« 2019年12月 | トップページ | 2020年3月 »

2020年1月

2020年1月28日 (火)

ステマの動かぬ証拠?

アマゾンのマーケットプレイス(出品者名:「Ncoobi-XC」)で車用のスマホホルダー(商品名:JunDa スマホ車載ホルダー クリップ式 カーマウント)を買ったら、このようなカードが同梱されていました。

Img_11122

やや不自然な日本語ですが、要するに、★5つのレビューをしてくれたら1000円分のアマゾンギフト券を100人に1人差し上げます、ということのようです。

ちなみに本日(2020年1月29日)現在、アマゾンでは「ベストセラー1位」(カテゴリ 車&バイク)の表示がなされており、レビューの投稿数は1,112個とこの種の商品としては異様に多く、全体の81%が星5つの高評価でした。

これって、典型的なステマじゃないですかね?

ちなみに2019年8月18日付でレビューされた方(星1つ)は、

「商品と一緒に5つ星のレビューをすると1000円分のAmazonギフト券をプレゼントするというカードが同封されます。よって5つ星のレビューはほとんど信用できるものではないでしょう。私はこのレビューをする事で1000円分のAmazonギフト券を逃す事になりますが、私はレビューに嘘をつきたくないので正直な意見をここに残しておきます。」

と書かれています。

米国のFTC法などと異なり、日本の景表法では、事業者が他者にお金を払っていいレビューを書いてもらうような、いわゆるステマを一般的に規制することはできないといわれています。

というのは、景表法5条1項で優良誤認は、

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、

一般消費者に対し、

実際のものよりも著しく優良である・・・と示す表示であつて、

不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」

と定義されていて、「実際のものよりも著しく優良」でないと不当表示にならないからです。

でもたとえば本件で、「使い勝手抜群です!」とレビューをしたとしても、必ずしも「実際のものよりも著しく優良」だとはいえません。

本当に使い勝手抜群かもしれないし、レビューというのは個人の評価なので、「そのレビューを書いた人はそう思った」といわれてしまうと、事実と異なるということも非常にいいにくいです。

星の数にしても、あくまで当該レビュー者の評価ですから、その人が星5つといえば、星5つであることは「実際のものよりも著しく優良」とはいいにくいです。

もちろん、ブラジル産鶏肉を使っているのに、事業者が他人であるレビュー者に頼んで「あの店は国産鶏肉を使っているとか」なんてレビューを書かせると、不当表示になります。

明らかに客観的事実と異なりますし、表示の内容も具体的に事業者が指示しているからです。

インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」では、優良誤認の例として、

「○ グルメサイトの口コミ情報コーナーにおいて、飲食店を経営する事業者が、自らの飲食店で提供している料理について、実際には地鶏を使用していないにもかかわらず、「このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!」と、自らの飲食店についての「口コミ」情報として、料理にあたかも地鶏を使用しているかのように表示すること。」

というのがあげられています。

でも今回のケースでは、

「星5つのレビューを書いていただけないでしょうか。」

といっているだけなので、表示内容を具体的に指示しているわけではありませんし(指示しているのは星の数だけ)、レビュー者本人が星5つだと思えば、事実と異なるともいいにくいわけです。

ただ前記ガイドラインであげられているもう一つの例(食べログの事件で追加されたもの)では、

「 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。」

が不当表示だとされています。

この例では「口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼」ですが、業者に依頼するというのは食べログ事件があくまでそうだっただけで、べつに今回のように購入者に依頼しても同じように思います。

最近特に偽レビューがマスコミ関係でも騒がれていますし、わたしもネットのレビューはあまり信用しない(具体的な内容なら参考にするけれど、星の数は信用しない)ようにしていますが、消費者保護法的観点からも競争法的観点からも非常に重要な問題だと思いますので、消費者庁なり公正取引委員会が動くべきではないでしょうか。

2020年1月27日 (月)

何割の消費者が誤認すれば不当表示なのか?

