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2019年11月29日 (金)

総付規制の及ぶ特定商品金額証の「特定」性について

自社との取引にのみ用いることができる金額証(自社使用金額証)は原則として総付の金額規制の適用外ですが、例外として、「特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないも」には総付規制が適用されます(総付告示運用基準4(2))。

では、ここでの「特定の商品又は役務」というのは、どの程度特定されていれば(どの程度狭ければ)、「特定の商品又は役務」にあたるのでしょうか。

この点については、片桐一幸「景品規制に関する告示等の改正について」公正取引546号(1996年)40頁、46頁では、

「金額証については、金額が示されているもので特定の商品と引き換えられるものでないものとされているので、

例えば、金額が明記された百貨店の商品券はこれに該当すると考えられるが、ビール券やテレホン・カードは金額証には該当しないと考えられる。」

と解説されています。

百貨店の商品券は百貨店で売っているものを何でも買えるので「特定」されていないけれど、ビール券はビールという特定の商品(群)にしか使えないので「特定」にあたる、ということなのでしょう。

(なおここでは自社使用金額証であることが前提ですので、百貨店の商品券は百貨店が提供する場合ですし、ビール券は酒屋さんが提供する場合です。また景品類として他の本体商品の取引に付随して提供する場面が問題ですので、百貨店の商品券やビール券自体を商品として販売する場合には、どう転んでも景品類にはなりません。)

でもこの区別って、合理的なのでしょうか?

正直、どうしてこういう区別になるのか、わたしには理解できません。

上記解説でもこの論点について解説しているのは上記引用部分だけで、あまり深く考えているようには思えません。

(ということは、運用基準の立案担当者もあまり深く考えていなかった、ということです。)

テレホン・カードは、NTTの公衆電話にしか使えないので、「特定」というのは、少なくとも運用基準の文言解釈としては、理解できます。

だたそれでも、今でこそNTTは固定電話だけでなくブロードバンドや携帯サービスも提供していますが、かつての固定電話しかない時代のNTTのように、1商品で成り立っているような会社はたとえ自社商品すべて(=当該1商品)に利用できる自社使用金額証であっても、「金額証」に該当せず、総付規制がかかってきてしまうので、この「特定」かどうかで区別するガイドラインの規定は、あまり合理的なものではないと思います。

きっと、特定の商品とのみ引き換えられる金額証は当該特定の商品を景品類として提供するのと変わらないじゃないか、という発想なのだと思うのですが、こういう一本足打法の会社を考えると、基準を立てるならもっと別の基準にすべきだったのでしょう。

ともあれ運用基準があるのでこれを前提に考えざるを得ないのですが、それでも、「特定」か「不特定」かで区別するというのは、とてもあいまいです。

ビール券は実際に世の中にあるので、「ビールしか買えない券」(ワインは買えない)というイメージが頭に浮かぶので、上記解説はそのイメージだけで「特定」といっているような気がします。

ですがもし将来「お酒券」(ソフトドリンクは買えない)というのが出てきたら、「特定」の商品と考えるのでしょうか?

「飲み物券」(食べ物は買えない)ならどうでしょう?

「食べ物&飲み物券」ならどうでしょう?

さらに商品をがらっと変えて、「洋服券」というのを仮に発行したら、どうでしょう?

レストランの「お食事券」はどうでしょう?

そのレストランの料理には何でも使えるので不特定なのでしょうか? (←これが正しいような気がします。)

それとも、「料理」という特定の商品にしか使えないので、特定なのでしょうか?

ラーメン屋の「お食事券」なら、ラーメンにしか使えないので「特定」なのでしょうか?

そのラーメン屋でチャーハンも出してたら、「お食事券」は不特定なのでしょうか?

それとも、ラーメンとチャーハンにしか使えないので「特定」なのでしょうか?

対象商品を事業者の側がある程度自由に出し入れできるような金額証ならどうでしょうか? (とくにオンラインなら対象商品の変更は、やろうと思えばいくらでもできるように思います。)

反対に、「ビール券」は、銘柄を問わずどのビールにも使えると考えると、「ビール券」は不特定の商品に使用できる、といっても良さそうな気がします。

もし世の中に「一番搾り券」とか、「キリンビール券」とかが普通にあって、ビール券なるものが存在しなかったら、上記解説では「ビール券」は不特定の商品と交換できる、といったのではないか、という気がします。

つまり上記解説、ひいては、運用基準の当該部分は、現に世の中にあるもののイメージに引きずられすぎていて(一種の現状維持バイアス)、一般的な規範としてはうまく機能しないような気がします。

上記解説でビール券とテレホンカードは「特定」だと明記されているのでしかたないですが、景品規制は実際に措置命令が出ることはまず考えられませんから、そのほかの金額証は、「いちおう説明がつけばいい」くらいに、実務上はある程度柔軟に考えていいように思います。

消費者庁にはぜひ、このへんを明確にしていただきたいと思います。

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