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2019年8月23日 (金)

ジュリスト判例速報にクアルコム審決の評釈を書きました

ジュリスト1536号(9月号)の独禁法事例速報に、

「非係争義務が拘束条件付取引に該当しないとされた事例

ークアルコム・インコーポレイテッド事件」

と題してクアルコム審決の評釈を書かせていただきました。

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話題の事件で興味があったので、たいへんよい機会をいただけたと思っています。

いろいろと議論もありうる事件なので、この記事が議論を深めるのに少しでも役に立てばと思います。

字数がかぎられるので書けないことも多かったですが、きちんとしたことをブログで書くのは時間がかかってたいへんなので、雑感を述べておきます。

まず審決の論理は、クロスライセンスは通常適法だから本件も適法だ、という拍子抜けするくらい単純な論理で、どうしてこんな単純な事件に9年もかかったのか不思議なくらいです。

しかも審決は一見長くみえますが、般若経(読んだことはありませんが)も顔負けにくりかえしが多く、簡潔に書けば審判官の判断の部分は半分くらいになったんではないかと思われます。

(審判官の方は、長いフレーズを1文字で出せるように、ワープロの単語登録機能を駆使したのだろうと想像されます。)

あと、当事者の主張の洗練度をくらべてみると、大人と子供中学生くらいのちがいがあって、矢吹先生さすがだなぁ(JASRAC審決に続いての勝利)と思うとともに、審査官のこんな薄弱な理論に9年間も付き合わされたのかと思うと、国民として恐ろしい思いがします。

と同時に、もっと早く終われなかったのか、関係する審判官の方々には反省していただきたいです。

いくら執行停止をえたクアルコム側には早く終わらせるインセンティブがないといっても、税金の無駄遣いですし、その間、法的にも不安定な状態になるわけで、だらだらとやっていいことにはならないと思います。

改元がなかったらもっと時間がかかってたんではないかと勘ぐったりしてしまいます(審決日は平成ギリギリの平成31年3月13日)。

こういうのをみると、審判制度がなくなってよかったなぁと思わざるをえません。

裁判所なら2年くらいで一審判決が出ていたのではないでしょうか。

理屈の上でもいろいろ問題で、まず、FRAND宣言付の標準必須特許とそれ以外の非必須特許が審査官の主張では区別されていません。

この点はクアルコム側が適切に、標準必須特許は商品差別化の役には立たないと主張し、審決もそのとおりみとめています。

まずこの点だけで、審査官の主張はロースクールの答案なら落第でしょう。

今の公取なら優越的地位の濫用とか、ひょっとしたら取引妨害(!)とかもくっつけて命令を出すかもしれませんが、この当時はもっと品がよかったので、拘束条件付取引だけでした。

そのおかげで、拘束条件付取引では「余儀なくさせた」かどうかは違反の要件ではないと、審決でも明確化されました。

これはよかったと思います。

ところで最近の公取委の実務にならってこの審決でも関係者名は伏せ字になっていますが、それだとイメージもわきにくいので、公開情報からわかる分を以下に記しておきます(たぶん業界に詳しい人ならすぐにわかるレベルだと思います)。

ジュリストの記事でも関係する分については明記しています。

分かった分だけ結論を書くと、以下のとおりです。

A1→松下電器産業
 
A2→パナソニック
 
B→日立製作所
 
C→富士通
 
D→日本電気
 
E→東芝
 
F→三菱電機
 
G→カシオ計算機
 
H→カシオ日立モバイルコミュニケーションズ
 
I→京セラ
 
J→三洋電機
 
K→シャープ
 
L1→パナソニックモバイルコミュニケーションズ
 
特定の根拠は以下のとおりです。
 
審決書で「A1」と表記されている会社は、T63規格に31件の特許、T64規格に8件の特許を有するとされ(審決案p6)、いずれもインターネットで公開されている特許権者リスト(T63規格T64規格)で〔松下電器産業〕(現A2〔パナソニック〕)と確認できます。
 
さらに平成21(2009)年9月の時点で「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)とされているのも、VIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
Bは、平成16(2004)年4月1日より端末事業をH〔後述のとおりカシオ日立〕に移管した(p8)ことから、日立製作所(G参照)とわかります。
 
T64規格に19件の特許があるとされるのは(p6)、公開リストで確認できます。(ただし、T63規格に26件の特許(p6)があるとされていますが、公開リストでは24件です。)
 
基地局を製造する(p8)ことも確認できます(後述)。
 
Cは、T63規格に21件の特許、T64規格に8件の特許を有するとされ(p6)、いずれも公開リストから富士通と確認できます。
 
富士通が「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していることはVIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
富士通は基地局を製造していた(p8)ことが確認できます(後述)。
 
Dは、T64規格に6件の特許を有するとされ(p7)、公開リストで日本電気と確認できます。(ただし、T63規格に7件の特許があるとされるのは(p6)、公開リストでは17件です。)
 
「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していることは、VIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
基地局を製造しているとされますが(p8)、日本電気も基地局を製造していました(後述)。
 
