納期の前倒しと不当な給付内容の変更再論
だいぶ以前に、納期を前倒しすることは不当な給付内容の変更(下請法4条2項4号)にあたらないのではないか、と書いたことがあります。
理由は、納期は給付の「内容」ではないから、ということです。
ところが、その後に出た、2018(平成30)年11月27日付の公取委と経産省連名の親事業者代表者宛「下請取引の適正化について」という文書では、
「(11) 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
・ 下請事業者に責任がないのに、発注内容の変更(納期の前倒しや納期変更を伴わない追加作業などを含む。)を行い、又は下請事業者から物品等を受領した後(役務提供委託の場合は役務の提供後)にやり直しをさせることにより、下請事業者の利益を不当に害すること。(下請法第4条第2項第4号)」
というふうに、発注内容の変更に納期の前倒しも含まれる、と明記されています。
このように明記されているからには、行政解釈はそうなのだといわざるをえないですが、いろいろ考えてみてもやっぱりこの解釈は(ありえないとまではいえないものの)これまでの公取のさまざまな解釈・文献と整合性がない(つまり、まちがい)と思います。
実は白状すると、わたしも以前この点についてブログで書く前までは、納期を後ろ倒しにすれば受領拒否だし、前倒しにすれば不当な変更だ、と単純に考えていました。
(もちろん、受領拒否は4条1項なので即違法であるのに対して、不当な給付内容の変更は2項なので下請事業者の利益を不当に害する場合にのみ違法、という大きな違いはありますが。)
というのは、そういう説明をいろいろなところで聞いていましたし、結論に強く異論を唱えるほどのことでもないのでさして違和感も感じなかったからです。
ところがあるとき元公取の弁護士さんから、納期は給付の「内容」ではないのだから納期を前倒ししても給付内容の変更にはあたらないのだと当然のように説明を受け、目からうろこが落ちる思いがし、それで、前回の記事を書いたのでした。
その理屈は前回の記事にほぼ尽きているのでご覧いただければと思いますが、一番決定的なのは、下請法テキストp82に、
「「下請事業者の給付の内容を変更させること」とは,給付の受領前に,3条書面に記載されている給付の内容を変更し,当初委託した内容とは異なる作業を行わせることである。」
とはっきり書いてあることです。(引用部分は令和元年版からですが、この部分は以前から変わっていません。)
ここでいう「3条書面に記載されている給付の内容」というのは、どう考えても、3条書面規則1条2号の、
「二 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした日、下請事業者の給付(役務提供委託の場合は、提供される役務。以下同じ。)の内容並びにその給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、下請事業者が委託を受けた役務を提供する期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間))及び場所」
にいうところの、「給付・・・の内容」をさしているといわざるをえず、3条書面規則でも「給付・・・の内容」とその次の「受領する期日」は分けて書いてあるので、「給付・・・の内容」には納期(「受領する期日」)は含まれない、と読むほかないと思うのです。
さらに付け加えれば、納期の前倒しや後ろ倒しではないかと議論のあったジャストインタイムについての下請法テキストの解説(Q52)では、
「・・・納入指示カードによる変更により,納入日が遅れたり,納入日ごとの納入数量が少なくなる場合には,それにより下請事業者に費用(保管費用,運送費用等の増加分)が発生したときにそれを全額負担しなければ,受領拒否又は不当な給付内容の変更として問題となる。」
と解説されています。
(ちなみにこのQ52は、受領拒否の項目にあります。)
ここで、「納入日が遅れたり」するのは納期の後ろ倒しであって受領拒否が問題にされていることがわかります。
さらに、納期の後ろ倒しにより保管費用が発生する場合には保管費用を負担させること(納期の後ろ倒しという行為自体ではなく!)が不当な給付内容の変更にあたりうる、と説明されていることがわかります。
テキストではさらに続けて、
「また,納入指示カードによる変更により,納入日が遅れ,下請代金の支払が遅くなることが考えられるが,それが納入時期の微調整にとどまる場合・・・には,ジャスト・イン・タイム生産方式においてやむを得ないものとしてこれを認めている。」
と説明されていて、ここでも、納期が遅くなった場合の問題(支払遅延の可能性)について言及しているだけです。
さらに続けて、
「なお,製品仕様の変更等親事業者側の一方的都合による発注内容の変更若しくは発注の取消し又は生産の打切り等の場合には,下請事業者が既に完成している製品全てを受領しなければ,受領拒否として問題となり,仕掛品の作成費用や部品代を含む下請事業者に発生した費用を全額負担しなければ,不当な給付内容の変更として問題となる。」
と解説されていますが、ここでも問題になっているのは、受領拒否や、発注取消という内容変更だけです。
このように、納期の微調整があることから当然前倒しも後ろ倒しもあるはずのジャストインタイムですら、前倒しに相当する行為についてはなんら言及されていないのです。
このことからも、当時の公取が、納期の前倒し自体は給付「内容」の変更であるとは考えていなかったことがうかがわれます。
したがって、前掲「下請取引の適正化について」は、公取委の従来の解釈を変更したものと考えざるをえません。
(それにしては、下請テキストに何の変更もないのが不可解なところですが、このテキストは法律解釈としてはあまりレベルが高くないので、まあこんなもんだろうと思います。)
ともあれ、行政解釈はこういうことなので、大半の事業者はこれにしたがうのでしょう(争われる方は、前回の記事と上記の説明をご参考になさって下さい。)
ですが、では納期の前倒しはぜったいにできないのか、というと、そんなことはまったくありません。
納期の前倒しが給付内容の変更にあたるとしても、下請法テキストp83の解説では、
「給付内容の変更又はやり直しのために必要な費用を親事業者が負担するなどにより,下請事業者の利益を不当に害しないと認められる場合には,不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの問題とはならない。」
とされているからです。
つまり、納期前倒しのために必要になった費用を親事業者が負担すれば違反にならないのです。
たとえば、もし急に納期の前倒しを依頼して従業員を残業させないといけなくなったとか、原材料を外国から空輸しなければならなくなったとか、追加の費用がかかったのなら、これを支払う必要がありますし、逆に言えば、追加費用を支払えば変更はしていいのです。
ですから、納期を前倒ししたけどとくに下請事業者に追加の費用が発生していないのなら、違反になるはずがありません。
この点は、前掲の「下請取引の適正化について」でも、なんら変更はなされていないものと思われます。
よって、納期の前倒しは下請法により一律に禁じられているのだという解説がもしあれば、それはあきらかに間違いです。
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