

2020年7月27日 (月)

レリアンに対する勧告への疑問

婦人用アパレル販売のレリアンが2020年2月14日、下請法違反で勧告を受けました

しかし、私はこの勧告はまちがいだと思っています。

部外者なので細かい事実関係がわからないので、断定的なことは言いづらいのですが、それでも、公開情報やいろいろ漏れ伝え聞くところも総合すると、本件は製造委託にはあたらないと思います。

担当官解説(公正取引835号70頁)では、

「レリアンは、下請事業者に対し、商品のコンセプトについてのディレクションを行い、サンプル品の提出を求め仕様等についての協議を行った後、商品化が決定した旨を下請事業者に連絡し、レリアンブランドのタグを付して納品させていることなどから、下請法上の製造委託に該当するものである。」

と解説されています。

しかし、これだけみても、果たしてこれで製造委託と言えるのか疑問がわいてきます。

製造委託における「委託」の定義は、

「事業者が他の事業者に対し,給付に係る仕様,内容等を指定して物品等・・・の製造(加工を含む。)を依頼すること」(下請法テキスト令和元年版p5)

です。

そこでまず、担当官解説の「商品コンセプトについてのディレクション」ですが、まず、目的語が、「商品コンセプト」という、きわめて漠然としたものです。

これだけで、委託の定義の「仕様、内容等」にはあたらなさそうなことがわかります。

さらに、動詞が、「ディレクション」という、なぜこんな大事な事実認定で無意味な外来語が使われているのか疑問がわくような単語が使われており、これ自体、商品コンセプトの「指定」ですらなかった(「指定」という言葉を使える実態がなかった)ことを、強くうかがわせます。

ちなみに「ディレクション」を辞書で引くと・・・なんと広辞苑にも精選版日本国語大辞典にも載っていません!

広辞苑にものっていない外来語なんて、法制局をとおるかとおらないかとか言うレベルの話ではなくて、お役所の(いちおう「個人の見解」ではありますが)文書としてどうなんでしょう??

(そういえば、小泉ポエム環境大臣の使った「セクシー」の意味を、安倍内閣が閣議決定してましたね。「ディレクション」の意味も(公正取引委員会の)委員会で決定したらどうでしょうか。)

しかたないのでdirectionをOxford Advanced Learner's Dictionaryで調べると、

「instructions about how to do sth, where to go, etc.」

と説明されており、用例として、

「Simple instructions for assembling the model are printed on the box.」

というのが載っています。

ついでにinstructionを調べると、1つめの意味として、「instructions [pl.] ~(on how to do sth)」と前置きした上で、

「detailed information on how to do or use sth」

と説明され、類義語としてdirectionsがあげられています。

さらにinstructionの別の意味として、「[C. usually pl.] ~(to do sth)|~(that ...)」と前置きした上で、

「something that sb tells you to do」

と説明され、類義語としてorderがあげられています。

これをみると、directionには、「命令」というニュアンスはないことがわかります(instructionの1つめの意味でdirectionを類義語とする説明では、instructionはあくまで「information」なので)。

instructionの2つめの意味は類義語でorderが上がっているくらいなので命令のニュアンスがありますが、それはあくまでinstructionの意味であって、directionの意味ではありません。

ほかには、Longman dictionary of contemporary Englishでは、

「1 [TOWARD] [C] the way something or someone moves, faces, or is aimed

2 directions [plural] instructions about how to get from one place to another

3 WAY STH DEVELOPS [C] the general way in which someone or something changes or develops

4 CONTROL [U] control, management, or advice (以下省略)」

という感じです。4番目のcontrolがやや、「指示」のニュアンスを感じますが、それでも、managementやadviceと並列してのcontrolですから、ちょっと(だいぶ)「指示」とは違いそうです。

私がアメリカに留学していた当時にいちばんdirectionというのをよく使ったのは、Googleマップ(当時はマップクエストがメジャーでしたが)で調べる「道順」の意味です。

なので、「命令」というより、「道順を教えてもらう(あるいは教えてあげる)」という感じです。

あるいは「方向付けを与える」という感じでしょうか。

ちなみにリーダーズ英和辞典でdirectionを引くと、

「指揮、指導、監督、管理」

といった意味であり、ここでも「命令」という意味はなく、「委託」の定義で使われている「指定」という意味はありません。

(ただし公平を期すためジーニアス英和辞典では、4番目の意味として、「〔機械・薬などの〕使用法、説明(書)〔for〕; 〔・・・に関しての/・・・せよという〕(方向)指示、指図;指令」というのが出てきますが、「方向」の指示、つまり、「あっち」という指さし、のことなので、かなり弱いと思います。ランダムハウス英和大辞典でも5番目に、「(・・・についての)(・・・せよとの)指示、指図、指令、命令・・・;(・・・へいく)行き方を教えること」というのが出てきます。ただ、4番目とか5番目でだいぶ下の方ですし、目的語にとるのが「・・・せよとの」なので、「コンセプト」には合いにくいと思います。それに、こういう場合、英和辞典はだいたいにおいてあてになりません。)

さらに、委託の定義で使われている「指定」を広辞苑で引くと、

「それとさし定めること」

とあり、精選版日本国語大辞典では、

「人、場所、時間、事物などを特にそれと定めること」

とあり、あきらかに「こちら(=指定者)が決める(=定める)」というニュアンスです。

そこで疑問がわくのが、担当官解説では、「コンセプトについてのディレクション」とされている点です。

婦人服の「コンセプト」なんて、具体的に「定める」ことができるのでしょうか?

そういう意味で、「コンセプトについてのディレクション」という表現は、動詞と目的語がいまいち噛み合っていないように思います。

たぶんそのせいで、「コンセプトのディレクション」というと具合がよくないので、「の」ではなく「についての」としたのだと思いますが、これを委託の定義の「指定」に置き換えられるかというと、「コンセプトについての指定」という、なんともけったいな日本語になってしまいます。

そして、前述のようにdirectionのニュアンスは「方向付けを与える」という感じなので、それもふまえて「コンセプトのディレクション」をニュアンスを汲みながら翻訳すると、「コンセプトの方向付け」というのがぴったりです。

でも、「コンセプトの方向付け」だけで「仕様、内容等の指定」だというのは、ちょっと意味を広げすぎだと思います。

というわけで、「コンセプトについてのディレクション」というのは、どう転んでも、「仕様、内容等の指定」とはなりえないと思われます。

ついでに、「コンセプト」も辞書で引くと、

「企画・広告などで、全体を貫く統一的な視点や考え方」(広辞苑)

「広告・企画・新商品などの全体をつらぬく、新しい観点・発想による基本的な考え方」(明鏡国語辞典)

と説明されています。

これをみても、「コンセプト」というのは、統一的あるいは基本的な考え方・視点のことなので、そもそも「指定」するようなたぐいのものではありません。

ということは、「コンセプトの指定」というのはかなり無理のある日本語で、委託の定義の「仕様、内容等の指定」の「等」に「コンセプト」も入るのだ、というのもかなり無理な解釈だと思われます。

きっと担当官解説で「ディレクション」という、広辞苑にすらのっていない外来語を使っているのは、レリアンが社内でじっさい使っていた言葉をそのまま使ったのだと想像されます(役人というのはそういうものです)。