よく聞かれる質問に、「消費者の何割くらいが誤認したら優良・有利誤認になるのか」というのがあります。

この点について、公正取引830号(2019年12月号)の座談会で、白石忠志先生の、

「だまされたと思う人が少数であった場合に、少数であっても、だまされる人がいたら措置命令や課徴金納付命令をするに足りるのか」

という質問に対して、小林渉消費者庁審議官が、

「一般論で申し上げると、必ずしも過半数の人が誤認しなければ不当表示にならないというわけではなく、中には2~3割の人が誤認すれば違反認定してよいというような説もあるようです。」

と回答されています(18頁)。

「説もあるようです。」という控えめな言い方ではありますが、具体的な数字をあげていただけたのは実務家としてはありがたいです。

実務では、

お役所の人が賀詞交換会の講演でしゃべったことが業界の都市伝説的ルールになっていたり、

政府の審議会で委員の先生がぼそっと「5割くらいじゃないですかねぇ」とつぶやいたのが実務のルールになっていたり、

ということがあります。

それくらい、企業は具体的なルールを求めているわけです。

余談ですが、たとえば優越的地位の濫用について、ある実務家が非常に緻密にかつ説得力をもって、取引依存度は10%を基準にすべきだと主張しているのに対して、「総合的に判断すべきで10%にみたなくても濫用に当たる可能性はある」みたいなことをいう学者の方が時折いらっしゃいますが、では「総合的」ってどういうふうに判断するの?ときいても、そういう学者の方から具体的な基準が聞かれることはまずありません。

はっきりいって、そういう「学説」は、実務的には無価値です。

なんでもかんでも「可能性がある」といっておけばまちがいにはならないわけですからね。

なので、具体的な分析をしている論者に対して「そうでない可能性もある」とだけ反論する論者をみていると、もうちょっと頭を使いなさいといいたくなります。

話を戻すと、実務ではそれくらい、具体的なルールというものが重視されるわけです。

ただ今回のケースについては、わたしは「2~3割」というのに依拠するのは危ないと思っています。

というのは、以前もこのブログで書きましたが、だいにち堂の取消訴訟で、消費者庁は、何割が誤認したかは問題ではなく、誤認した絶対数が多ければ不当表示だ、という趣旨の主張をしているからです。

景表法5条では誤認するのが「一般消費者」となっているので、消費者が一般的に誤認しないといけないのだ(だから少なくとも過半数なのだ)という説もあるかもしれませんが、形式論としては、一人だけでもその人が「一般消費者」であれば条文の要件を満たすので、文言解釈でどうなるものでもありません。

そして実質論としても、9割は誤認したときに1割の被害者を「だまされたおまえが悪い」と片付けて良いのかというと、なかなかそう割り切れないこともままあるのではないか、と思います。

また競争政策的な観点からいえば、不当表示をするためのコストは商品の品質を上げるコストよりもはるかに安いのが一般的なので、ふつうはだまされないような表示にもだまされる需要者(いわば表示上の限界的需要者)を保護しないと、悪徳業者の思うつぼ、ということになりかねません。

そういう意味で、10万人が見る広告で1%でも誤認して1000人が買ってくれたら、品質改善にコストをかけていない企業は十分にもうかる(その反面、品質改善のインセンティブがなくなる)わけで、そういうのを抑止しないでいいかというと、そんなことはないと思うのです。

なので、「2~3割」というのは一応の目安くらいにとらえておくのが、法解釈論としても、実質論としても妥当だと思います。

また、あまり「2~3割」というのが一人歩きすると、公取委や消費者庁の人が座談会で率直にお話ししてくれなくなるかもしれないので、そうなったらいやだなぁ、というのもあります😃

