« 2020年4月 | トップページ | 2020年6月 »

2020年5月

2020年5月21日 (木)

1999年特許ノウハウガイドラインのセーフハーバーについて

もう既に効力は失っていますが、平成11(1999)年の「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」第4ー5〔特許製品等の販売に関連する制限・義務〕(1)ウ(ア)では、

「ウ(ア) このような制限〔特許製品等の販売に関連する制限〕に関する独占禁止法の一般的な考え方については、

流通・取引慣行ガイドライン第2部において、消費財がメーカーから消費者の手元に渡るまでの流通取引を念頭においてその考え方を明らかにしているところであるが、

特許製品等の流通についても、そこに示されている考え方が基本的に当てはまるものである(注)。

(注) したがって、後記の特許製品等の販売に関連する非価格制限については、ライセンシーが特許製品等の市場において、「有力な」地位にある(流通・取引慣行ガイドライン第2部-第二-2-(2)-(注4)参照)などの場合に、不公正な取引方法として問題となるものである。」

と規定されていました。

一瞬誤記かと思いましたが、誤記ではありません。

流通取引慣行ガイドラインはメーカーが流通業者を拘束する場合のガイドラインですので、この考えを特許ノウハウガイドラインに準用するならば、ライセンサーが有力かどうかを基準にすべきですが、ライセンシーを基準にしています。

特許ノウハウガイドラインの解説書(山木編著『Q&A特許ライセンスと独占禁止法』p252でも、

「一般の製品の販売に関する非価格制限については、流通・取引慣行ガイドラインにおいて、市場において「有力な」メーカー(流通・取引慣行ガイドライン第2部ー第二ー2-(2)ー(注4))が行う場合等に不公正な取引方法として問題になるとされている。

指針〔特許ノウハウガイドライン〕においても同様の考え方の下に、特許製品の販売に関する非価格制限については、ライセンシーが特許製品等の市場において「有力な」地位にあるときなどに問題となるものであり、逆に、「有力」でない場合、すなわち特許製品等におけるライセンシーのシェアが10%未満であり、かつその順位が上位4位以下のときは、基本的に問題とならないことが示されている。」

と、とてもあっさりと説明されています。

しかし普通に流取ガイドラインを類推するなら、

メーカー→ライセンサー

流通業者→ライセンシー

という類推をするはずで、上記特許ノウハウガイドラインのように、、

有力なメーカー→有力なライセンシー

という類推をするのは、かなり乱暴であり、こういうことをやるならそれなりにきちんと説明をすべきであったと思います。

解釈としても、たとえば特許ノウハウガイドライン第4-5(3)イ(販売先の制限)では、

「イ  販売先の制限

(ア) 特許ライセンス契約において、ライセンサーがライセンシーに対して、特許製品についてライセンサー若しくはライセンサーが指定する者を通じて販売する義務を課すこと又はライセンサーが指定する者には販売しない義務を課すことは、ライセンシーの販売先の選択の自由が制限されることにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定第13 項(拘束条件付取引)に該当)。」

とされていますが、もしこのセーフハーバーどおりにするなら、ライセンサーが有力かどうかにかかわらず、ライセンシーが市場シェア10%未満かつ4位以下なら問題ない、ということになります。

もしライセンシーが1社だけならそれでも大きな問題はないですが、たとえば製品市場の競争者が、

1位 16%

2位 14%

3位 12%

4位 10%

5位 10%

6位 10%

7位 10%

8位 10%

9位 8%

で、4位から9位までの6社が販売先拘束をしたライセンサーのライセンシーだとすると、ライセンシー合計シェアは58%ですが、各ライセンシーは「有力」な事業者ではないので、セーフハーバーでOKということになってしまいます。