そして、そのときにたぶん担当官は、「ディレクション」=「指示」というように、頭の中で読み替えたのだと思われます。

しかし上述のように、「ディレクション」≠「指示」ですし、「コンセプト」は「指示」の目的語にはなりにくいです。

というわけで、この「コンセプトについてのディレクション」という言葉は、担当官が、言葉の意味も取引の実態も先入観にもとづいて解釈してしまった可能性が濃厚です。

というのは、この件についてレリアンが出しているプレスリリースに添付されている取引先の声明文によると、

「むしろ商品は我々納⼊業者が企画⽴案してレリアンの店頭情報を参考に製造しレリアンにおいて販売しているという関係です」

とされており、企画立案は納入業者がおこなっていたことがわかります。

(ちなみにこの件については納入業者10社がこの声明文を出すと共に、自分たちは不利益をうけていないという記者会見までおこなっており、本件勧告が実質的にもおおいに問題のあるものであったことを強く印象づけます。

「“下請けいじめ”ない」 23億円分のレリアン下請法違反勧告に納入業者10社が異例の声明」)

さらに伝え聞いたところでは、本件では商品は納入業者が企画提案し、レリアンは店頭データに基づく助言をするが、仕様書を出すわけではなく、売れ筋情報、顧客の好むテイストをフィードバックするだけだった、ということです。

これは上記声明文にも合致し、たぶん正しいのでしょう。

ここまで聞くと、「なんでこれが製造委託なの??」と思ってしまいます。

次に、担当官解説であげられている「サンプル品の提出を求め」というのも、「委託」とは関係がありません。

サンプル品の提出なんて、通常の売買でも十分ありうることだからです。

次に、「仕様等についての協議」というのも、「委託」にはなりません。

「協議」ではなく「指定」をしないと「委託」にはならないからです。

「ここちょっとこうしたらいいんじゃないかなぁ」みたいな意見をいったら「指定」だ、なんて、意味を広げすぎです。

次に、「商品化が決定した旨を下請事業者に連絡」というのも、たんに、レリアンが「商品化する」という意思決定を伝えた、というだけであり、とうてい「委託」の根拠にはなりえません。

最後に、「レリアンブランドのタグを付して納品させている」というのも、「委託」の根拠になりえません。

これも伝え聞くところでは、レリアンは公取委から、「ブランドを使わせている以上、製造委託だ」といわれたそうなのですが、これもとんでもない誤解です。

たしかに、自分のブランドを使わせている場合には、仕様等の指定もすることが多いかもしれませんが、常にそうだというわけでは決してありません。

とくに、アパレルのような、メーカーのほうに製造ノウハウがあって、販売店はブランドと売れ筋情報を持っているだけ、という業界では、販売店のブランド名を使わせても販売店が仕様の指定をしないことは、十分にありえます。

というわけで、上記担当官解説は、それ自体委託を根拠づけるとはいえないような事実をよせあつめ、

「商品のコンセプトについてのディレクション」

とか、

「サンプル品」

とか、

「仕様等についての協議」

とか、

「商品化(の)決定」

だとか、

「タグを付して納品させている」

とか、ともかくレリアンに主導権があるかのように印象づける表現を並べているだけで、まったく論理的ではありません。

そもそも製造委託の概念は下請法の適用を画するための基本概念であり、下請法は適用対象の明確化を旨としますから、これだけの間接事実をかき集めないと「委託」が認定できないとうこと自体が問題で、端的に、「仕様・内容等の指定」があったかどうかだけを問題にすべきなのです。

前記プレスリリースによると、レリアンも納入業者も、下請法の要件には形式的には該当するという立場ですが、私に言わせれば、下請法の要件にそもそもあたらないと思います。

たぶん公取委は、ブランドを使わせているということで製造委託だという先入観を持っちゃったんでしょうね。

こうなると、「金槌を持っているとなんでも釘に見える」(When you have a hammer, everything looks like a nail.)というわけで、どんな事実でも製造委託の根拠になるように見えたのでしょうね。

そうではなくてシンプルに、「仕様等の指定(=さし定めること)」にあたるのかをみればよかったのにと思います。

わたしが最近あつかった案件で、発注者のブランド名を付けている似たような案件があって、公取委とだいぶ交渉しましたが、結論は製造委託にあたらず、でした。

その件は、ぜんぶに発注者のブランド名が付いているわけではなくて、一部だったのですが、全部だったらレリアン同様、公取委は製造委託と言っていたかもしれません。

というくらい、レリアンのような先例が生きていると、これから先どこまでも限界が微妙な(少なくとも公取委自身には微妙に見える)判断を続けていかざるをえなくなることが目に見えています。

ここはまちがいをみとめて、シンプルに「指定」にあたるかどうかをみていくプラクティスにもどすべきだと思います。

2020年7月25日 (土)

サトープリンティングへの勧告の担当者解説の疑問(原料発注システムの利用料控除は減額か)

サトープリンティングに対する勧告(平成30年3月26日)の担当官解説(公正取引812号72頁)に、気になる記述があります。

この事件で減額とされたものの1つに、「生産システム利用料」というのがありました。

これについて担当官解説では、

「サトープリンテイングは、下請事業者に対し、発注書面の交付に代えて発註システムにより発注数量、発注単価、納期等を入力した発注データを送信しており、また、発注に応じて有償支給する原材料に係るデータについても送信していた。

下請事業者は当該システムにより発注されたデータを確認するとともに、生産に必要な原材料の手配を当該システムで、行っていたところ、サトープリンテイングは「生産システム利用料」の名目で当該発注システムの開発費用と保守改修費用及び原材料の発注に係る費用について一定額を、当該システムを利用している下請事業者の毎月の下請代金から差しいていた。

サトープリンテイングが下請事業者に対して行う発注業務や下請事業者に有償支給する原材料の発注業務は、本来、親事業者の責任において行うべきもので、これらの費用は親事業者であるサトープリンテイングが負担すべきものである。」

とされ、なので生産システム利用料は下請事業者が負担すべき費用でないから減額だ、といっています。

最後の文の、親事業者が下請事業者に対して行う発注業務が親事業者の費用負担でおこなわれるべきというのはいいのですが、問題はその後の、

下請事業者に有償支給する原材料の発注業務は、本来、親事業者の責任において行うべき

という部分です。

これって、逆ではないでしょうか?

