デジタル・プラットフォーム優越ガイドラインについて
2019(令和元)年12月17日に、
「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」
が公表されました。
原案からの変更(新旧対照表)やパブリックコメントの結果などをみて気がついたことを記しておきます。
原案の「デジタル・プラットフォーマー」という言葉が、「デジタル・プラットフォーム事業者」に変わっています。
「デジタル・プラットフォーマー」というのは和製英語で、英語ではdigital platformとだけいうので、これでよいのでしょう(原案をそのまま英訳すると恥ずかしいことになります)。
パブコメ60番の、
「優越的地位の有無は個々の消費者とデジタル・プラットフォーム事業者との間で個別に認定されるものと理解してよいか。(弁護士,学者)」
という質問に対して、
「優越的地位の認定に当たっては,デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスについて,一般的な消費者にとって代替可能なサービスがあるかどうか等の観点から判断されます。その旨,(注5)及び(注6)に追記しました。」
と回答されています。
これは、課徴金導入後優越的地位は個別の取引先との間で認定されることになったので、本ガイドラインではどうなのか、という趣旨の質問ですが、回答では、優越的地位は個別に認定はせず一般的な消費者を基準に認定するとされているのです。
なんだか支離滅裂な感じがしますが、公取委はデジタル・プラットフォームの個人情報不当取り扱いについては課徴金は課さない方針と思われ、それはそれでよかったと思います。
パブコメ221番で、ガイドラインの「対価」は課徴金算定基礎である独禁法施行令30条の「対価」と同義かとの質問に対しても、
「優越的地位の濫用行為に係る課徴金については,個別具体的な事案に応じて,独占禁止法第20条の6の規定に基づき,算定します。」
と、はっきりとした回答を避けているので、やはり課徴金を課す気はないことがうかがえます。
パブコメ76番で、
「「優越ガイドライン」において,「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位」があれば足りるとしていますが,「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位」があれば,通常,取引の相手方に対して優越した地位にあるものと考えられます。」
というのは、すごいことを言っちゃってますね。
これって、本ガイドラインではなく優越ガイドラインの説明ですから、おおざっぱにいえば、市場シェア50%以上の事業者はすべての取引先との関係で優越的地位にある、ということになります。
でも、特定分野でシェア50%以上であっても、相手方のほうが強いことは世の中でいくらでもありうるように思われ、これはちょっと言い過ぎ(本ガイドラインの話にとどめておけばよかったのに)、と思います。
それに、本ガイドラインの文脈でも、たとえばフェイスブックが同種のSNSでシェア5割以上だとしても、そもそも消費者の一部しかSNSをやっていないのなら、(注5)の、一般的な消費者にとって代替可能かどうかで判断するという基準に照らすと、代替可能(∵そもそも大部分はSNSをやっていないので、「代替不可能」といいがたい)ということになるのではないでしょうか?
それに関連して、(注6)では、サービスをやめることが事実上困難かどうかは、一般的な消費者にとって利用をやめることが事実上困難かどうかで判断するとされていますが、これも厳密には、「現に利用している一般的な消費者にとって」という意味なのでしょう。
そもそもフェイスブックを使っていない消費者は、やめること(≒使わないこと)が困難であるはずがないからです。
・・・と考えていくと、実は、「現に利用している」消費者がやめられなければ優越的地位が認められるのであって、「現に利用している」消費者の数は問題にならない、ということになりそうです。
つまり、非常にニッチで少数参加のプラットフォームでも、本ガイドラインの対象になる、ということです。
パブコメ112番で、
「「なお,…正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる場合には,次のような行為に限らず,…問題となる。」とあるところ,個人情報等の不当な取得又は利用であって,かつ,想定例に該当しないものの問題となる行為の具体例を追記すべき。(団体,弁護士)」
というコメントを受けて、(注8)
「例えば,デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして,
消費者から取得する「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ,
消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために,
消費者から「個人情報以外の個人に関する情報」を取得する場合等は,優越的地位の濫用として問題となる。」
が追加されました。
これって、意味がよくわかりませんが、いわゆるプロファイリング目的での情報取得が問題だといっているようにも読めます。
とすると、個人情報保護法を超えて独禁法が個人情報を保護していることになり、はたしてそこまでするのが妥当なのか、疑問がわいてきます。
似たようなことは、成案で追加された(注11)でも出てきており、同注では、
「(注11)ウェブサイトの閲覧情報,携帯端末の位置情報等,一般には,それ単体では個人識別性を有しない情報であっても,当該情報を,個人を識別して利用する場合は,そのことを消費者に知らせずに取得すると問題となる。」
とされています。
これって、クッキーや位置情報の取得も、個人を識別して利用する場合は濫用だ、ということです。
ちゃんと個人情報保護委員会とすりあわせたのですかね。心配です。
パブコメ195番で、想定例⑥の、
「デジタル・プラットフォーム事業者F社が,サービスを利用する消費者から取得した個人情報を,消費者の同意を得ることなく第三者に提供した」
の「第三者」にグループ会社が含まれると明記したらどうかというコメントがよせられたのに対して、
「5⑵ア想定例⑥の「第三者」には,「グループ企業」も含まれます。」
と、あっさりと回答されています。
でも、競争法の世界で第三者にグループ企業も含まれるというのは極めて異例です。
競争は、グループ単位で行うものだからです。
また、グループで個人情報を共有すると、どうして競合他社より有利に立てるのかも、よくわかりません。
もし競合他社より有利に立てるとしても、ここまでくると、濫用行為のために競合他社より競争上優位に立つかどうかが問題なのではなくて、法律違反(個人情報保護法違反)で競合他社より競争上優位に立つことが問題視されているといわざるをえず、下手をするとあらゆる法律違反が優越的地位の濫用になりかねないように思われます。
全体的に見ると、本ガイドラインは、優越ガイドラインなどの既存の解釈と整合性をとろうという発想がきわめて希薄であり(それでいいと割り切っているようにみえる)、プラットフォームと個人情報の問題に特化したガイドラインだという印象を強く受けます。
もしガイドラインでなく法律だったら、ぜったいに法制局審査は通らないでしょう。
でもこういうガイドラインにしたがって正式事件を摘発するのは、いろいろとぼろがでてきっと大変なはずであり、なので、実際の事件はたぶん起きないだろう、という思いがさらに強くなりました。
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