何割の消費者が誤認すれば不当表示なのか?
よく聞かれる質問に、「消費者の何割くらいが誤認したら優良・有利誤認になるのか」というのがあります。
この点について、公正取引830号(2019年12月号)の座談会で、白石忠志先生の、
「だまされたと思う人が少数であった場合に、少数であっても、だまされる人がいたら措置命令や課徴金納付命令をするに足りるのか」
という質問に対して、小林渉消費者庁審議官が、
「一般論で申し上げると、必ずしも過半数の人が誤認しなければ不当表示にならないというわけではなく、中には2~3割の人が誤認すれば違反認定してよいというような説もあるようです。」
と回答されています(18頁)。
「説もあるようです。」という控えめな言い方ではありますが、具体的な数字をあげていただけたのは実務家としてはありがたいです。
実務では、
お役所の人が賀詞交換会の講演でしゃべったことが業界の都市伝説的ルールになっていたり、
政府の審議会で委員の先生がぼそっと「5割くらいじゃないですかねぇ」とつぶやいたのが実務のルールになっていたり、
ということがあります。
それくらい、企業は具体的なルールを求めているわけです。
余談ですが、たとえば優越的地位の濫用について、ある実務家が非常に緻密にかつ説得力をもって、取引依存度は10%を基準にすべきだと主張しているのに対して、「総合的に判断すべきで10%にみたなくても濫用に当たる可能性はある」みたいなことをいう学者の方が時折いらっしゃいますが、では「総合的」ってどういうふうに判断するの?ときいても、そういう学者の方から具体的な基準が聞かれることはまずありません。
はっきりいって、そういう「学説」は、実務的には無価値です。
なんでもかんでも「可能性がある」といっておけばまちがいにはならないわけですからね。
なので、具体的な分析をしている論者に対して「そうでない可能性もある」とだけ反論する論者をみていると、もうちょっと頭を使いなさいといいたくなります。
話を戻すと、実務ではそれくらい、具体的なルールというものが重視されるわけです。
ただ今回のケースについては、わたしは「2~3割」というのに依拠するのは危ないと思っています。
というのは、以前もこのブログで書きましたが、だいにち堂の取消訴訟で、消費者庁は、何割が誤認したかは問題ではなく、誤認した絶対数が多ければ不当表示だ、という趣旨の主張をしているからです。
景表法5条では誤認するのが「一般消費者」となっているので、消費者が一般的に誤認しないといけないのだ(だから少なくとも過半数なのだ)という説もあるかもしれませんが、形式論としては、一人だけでもその人が「一般消費者」であれば条文の要件を満たすので、文言解釈でどうなるものでもありません。
そして実質論としても、9割は誤認したときに1割の被害者を「だまされたおまえが悪い」と片付けて良いのかというと、なかなかそう割り切れないこともままあるのではないか、と思います。
また競争政策的な観点からいえば、不当表示をするためのコストは商品の品質を上げるコストよりもはるかに安いのが一般的なので、ふつうはだまされないような表示にもだまされる需要者(いわば表示上の限界的需要者)を保護しないと、悪徳業者の思うつぼ、ということになりかねません。
そういう意味で、10万人が見る広告で1%でも誤認して1000人が買ってくれたら、品質改善にコストをかけていない企業は十分にもうかる(その反面、品質改善のインセンティブがなくなる)わけで、そういうのを抑止しないでいいかというと、そんなことはないと思うのです。
なので、「2~3割」というのは一応の目安くらいにとらえておくのが、法解釈論としても、実質論としても妥当だと思います。
また、あまり「2~3割」というのが一人歩きすると、公取委や消費者庁の人が座談会で率直にお話ししてくれなくなるかもしれないので、そうなったらいやだなぁ、というのもあります😃
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