つまり、原材料は下請事業者→親事業者、と発注するのであり、発注者は下請事業者なのだから、当該発注業務は下請事業者の責任においておこなうのがむしろ当然なのではないでしょうか。

もちろん、原材料の納入業務は原材料引き渡し義務を負う親事業者がその責任においておこなうべきですが、ここで解説が述べているのはあくまで「原材料の発注業務」です。

このように、まず形式論として、原材料の発注業務は発注者(=下請事業者)の責任でおこなうものではないか、というのが疑問の1点目です。

次に取引の実態として、原材料の有償支給において原材料の発注を発注者である下請事業者の裁量でおこなっているケースなんていくらでもあります。

下請事業者のほうが手元に原材料を置いているので、在庫量の管理も容易であり、親事業者としては、原材料の在庫管理に逐一口を出すのではなく、下請事業者の好きなときに好きなだけ買ってもらったほうが楽だし、合理的なわけです。

また取引によっては、購入した原材料を下請事業者が当該親事業者への納品以外に使ってもいい(発注するときに、当該親事業者へ納品するための原材料と他の発注者に納品するための原材料をいちいち区別しない)ということも、いくらでもあります。

どうも公取委の発想は、原材料と発注品が常に当事者間で1対1で対応していて、常に単発のペアで発注され、しかもその全体を親事業者がコントロールしている、というような、実務ではありえないわけではないけれどどちらかというと少数派の、非常にプリミティブな場合を念頭に置いているような気がします。

そうでないと、原材料の発注業務は「本来、親事業者の責任において行うべき 」なんていうことを軽々しく言えるはずがありません。

善意に解釈するならば、サトープリンティングのケースではたまたま親事業者が原材料まで完全に管理していたケースなのかもしれませんが、それならそういう事実認定が必要なはずだし、そのあたりをすっ飛ばしていきなり「受注者が発注業務の責任を負うべき」とか言われたらたまりません。

そしてたぶんこのような善解はほんとうに善解であって、実際には、納入商品と原材料を一体にみて、「これは減額だ」と決めつけてしまっていたので、受注者が発注業務の責任を負うべきだという説明の不自然さは、担当官の意識にも上らなかったというのが実態ではないかと思います。

仮にこのような(受注者が発注業務の責任を負うべきとの)説明を正当化するような事情があったとしても、それを言葉に表さないと「解説」の意味がありません。

そして、書いた文字はいったん書いてしまった以上は書いた人の頭を離れてしまうのですから、字づらだけをみて意味がとおるかを、ちゃんと読みなおさないといけません。

下請法テキストp54には、システム利用料についての解説があって、そこでは、

「システム利用料等の徴収

親事業者が下請事業者に電磁的記録の提供を行うこととした場合に,

システム開発費,保守費,発注情報の提供に要する費用(3条書面の交付義務は親事業者にあることに留意)等の本来親事業者が負担すべき費用をシステム利用料等として下請代金から徴収している場合・・・には,

下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることに該当する。」

と説明されています。

ここでも、「3条書面の交付」つまり発注が、親事業者の義務であることを、システム利用料を下請事業者に負担させるべきではないことの根拠にしています。

有償支給材の発注業務も親事業者の責任で行うべきなどとは読み取れません。

私は問題の本質は、発注品の発注業務だからとか原材料の発注業務だからとかいうことが問題なのではないと思っています。

そうではなくて、問題の本質は、親事業者が自分のシステムをとおしてでしか原材料の受注を受け付けていない(いわば親事業者の自己都合である)から、ということだと思います。

もし原材料の発注を下請事業者の書式の発注書でおこなうことがみとめられていて、親事業者のシステム利用はあくまで任意であって、でも親事業者のシステムを利用すると原材料を値引きする(事務の手間を考えれば合理的でしょう)、というアレンジであれば、そのようなシステム利用料を徴収しても「減額」ということにはならないのではないでしょうか。

ただ、そもそも親事業者が自己のシステムを利用させることを親事業者の自己都合だ、とまで言い切っていいのかは、(自分で言っておきながらなんですが)妥当性に疑問があります。

つまり、事務処理の便宜だとか取引費用の削減だとかは双方にメリットがあるわけですから、すべて親事業者が取引費用削減コストを負担すべきだというのは経済合理性がないと思います。

でも、経済合理性を無視して下請事業者を保護するのが下請法ですから、まあ下請法の解釈としては、「親事業者の自己都合だ」といいきってしまうほうが、おさまりがいいのではないか、といった程度の意味です。

こういう、言葉尻をとらえたような、重箱のすみをつつくような議論って、とても大事です。

法律解釈にかぎらず、言語をもちいたあらゆるコミュニケーションは、このようなあいまいな表現をもちいることにあります。

(法律解釈は、立法者の意思を法律の適用を受ける者が読み取る、一種のコミュニケーションです。)

極論すれば、表現にもちいられる語(あるいは名辞。ドイツ語でNamen)が指示する対象を、1個1個丹念にみていき(言語の意味は言語が指示する対象であるという「意味の対象説」を参照)、それぞれの名辞と他の名辞の関係をみていけば、法律の文理解釈のような比較的単純な(論理的な)コミュニケーションにおける誤解はたいてい避けられます。

というわけで、解説を書かれる担当官の方々は、ぜひ、言葉尻にまで気を配って書いていただければと思います。

2020年7月24日 (金)

サンリオに対する勧告と令和元年11月版下請法テキストの不当な経済上の利益の提供要請に関する記述について(無料サンプル)

平成30(2018)年12月12日サンリオが下請法違反で勧告を受けました

違反行為とされた行為のうち返品は下請法テキストにも載っている違反行為なのでしかたないとして、気になるのは不当な経済上の利益の提供要請について認定された以下の事実です。

「サンリオは,下請事業者に対し,

平成28年7月から平成30年8月までの間,

納品する商品と同一の商品をサンプルとして無償で提供させることにより,

当該下請事業者の利益を不当に害していた。

無償で提供させていた商品の対価は,574万3335円及び9970.08ドル(参考:それぞれの違反行為時点のレートで円換算すると118万3435円)である(下請事業者175名)。」

サンプルの無償提供が不当な経済上の利益の提供要請だとされたのですが、サンプルの無償提供なんて、世の中でふつうに行われているのではないでしょうか?

この点についての担当者解説をみると、

「サンリオは、下請事業者に対し、下請事業者から提供される試作品を確認するなどして発注を行っているが、納品時に、商品と同等のものをサンプルとして蕪償で提供させていた。

本件サンプルは、サンリオが市場に流通させる前に、商品が自社基準を満たしているのか最終チェックを行うために無償で提供させていたものであるが、あくまでもサンリオの検査のみに利用されるもので、商品の販売促進につながるといった効果はなく、また、下請事業者が商品を量産し納品する時点であるため、不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く、何ら下請事業者にメリットが生じているものではなかった。

このため、サンプルを提供することによる負担が下請事業者に生じ、下請事業者に対する不利益が生じていたことから、不当な経済上の利益の提供要請の禁止の規定に違反するものである。

無償によるサンプル提供については、「下請取引適正化推進講習会テキスト」(以下「テキスト」という。)に、違反行為事例として紹介されておらず、予見し難い行為であったかもしれないが、本件サンプルは親事業者であるサンリオの検査行為のみに使用されるもので、本来であればサンリオがその経費を負担すべきところ、下請事業者に負担させていたことから違反となったものである。」

と説明されています(公正取引821号64頁)。

しかも、同解説では、

「サンプルの無償提供について、サンリオは、事前に下請事業者と合意をして提供させていたと考えており、下請法上の問題が生じているものと認識していなかったものである。」(同頁)

とされており、無償サンプル提供についてはあらかじめ合意があったようです(書面か口頭かは、解説からは不明ですし、解説はそれを区別していません)。

わたしはこの説明はおかしいと思います。

そして勧告の結論もおそらくまちがいだと思います。

いちばんおかしいのは、

「あくまでもサンリオの検査のみに利用されるもの」

だから不当だ、という点です。

サンプルなんて、「検査のみに利用」されるのがあたりまえで、それ以外どんな用途があるというのでしょうか?