2020年1月24日 (金)

eスポーツの賞金と景表法に関する消費者庁見解について

いわゆるeスポーツ(=対戦型テレビゲーム)の大会で出る賞金は景表法の景品類等にあたらない(よって景表法の規制を超えて提供できる)、というのが消費者庁の見解です。

結論はそれでいいんじゃないかと思いますが、その理由づけについてはやや疑問に思っています。

消費者庁の見解は、2019年8月5日付法令適用事前確認手続照会書に対する、同年9月3日付同回答通知書に示されています。

その理由は、

「・・・参加者への賞金の提供は、・・・〔指定告示〕運用基準第5項(3)に規定する『仕事の報酬等と認められる金品の提供』に該当する」

から(p2)、ということです。

でも、賞金を「仕事の報酬」といってしまうと、大会で負けて賞金を獲得できなかった参加者は「仕事」をしなかった、ということになりますが、それはおかしいと思います。

だって、eスポーツの大会というのは、プレーを観客に見せることが参加者の「仕事」なわけで、「勝つ」ことが仕事ではないからです。

賞金が「仕事」の対価なら、「仕事」は、「勝つこと」といわざるをえないでしょう。

でもそうすると、懸賞告示1項の「懸賞」の定義の、

「特定の行為の優劣〔例、eスポーツ大会での優勝〕・・・によって定める方法」

にもろに該当してしまい、景品類にあたらないという説明が難しくなるように思います。

では、どう考えればいいのでしょうか?

ちょっと基本に立ち返って、この問題はどういう問題なのか整理します。

そもそも問題点は、照会書によると、

「当法人〔社団法人日本eスポーツ連合〕は、対戦型コンピューターゲームを製作 又は 販売する企業 (以下 「ゲー ム会社等 」という。) と共同 して、当該コンピューターゲームを使用して参加者同士で勝敗を争い最終成績が決定される競技型のゲーム大会競技型のゲーム大会やリーグ戦やリーグ戦(以下(以下「大会「大会等等」という。)を開催開催し、下記(2)に掲げる各大会に掲げる各大会等等の形式に応じての形式に応じて、一定の成績を参加者に賞金をを提供することを検討している。

しかし、当該賞金の提供が景表法第第2条第3項に定める景品類類の提供の提供該当する場合場合には、ゲーム会社等が当該賞金を提供する行為は懸賞行為にあたることとなり、「懸賞「懸賞による景品類の提供に関する事項の制による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第33号)によって提供可能な賞金額額が最大10万円に制限される可能性がある。」

ということなんですね。

ここで注意点は、もしeスポーツ大会の賞金が懸賞による景品類に当たるとしたら、当該景品類の提供者はゲーム会社だ、ということです。

つまり、ゲーム大会に優勝するためにはそのゲーム機で練習しないといけないので、そのゲーム機を買うことになるでしょう、ということは、そのゲーム機の大会でゲーム会社が賞金を出すと、ゲーム機の購入を誘引していることになりませんか、というのがここでの問題です。

指定告示運用基準の取引付随性でいえば、4(2)イの、

「商品又は役務〔=ゲーム機、ないしゲームアプリ〕を購入することにより、

経済上の利益〔=eスポーツ大会の賞金〕の提供を受けることが可能又は容易になる場合」

にあたりそうだ、という問題です。

(ゲームを購入して練習しなければ賞金獲得はとうてい不可能だ、と常識的に考えれば「可能・・・になる場合」でしょうし、少々あまのじゃく的に「人から借りたりゲームセンター(?)で練習したりすることもできる」と考えても、「容易になる場合」でしょう。)

もし大会主催者自身が自己資金で賞金を出すなら、購入を誘引されるべき、元になる本体商品がないので、景品類にあたりようがありません。

一つ考えられるのは、大会で賞金を狙うような人はプロゲーマーなのだから「事業者」だ、という整理ですが、プロゲーマーだけが大会に参加するわけではないですし(本事前照会書では、照会者はライセンス制も理由にあげていますが、後述のとおり、景表法解釈との関係ではライセンス制は無意味です。)、そもそも懸賞による景品類の提供は(総付と異なり)事業者に対するものでも違法です。

このことは懸賞告示1項で、

「「懸賞」とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。」

と規定され、提供の相手方を「相手方」としか規定しておらず、事業者に限定していないことからあきらかです。

(ちなみに総付は、総付告示1項で、

一般消費者に対して懸賞(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和五十二年公正取引委員会告示第三号)第一項に規定する懸賞をいう。)によらないで提供する景品類の価額は・・・」