Eは、T63規格に7件、T64規格に0件の特許を有するとされますが(p6)、公開リストで東芝と確認できます。
 
Fは平成20(2008)年3月3日に端末事業を収束させる旨公表したとされますが(p8)、これは三菱電機です。
 
・「『D』の三菱電機、携帯電話の開発・生産から撤退」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/03/news030.html
 
「三菱電機は〔2008年〕3月3日、携帯電話事業からの撤退を発表した。」
 
・基地局を製造していたとされますが(p8)、三菱電機も該当します(後述)。
 
三菱電機は「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していることがVIA LICENSINGのウェブサイトで確認できます。
 
T64規格に5件の特許権を有すること(p7)は、公開リストで確認できます。(ただし公開リストによると三菱電機はT63規格にも10件の特許を有しています。)
 
Gは、平成16(2004)年4月1日に端末事業を子会社H〔(株)カシオ日立モバイルコミュニケーションズ〕に譲渡した(p8)とされていますが、これはカシオ計算機です(2004年2月3日カシオ・日立製作所共同報道発表。カシオ:日立=51:49)。
 
Hは、カシオ日立モバイルコミュニケーションズです(G特定により)。
 
Iは、Jから平成20(2008)年4月1日に端末事業を譲り受けたとされ(p8)、これは京セラと特定できます。
 
なおライセンス当時必須特許がなかったとされますが(p60)、公開リストでは京セラの必須特許はありません。
 
Jは、平成20(2008)年4月1日に端末事業をI〔京セラ〕に譲渡したとされるので(p8)、三洋電機と特定できます。
 
・「京セラ(6971.T)は〔2008年1月〕21日、三洋電機6764.Tの携帯電話事業を〔2008年〕4月1日付で買収すると発表した。」(ロイターズ2008年1月21日)https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-29873020080121
 
Kは、「W-CDMA Patent Licensing Programme」に参加(p91)していること、および消去法から、シャープと推測されます。
 
L1は、平成15(2003)年1月1日にL2〔松下通信工業〕から社名変更したとされ(p8)、パナソニックモバイルコミュニケーションズとわかります。
 
・「パナソニック モバイルコミュニケーションズ」(ウィキペディア、https://ja.wikipedia.org/wiki/パナソニック_モバイルコミュニケーションズ)
 
・「1958年1月17日 - 大阪府北河内郡門真町(当時)に松下通信工業株式会社(まつしたつうしんこうぎょう、Matsushita Communication Industrial Co., Ltd.)設立。(松下電器産業「現:パナソニック株式会社」より分離)」
 
・「2003年1月1日 - 松下グループの再編により、携帯電話端末事業に特化したパナソニック モバイルコミュニケーションズ株式会社(初代)が発足。」
 
実は、審決案p8の並び(G、I、J、K、E、D、L1(L2)、B、C、F)が五十音順であることが一つのポイントで、これを前提にすると、カシオ(G)、京セラ(I)、三洋電機(J)、シャープ(K)、東芝(E)、日本電気(D)、L1(パナソニックモバイルコミュニケーションズ)、日立製作所(B)、富士通(C)、三菱電機(F)となり、上記の推定が裏付けられます。
 
審決案p8の、「《D》〔日本電気〕、《L1》〔パナソニックモバイルコミュニケーションズ〕、《B》〔日立製作所〕、《C》〔富士通〕及び《F》〔三菱電機〕の5社はCDMA基地局の製造、販売も行っていた。」という部分については、平成12(2000)年から平成21(2009)年までの間にCDMA基地局の製造販売をしていたのは、次のとおり、日本電気、パナソニックモバイルコミュニケーションズ、日立製作所、富士通、三菱電機です。
 
・「キャリア別にみた3G/LTE/LTE-Aにおける無線機ベンダーの変遷」https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/mca/757128.html
 
「NTTドコモは3G時代、NECや富士通、松下通信工業(パナソニック モバイルコミュニケーションズ、PMC)の3強であった。」
 
「KDDI(au)では、3G時代に1x方式でMotorola、1xEV-DO方式では日立製作所とサムスン電子ジャパンがシェアを獲得していた。」
 
「ソフトバンクは3G時代、エリクソン・ジャパンやNECが無線機を供給していたが、その後、NECがノキア シーメンス ネットワークス製品にリプレースされた。」
 
・三菱電機技報「W-CDMA基地局装置」http://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/giho/2004/02/index.html
 
審決案p8では、「《D》、《L1》、《C》等は、自社又は関連会社において・・・半導体集積回路も製造していた。」とされますが、この3社は以下のとおりです。
 
・日本電気(D)
 
「NECエレ、W-CDMA端末向け半導体でトップシェア目指す」
 
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/21/news106.html
 
・パナソニックモバイルコミュニケーションズ(L1)
 
「松下電器、携帯電話用UniPhierシステムLSIを開発〜通信・アプリ機能を1チップに統合」
https://www.rbbtoday.com/article/2008/07/17/52885.html
 
・富士通(C)
 
「システムLSIへの富士通の取り組み」https://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/jmag/vol55-6/paper01.pdf

 

 

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