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2020年4月

2020年4月26日 (日)

令和元年独禁法改正の協力減算制度についての懸念

令和元(2019)年6月26日に協力減算の導入を柱とする課徴金制度の改正法が公布され、1年6月以内(おおむね今年中)に施行される予定です。

この協力減算制度は2階建てになっていて、1階部分が「申請順位に応じた減免」、2階部分が「協力度合いに応じた減算」です。

申請減免は、

調査開始前 1位100%、2位20%、3~5位10%、6位以下5%

調査開始後 最大3社10%、それ以下5%、

協力減算は、

調査開始前 最大40%~

調査開始後 最大20%~

です。

これで何が起きるのかを想像すると、申請時に出す証拠の出し控えが起きる可能性があるように思われます。

調査開始前1位の申請者は自動的に全額免除なので関係ないのですが、たとえば調査開始前2位の申請者は、申請しただけでは20%しか減額されませんので、申請時に持ち駒を全部出してしまうと、あとの協力減算で出せるものがなくなって、極論すれば協力減算は0%という可能性もあります。

(実際には、今後策定されるガイドラインでも、現実の運用でも、そこまで厳しいことは言わず、淡々と公取委の出頭要請に応じて違反を認めて調書にサインすれば、それなりに協力減算が認められるのではないかと想像(期待)しますが。)

いちおう法律上は、減免申請時に出した証拠も協力減算で考慮する建前にはなってはいます。

つまり改正後7条の5第1項では、

「公正取引委員会は、

前条第二項第一号から第四号まで〔調査開始前2番目以降の申請者〕又は第三項第一号〔調査開始後3社(開始前含め最大5社)以内の申請者〕若しくは第二号〔調査開始後6番目以降の申請者〕に規定する事実の報告及び資料の提出を行つた事業者(以下この条において「報告等事業者」という。)から

次の各号〔1号は報告者による協力、2号は公取による課徴金額減額〕に掲げる行為についての協議の申出があつたときは、

報告等事業者との間で協議を行うものとし、

当該事実及び資料により得られ、

並びに

第一号〔報告者による協力〕に掲げる行為により報告し、又は提出する事実又は資料により得られることが見込まれ

事件の真相の解明に資するものとして公正取引委員会規則で定める事項に係る事実の内容その他の事情を考慮して、

公正取引委員会規則で定めるところにより、

報告等事業者との間で、

報告等事業者が同号〔1号〕に掲げる行為をし、かつ、公正取引委員会が第二号〔協力減算〕に掲げる行為をすること

を内容とする合意をすることができる。」

とされています。

(それにしても最近の独禁法改正の条文はますます読みにくいですね。。。)

ここで太線の「当該事実及び資料」というのは、その前に出てくる太字の、減免申請時に提出する「事実」および「資料」を指しており、協力度合いに応じた減算をする際に減免申請時に提出する事実および資料が考慮されることが明記されています。

つまり条文の建前は、減免申請時に出した資料に価値があればそれだけで(その後の協力をしなくても)最大の+40%の減額も夢ではない、ということです。

なので、出し惜しみするインセンティブはない、という理屈です。

しかし果たしてそうでしょうか?

減免申請の時に出した資料はもう出してしまっているので、減免申請を取り下げるのでもないかぎり、資料の一部を引っ込めるということはできません。

そうすると、少なくとも減免管理官の目には触れるわけです。

そうすると、この資料なら何%減額と公取に言われたら、交渉の余地が事実上なくなります。

これに対して、申請後の協力として出す場合には、公取委が示す減算率で不満なら協力しないという選択肢もありうるわけです。

たとえば、ある資料を出しても協力減算が0%だと言われたら、企業の合理的行動としては、むしろ出さないんじゃないかと思います。

先に手の内を全部見せてしまったら交渉の余地がなくなるのはあたりまえです。

それと、協力制度は協議申し出時点で減免申請が終わっていることが前提になっており(協力協議の申し出をできる「報告等事業者」が、「事実の報告及び資料の提出を行つた事業者」と定義されているため、申請をした後でないと協力協議の申し出ができないため)、申請前に、これだけ協力したら何%減額になるのか、という協議はできないことになっています。

アメリカの司法取引だと証拠を出すのは早ければ早いほうがいいと言われているのであまり出し惜しみするインセンティブはなさそうですが(協力開始時点で減額される額がわからないのはかの国も同じです)、日本の制度では、減免申請では最低限のことを出して、あとの協力としてめいいっぱい出す、というのが合理的な行動のように思われます(その善し悪しは別として)。

他の違反者が減免申請をして証拠を出してくるのでもないかぎり、減免申請時に出してもその後の協力として出しても証拠の価値としてはたいして変わらないはずなので、その意味でも、早くたくさん証拠を出すことのインセンティブを生む仕組みにはなっていないように思われます。

実際の実務でそこまで細かいことに神経をとがらせないといけないような事件がどれだけあるかは未知数であり、案外、みんな後先あまり考えずにどんどん資料を先出しするのかもしれませんが、考え出すとけっこう悩ましい問題です。

まずは協力減算のガイドラインでどういう定め方になるかですが、事が事だけに、予測可能性が高いと言えるほど詳細なものになることはあまり期待できないでしょう。

これは公取を責めているわけではなく、事柄の性質上仕方がないということです。

外国でも、「これをいつまでに出したら何パーセント減額」みたいにはっきりと定めているところはないと思います。

なので、ますます実際の運用が大事になってくると思われます。

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