またガイドラインには、このような場合にライセンシーの市場シェアを合算するという規定もありません。日本語上、合算すると読むのは無理です。

拘束する側ではなく拘束される側の市場シェアでセーフハーバーを決めること自体は、必ずしも不合理ではありません。

たとえば排他条件付取引の場合、拘束するメーカーの市場シェアよりも、拘束される流通業者の市場シェアのほうが、市場閉鎖効果をより的確に表すともいえます。

ですが、拘束する側の有力性を基準にセーフハーバーを定めている流取ガイドラインをそのまま準用して、何の説明もなく、拘束される側の有力性にすり替えてしまうというのは、何とも乱暴です。

過ぎた平成の時代のガイドラインではありますが、かつての公取委はこのあたりかなりおおらかだったのだなぁと思わざるを得ません。

2020年5月20日 (水)

審決データベースの誤字?

公取委の審決データベースで調べ物をしていて、日本製薬工業協会に対する昭和58(1983)年6月30日勧告審決をみていたら、

「薬価基準価格は、前記のとおり、保健医療に使用された医療用医薬品について保険者に請求する際の価格であるため、事実上医療機関が購入する際の上限価格として機能しているが、実際の購入価格は薬価基準価格をかなり下回っており、また、同一銘柄であっても医療機関により相当のばらつきがある。薬価基準価格と医療機関の購入価格との差(以下「薬価差」という。)は医療機関の収入となっており、このため、医療機関においては、同一薬効の医薬品であっても価格の公定より薬価差の大小に着目した選択が行われる場合があるなど、一般に、薬価基準価格よりできるだけ低い価格で医療用医薬品を購入しようとする傾向にある。」

という記述に当たりました。

「価格の公定」って、「価格の高低」じゃないのか?と思ってPDF版をみたら、やっぱり「高低」の誤記でした。

審決データベースのテキスト情報はてっきり機械的に読み込んでいるのかと思っていたのですが、こういうワープロ変換ミスみたいな誤記があるところをみると、あんがい手入力なんですね。

あるいは、機械でうまく読み込めなかったところは手入力にするのでしょうか。

まあ民間の判例データベースでも、誤記はそこそこありますから、やっぱり機械が作ったテキストは信頼性に欠け、人間の目が入ったPDF版の雑誌とか、原本とかにあたらないと危ないですね。

私もメモ書きや論文執筆するときに判例を引用するときは、検索できるし、コピペできるし、打ち間違いもないし、圧倒的に便利なのでテキスト情報を使うのですが、こういうことがあるので完全に信頼することはできません。

以前、出版社の校正段階で判例引用部分の誤記を指摘され、「データベースからコピペしたのに何でだろう?」と思ったら、テキスト情報のほうが間違ってました。

というわけで、どこまでも最後は人間の目が頼りだということなのだと思います。

「キーワード検索でヒットしなかったので該当なし」というリサーチの仕方も危ないです。

2020年5月13日 (水)

独禁法弁護士の面白さ

以前、同僚のM&A専門の弁護士から言われた言葉に、

「独禁法って、ビジネスそのものを扱うので面白いですよね。」

というのがありました。

これは確かにM&Aの弁護士からみたらそのとおりで、私もM&Aをかつてはそれなりにやりましたのでよくわかるのですが、弁護士にとってのM&Aって結局、ビジネスそのものとは関係ないんですよね。

買収のスキームを考えたり、スケジュールや必要な手続をチェックしたり、基本的には会社法(と、上場会社の場合には金商法)で片が付いてしまうんですね。

もちろんデューディリジェンスをするときには労働法が問題になったり、廃棄物処理法が問題になったり、といろいろな法律問題は出てくるのですが、それも所詮法律の枠内で済んでしまう話です。

しかも、そのあたりのデューディリジェンスは若い弁護士が担当するので、ある程度年次が上がると自分で法律のことを一からリサーチすることもありません。

なので、ある程度年次が上がってからのM&Aって、上に述べたように、会社法と金商法+αで済むことがおおく(税法については会計士さんが別途入ることが多い)、極端に言えば、買収先の会社がどんなビジネスをしているのか分からなくても、だいたい用は済んでしまいます。

