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2019年8月19日 (月)

フジタに対する取引妨害での排除措置命令について

農業土木工事のフジタが取引妨害で排除措置命令をうけました(平成30年6月14日)。担当官解説が公正取引819号46頁に載っています。

この事件は非常に変わっていて、総合評価方式の入札でフジタが自社に天下りした農水省OBのツテを使って発注者の農水省東北農政局の担当職員に技術提案書の添削をしてもらって落札したのが、競争者に対する取引妨害にあたるとされたものです。

命令では問題の行為は、

(2) フジタは,別紙1記載の工事について


ア フジタ東北支店に再就職した東北農政局元職員から,東北農政局の評価担当者に対して,技術提案書の提出期限前に,技術提案書の添削等を依頼し,フジタ東北支店において当該添削等を踏まえて技術提案書を作成して東北農政局に提出し

イ フジタ東北支店に再就職した東北農政局元職員から,東北農政局の評価担当者に対して,入札書の提出期限前に,入札参加申請者の技術評価点及び順位を問い合わせ,これらに関する情報について教示を受け

フジタ東北支店において入札していた。

と認定されています。

公取委実務では昔から「困ったときの取引妨害」という言葉がありますが、いくら取引妨害の行為要件が

いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること

という漠然としたものだからといって、こんな使い方をするなんてちょっと行き過ぎじゃないでしょうか。

たしかにフジタがズルをしたのは事実ですが、それが「妨害」といえるものなのか、アンフェア-だとはいえても、添削の結果良い提案が出せたのなら、結果的に一番良い提案をしたところが落札してるわけで、どう競争がゆがめられているのか、よくわかりません。

担当官解説(p51)では、

この発注手続の制度からすれば、入札参加申請者は、入札前に東北農政局職員の助力を得ることなく技術提案書を作成して提出し、自己の判断で入札価格を検討して入札を行うことが求められていたことは明らかである。

と説明されていますが、説明としては論理的ではありません。

この場合、添削によって競争がゆがめられたというなら、では、職員がフジタの添削をしなかったらどうなったのか、を考えてみる必要があります。

もし添削をしなかったら、フジタの技術提案はもっと質が低かったはずです。

その結果他社が落札したかもしれませんし、それでもフジタが落札したかもしれませんが、いずれにせよ、添削をした場合より悪い条件で契約が成立したと考えるのが論理的です。(よくなることはないはず。)

でもそれって、競争をゆがめたことになるのでしょうか?

劣った結果でも、フェアーな手続なら、そのほうがいいといいきれるのでしょうか?

これはけっこう哲学的な問題で、自己の判断で技術提案をすることが「求められていたことは明らか」というだけでは、説明として不十分です。

担当官解説52頁では、さらに、「競争手段の不公正さ」の見出しの中で、フジタの行為は、

本件対象工事に係る一般競争入札について、当該競争入札の本旨に反し

他の入札参加者が落札・受注できない蓋然性を高め、

農林水産省における取引先の選定を阻害するものであったことから、

価格・品質・サービス等の取引条件を競い合う能率競争を旨とする公正な競争秩序に悪影響をもたらす不公正な競争手段に当たるものと判断されたと考えられる。

と解説されていますが、「本旨に反し」というのでは説明として不十分でしょう。

能率競争を阻害するといってますが、結果的にすぐれた提案だったのなら、果たして能率競争を阻害するといえるのでしょうか。

なので本件の本質は、添削をして最高点をとったフジタの提案が、実は最も高品質な提案ではなかった、あるいは、他より相対的にすぐれた提案ではあったけれど、その差は微々たるもので、最高点をとることが過度に落札結果に有利にはたらく制度だった、ということなのではないでしょうか。

そうでないと、「能率競争」の観点からは説明できないと思います。

落札者の決め方が合理的でない入札というのは世の中にときどきあり、わたしが以前みたものには、価格ではほとんど評価に差が付かなくって、ほとんどもっぱら経験値だけできまる、というのもありました。

本件もそういう不合理な制度だった可能性がありますし、逆に、そういう可能性がないなら、競争をゆがめたというのは、因果関係とかもふくめていろいろな意味でちょっとむずかしいんじゃないかと思います。

総合評価だとか、技術提案の添削だとか、本件独自の細かいところに目が行きがちですが、たとえばもっとシンプルに、フジタが入札担当者に、

「他社の入札価格を教えて下さいよ」

と聞いて、入札担当者がフジタに、

「ほかのところの入札額は最低のところで○○円だから、それ以下で入れたら落札できるよ。

でも最低制限価格(非公表)は△△円だから、それよりは上で入れてね。」

と教えたら、値段を聞いたフジタは取引妨害になるのか、という問題です。

(実際には入札は同時のことが多いため、このようなことはできないでしょうから、頭の体操とお考え下さい。)

本件が取引妨害にあたるというなら、こういう、入札担当者から他社の入札額を聞き出すのも取引妨害にあたるといわないと、つじつまが合いません。

こういうのも取引妨害だ、という人はいるかもしれませんが(公取はそうでしょうが)、わたしには大いに違和感があります。

この事件で思い出すのはパラマウントベッドの私的独占事件で、同事件では入札担当者の無知に乗じてパラマウントが自社しか供給できない仕様をまぎれこませたことが排除型私的独占になりました。

パラマウントベッド事件は、競争が起きない仕様を採用させたこと自体が競争を制限しているので(競争が起きれば価格は下がったはず)、わかりやすい事件だったのですが、本件はそのような説明が不可能です。

また、どうしてパラマウントベッドは私的独占で、フジタの事件は(かなり無理な理論構成をして)取引妨害にしたのかも不明です。

(本件のような事件で私的独占にするのはおおげさすぎてはばかられたのでしょうか? それとも、競争の実質的制限の立証が無理なので、手段の不当性だけで違法にできる取引妨害が選ばれたのでしょうか?)

ともあれ、こんな官製談合くずれのような事件が取引妨害になるんだということは、知っておくべきだと思います。

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