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2019年9月10日 (火)

だいにち堂訴訟での消費者庁の主張について

通販新聞9月5日号(6面)が報じるところによると、消費者庁は、だいにち堂の取消訴訟において、同社が提出したアンケート調査で効果があると肯定的な評価をしたのが1割にとどまるということを前提としたとしても、

「広告が掲載された新聞の販売部数約658万部(1日あたり、推計)を前提とすると『60万人が改善効果が得られると認識する可能性を示すものであり、軽視できない』とも指摘」

しているそうです。

これは実務的には非常に重要な意味があると思います。

というのは、景表法の論点で、誤認はどのような消費者を基準にするのかというものがあり、大元編『景品表示法(第5版)』(緑本)p50では、

「当該商品役務についてさほど詳しい情報・知識を有していない、通常レベルの消費者、一般レベルの常識のみを有している消費者が基準となる。

したがって、・・・ごく一部の消費者のみが勘違いや無知により誤認を生じるようなものは含まれない・・・」

と説明されています。

これについて私は以前から、これだとごく一部でもだまされる消費者が保護されないことになり消費者保護法として不十分だと批判していました。

とくに不当表示はそれ自体たいしてコストがかからないので(いわゆるチープトーク)、ほんのわずかでもだまされる消費者がいればうそをつくのが事業者にとっては合理的ということになり、通常レベルの消費者を基準にしたのでは不当表示が防げないと考えています。

経済学的な比喩を用いれば、平均的あるいはinframarginalな需要者を基準にするのではなく、marginalな需要者を基準にすべき、ということです。

ですがだいにち堂訴訟での消費者庁の主張は、たった1割でも誤解するなら問題だ、あるいは絶対数が多いから問題だ、とするものであり、通常レベルの消費者を基準にするという従来の考えかたから大きく離れています。

実は以前からホンネのところでは消費者庁ないし公取委はこういう運用をしていて、ホンネとタテマエを使い分けているところがあったように思われます。

最近の特に厳しい運用(マクドナルドのローストビーフバーガー事件など)の時代もそうですが、かなり以前にも、たとえば、2008(平成20)年3月13日NTT東西に対する「DIAL104」に関する排除命令で、

DIAL104そのままおつなぎします

と表示しただけで、同サービスの利用には通話料もかからないかのような表示であって、実際には通話料がかかったので不当表示だとしました。

わたしはこの事件は行き過ぎであったと今でも思っていますが(「そのままおつなぎ」というだけで、無料だと理解する人がどれだけいるのか疑問)、それはともかく、ときどきこういう「外れ値」(outlier)的な事件は従来からあり、「通常レベル」というのを額面どおりに受け取ることはできませんでした。

それが今回、取消訴訟の主張という形で、消費者庁のホンネがはっきりと見えたわけです。

事業者としては、そんなホンネとタテマエの使い分けをされたのではたまったものではないわけで、きちんとタテマエを通して欲しいところですが、お役所というのは自分のまちがいはぜったいみとめないので、これからも緑本の「通常レベル」という記述は残るのだろうと思います。

でもこういう記述が残るのは大きな誤解のもとなので、次回改定の際にはきちんとあらためるべきだと思います。

西川課長、よろしくおねがいします。

ところで、600万部の1割で60万人も誤認するから無視できないというのもやや暴論で、それだと、延べ6000万部の広告を出したら1%が誤認するだけでも優良誤認になってしまいます。

あるいは、消費者庁が6万人でも無視できないというなら、600万部の1%でも誤認したらアウトということになります。

しかし、それはそれでちょっとやりすぎではないでしょうか。

従前から、不注意な消費者も保護すべきと主張していたわたしですら、1%だと、さすがに事業者が何も広告できなくなってしまいそう(あるいは、延々と打消し表示をしなければならなさそう)で、行き過ぎな気がします。

(marginalだと最後の1人でも保護されるべきなのですが、それは言葉の綾ということでご了承下さい。)

独禁法での公取委もそうですが、訴訟になったらお役所というのはめいいっぱい自己に有利な(いわゆる高めの)主張をしてくるもので、そういう点では一般私人となんら異なりません。

わたしは消費者庁は最近少々行き過ぎはあるにしても基本的には消費者の味方だと思っているのですが、こういう、理屈をないがしろにしてなりふりかまわぬところを見ると、ちょっとげんなりします。

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