なので、どんなに大きな案件でも、ビジネスにかかわっている、という感覚は希薄です。

でもM&Aに独禁法がかかわる場合、典型的には企業結合の届出とそのあとの実体審査ですが、その場合には、ビジネスの内容を知ることが不可欠です。M&A以外でも同じです。

アドバイスする内容も、ビジネスの戦略の立て方を裏側から(独禁法の側から)光を当てたようなものになります。

デューディリをやるときもビジネスを知らないとイメージがわかないのである程度の説明はお客さんから受けるのですが、それはあくまでイメージを掴むためと、法的リスクがどの辺にありそうかの当たりをつけるためです。

これに対して独禁法の場合は、ビジネスの内容(競争者のものも含め)が、アドバイスの基礎の中心になります。

そういうところをM&Aの弁護士からみると、ビジネスに踏み込むので面白いと思うのでしょうね。

わたしも、これは面白いと思います。

とくにディールチームの中にビジネススクール帰りっぽい人がいたら、また別の意味で話が噛み合って面白いでしょうね。

独禁法の基礎になっている産業組織論って、それをビジネス流に焼き直してビジネススクールで教えてたりするので(コトラーとか、そうですよね)、根っこのところでは共有するものがあります。

この業界でこういうことやったらこうなる(競争への影響が出る)だろうな、と思ったことを、「こういうことって、ありませんかね?」とお客さんに伝えると、「そのとおりです」と納得されたり、どうしてそんなことまで分かるんだろうという反応をされたりして、けっこう爽快ですが(笑)、それは経験というのもありますが、独禁法という法律の性質(ビジネスに根ざしている)、それから独禁法の基礎に産業組織論があり、産業組織論がわかると企業戦略がみえてくる、というのが大きいと思います。

つまり、ビジネスのことがわからないと独禁法では的確なアドバイスができないのです。

そのあたりが、純粋に法律だけを扱うM&A弁護士に比べると、面白いんでしょうね。

私自身は、細かい契約書の文言をぐりぐり弄り回すのも嫌いではありませんが、それはいかにも自分の土俵で相撲を取ってる感じで、マニアックな喜びですよね。

独禁法やろうかどうしようか迷っている人は、参考にしてもらえたらと思います。

反対に、ビジネスには興味ない、論理を操作するのが生き甲斐だ、という人は、独禁法には向かない(たぶんファイナンスとかが向く)と思います。

2020年5月 5日 (火)

クアルコム審決の量的・質的基準について

クアルコム事件審決は、拘束条件付取引における公正競争阻害性に関する基準として、マイクロソフト審決を引きながら、

「不当な拘束条件付に該当するか否かを判断するに当たっては、

具体的な競争減殺効果の発生を要するものではなく、

ある程度において競争減殺効果発生のおそれがあると認められる場合であれば足りるが、

この「おそれ」の程度は、競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解するべきではなく、

当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して、

公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である(マイクロソフト非係争条項事件審決・平20・9・16 審決集55 巻380 頁)」

と述べています。

この「量的又は質的な影響」の意味について、まとめておきます。

この点について、金井先生(公正取引826号9頁)は、

「これは、1982 年の独占禁止法研究会報告「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」(以下「独禁研報告・考え方」という。)で示された考え方である。

ここでいわれる「量的な影響」、「質的な影響」とは、排他条件付取引を例にとれば、

代替的な取引先や流通経路を見出すことができなくなるという「質的な影響」と、

行為者の市場シェアや取引先事業者の数等の「量な影響」を考慮して

市場閉鎖効果の有無を判断することである。」

と、具体例を挙げながら明確に解説されています。

被害者への影響を端的に物語るのが「質的な影響」で、それをシェア等の数字で裏付けるのが「量的な影響」といえるでしょう。

ここで引用されている独禁研報告書p3では、

「この場合〔自由競争減殺の場合〕、具体的な競争減殺効果の発生は要件ではなく、ある程度において自由競争を妨げるおそれがあると認められる場合で足りる。

具体的な行為について、公正競争阻害性を有するか否かの判断に当たっては、

①市場での競争を直接制約するような行為類型(再販売価格の拘束など)については、それが実効性をもって行われるものであるかが判断の中心となり、

②その他の行為類型については、当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断することが必要となろう。」