こんなことを言い出すと、サンプルの無償提供はいっさいみとめられないということになり、発注者は、有償で提供を受けた商品を分解して不良品かどうかを検査しないといけないことになってしまいます。

さらに続けて、

商品の販売促進につながるといった効果はなく

といっていますが、これも、少なくともサンプル一般にはあてはまらない、論理的に誤った認識です。

というのは、サンプルで品質に問題がないと確認できるからこそ流通にまわせるわけで、品質が確認できなければ「販売促進」どころか、そもそも「販売」してもらえない可能性があるわけであり、そのリスクを回避できていることが十分に「販売促進」であるはずです。

公取委は勝手に、「販売促進」というのを、宣伝広告とか、いわゆるプロモーションと読み替えて、サンプルには販売促進効果がないと認定しているのですが、論理的に考えれば、サンプルも上記のような意味で「販売」を「促進」するものであることはあきらかです。

あとのほうの、

「本件サンプルは親事業者であるサンリオの検査行為のみに使用されるもので、本来であればサンリオがその経費を負担すべき

というのもめちゃくちゃな言いぶんで、この理屈だと、発注者が商品の品質を確認する費用を負担すべき(品質確認は発注者の義務である)ということになってしまいます。

もちろんふつうはそんなことはありえなくて、納入する商品の品質を確保する義務を負うのは下請事業者でしょう。

改正民法でも、売買の瑕疵担保の規定である565条が559条で請負に準用される結果、請負契約では請負人が瑕疵担保責任を負います。

なので、「検査の費用は発注者が負担すべき」というのは、おかしいと思います。

しかも下請法は基本的に当事者の合意で覆せない強行法規なので、こういうことを言い出すと、下請事業者にサンプルの無償提供をさせることがいっさいみとめられなくなってしまいます。

以上の理由だけで不当な利益提供になるとするとさすがに公取委もまずいと思ったのか、

「下請事業者が商品を量産し納品する時点であるため、不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く

という説明がなされ、これが本件で唯一特殊な事情といえるかもしれません。

しかし、これも、ひかえめにいって分析が甘いです。

というのは、この解説を文字どおりに受け取るならば、

「商品を量産し納品する時点」

でサンプルを無償提供させることはできないことになってしまいます。

でもほんとうに必要なのは、量産に入ってからの、量産ラインで製造した商品の(少なくとも最初の納入時の)検査なのではないでしょうか?

これだと、試作品段階でしかサンプル無償提供はみとめられないことになってしまいます。

さらにしつこく繰り返せば、

サンリオの検査のみに利用される」

とか、

商品の販売促進につながるといった効果はなく

といった理由で下請法違反になるなら、試作段階でのサンプル提供も下請法違反になってしまいます。

なのでもしこれが、量産品が継続的に納品されるようになってからもその都度サンプルが要請されていたということなら、

不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く

というのは、場合によっては正しい認定かもしれません。

でも、この解説は、量産品だから大量に納品するのだとか、量産品の不良は一律に発生するのだとかいう認識を前提にしており、そもそも「不良品の大量発生を未然防止する」効果がなければだめなのだと考えているようで、やはり、少々おかしいです。

量産品だって、ほんのちょっとしたことで、一部に不良品が発生することはいくらでもあるでしょう。

むしろ、量産品の全体に発生する不良品のほうが、少ないかもしれません。

というわけで、「不良品の大量発生を未然防止するという効果も期待し難く」という理由で下請法違反になるというのも、やはり一般論としてはまちがいだと思います。

ただ、サンリオの事件では、ほんとうにサンプルとしては形骸化していて、およそ意味のない、たんなる長年の慣行にもとづくサンプル提供だった、ということなのかもしれません(そうだといっているわけではなく、そのように考えないと、この勧告を正当化できない、ということです)。

ですが、私の意見では、このような、サンプルとして意味があるのかどうかという判断を公取委がおこなうべきではないと思います。

というのは、そんな品質管理についての必要性の判断を公取委ができるわけがないからです。

当事者が多少なりとも必要性があると考えているのであれば、公取委はそれをくつがえす積極的な証拠を提示すべきでしょう。

ただこれも私がこれまで公取委や中企庁と交渉してきた経験からすると、いずれも、そんな緻密な立証とか取引の実態とかを考えている様子がありません。

なので、こういうサンプル提供などのビジネス上の実務の必要性の微妙なところに下請法が踏み込むのには、私は反対です。

じっさい解説でも、

「無償によるサンプル提供については、「下請取引適正化推進講習会テキスト」(以下「テキスト」という。)に、違反行為事例として紹介されておらず、予見し難い行為であった

とまで書かれており、前例のないケースであったことがうかがえます。

こういう案件は、いきなり勧告を出すのではなくて、まずはテキストに載せて、講習会とかでも「こう変わりましたよ」と説明をして、注意の実績を重ねてから、勧告にいくべきでしょう。

いきなり勧告が出てしまった以上、今後は同様の行為が取り締まりの対象になることはあきらかで、前記解説でも、本件のような無償サンプルは、

「サンリオのみならず、他の事業者間においても商習慣として行われていることが十分に考えられるところ、下請法が及ぶ範囲の取引だからこそ発覚したものである。」

と述べられており、今回が特殊なケースではないとの認識が示されています。

(ところで、「下請法が及ぶ範囲の取引だからこそ発覚したものである」というのは、下請法がおよばない取引でも同様のことはやってはいけないかのような言いぶりですが、そんなことはありません。下請法以外では、優越的地位の濫用というきわめてまれな例外をのぞき、同様の行為はなんら禁止されていません。)

下請法テキストも令和元年版から、

「⑤ サンプルの提供要請親事業者

H社は,キャラクター商品の製造を下請事業者に委託しているところ,下請事業者に対し,納品する商品と同一の商品をサンプルとして無償で提供させた。」(p81)

というのが違反行為の例に加わりました。

これなんか読むと、量産段階だとか何だとか、担当者解説でいわれていた理由付けもすべて吹っ飛んでしまって、ともかくサンプルは一切だめとしか読めない書きぶりになっています。

これだと検査の必要性があるサンプルでもだめということになり大問題だと思いますが、書かれてしまったものはしかたありません。

(わたしなら、テキストに書かれてしまってもあきらめずに必要性を主張して争いますが、おおかたの人はあきらめるでしょう。)

さらにいえば、検査用のサンプルなのか、それ以外(たとえば展示用)のサンプルなのかについても、区別せずに一律にだめとしているのも問題です。

この点については以前から、「下請かけこみ寺事例集」で、展示会用のサンプルについて無償提供要請にあたる(事例7)とされていました。

この事例集は、下請テキスト以上に分析が甘かったり下請事業者寄りだったり間違っていたり、いろいろ問題があるのですが、そんな事例集ですら展示会用のサンプルで踏みとどまっていたのです。

(でも展示会用のサンプルなんて、上記サンリオの担当者解説だと、むしろ「商品の販売促進につながるといった効果」があるんじゃないか、と皮肉の一つも言いたくなります。理由付けをするときは、常に、当該事例を離れた一般的妥当性を考えないといけません。リーガルマインドの基本中の基本です。)