というように、相手方を明示的に一般消費者に限定しています。)

ではどう考えればいいのか、というと、これは以前消費者庁出向経験のある弁護士さんのとある講演で聴いたのですが、誘引性がないんじゃないか、ということでした。(もちろんご本人の個人的見解です。)

賞金を獲得するには血のにじむような努力が必要なんであって、通常の景品にあるような、

「あの景品〔=賞金〕欲しいなぁ。じゃ、あのゲーム機買おう」

というような、購入意欲を喚起するような関係がeスポーツ大会の賞金にはない、というのです。

なるほどなあと思いました。

まさに、「膝をぽんと打つ」というイメージでしたね。

わたしも、誘引性がない、という整理のほうが、ずっと解釈論として洗練されていると思います。

景表法がネックになって高額賞金が出せないというのは、上述の需要喚起という通常の景品のイメージからするとどう考えてもしっくりきませんが、その違和感は何なのかとまじめに考えると、結局、誘引性がない、というところに行き着くように思うのです。

繰り返しますが、賞金を「仕事の報酬」としてしまうと、賞金を獲得できなかった人は「仕事」をしてなかった、という整理になり、賞金を獲得できなかった人も仕事をしたのだと認めるなら、報酬の不払い、ということになってしまいます。

ボクシングのように、ファイトマネー(リングに上がるだけでもらえるお金)と、賞金を分ければはっきりしますが、仕事の報酬はファイトマネーの部分であって、eスポーツ大会の賞金は勝ったことの対価だと思います。

報酬の不払いになるというのはもののたとえ、笑い話として聞き流してもらえればいいですが、根本的な問題は、「仕事の報酬」にいうところの「仕事」とは、景表法の解釈に照らして、どのようなものを指すのか、ということなんだと思います。

なぜ「仕事」の報酬が景品類にあたらないのかといえば、景品類(にあたる金品提供者)が、仕事に見合った利益を得ており、労務提供者が相応の労務を提供していて、そこに正常な対価関係が認められるからでしょう。

それを景品類だといって禁止してしまうのは、どう考えても具合が悪いです。

なので、仕事の報酬を景品類から(注意的に)除外しているわけです。

商品のモニターとか、仕事をしてもらうためには商品を買ってもらうことが(買ってもらうこと自体が目的ではなく意見をもらうことが目的であるにもかかわらず)条件にならざるをえないこともあるわけです。

また、報酬を、成果に応じて支払うこともあるわけで、その成果に応じてという部分をとらまえて偶然性あり、よって懸賞だ、といわれてしまうと、まともな成功報酬も懸賞にあたってしまいかねません。

なので、仕事の報酬を景品類から除外するのは合理的ですが、そこで想定されている「仕事」とはあくまで、上述のように、「景品類(にあたる金品提供者)が、仕事に見合った利益を得ており、労務提供者が相応の労務を提供していて、そこに正常な対価関係が認められるから」です。

その点、eスポーツ大会では、結果的に賞金を獲得した人だけが労務を提供しているわけではないし、賞金提供者が利益を得ているのも賞金獲得者のプレイだけではない(少なくとも決勝でプレイして負けた人は同じくらい仕事をしている)と思います。

以上をもって、「仕事の報酬」だという説明は、わたしは無理があると思っています。

この問題はeスポーツだけでなく、けっこう広がりがありうる問題で、ある商品のプロモーションをするのに、その商品で競わせる企画なんていうのはいろいろあるんじゃないかなと思います。

わたしが小学生のころ、近所のおもちゃ屋さんで、プラモデルのラジコン戦車(正確には、ラジコンは当時小学生には高嶺の花で、コントローラーと本体は電線でつながった「なんちゃってラジコン」でしたが)で対戦する大会というのがありました。

優勝者に賞品がでたかは覚えていませんが、もし商品を出したら、これなんて、景表法の懸賞にあたりそうです。

(その大会があるのをある年に見たわたしは、とても参加したくなり、プラモデルの戦車も買って対戦に臨んだのですが、翌年は「エントリー少数につき中止」となり、とても残念だったのを覚えています。)