とされています。

つまり、再販のような原則違法類型以外について、この「量的又は質的な影響を個別に判断」という基準が出てきます。

なので、クアルコム審決はもちろんのこと、マイクロソフト審決も、ここの一般論の部分では、何も新しいことは言っていない、ということになります。

これに対して、平林英勝「不公正な取引方法規制の歴史・意義・課題」(経済法学会年報30号(2009年)74頁)では、

「上記②ア〔注・流取ガイドラインの「市場閉鎖効果に着目して判断するもの」〕の市場における有力な事業者基準〔注・市場シェア10%以上または上位3位以内の基準〕および影響力基準〔注・代替的な取引先を見いだすのが困難になること〕は、独占禁止法研究会の前記流通系列化に関する報告書〔注・「流通系列化に関する独占禁止法上の取扱い」(1980年、公正取引354号11頁)の量的実質性、質的実質性の基準にそれぞれ由来する。」

と、1980年の報告書が由来だとされています。

そして、同報告書では、不公正な取引方法を、

「ア 行為の外形から判断する場合ー一定の形式的な行為類型に該当すること自体で公正競争阻害性を認定する場合」

と、

「イ 行為の量的実質性あるいは質的実質性から判断する場合」

に分けた上で、「イ 行為の量的実質性あるいは質的実質性から判断する場合」をさらに、

「(ア)行為の量的実質性により判断する場合ー当該行為の本来的競争制限効果に着目し、それによって影響を受ける範囲が数量的に有意か否かを判断して、公正競争阻害性を認定する場合」

「(イ)行為の質的実質性により判断する場合ー当該行為が市場における競争に与える影響を具体的に判断して、公正競争阻害性を認定する場合

とに分けています。

また同報告書はさらに続けて、

「なお、各行為類型は、上記ア.イ.に振り分けられるが、例えば、ア.に区分される行為類型について、当該行為を実施している製造業者の反証により、行為の外形から直ちに違法と判断されない場合には、イ.(ア)、さらに(イ)によって判断されることになる。」

としています。

このように、量的基準と質的基準はそのいずれかに当たればいい(「又は」)であることがはっきり示されています。

以上のような量的・質的基準の議論とは外れますがしかしまっとうな議論として、

稗貫俊文「マイクロソフトNAP条項事件審決(公正取引委員会平成20年9月16日審決)の検討」NBL911号98頁 (2009)

は、マイクロソフト審決を分析し、

「まず、公取委は、松下電器産業、ソニー、東芝などのOEM 業者が、自己の特許技術を十分に活用して投資を回収できないという懸念をもってMSに対して執拗にNAP条項の削除を要求していることから、NAP条項がOEM業者の不利益となり研究開発意欲を減退させている蓋然性があるとしている。

これがおそらく当該行為の競争に及ぼす「質的な影響」の証拠ということになる。

また、公取委は、パソコンAV技術にかかるパソコン市場の市場規模が1.6兆円であるというデータを示している。

これはNAP条項により無償になったとするパソコンAV技術のロイヤリティ額を暗示するものである。

すなわち、たとえば1.6兆円の5パーセント程度がNAP条項が無ければ獲得できるはずのロイヤリテイの額ということになるであろう。

このような示唆に加えてさらに、パソコン市場で各社が保有するパソコンAV技術を使用許諾するとしたらロイヤリティ額は年間数十億円となるというOEM 業者側の主張が取り上げられ、

また平成14年にウインドウシリーズの搭載されたパソコンで使われたと考えられる自己の特許権のロイヤリティでみた損害額は13億米国ドルになろうというソニーの推計を取り上げている。

