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2020年6月 7日 (日)

医薬品の再審査期間に関するCPRC報告書の記載について

公正取引委員会の付属研究機関である競争政策研究センター(CPRC)の、

(平成27年10月7日)競争政策研究センター共同研究

医薬品市場における競争と研究開発インセンティブ―ジェネリック医薬品の参入が市場に与えた影響の検証を通じて―

という報告書に、医薬品の再審査期間について以下のような記述があります。

「このほか,特許期間の延長に加えて,新規の先発医薬品については,製造販売承認後最大10年間の再審査期間が定められており,承認後一定期間が経過した後に,先発医薬品の有効性や安全性に関して,先発医薬品メーカーが実際に医療機関で使用されたデータを集め,再審査を受ける必要がある[脚注49]。

この期間中は,仮に先発医薬品の特許期間が満了となっていても,後発医薬品メーカーは,ジェネリック医薬品の申請をすることができないこととなっている[脚注50]。」(p13)

しかし、この下線部分は明白な誤りです。

ちなみに脚注50で引用されている

杉田健一著『医薬品業界の特許事情』(株式会社薬事日報社, 2006) 162 頁

という書籍には、

「この期間〔注・再審査期間〕は、仮に先発医薬品の特許がなくても、ジェネリック医薬品の申請はすることはできません。」

と記載されています(ただし私の手元にある2008年の第2版からの引用です)。

ですが、これが法的に誤りであることは、薬機法の条文をよく読めばあきらかです。

この点をわかりやすく説明してくれている文献として、

札幌医科大学医学部先端医療知財学 教授・弁理士 石埜正穂「医薬品の開発インセンティブの担保と特許制度・薬事制度の在り方」(パテント(2019)72巻12号(別冊No.22))

という論文があります。

(ところで余談ですが、グーグルでこのようなPDFの文献をサーチしてリンクをコピーすると、https://www.google.com/url? で始まるとても長くて複雑なリンクを返してくるので論文などで引用するときに難儀するのですが、プライバシー保護で定評のある検索エンジンであるDuckDuckGoでサーチしたら、ほんらいの普通のリンクを返してくれます。同じようなことでお困りの方はお試し下さい。)

この論文に、

「いわゆる先発権というのは、先発品の再審査期間中、この簡略申請を規制当局が認めない状態をおおよそ指している。

先発権というと禁止権的な権利のようにも聞こえて誤解を招きかねないが、実際にはこのように先発品に係るデータを第三者が援用できない状態にすぎない。

つまりもしデータを独自に出して提出するのであれば、先発品の再審査期間中であっても同等品の薬事申請自体は問題なく受理されるものである。

わざわざそこまでのコストを払って同等品を上市するメリットは小さいということで、先発品は、特許の有無にかかわらず、先発品メーカーに対して、当該先発品と同等の医薬や同じ有効成分を用いた医薬に関する市場を占有する立場を事実上与えている。」(p165)

と、再審査期間中でも先発薬のデータを援用しないなら承認申請できることが明確に説明されており、脚注ではさらに詳細に条文が解説されています。

前記『医薬品業界の特許事情』は、どちらかというと特許法の素人向けに医薬品業界の特許について書かれたものです。

この著者の方には申し訳ないですが、このような本の、たった1行の記述を引いて、再審査請求期間中は後発品の申請はできないことになっているなどとCPRCが報告書で軽々に述べるとは、ちょっと信じがたいです。

(ひょっとしたら、「ことになっている」という表現でお茶を濁されたのかもしれませんが、そういう問題ではないでしょう。)

今は前記石埜教授の文献があるのでよいですが、以前は、とくに外国の製薬会社にこの点を説明するのにとても苦労しました。(日本の製薬会社は薬機法を当然知っているので、このようなことを弁護士に質問してくることはありません。)

だいたい、お手軽なウェブ情報とかを見ると、再審査期間中は後発品は承認申請できないと、さらっとあたりまえのように書いてるだけで、そのへんのウェブ情報なら無視すればいいのですが、CPRCの報告書に書いてあると(それをお客さんが知っていたりすると)、これを否定するのはけっこうたいへんです。

それこそ、石埜教授の論文の脚注に書いてあるようなことを全部説明しないといけなくなります(しかも外国会社には英語で)。

というわけで、法律の制度のリサーチはきちんとやってほしいものです。

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