似たような企画は、バッティングセンターとか、いろいろありそうです。

こういうのをぜんぶ、「仕事の報酬」というのは、さすがに無理があるように思います。

ゲーマーのライセンス制度に一定の意義があるという意見もありますが、法的には何の関係もないというべきでしょう。

公正取引830号(2019年12月号)の座談会でも、小林渉消費者庁審議官が、

「スポーツでの『仕事の報酬』となると、プロとかアマという話が出てくるわけですが、アマチュアだから仕事の報酬をもらえないということにはならないので、プロ・アマを問わず、また、何らかのライセンスのあるなしを問わず、eスポーツの賞金は景品表示法上の景品規制を受けないので、安心して賞金の出る大会をやってくださいというようなことを説明しており、国会でもそのように答弁しているところです。」(p27)

と、ライセンスの意義は明確に否定されています。

白石先生の、

eスポーツと景品表示法」(東京大学法科大学院ローレビューVol. 12 2017.11)

という論文でも、

「賞金が提供される相手方であるプレーヤーも形式的にはビデオゲームを購入した顧客であるとしても、そのような『顧客を誘引するための手段として』賞金を提供しているのではない、と説明するのが、最も据わりが良いように思われる」

と説明されています。

2020年1月17日 (金)

経済学における「費用」の概念について

経済学における「費用」の概念は、われわれ法律家をふくむ一般人の目からみるとかなり変わったものなので、独禁法実務においてもこの点をしっかり抑えておかないと混乱が生じかねません。

一番大事なのは、経済学の費用は機会費用(opportunity cost. 生産に必要な財を当該生産の次に利益の大きな生産に用いた場合の利益の差)であるということでしょう。

たとえば経済学の教科書を読んで最初にびっくりするのが、完全競争のもとでは利益はゼロになる、という話です。

「利益がゼロでいったいだれが生産するのだ」と思うのですが、ここでいう「利益」は、収入と費用の差であるところ、この費用が機会費用を意味するので、「利益がゼロ」というのは、通常の言葉でいえば、費用に見合った正常な利益が出る(けどそれ以上は出ない)、ということなんですね。

もうひとつの重要な点は、経済学の費用は基本的に実質値(real value)で考えるべき、ということです。

名目値(nominal value)と実質値(real value)というのは、たとえばリンゴ1個200円、ミカン1個100円の経済で、リンゴの名目価格は200円ですが、実質価格はミカン2個、というようなイメージです。

つまり、名目は金額で、実質はある基準となる量(ミカン1個)の何倍か、で考えます。

この違いが、企業結合の効率性の抗弁で生きてきたりします。

同じようなことがいろいろなところで書かれていますが、たとえば、

John E. Kwoka, Jr. & Frederick R. Warren-Boulton, Efficiencies, Failing Firms, and Alternatives to Merger: A Policy Synthesis, 31 Antitrust Bull. 431 (1986)

という論文のp433では、

To be given any weight in evaluating the competitive effects of a merger, cost savings must be (in economic terms) "real" rather than "pecuniary" and must be uniquely attributable to the merger in question. Since these conditions are generally understood, only a brief discussion on each is presented.

"Real" cost savings allow the firm to produce more or higher-quality output from the same amount of inputs, and may arise in a number of ways. For example, mergers may reduce transportation costs as the consolidated firm routes materials among geographically closer, but previously separate, plants. Similarly, a merger may permit plants of the two constituent firms each to rationalize their product mix and lengthen production runs. Resources may also be conserved through merger if superior managerial techniques or superior production techniques are transferred between the firms. Indeed, almost any nonproduction area-marketing, distribution, research, etc.-may achieve efficiencies. Conventional plant-level scale economies, however, are perhaps least likely to be improved by merger, since generally little can be done to merger production at existing, separate facilities.