これがおそらく当該行為の競争に及ぼす「量的な影響」の証拠ということであろう。

そして当該行為の競争に及ぼす「量的又は質的な影響」に関する上記のような証拠は、特許制度が生み出す研究開発投資とその成果の回収のサイクルが上手く回転しなければ、特許権者は「研究開発の意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある」ということを示すものであろう。」

と分析されています。

わたしはこちらのほうがよっぽど量的、質的という言葉をすなおに捉えていると思いますが、少なくとも歴史的な議論の経緯とは異なります。

ただしそれが悪いとは思いません。意味の分からない議論は捨て去られるべきでしょう。

今は垂直制限の反競争性は経済理論でもっとすっきり整理されているので、その感覚からいうと、いかにも複雑怪奇な、取って付けたような説明で、連立方程式を知らない人が鶴亀算で問題を解くようなグロテスクさがありますが(今の時代の独禁法がこんなんだったら、私はたぶん独禁法を専門にしていないでしょう)、ともあれ、分析ツールを持たないまま複雑な問題に格闘した先人の努力は見て取れます。

そしてなりより、こんな昭和50年代の一般論が、平成末期まで生き残っている(おそらく令和の時代にも生き残る)ことに、やや驚きと失望を感じます。

つまり、みなさん自分の頭で考えずに公取文書をコピペするのが好きなんですね、ということです。

わたしは、こういう、歴史を遡らないとわからないような議論はきらい(科学の世界ではありえない)なのですが、実務では時々、こういうリサーチもしないといけないことがあります。

2020年5月 4日 (月)

公正取引に寄稿しました。

「公正取引」2020年4月号(834号)に、当事務所の藤井健一弁護士と共同で、

「独占禁止法を学ぶための参考文献と調査方法」

という論文を寄稿しました。

 

Img_1321

参考文献を紹介するだけだとただのブックガイドになってしまって面白くないので、「この本読んで(買って)みようかな」と興味を持ってもらえるように心がけました。

われわれ実務家は正直、勉強のために本を通読するということがあまりなく、必要なところだけつまみ食いすることが多いし、それが正しいと思うのですが、そうするといきおい、おすすめできる本は普段使っている本に限られてきてしまいます。

今回も、自分自身の勉強の軌跡をたどる、みたいな感じになっており、最新の文献を読み漁った中からお勧めをしているというわけではありません。

でも、せっかくこの論文を読むくらい独禁法に力を入れようという人に役に立つものにしたいので、表面的にならないよう、とくに、これからの実務を担う若い人に役立つことを願って書きました。

どうしても最小の努力で最大の効果をあげたいという人には、論文にも紹介しましたが、

白石忠志『独禁法講義〔第8版〕』

菅久修一『独占禁止法〔第3版〕』

の2冊をおすすめします。

それから、同僚の藤井弁護士のインターネットを駆使した情報収集も、さすがに最近は情報収集の在り方も変わったもんだなぁと関心しています。

ご興味のある方はご一読いただけると幸いです。

2020年5月 1日 (金)

「新型コロナウイルス感染症への対応のための取組に係る独占禁止法に関するQ&A」について

公正取引委員会が掲題のリリースをしております。

短いので全文引用しますと、

「問

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い,マスク,除菌剤等の小売価格が高騰しないよう,これらの商品について,メーカー等が小売業者に対して一定の価格以下で販売するよう指示する行為は,独占禁止法上問題となりますか。

1 メーカー等が小売業者の販売価格を拘束する行為は,正当な理由がない場合には,独占禁止法上問題となります(再販売価格の拘束)。

2 しかしながら,新型コロナウイルス感染症の感染拡大が進む中でマスクのような商品について,小売業者が不当な高価格を設定しないよう期間を限定して,メーカー等が小売業者に対して一定の価格以下で販売するよう指示する行為は,通常,当該商品の購入に関して消費者の利益となり,正当な理由があると認められるので,独占禁止法上問題とはなりません。

