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2019年4月

2019年4月24日 (水)

コンビニの24時間営業に優越的地位の濫用を適用するとの報道について

本日(4月24日)の朝日新聞の報道によると、公取委がコンビニの24時間営業に対して優越的地位の濫用を適用する方針を固めたそうです。

「公取委の複数の幹部によると、バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合などに店主が営業時間の見直しを求め、本部が一方的に拒んだ場合には、独禁法が禁じている「優越的地位の乱用」にあたり得る、との文書をまとめた。」

のだそうです。

とんでもないことだと思います。

これは、フランチャイズシステムによる24時間営業のコンビニというビジネスモデルそのものを否定する暴挙です(あえて強い言葉を用いる必要があると考えます)。

そもそも優越的地位の濫用は、それがなぜ「競争」に悪影響をあたえるのかの理論づけがはっきりしておらず、取引先に不利益をあたえる事業者ががそうでない事業者よりも競争上有利になるのがいけないのだとか、苦しい説明がなされているところです。

また、濫用による競争はめぐりめぐって消費者のためにもならないんだ、という、これもよく意味がわからない説明がなされることもあります。

これらの説明自体、競争への影響の理論(theory of harm)として不十分なものであり、結局、優越的地位の濫用はたんなる弱い者いじめなのだという理解が一般的です(たんなる弱い者いじめであるかぎり、いじめられた事業者は他の取引先に乗り換えればいいだけなので、競争には無関係です。有利な取引先に乗り換えるのがまさに競争なのですから)。

ところが、コンビニの24時間営業はこの2つの説明すら成り立ちません。

まず、現状、ほぼ全てのコンビニが24時間営業をしています。24時間営業をしないコンビニが競争上不利になっている、という事実がありません。

また、24時間営業は消費者に歓迎こそされていても、不利益を与えているということはありません。

わたしが小学生のころ、ローソンが出始めのころのCMで、小学生が絵の具を買い忘れたことに朝気づいて、どうしようか困ったときに、

「そうだ、ローソンがある!」

といって、ローソンに絵の具を買いに行くCMがありました。

まさにそういう経験を何度もしていた小学生のわたしとしては、これは非常にインパクトがありました。

それくらい、当時は24時間営業のコンビニというのは衝撃的だったのです。

(余談ですが最近わたしにヒットしたCMはアマゾンのCMで、孫が独り暮らしのおばあちゃんに久しぶりに会いに行って、おばあちゃんが若いころ死んだおじいちゃんとバイクに乗った写真に写っていたのと同じヘルメットをアマゾン・プライムで注文して、おばあちゃんをバイクでドライブに誘う、というのがあります。今思い出しても胸が熱くなります。このCM作った人は天才じゃないかと思いました。60秒バージョンもよいです)

閑話休題。

20年ほどまえ、和光の司法研修所の寮に住んでいたころは、近くにコンビニがなくって、コンビニっぽい個人経営の雑貨屋は夜8時くらいには閉まってしまって、本当に不便だなぁと思いました。

人間慣れというのは怖いもので、24時間営業のコンビニがあたりまえになると、これがビジネスのイノベーションとしていかにすごいものであったか(社会を一変させたか)を、忘れてしまうのです。

人手不足の世の中であるのはわかりますが、それを独禁法でなんとかしようというのは最悪です。

そもそも24時間営業の規制なんて、競争とは何の関係もありません。

むしろコンビニ業界が「24時間営業はやめましょう」と合意したら、カルテルになりかねません。

また独禁法は、本質的に、ルールが不明確にならざるをえません。

かといって、国会のチェックも経ていない公取委のガイドラインで決めてしまっていい問題でもありません。

規制するなら、フランチャイジーの保護を目的とした特別の立法でやるべきで、夜10時から朝5時までの営業を禁じるとか、明確に違法の要件を定めるべきでしょう。

ちょっと、この問題については、公取委は調子に乗りすぎじゃないでしょうか。

また優越的地位の濫用でやる場合、公取委はけっして排除措置命令は出さず、注意か、せいぜい警告にとどめるはずです。

なぜかというと、裁判所で争われると困るからです。

ひっとしたら、実態調査報告書を出して、その中にルールらしき「公取の独り言」を紛れ込ませるかもしれません。

それを新聞は「公取委がコンビニについてガイドラインを公表」と、誤った報道するかもしれません。

こういう不透明な法運用を、いまや国民生活のインフラであるコンビニに対して許していいとは思えません。

万が一、排除措置命令が出たら、徹底的に、最高裁まで争うべきです。

まだガイドラインにもなっていないので、なんとしてもこの動きは阻止すべきです。

それから、こういう何でも優越的地位の濫用にあたるという執行をやっていると、公取委が、それで自分たちは仕事をしているのだと錯覚してしまうことも懸念されます。

わたしがある依頼者から以前相談を受けた忠誠リベートの公取委への申告案件(申告自体は別の法律事務所が担当)では、結局、証拠がないから調査開始しないという結論だったらしいのですが、排除されている側が忠誠リベートの(噂や伝聞レベルを超えて)確たる証拠なんて得られるはずがないのであって、いったい何のための強制調査権限なんだ、と思いました。