By contrast, "pecuniary" cost savings are reductions in a firm's costs that do not represent real resource savings. Examples of a pecuniary cost saving would be tax gains from a merger or lower inframarginal input costs due simply to enhanced bargaining power against suppliers. Lower input costs can even be associated with reductions in social welfare if a merger creates or enhances monopsony power against competitive suppliers. In this case, reduced input purchases by the merged firm drive down input prices, but the reduction in input costs is not due to a reduction in the amount of inputs used to produce the same amount of output. Indeed, while profits increase as input purchases and prices fall, output falls and social welfare declines.

と説明されています。

(引用部分の「pecuniary cost savings」というのが、名目値による費用削減を意味しています。)

つまり、企業結合における効率性の抗弁での費用削減にいうところの「費用」というのは、同一の生産をより少ない量の投入財で行うことができるようになることを意味するのであり、たんに合併により価格交渉力が増して安く購入できるようになった(だけれども、同一量の生産に必要な原材料の数量は変わらない)、というのは効率性(=費用の削減)とは評価すべきではない、ということです。

このあたりは公取委の相談事例(企業結合も、それ以外も)をみても、あまり明確に意識されているとはいいがたく、むしろまったく意識していないのではないかと疑われますが、経済学的には大事なのは実質値であることは理論的にはあきらかなので、誤解のないようにしておくべきだと思います。

2020年1月11日 (土)

アルトルイズムの打消し表示について

2019年3月29日、アルトルイズムという会社が、髪が黒くなるとうたうサプリで措置命令を受けました

命令の2頁をみていただくとわかるのですが、本件では、

「1.艶のある深い黒さに※1」

及び

「2.フサフサボリュームも※2」

という表示について、

「※1:サプリメントの粒の色のことです。」

「※2:ボリュームのある内容量のことです。」

との打消し表示をしていました。

ほんとうに人をばかにしたような、悪徳業者ここに極まれりというかんじの広告ですが😠、これに対する措置命令の認定は、

「当該記載は、文字と背景との区別がつきにくく、

「1.艶のある深い黒さに※1」及び「2.フサフサボリュームも※2」との記載に比べて小さな文字で記載されたものであることから、

一般消費者が前記アの表示から受ける効果に関する認識を打ち消すものではない。」

というように記載されています。

しかし、わたしはこの認定はちょっと無理があるというか、事案の本質をつかみきれていないと思います。

というのは、プレスリリースの15頁にその実物があるのでご覧いただきたいのですが、たしかに強調表示と比べて小さいものの、そこそこの文字の大きさで書かれており、このサイズでだめだといわれるとちょっときついかな、と思います。

本件打消し表示は「※」印で視線を誘導しているので、なおさらです。

命令の、「文字と背景の区別がつきにくく」という認定も、「※2」の打消し表示の文字(白色)は背景の白衣の白色と重なってとてもみにくいですが、「※1」のほうは、少なくとも「※1:サプリメントの粒の色」の部分までは背景(青色)と文字(白色)の区別がつきにくいとまではいいにくいように思います。

(強調表示に付けられた「※」マークがあって、同一視野に打消し表示があることから、離れた場所にある(ので無効だ)という認定はされていませんが、これは妥当でしょう。)

つまり、この打消し表示の本質は、打消しの内容が、強調表示の意味からはおよそ理解できないような、ほとんど詐欺的な内容であることなのではないかと思うのです。

白髪に効くサプリだと広告全体でこれだけ謳っておきながら、「艶のある深い黒さに」というのを、一体誰がサプリメントの粒の色のことだと理解するのでしょう???