検査用のサンプルもだめなんて、中小企業庁ですらびっくりしたのではないでしょうか。

なので事業者の方々へのアドバイスとしては、「下請法では、公取委は突然こういうことをやってくるので、注意して下さいね」ということしかできません。

もちろん、量産段階に入ってからの無償サンプルは禁止です。

あるいは、サンプルの必要性をきちんと説明できる資料を残しておくべきです。

(テキストは検査の必要性の有無を問わず違法だという書きぶりですが、やはり説明できるようにしておくべきでしょう。)

それで、「よく考えてみたら必要性がなかったね」ということなら、この機会にやめてしまうのもいいでしょう。

もちろん、サンプルとして提供されたものを検査にもちいず商品として販売していたりしたら、検査の必要があったということ自体うそではないか、ということになるので、サンプルはちゃんと検査に使わないといけません。

もし余分にサンプルをもらう必要があるなら、「検査をした結果、場合によってはさらに追加検査する必要がある可能性がある」など、よぶんにもらう必要性についても説明できないといけません。

今回はサンプルでしたが、これを一般化すると、下請事業者から何か経済上の利益を受けるときには、常にそれが不当なものでないのかチェックしないといけない、ということです。

商慣習として、なんとなくなぁなぁでやっていることって、たぶん世の中では多いと思いますが、こういうのって、やってる当人がぜんぜん問題意識がないので、法務からすると吸い上げるのがたいへんですが、できるだけ具体的に聞いて、情報を収集するしかありません。

最後に申し上げたいのは、最近の公取委の下請法運用は、ほんとうに、こういうよく考えていない(ということが担当官解説をよんでよくわかりました)運用が目立ちますので、担当官にだめだといわれても、ねばりづよく交渉して下さい。

じっさい、それで結論がくつがえることはあります。

今の時代、「おかみの言うことは常に正しい」なんて思っている事業者なんて少数派だと思いますが、最近の下請法はとくにそう(公取委が常に正しいわけではない、あるいは、公取委の解釈が突然かわる)なので、十分気をつけて下さい。

2020年7月23日 (木)

発注単価の遡及適用が発生する原因と対策

下請法上の減額にあたってしまう典型例として、代金改定(値下げ)交渉中に暫定的に改定前の価格で発注し、交渉妥結後にさかのぼって引き下げ後の単価を発注単価とすること(遡及適用)があります。

最近では、DXアンテナ株式会社に対する勧告(平成30年3月29日)があります。

勧告の該当箇所を引用すると、

「DXアンテナは,単価の引下げ改定を行ったところ,

単価の引下げの合意日前に発注した製品について引き下げた単価を遡って適用し,

平成28年1月から平成29年4月までの間,

下請代金の額から,下請代金の額と発注後に引き下げた単価を遡って適用した額との差額を差し引くことにより,

下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,下請代金の額を減じていた。

減額した金額は,総額1254万2830円である(下請事業者1名)」

とうことです。

(本題とは関係ないですが、減額対象1名でも金額がおおむね1000万円超えたら勧告になるので、要注意です。)

この遡及適用というのは、時間を遡るとか暫定的合意とか、むずかしいことを考える必要はなくて、要は、発注後直ちに発行しているはずの3条書面に記載しているはずの「暫定」発注代金は、全額払わないと減額になりますよ、ということです。

常に3条書面の記載を基準に考えれば、「遡及」だとか「暫定的」だとかいって、何か特別な問題があるかのように考える必要はありません。

(ところで、下請法テキスト令和元年版p53には遡及適用の「図」がありますが、これはこれで問題の構造がみえてわかりやすいのかもしれませんが、かえって問題がさも複雑であるかのような印象をあたえる気もします。実務では、全体構造の把握より、要するにどこに気をつければいいのか、という視点が大事だったりします。)

ところで、なぜこういう遡及適用が発生してしまうのでしょうか。

理由はたぶん単純で、当事者の感覚としては、代金改定交渉中の発注については、交渉が妥結したら一定の基準日にさかのぼって改定後価格を適用すると了解のうえで発注しているので、何も問題がないと感じられるから(あとから減額されることはお互い納得のうえで契約してるから)、ではないかと思います。

これは企業の行動としては発注者側も下請事業者側も合理的で、もしこういう、あとから価格改定するという行動をみとめないと、下手をすると「合意ができるまで発注は見合わせるよ」ということになりかねないからです。

そうなったら下請事業者にとってもえらいことですから、ともかく仕事がもらえること自体が下請事業者にとっては利益ですし、暫定的とはいえ改定前の価格で発注されることも下請事業者にとって有利です。

それに、暫定価格として改定前の価格を適用することは、現状維持という点で、合理性があります。

極論すれば、あまり遡及適用を厳しく取り締まると、親事業者としては、

「じゃあ目一杯安い仮単価で発注しておいて、交渉が妥結したらさかのぼって増額しよう」

といいたくなってしまいます。

というわけで、ビジネス上の感覚としては合理的な行動であり、しかも、おたがい交渉中であることはよく理解しながら発注しているわけですから、感覚としては、何の問題もないのです。

では、こういう合理的な行動をなんとか下請法でみとめてもらえる方法はないでしょうか。

たとえば、「これは仮単価で、あとで妥結した価格に減額される」と3条書面に書いておけばどうでしょうか。

これはだめでしょうね。

というのは、3条書面には発注価格を原則として確定額で書かなければならず、確定額を書かないでいいのは確定額が定められないことにつき正当な理由がある事項がある場合にかぎられる(テキストp28)からです。

代金減額交渉中だ、というのは、もちろん、「正当な理由」にあたりません。

決められるのに決めないだけだからです。

ちなみに仮単価についてはテキストp32のQ37で、

「Q37: 3条書面に仮単価を記載することは認められるか。

A: 下請代金の額として,単価を定められないことについて正当な理由がある場合には,その単価を記載せずに当初書面を交付することが認められ,正式な単価でないことを明示した上で具体的な仮単価を記載したり,「0円」と表記したりすることも認められる。

ただし,このような場合には,「単価が定められない理由」と「単価を定めることとなる予定期日」を記載し,単価が決定した後には直ちに補充書面を交付しなければならない。」

とされています。

やっぱり、「正当な理由」が必要です。

ではいっそのこと、代金交渉中は3条書面に代金額を書かずに発注するのはどうでしょうか。

これも基本的にはおすすめできません。

というのは、代金額を書かないと3条書面の記載不備になってしまうからです。

でも、論理的に冷静に考えるならば、代金額をまったく書かなければ3条書面の記載不備ですむ(実務上は注意ですむ)のに、書いてしまうと勧告をくらう、というのであれば、よりダメージの少ない3条書面の記載不備をえらぶ、という選択も、理解できないではありません。

ただ本当にそういうことをすると、3条書面には金額が書かれていなくても、「当事者間では交渉前の旧単価で発注するという口頭の合意があった」と半ば強引に事実認定されて、減額にされてしまいそうな気もします。