3 なお,一定の価格以下で販売するよう指示することにより,かえって商品の小売価格の上昇を招くような場合には,正当な理由があるとは認められません。」

ということです。

論点としては、最高再販売価格拘束は違法か、という問題であり、このブログでも何度か取り上げてきたところです。

わたしは、最高再販売価格拘束が違法になる場合なんてまずないと考えていますし、公取委も本気で取り締まる気なんてさらさらないでしょうから、今回のQ&Aは結論において妥当なものだと思います。

少し気になるのは、どうして「期間を限定」しないといけないのか、ということです。

一定の行為が消費者の利益になるといいながら、それが期間限定でなければならない(期間不限定だと消費者の不利益になる)という理屈がわかりません。

この点は深い理由もなく、正面切って「最高再販はOK」と言いたくないという役人根性に過ぎないのだと思いますが、まあ、お役人さんのすることに多くを期待してはいけません。精一杯やれることをやっていると評価してあげましょう。

ともあれ、「コロナ」とか、「マスク」とか、「一定期間」とか、「通常」とか、いろいろ留保はつけていますが、消費者の利益を「正当な理由」の根拠として正面切って認めたことは、大事なことだと思います。

以前このブログでも書きましたが、高速道のサービスエリアでのガソリン価格に関する平成29年相談事例集事例2ですら、

「本件取組は 利用者からX社に対して交通インフラ施設〔サービスエリア〕における消耗品α〔ガソリン〕 の販売価格が高いとの苦情が寄せられている 中でX社が管理している 交通インフラ施設の小売業者間の価格競争を促進し,利用者の利便性を向上させることを目的とするものであるところ,

①X社からの要請に従わないことの経済上の不利益は特段なく,小売業者は引き続き自己の販売価格を自主的に決定できること

②消耗品αの小売業者に対して 価格設定の根拠について説明を求めるにとどまり値下げの検討の要請に当たって 指標となる 具体的な価格を示すものではな いこと

から,小売業者の事業活動を不当に 拘束 するものではなく,独占禁止法上問題となるものではない。」

というように、最高再販は消費者の利益になるからいいんだという言い方はしておらず、わずかに、「利用者の利便性」というのを「目的」という、独禁法に関係あるのだかないのだかよく分からない(たぶん関係ない)要件の中に紛れ込ませる形で無理矢理入れ込んでいたにすぎないことに比べると、長足の進歩だといえます。

むしろこの高速道路の事例では、最高価格に従わなくても不利益がないことを理由の一番に挙げており、不利益があったら違法であるかのように普通の人は誤解する(こういう書きぶりは相談事例集に本当に多いです)ので、今回のコロナのQ&Aが消費者の利益を「正当な理由」と明言したことは、大きいと思うのです。

ちなみに、「(令和2年4月28日)新型コロナウイルス感染症に関連する事業者等の取組に対する公正取引委員会の対応について」という報道発表では、その(注2)で、

「(注2)欧州競争ネットワークは,令和2年3月23日に公表した共同声明においては,製造者が製品に最高価格を設定することは現行法において容認されており,流通における不当な価格上昇を抑えるのに役立つ可能性がある旨を示している。」

と、外国の例を引用する形でではありますが、最高再販が(少なくとも欧州では)容認されているとあえて触れているのは重要です。

なぜなら公取委がもしこの考え方と反対の考えを採っているなら、このような形で無条件で引用することは考えられないからです。

ちなみにこの欧州競争ネットワーク(ECN)の共同声明というのはこちらで、関係する部分は最後の、

「In this context, the ECN would like to point out that the existing rules allow manufacturers to set maximum prices for their products. The latter could prove useful to limit unjustified price increase at the distribution level.」

という部分ですね。

とっても明解ですね。

« 2020年4月 | トップページ | 2020年6月 »

フォト
無料ブログはココログ