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2019年5月

2019年5月22日 (水)

二重価格表示の「過去8週間の過半」の基準時

わたしは二重価格表示が適法となる要件について、

①比較対照に用いる価格(「通常価格」)での販売期間が通算2週間以上、かつ、

②セールの各時点において、その時点から遡る8 週間において、「通常価格」で販売されていた 期間が当該商品の販売期間の過半数を占めており、かつ、

③「通常価格」で販売された日からセール開始時 までに2週間経過していないこと

と説明することが多いのですが(たとえば公開されているものとして東京都のセミナーのスライドの39頁をご覧下さい)、これの②について、価格表示ガイドラインでは

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

とされているので、「セールの各時点」は「セール開始時点」の間違いではないか、という指摘をたびたび受けます。

セミナー等では時間の関係もあり、「とにかくこの3つの要件だけ、覚えてください」といって理屈を説明しないので、こういう質問が出てしまうのもしかたないなと常々反省しており、今日はこの点についてきちんと説明したいと思います。

実はこの点については、大元他『景品表示法〔第5版〕』(緑本)101頁では、

「・・・最近相当期間価格と認められるためには、

・ 当該商品の販売期間の過半を占めていること(要件a)

・ その価格での販売期間が2週間未満でないこと(要件b)

・ その価格で販売された最後の日から2週間以上経過していないこと(要件c)

の3つの要件を満たすことが必要であると整理できる。」

と整理されており、そのうえで、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

と問題提起されています。

そしてさらに続けて、

「例えば、過去8週間継続して同じ価格で販売してきた商品について、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合、

セールの開始時点では当該比較対照価格は要件aからcを全て満たしているが、

セール期間が2週間となった時点で要件c〔最後の日から2週間以上経過していないこと〕を満たさなくなり、

さらに、セール期間が4週間となった時点で要件a〔過半の要件〕も満たさなくなる(セールが始まった4週間の時点で過去8週間をみると、比較対照価格での販売期間が4週間、セール価格での販売期間が4週間となって、前者〔比較対照価格での販売期間〕が「過半を占める」状況が失われてしまう)が、

このような場合〔要件cについてはセール期間が2週間を超えた場合、要件aについてはセール期間が4週間を超えた場合〕に二重価格表示を継続することが景品表示法上問題とならないのであろうか。」

という形で問題提起がなされ、これに答える形で、

「この点については、原則として、要件c〔最後の日から2週間経過していないこと〕についてはセール開始時点で成立していれば足りると考えられるが、

要件a〔過半の要件〕についてはセールが終わるまで常に成立している必要があり

要件a〔過半の要件〕が満たされなくなった後〔セール開始後4週間を経過した後〕は、セールを継続すること〔例えば、「通常100円のところ、60円!」というセールをしている場合に、二重価格表示をせずに60円で売り続けること〕自体は何の問題もないものの、

当初の二重価格表示を継続することは景品表示法上問題となるおそれがある。」

と、過去8週の過半の要件(要件a)はセール各時点で満たす必要があり、セール開始後4週間で過去8週中過半の要件(要件a)は満たさなくなる、と明記されています。

つまり、「過半」の要件は各時点において判断され、セール開始後4週間を経過すると「過半」の要件を満たさなくなる(各時点で過去8週間をさかのぼると、セール開始後4週間経過するとセール後の販売が過去8週の過半になってしまうから)、ということです。

なお、過去8週の過半の要件がセールの各時点で満たす必要があることは、大元100頁で、より端的に、

「この要件〔当該商品の販売期間の過半を占めていること〕は、・・・セール実施期間を通じて満たされている必要がある。」

とまとめられています。これだけ見ると少しわかりにくいですが、前述のように104頁以下の詳しい説明をみると、「セール実施期間を通じて満たされている必要がある」というのは、「セールの各時点で過去8週の過半を満たしている必要がある」という意味だとわかります。