これが、おすすめできない理由です。

まあそれでも、旧単価を書いてしまって100%減額が認定されるのにくらべればリスクは低いともいえるので、どうしてもそうしたいというならそれを止める下請法の条文も3条しかないわけですが、交渉期間中の発注くらいは、そんなに長期間でもないでしょうから、満額払ってあげたらいいんじゃないかという気がします。

前述のDXアンテナのケースは、17か月も遡及すると、減額額が1200万円とかいうことになって、なかなか無視できない金額ですが、これはさすがに時間のかけすぎというか、さかのぼりすぎではないか、と思ったのですが、この点については、公正取引813号71頁に、

「DXアンテナが新単価の遡及適用による減額を行った理由のーっとして、製造を委託している製品の生産コストが外国為替相場の影響を受けるものであったことが挙げられる。

下請事業者は、DXアンテナから製造委託を受けた製品を、海外で生産し輸入しており、円高になれば、当該製品の生産コストは低下する状況にあった。

平成28年6月ごろ、数か月前から外国為替相場は円高で推移しており、生産コストの低下が見込まれることに気付いたDXアンテナは、単価の引下げ交渉を行い、既に発注済みのものにまで新単価を適用することの了承を下請事業者から得て、下請代金を減額していたものとみられる。」

「実際に下請事業者の納品する製品の生産コストが低下していたとしても、また、単価を引き下げることに下請事業者から了承を得られていたとしても、下請法では、発注時に交付する注文書に記載された内容が取引の前提になることは言うまでもなく、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに注文書に記載された下請代金の額を発注後に引き下げる行為は、下請代金の減額の禁止の違反として問題となるものである。」

と、くわしく事情が説明されています。

(でもこれをみると、交渉を開始したのは早くても平成28年6月頃で、遡及適用したのは平成28年1月ですから、交渉前のものにまで遡及適用しているんですね。そこまでしなければ1000万円に届かず、勧告までは出なかったかもしれません。)

では、減額のリスクを下げるために、これ以上は下げないという最低ラインを仮単価として発注するのはどうでしょう。

これなら、減額は避けられそうですが、下請事業者にしてみたら、現状維持という説明のつかない価格での発注を受け入れてしまうと、事実上それをみとめたことになりそうなので、かなり心理的に抵抗があるような気がします。

というわけで、遡及適用を避ける方法はなさそうです。

妥結までの時間的余裕をみて交渉を開始するしかありません。

それでもどうしても、というのであれば、上述の、これ以上下げないという仮単価で発注する(親事業者の言い値で発注する)ということでしょうか。

理屈を突き詰めるならば、発注書はあくまで発注者の意思表示なので、発注者が意思するところを書くので、下請法上も民法上も何の問題もありません。

ただ、その金額で下請事業者が引き受けてくれるかどうかは別問題です。

なお、下請法では発注書で合意が成立するかのような、実務上はそうかもしれないけれど理論上はおかしな仕組みを骨組みにしているので、細かい解釈論を重ねていくといろいろなところにほころびがでてきます。

そのあたりも、そのうち機会があれば説明したいと思います。

2020年7月18日 (土)

独禁法24条の差止訴訟で作為を命じることができる根拠

独禁法24条の差止請求において作為を命じることができるかについて、三光丸事件判決(東京地裁平成16年4月15日)は、

「独占禁止法24条は,「侵害の停止又は予防を請求することができる」と規定しているものであり,

この文理からすれば,独占禁止法24条に基づく差止請求は,相手方に直接的な作為義務を課すことは予定していないというべきである。」

と述べて作為命令を否定しました。

学説はほぼ一致してこの判決に批判的で、作為義務を課すことができるとしています。

私も作為命令ができると考えますが、学説の挙げる理由はいまひとつまどろっこしいように思います。

たとえば、

「侵害の停止または予防に『必要な行為』として一定の作為をなしうるとし、給付内容が明確であること等を条件として、必要であるならば作為義務を命じることもできるとする見解が多数である」(注釈独占禁止法p584)

「24条と同様の文言であった旧不正競争防止法3条においても、判例・通説は作為命令が認められると解していた」

「実質論からしても、不作為の目的を達するために作為が必要となることは自明のことである」

「本来インジャンクションとは作為命令も含むものである。」

「『立ってはいけない』と『座っていよ』のように、不作為義務と作為義務が同じ場合もある」

などと、いろいろと理屈を立てておられますが、わたしはこの論点は、少なくとも出発点はとても単純なもの(同時に、三光丸事件判決の誤解も非常に単純なもの)だと思っています。

独禁法24条は、

「第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、

これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、

その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、

その侵害の停止又は予防を請求することができる。」

と規定しています。

誤解を排除するために指示語に逐一説明を加えると、

「第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてそ〔=後出の『者』、つまり差止請求者〕の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、

これ〔=差止請求者の利益の侵害、または、差止請求者の利益の侵害のおそれ〕により著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、

そ〔=差止請求者〕の利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、

そ〔=差止請求者の利益〕の侵害の停止又は予防を請求することができる。」

ということかと思います。

そしてポイントは、24条は、

「その侵害の停止又は予防」

と規定している、という点です。

ここではあきらかに、「停止又は予防」の目的語は「その侵害」です。

そして、「その侵害」は、上述のとおり「差止請求者の利益の侵害」です。

あるいは、もっと突き詰めて言えば、「停止又は予防」の目的語は「侵害」です。(「その」は「侵害」への修飾語です。)

なのでこの条文が言っているのは、差止請求者は差止請求者の利益の侵害の停止または予防を請求できる、ということに尽きます。

けっして、相手方の行為を停止することを請求できるといっているわけではありません。

「差止請求者の利益の侵害」というのは、差止請求者に生じた(または生じようとしている)法的な状態です。

この状態を「停止」する、ということは、この状態をなくする、という意味にしか解しようがありません。

「停止」という言葉のニュアンスが、なんとなく行為をやめさせることを意味しているような雰囲気があるので、作為は命じられないという意見が出てくるのかもしれません。

しかしそれは、「停止」(とめること)という言葉のニュアンスだけで文言解釈しており、正しい条文の読み方とはいえません。

もっとはっきりといえば、三光丸判決は、「侵害の停止」というのを、「行為の停止」というふうに、勝手に頭の中で読み替えて判断してしまったのであろうと推測できます。

そうでなかったら、この文言で、

この文理からすれば,独占禁止法24条に基づく差止請求は,相手方に直接的な作為義務を課すことは予定していないというべき」

なんていう解釈はぜったいに出てこないと思います。

つまり、三光丸事件判決の「この文理」というのは、実は、「停止又は予防」の部分だけを指していて(あるいは、この部分だけに目が向いていて)、「侵害の」という文言には目が向いていないのだと思います。

『精選版日本国語大辞典』では、「停止」は、

「動いているもの、それまで続いてきたものがとまること。また、とめること。」

と定義されています。

一般的なニュアンスは「動いているもの・・・〔を〕とめること」でしょうし、三光丸判決もこの語感に乗ってしまったのでしょうね。

でも「停止」には、「それまで続いてきたもの〔ここでは、「侵害」〕をとめること」という意味もあるわけですし、目的語が「侵害」という状態を意味する概念である以上、目的語が「動いているもの〔相手方の作為〕」にかぎられる論理的必然性はまったくないわけです。

