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2020年6月17日 (水)

下請法の自発的申出制度(下請法リニエンシー)は義務ではありません。

今年も毎年恒例の下請法書面調査の季節がやってきました。

ところで、とある依頼者の方から質問を受けてなるほどと思ったのですが、下請法の親事業者向け書面調査票の最後には、

「※ 下請法違反行為の自発的申出について(本調査の回答には同封しないでください。)

公正取引委員会では,下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて公表しています。詳細は,公正取引委員会のウェブサイト「https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitauke_tetsuduki/081217.html」を御覧ください。

この自発的申出を行う際には,自発的申出書を作成し,本調査の回答とは別に「下請取引調査室企画調整係」宛に提出してください。」

という記載があります。

これって、「自発的申出書は書面調査の回答書には同封しないで」といっているだけなのですが、読みようによっては、書面調査回答の一環として、自発的申出をしないといけないように読めないでしょうか?

とくに、書面調査に回答する過程で違反が見つかった企業は回答書で「違反あり」にチェックをするわけで、そのチェックをしたあとに「自発的申出を行う際には、自発的申出書を作成し・・・提出して下さい」と締められていれば、提出しなきゃいけないと考えるのはもっともなことだと思います。(チェックしただけで何もしないのが気持ち悪い。)

たしかに、「自発的」という言葉はありますし、「・・・行う際には」なので、「行う」ことが義務ではないということが読み取れるのですが、最後に、「・・・提出して下さい。」と書かれてあるので、自発的申出制度を知らない人が初めて見ると、さも提出することを要請されているようにも読めると思われす。

せめてこれが、「・・・提出することができます。」なら、違った捉えられ方もするのでしょうけれど、お役所に「提出して下さい。」と言われたら、提出するもんだ、と思うのが人情のような気もします。

実は私も最近似たような経験をして、とある場所で講義をする準備をしているときに、主催者から求められた提出書類の中に「過去の予防接種の記録の提出をお願いします。」と書いてあり(もちろんコロナが理由です)、なんでそんなプライバシーにかかわることを出さないといけないのかと抗議の電話をしたら、案の定といいますか、「あくまで『お願い』ということです。」という回答でした。

でも、普通の社会人が「提出をお願いします」と言うのを読んだら、提出しなけりゃいけないものだと思うのではないでしょうか?

やっぱりこういうときは、「あくまで任意です」と明記すべきでしょう。

そういう意味で、「提出して下さい」というだけなのは、ちょっと配慮が足りないと思います。

しかも書面調査の質問票の中にこれを書かれると、受け取る側はどういう立場に置かれるのかを想像しないといけません。

つまり、親事業者が質問票に回答するために社内調査をして違反が見つかってしまい、「違反あり」と書面調査に回答せざるをえない状況になって、さてどうしようか、という状況に置かれるわけです。

その状態で「自発的申出を行う際には・・・提出して下さい。」という一文を読めば、(どうせ「違反あり」で回答するのだから)「自発的申出しなきゃ」と思ってしまうわけです。

この点が、独禁法のリニエンシーでは通常公取委の調査を受けていない状態で申立の是非が検討される(もちろん立入検査前の平時の話です)のと、決定的に異なります。

そもそも、下請法の自発的申出制度とは、下請法違反を発見した事業者が自発的に公取委に違反事実を申告した場合には正式処分である勧告がなされない、という制度です。

独禁法のリニエンシーにならって作られた制度ですが、独禁法のリニエンシーが法律上定められた制度で、課徴金の減免率まで法律で定まっているのに対し、下請法の自発的申出制度は、あくまで公取委の運用にすぎません。

この自発的申出制度はかなり活発に用いられていて、

(令和2年5月27日)令和元年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組

によると、令和元年度は78件の申出がなされたとのことです。

注目すべきはそのうち「勧告相当案件数」がたった2件で、残り76件は、もともと勧告にならない軽微な案件(せいぜい指導)だったということです。

この「勧告相当案件」というのは、ざっくりいえば、おおむね1000万円を超える代金減額のことです。

1000万円という基準は、独禁法弁護士は言うまでもなく企業法務の担当者の間では公然の秘密とすらいえないほどの公知の事実で、最近は公取委出身の弁護士さんも堂々と、

「過去の勧告事例からは、下請事業者が被った不利益の合計額がおおむね1000万円以上となる事案において、勧告がなされる傾向にあることが読み取れる。」(公正取引794号61頁)

と書かれるようになったので、わたしも気兼ねなくいろいろな場所でお話ししています。

以前はこの1000万円というのはかなり絶対的な基準で、1000万円切るか切らないかで公取委との攻防があったりしました。

最近1000万円を切る案件でも勧告がでたときには、この業界ではちょっと話題になったものです。(平成31年4月23日森永製菓に958万2853円減額で勧告)

なので、少額の違反なら勧告にならないことは明らかなのに、どうしてわざわざ自主的申出をする企業がこんなにたくさんあるのか、不思議でなりませんでした。

というのは、自主的申出は、公取委の説明を見てもらえばわかりますが、違反の是正をしたりとか、結構たいへんで、それこそ勧告前提の正式調査を受けたときの負担とどっこいどっこいです。

どうせ自主的申出をしてもしなくても指導止まりの案件なら、結論は変わらず、自主的申出の手続の負担だけが残るわけです。

以上のような自主的申出の制度と勧告基準の意味がわかってれば76件も申請があるのは不可解だし、そもそも自主的申出の制度を知っている人なら少額の違反で申し出ることはないだろう、と思っていました。

そこで、ひょっとしたらこれが原因かも、と思ったのが、冒頭の、調査票の記載です。

これをみて、書面調査の一環として、もし違反が見つかったら自主的申出をするものだと勘違いして申出をする企業が、それなりにいるのではないでしょうか?

そうでなかったら、そもそも下請法の自主的申出なんてマイナーな制度を知っていること自体が不思議です。

ひょっとしたら、下請法にあまり詳しくない弁護士さんの中には、「違反が見つかったら自主的申出をするもんです」というアドバイスをしている人がいるのかもしれませんし、中には弁護士に相談もせず、調査票の「自発的申出書を作成し・・・提出して下さい。」という記載を見て、提出するもんなんだと思って提出した人も、結構いるのではないか、という気がします。

最近のコロナの10万円給付の申請書で、チェック欄にチェックすると申請を放棄したことになってしまうという問題がありましたが、ちょっと似てますね。

あれは、放棄する人は申請書を出さなければいいだけの話なのに、申請書を出しているのに放棄する(=受け取るつもりがないのに申請書を出す)なんていうチェック欄が、一般的な感覚からずれているために起きる問題だと思います。(家族の一部だけ放棄するというのも常識的に考えにくい。)

やっぱり、素直な感覚からずれた記載はこういう誤解を招くわけで、調査票の下請法の自発的申出についても、「・・・提出できます。」とするとか、もっといえば、この記載自体なくすべきでしょう。

そして、万が一書面調査の回答書に自発的申出書が同封されてきたら(まあこの「・・・提出して下さい。」の記載をなくせば、回答に同封する人なんてほとんどいないと思いますが)、それはそれとして受理すればいいだけなのではないでしょうか?

役所の事務処理の便宜のためにこんな誤解を招く記載をするのは、どうかと思います。

親事業者のみなさんは今まさに回答準備中と思われるので、注意喚起したく、書かせて頂きました。

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