これを短くまとめると、②の「セールの各時点において、その時点から遡る8週間において、通常価格で販売されていた期間が当該商品の販売期間の過半数を占める」という結論になります。

これは、少し考えてみれば当然のことで、たとえば「通常100円のところ、60円!」という表示をした場合、消費者はセールがいつ始まったかなど(開始時を明記しない限り)知るよしもありませんから、それを見た消費者は、その表示を見た時点において「通常は100円なのだな」と認識するわけです。

「通常」は、過去8週間の過半とされているので、消費者が表示を見る各時点(=セールの各時点)において、各時点からさかのぼる8週の過半でなければ、消費者の上記認識とずれてしまいます。

また、セール開始時に「過去8週の過半」を満たせばいいのだとすると、二重価格表示を何年も続けてよいことになり、これはあきらかに不合理です(2年も3年も前の価格を「通常価格」というのはむりです)。

では二重価格表示を4週間を超えて行いたい場合にはどうすればいいのかというと、比較対照価格がいつの時点かわかるように表示すればいいのです。

たとえば「通常100円のところ、60円! 2019年4月1日よりセール開始」と表示すれば、100円は2019年3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるので、4週間を超えても問題ないと思われます。

この点については、前掲大元104頁では、前記同書引用箇所に続けて、

「ただし、二重価格表示が行われる時点で、セールの期間が明示されている場合には、一般消費者にとって価格の変化の過程が明かであり、セール期間中に要件a〔過半の要件〕が満たされなくなったとしても、直ちに問題とはならないと考えられる。」

と解説されています。

これも考え方は同じで、「通常100円のところ、60円」という二重価格表示とともに、「セール期間2019年4月1日~5月31日」と表示しておけば、比較対照価格は3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるから問題ない、ということです。

なお、このように理解しているのは私と緑本だけでなく、たとえば加藤他編著『景品表示法の法律相談〔改訂版〕』229頁でも、

「①の要件〔注・比較対照価格で販売された全期間が直近8週間において過半を占めること〕に関しては二重価格表示を継続している期間中は継続して充足していることが必要であるとされています。」

「そうすると、8週間連続して比較対照価格で販売した後、より安い販売価格でセールするとともに二重価格表示を行っていた場合において、セール期間が4週間を超えた時点で①の要件を満たさなくなるという事態が生じ、比較対照価格は最近相当期間価格といえなくなります。」

というように、同趣旨の解説がなされています。

というわけで、正解はあきらかなのですが、価格表示ガイドラインの記載が、

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

というように、これ以上ないくらい非常に明確に書いてあるので、誤解を招くのも当然だと思います。

緑本の解説をみても、なぜガイドラインの「セール開始時点から」という文言にもかかわらず、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

のか、さっぱりわかりません。

ガイドラインをみたら誰だって、文字どおり「セール開始時点から」という意味だと理解するだろうからです。

なので、このガイドラインの文言は、私はまちがいだと思います。

(しょせんガイドラインはガイドラインですから、法律の解釈として間違っていても、論理的にはなんらおかしくありません。)

あるいは、ガイドライン制定時は過去8週の過半をいつの時点でみるのかをあまり意識せず、漠然と、「セール開始時点から」とドラフトしてしまって、あとになって、まずい(これでは何年でもセールができてしまう)ことに気づいて、ガイドラインの解釈修正(緑本)という形でしのごうとしているのかもしれません。

(そんなばかなドラフトをすることなんてありうるのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも当時の公正取引委員会のレベルはそんなもんです。)

というわけで、ここは非常に誤解を招きやすいところなので(というか、どうみてもガイドラインの文言がおかしいので)、ガイドラインを早急に改正すべきだと思います。

間違いを認めるのはけっして恥ずかしいことではありません。

明かな間違いでもけっして認めないのは、政治家だけで充分です。

わたしも今後のセミナー等では、「ガイドラインの文言は違う説明になっているけど、解釈でこのように(上記①~③のように)修正されています」と一言説明しようと思います。

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