わたしはよくロースクールの学生さんたちにも、「目的語が何かを常に明確に意識すること」と教えているのですが、ここでも目的語が何かをきちんと意識していたら、24条の文理から作為命令が予定されていないなどという解釈にはぜったいならないはずです。

なので、この論点は、少なくとも出発点においては、24条の文言解釈だけで単純に解決する話であり、くどくどと理屈を述べる必要はないと思います。

そして、文言上は作為義務も不作為義務も課せられるとしたうえで、では実質論や制度論としてどうあるべきか、という次の段階に進むのが法律の解釈というものでしょう。

三光丸判決は、この第一段階(文言の形式的解釈)の時点で間違っている時点でアウトですし、学説も、この単純な事実を指摘せずにくどくどといろいろ述べているところに、回りくどさというか、問題点を複雑にしている感じを覚えます。

名(な)あるいは名辞の結合が名の論理形式に適合しているかどうかは、たとえば、

「4を2で割る」

というのは正しいけれど、

「ウィトゲンシュタインを2で割る」

というのは、明らかに「ウィトゲンシュタイン」と「2」という2つの名の論理形式に反しています。

これくらいはっきりした例だと、何が論理的に正しい(正確には、有意味な)文で、何が正しくない(正確には、ナンセンス)のかはすぐわかるのですが、たしかに、「侵害を停止」というのは「侵害」と「停止」の論理形式に照らして正しいのか、「停止」の意味の理解しだいでは、少し疑問がわくかもしれません。

この点について何の疑問もわかない人(「停止」が「侵害」を目的語とすることは当然であるといえるような意味で「停止」の論理形式を理解している人)は、当然のように、「侵害」を「停止」することのなかには、作為も不作為も含まれる、と考えるのでしょう。

またこのような人は、「停止」の論理形式を、「『侵害』という言葉を目的語に取ることができるような動詞」と理解するでしょう。

そして実際、「停止」が「侵害」を目的語に取っている以上、論理的にはこの読み方しかありえないはずです(そうでないというなら、24条はナンセンスな文だ、ということになってしまいます。)

これに対して、「停止」が「侵害」を目的語に取ることに多少なりとも違和感を抱く人(「停止」とは、動いているものをとめること、と理解する人)は、「侵害」を「停止」するというのはナンセンスなので、無意識に、動きのない「侵害」という言葉を頭から消し去って、動きのある「行為」あるいは「作為」という言葉に、頭の中で読み替えてしまうのでしょう。

このように、論理形式に多少の疑問がわくために誤解をまねくおそれがある文言になっているという意味では、24条の文言はあまり出来のいい日本語ではないとはいえそうです。

正直に白状すれば、わたしも割と最近まで、「三光丸判決のような24条の読み方もあるかな」と思っていました。

あるいは、刑法総論で作為犯と不作為犯は区別できないというような議論を挟まないと、三光丸判決のようになってしまうのもやむをえないのかな、と思っていました。

でも、何が目的語(「侵害」)に来ているのか、それとこの動詞(「停止」)との関係はどのようなものなのか、ということを細かく見ていくと、24条の文言からは、三光丸判決とは逆に、命じられることがあきらかだとしか言いようがない、と思うのです。

法律の条文解釈は、語感やニュアンスではなく、論理でおこなうものです。詩人は論理学者に席を譲るべきでしょう。

2020年7月16日 (木)

「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」への疑問

掲題のQ&Aについて疑問を感じた点を記しておきます。

問6で、

「下請事業者が,供給に関する情報を事前に提供しなかった結果,納品日になって,発注に対する数量不足が判明しました。このため,受領できなかった数量分の代金は支払わないことにしたいと思いますが問題になりますか。

更に,あらかじめ定めていたペナルティ条項により一定金額を支払ってもらうことは可能ですか。」

という質問に対して、

「下請事業者の責任によって納品されなかった数量分に係る下請代金について支払わなくても問題になることはありませんが,

ペナルティ条項があったとしても,数量不足等による商品価値の低下を理由に下請代金を減額する場合には,

客観的に相当と認められる額に限られます。」

という回答がなされています。

しかし、これは、従来の解釈を大幅に変更する、きわめて問題の大きい回答だと思います。

まず問題は、質問では、「一定金額を払ってもらう」と質問しているのに、回答では「下請代金を減ずる場合」という質問にすり替わって回答されています。

どのような場合にどの程度の減額ができるのかについて、下請法講習テキスト(令和元年11月版)p52では、

「(イ) 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合〔注・数量不足を含む〕であって,

受領拒否又は返品をせずに,親事業者自ら手直しをした場合に,

手直しに要した費用など客観的に相当と認められる額を減ずるとき。」

「(ウ) 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合であって,

受領拒否又は返品をせずに,瑕疵等の存在又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に,

客観的に相当と認められる額を減ずるとき。」

があげられています。

このように、「客観的に相当」でなければならないとはされていますが、これはあくまで減額の場合です。

質問は明示的に「一定金額を支払ってもらう」場合のことを聞いているのですから、減額の場合ではありません。

適用されるとしたら、不当な経済上の利益の提供要請でしょう。

この点、公正取引委員会が、「代金から差し引くことは減額、別途支払わせることは経済上の利益の提供要請である」という長年定着した解釈を変更し、別途支払わせる場合にも減額の適用を広げつつあることは、以前このブログでも指摘しました

簡単に言うと、以前は「別途支払わせる場合は減額ではない」という解釈であったのが、平成26年テキストあたりから、別途支払わせるのも減額だ、と言い始めた(しかもそれに合わせて鎌田『下請法の実務〔第4版〕』の該当箇所の記載がごっそり削除された!)、ということです。

しかしそれでもなお、別途支払わせる場合が減額に当たるのは、減額される金額が下請代金の一定率であるなど下請代金と密接に関わる場合に限られていました。

ところが上記Q&Aでは、数量不足の場合のペナルティですから、下請代金の一定率を減額するという性質のものではなく、あきらかに損害賠償の予定です。

このような、損害賠償の予定を別途支払わせる場合まで減額にあたるなどと言い出すと、下請取引では損害賠償の予定が下請法上いっさい認められないことになって、問題があまりに大きすぎます。

回答では、「数量不足等による商品価値の低下を理由に」とされているので、足りない数量分相当額を減額することは認めるがそれ以上は認めないことが暗示されています。

しかし、下請事業者からの製品が納品されないために親事業者の製造ラインが止まったら、足りない数量分の代金どころの話ではなく、莫大な損害が親事業者に発生しえます。

そのような場合にあらかじめ損害額を約定しておくことは、きわめて合理的です。

これを正面から否定する上記回答は、きわめて問題が大きいと思います。

これが、「下請代金からさし引く場合のみ減額」という従前の解釈なら、ともかく下請代金は支払って、損害賠償を別途請求する、ということで下請法違反をまぬがれつつ賠償を受けることが可能でした。

ところが、こういう別途支払の場合まで減額とされていまうと、親事業者は損害を被っても賠償を求めることができなくなってしまいます。

私は以前中小企業庁の委託事業で下請法の講習会の講師をしていたことがありますが、そのときも、「損害を受けたら損害賠償は請求できるんですよね?」という質問はよくあり、「できます」と答えていました。