こんな詐欺的な打消し表示は、端的に、「意味をなさない」というべきだと思います。

つまり、どれだけ打消し表示が大きく目立つように書いてあっても(たとえば、強調表示と同じ文字の大きさと目立ちやすさで書いてあったとしても)、意味をなさない、という認定をすべきです。

消費者庁も、本音のところでは、これだけ詐欺的な内容の打消し表示ならこの程度の文字の大きさと目立ちやすさでは足りない、といいたかったのではないか、と思います。

たとえば携帯電話のプランとか、複雑な商品役務をまじめに説明しないといけない場合に、「※」印もつけて、これだけの近さで、この大きさで書いてもだめだ、といわれると、やっぱり実務的な支障は大きいと思います。

平成20年の打消し表示の実態調査報告書では、打消し表示の留意点として、

①見やすいこと(文字の大きさなど)

②内容が明瞭であること

③強調表示と同一視野にあること

④強調表示と併せると無意味となるものでないこと

があげられていますが、本件は、あえていえば、④(無意味)か、②(不明瞭)にひっかかる、というのが本質ではないか、と思うのです。

あるいは、このような詐欺的な打消し表示は通常人には理解不能、といいきっても良かったかもしれません。

なので、本件は、理屈の上ではやや疑問があると思いますが、それでも、消費者庁が、このような詐欺的な表示を取り上げて命令を出したということは、高く評価すべきだと思います。

また、最近の一般的な傾向に添っただけともいえるとはいえ、打消し表示についての評価を明記したことも、高く評価すべきだと思います。

というのは、こういう命令が出れば、「艶のある黒はサプリの色のことなんだという言いわけは通じないんだ」という部分だけが、業界で広まる可能性が高いからです。

(もしこの命令をみて、「そうか、もっと大きく書けばよかったのか」という人は、少なくとも業界にはあまりいないと思います。)

あるいは、業界の人というのはいろいろと勘ぐるものなので、むしろ、「こんな詐欺的な表示をしてたから消費者庁を怒らせて、たいした被害もないのに注意ではすまずに措置命令までいったのではないか」なんて思ってくれるかもしれません。

というわけで、こういう詐欺的な業者はどんどん摘発してもらいたいと思います。

2020年1月 7日 (火)

ギグワークと下請法(と、ついでに消費税転嫁法)

最近東京ではよく見かけるようになったウーバー・イーツのような、アプリで単発の仕事を受けるような働き方をギグ(gig)ワークというらしいですが、ギグ・ワーカーも事業者なので、業務の内容によっては下請法の適用がありうるので注意が必要です。

たとえば、ある会社(ウーバー・ジャパン)が、レストランから配達を受託し、その配達業務を個人事業者に再委託すると、下請法上の役務提供委託にあたります。

つまり、下請法4条2項では、

「「役務提供委託」とは、

事業者〔=Uber〕が

業として行う提供の目的たる役務〔=料理の配達〕の提供の行為の全部又は一部を

他の事業者〔=ギグ・ワーカー〕に委託すること

(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)

をいう。」

とされており、これにあたります。

下請事業者が個人事業者の場合には発注者側の資本金は1000万円超で下請法の対象になります(下請法2条7項4号)。

ギグ・ワーカーは労働者ではなく労働法上の保護がおよばないことが問題視されていますが、下請法は逆に事業者を保護する法律なので、この点は問題なくクリアーされます。

下請法が適用されると、3条書面(発注書)を直ちに交付しないといけなかったり(メールも可)、下請事業者の名簿を管理しないといけなかったり、公取委の書面調査を受けたりと、いろいろと大変です。

でも下請法以上に気をつけないといけないのが、消費税転嫁法かもしれません。

というのは、消費税転嫁法では、相手方が個人事業者の場合には、発注者の資本金額を問わず、違反になるからです。

そのため、外国会社(にかぎりませんが)が日本子会社の資本金を小さくして下請法の適用をまぬがれることはできますが、消費税転嫁法の適用をまぬがれることはできません。

もし、ギグ・ワーカーへの委託手数料を税込で定めていたりすると、消費税増税時に手数料をみなおさないと必然的に買いたたきになります。

実際、消費税転嫁法では、この手の、個人事業者(塾講師など)に対する委託料を税込でさだめていたために買いたたきになってしまった例が非常に多いです。

事業者の方で、心当たりのある方は、注意をしましょう。

(※なお、もちろんこの記事は、ウーバーが下請法違反や消費税転嫁法違反をしているという趣旨ではありません。)

« 2019年12月 | トップページ | 2020年3月 »

フォト
無料ブログはココログ