当然のことだと思います。

以前の公取は、下請法は下請法、民法は民法、という形で、2つの法律の守備範囲を折り目正しく整理して下請法を運用しており、形式的に下請法に該当しない行為までむやみやたらと下請法違反に問うことはなかったように思います。

ところがこの減額の例のように、最近は、この折り目正しさがなくなって、実質的に下請事業者の保護になるなら何でも下請法違反に問うてしまおう、という運用がめだちます。

しかも、それが意図してなされている様子がなくって、たんに、従前の折り目正しさに対する無理解に基づくように思われる(そこに問題点があると気づいていない)のが大きな問題です。

別の言い方をすると、民法を知らなさすぎます。

上記設問のように、下請法テキストを超えるとんでもない解釈変更が、何の説明もなく突如としてなされているのが、いい例です。

かなりご年配の元公取委職員の方々にお話をお聞きすると未だに、「差し引いたら減額だけど、別途支払わせるのは利益提供だよね」と、当然のようにおっしゃいます。

最近の公取委の下請法運用は、正直、劣化しているといわざるをえません。

先輩方が脈々と築き上げてきた体系を、まずは学び、そして尊重してほしいです。

コロナで急いでいて検討が不十分だったというなら、まだ許せます。

でもこれが、コロナのどさくさに紛れて解釈変更をしたのだとしたら(上述のように、わたしはその可能性は低いと思っていますが)、ほんとうに許せません。

なので、たんに検討ミスでしたということでしょうから、ここは素直に回答を取り消すか、「ペナルティ条項に基づき別途支払わせる場合は問題ありません。」と明記すべきでしょう。

公正取引委員会の善処を望みます。

2020年7月12日 (日)

不可抗力により成果物が納入できなかった場合の下請代金の支払い義務

コロナ禍で下請事業者が原材料や部品を調達できないなど、下請事業者の不可抗力(※)で製造委託等の成果物を親事業者に納入できない場合に、親事業者は、それでもなお下請代金を支払う義務を負うでしょうか。

(※なお、新型コロナが原因だからといって常に不可抗力になるわけではなく、法務省のサイトでは、「新型コロナウイルス感染症の影響で,商品を仕入れることができなくなった場合の留意事項について」として、

「商品を仕入れて顧客に売却する契約を締結していたところ,商品を仕入れることができなくなり,顧客に契約どおり商品を引き渡すことができなくなった場合には,契約上の義務を履行することができなかったことの責任(債務不履行責任)として,相手方に対する損害賠償義務等を負うこととなります。

もっとも,新型コロナウイルスの影響があったために債務者に帰責事由がないと評価される場合には,その責任を負いません。帰責事由の有無の判断は事案ごとに判断されるものであり,一概にはいえませんが,個々の契約の性質,目的,締結に至る経緯等の諸事情や社会通念を勘案して判断されます。」

と説明されており、ケースバイケースの判断ということになっていますが、まあコロナがこれだけ世界中で騒動になれば不可抗力であることが多いでしょうし、日本企業は基本的にまじめなので自分の怠慢を不可抗力だと言い張ることも少ないでしょうから、以下では一応、コロナは不可抗力であるという前提で説明します。)

この点については、下請代金を支払う義務はないと考えてよいでしょう。

下請法4条1項3号では、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」

が親事業者の禁止行為とされています。

これを文字通り読むと、「下請事業者の責に帰すべき理由がない〔=不可抗力〕のに、下請代金の額を減ずること」はできず、代金の減額ができないのなら当然、代金全額の支払い拒否(=100%減額)もできない、ということになりそうです。

ですが、目的物の納品を受けていないのに代金だけは支払わないといけないなんて、どう考えても非常識でしょう。

そんなことを下請法が強制しているとはとうてい思えません。

(もちろん、契約で不可抗力なら代金支払義務はあると定めておけばできるのでしょうが、実務上、下請事業者にそこまで有利な契約があるはずもなく、特に特約がない場合にも代金全額の支払いを下請法が強制するのか、というのがここでの問題です。)

実際、令和元年版下請法テキストp52では、

「「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして,下請代金の額を減ずることが認められるのは,具体的には,以下の場合に限られる。

(ア) 下請事業者の責め〔ママ〕に帰すべき理由(瑕疵の存在,納期遅れ等)があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合に,受領拒否又は返品をして,その給付に係る下請代金の額を減ずるとき。〔以下省略〕」

とされており、「瑕疵の存在」や「納期遅れ」が、当然に「下請事業者の責に帰すべき理由」にあたることを前提にしているとしか読めない解説がされています。

つまり、不可抗力による瑕疵や不可抗力による納期遅れを「下請事業者の責に帰すべき理由」にあたらないという解釈なのであれば、この部分は、

「下請事業者の責に帰すべき理由(下請事業者の過失による瑕疵の存在、下請事業者の過失による納期遅れ等)」

とでもしたはずであり、何も限定を付けずに「瑕疵の存在、納期遅れ等」を下請事業者の責に帰すべき理由の例として挙げている以上、瑕疵や納期遅れは例外なく「下請事業者の責に帰すべき理由」にあたると考えるほかないと思います。

このように、瑕疵や納期遅れという外形的によって下請事業者の責に帰すべき理由かどうかを決定するのは、形式的に解釈すべき下請法の趣旨にも合ったものだと思います。

もし瑕疵や納期遅れ(その極端な例としての納入不履行)があったにもかかわらず、さらに下請事業者の過失の有無を判断しなければならないとすると、公正取引委員会が過失の有無という民法上のきわめて微妙な判断をしなければならないことになり、実務上、とうてい無理です。

公正取引委員会と交渉した私の過去の経験からですが、公正取引委員会の下請法の運用をしている人たちは、民法上、どの時点で申し込みの意思表示があって、どの時点で承諾の意思表示があったのかすらまともに認定できない(する気がない)くらい、民法に無頓着な人たちなので、そういう人たちが民法上の過失の有無を判断するつもりがあるとはとうてい思えませんし、おそらくその能力もないと思います。

というわけで、下請法上は、瑕疵や納期遅れがあれば当然に下請事業者に責に帰すべき理由があったことになると考えて差し支えないと思われます。

とすると、仮にコロナの不可抗力のために原材料や部品が調達できないために下請事業者が委託物を納入できない場合も「責に帰すべき理由」があり、親事業者は代金を支払う必要はないと考えられます。

ちなみに公正取引委員会から公表されている「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」でも、この、コロナによる原材料調達不能という、もっともありそうな事例についてまったく触れられていません。

このQ&Aをみればわかりますが、全体的に(いつもながら)とても下請事業者寄りの説明がなされています。

それにもかかわらず下請事業者が最も困りそうな、しかもコロナで典型的にありそうな、原材料調達不能の場合についてなにも触れていないということは、公正取引委員会としても、「コロナで原材料が調達できないために製造委託物を納品できない場合には、親事業者は、納品を受けなくても代金は全額支払う義務がある」などとは、はなから考えていない(論点になるとすら気づいていない)というべきでしょう。

ふつうの経済状況では、不可抗力による納入不能なんてまず問題にならないのですが、今回のコロナのような異常事態があると、こんなところに隠れた論点があることがわかる、という例だと思います。

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