こういう、手ごわそうな相手にはやるべきことをやらないで、いうことを聞きそうな業界にはガイドラインにもとづく注意でお茶をにごすというやりかたは、いいかげんやめたほうがいいと思います。

理論的にも今回の問題は、大きな問題です。

なぜなら、フランチャイジーになろうとする人は、24時間営業だとわかってフランチャイジーになっているからです。

24時間営業はコンビニのビジネスの根幹です。

これほど明確に合意されているものを、やってみたら思ったより大変だったから「濫用」だというのは、ありえないでしょう。

トイザらス審決での濫用行為の定義は、優越的地位がなければ受け入れないような不利益な行為、ということですが、それにそもそもあてはまりません。

優越的地位が発生する、契約成立前で契約するかしないか完全な自由のある段階で受け入れた行為だからです。

一体どういう理屈で濫用だというのでしょうか??

これだけ世の中に広く受け入れらているビジネスが、「正常な商慣習に照らして不当」になりうるとでもいうのでしょうか??

まったくわけがわかりません。

報道をみて公取がいちおう理屈を考えているんだなあと推測できるのは、

「バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合など」

という部分です。

つまり、契約時と事情が変わった、という理屈です。

似たような理屈としては、下請法で、原材料費が上がったのに値上げに同意しようとしないのが買いたたきにあたる、というのがあります。

でも、これもやっぱり問題です。

というのは、原材料費の場合、基本的には変動費用が想定されていますから、値上げしないとどんなにがんばっても(たくさん売っても)赤字になります。

下手をすれば、売れば売るほど逆ざやで赤字が膨らみます。

でもそういう場合なら、値上げに応じないと買いたたきにあたるというのは理解できます(それが競争法として妥当かはさておき、下請法の解釈としては)。

ですが、コンビニの人件費なんて基本的には固定費なわけです。

ここには、「商品を売れば売るほど赤字が膨らむ」という関係はありません。

たしかに24時間営業をやめれば赤字の時間帯のバイト代を節約して、その時間帯の売上を失ってもなお、収益はプラスになる、ということはあるでしょう。

でもそれを言い出したら、とくに損益ギリギリのお店の場合は、儲かる時間だけお店を開けたい、という理屈が簡単に通ってしまい、コンビニというシステム自体がなりたちません。

そういうわけで、原材料費の高騰の場合の類推から人件費の高騰を例示しているなら、まったく不当な類推です。

というわけで、ちょっと経済学というか会計の知識があれば、原材料費(変動費)と人件費(固定費)を同列にあつかうことのあやうさに気づくはずです。

さらにいえば、下請法の世界では特定の原材料が短期間に2倍にも3倍にも上がるということがありますが、いくら人手不足とはいえ、人件費はそこまで上がってないでしょう。

そういう意味でも、両者を同列にあつかうのは妥当ではありません。

それに、「赤字になる場合など」の「など」がくせ者で、たぶんどのようにでも拡大解釈できるガイドラインになるはずです。

このようにいろいろ考えるとコンビニビジネスに対する萎縮効果は相当なものであるはずです。

それに、「赤字」になったら24時間営業を見直すというのも論理の飛躍があります。

「赤字」を解消するためなら、たとえば本部に支払うロイヤルティを下げるとか、ほかにも方法があるでしょう。

24時間営業の見直しはそれらのさまざま考えられる施策の一つに過ぎないはずであり、24時間営業の部分のみに焦点をあてて優越的地位の濫用を議論するのは、とても恣意的というか、論理的思考ができていないといわざるをえません。

そこまで視野を広げて(抽象度の視点をあげて)はじめてまともな法的議論ができるのであり、「とにかく人手不足が社会問題化しているらしいから、24時間営業を取り締まろう」というのでは、法律論になりません。

こういう動きがあると独禁法弁護士は仕事が増えていいのですが(笑)、社会的には、笑い事ではすまされないことだと思い、苦言を述べさせていただきました。

2019年4月 3日 (水)

不当表示の再発防止策を実施済みの事業者に出す措置命令

不当表示については、事業者がすでに不当表示をやめていても、措置命令を出すことができます(既往の行為に対する措置命令)。

このことは、景表法7条1項で、

「内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる

一 当該違反行為をした事業者

〔以下省略〕」

と明記されています。

ちなみに独禁法の不当な取引制限に対する排除措置命令は、独禁法7条2項で、

「公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から五年を経過したときは、この限りでない。

一 当該行為をした事業者

〔以下省略〕」

とされていて、「特に必要があると認めるとき」という条件付ではありますが、やはり既往の行為に対しても出すことができます。

つまり景表法の場合は、「特に必要があると認めるとき」でなくても、措置命令を出すことができるのです。

では不当表示をやめた事業者が再発防止策を実施して、措置命令で命じられそうな措置をすべて先回りして講じておけば措置命令はでないのかというと、そんなことはありません。

まず、上述のとおり、景表法には「特に必要があると認めるとき」という要件がありません。

それに、事業者が任意で措置を講じたのと、命令の強制力のもとで実施するのとでは、意味がちがいます。

つまり措置命令の場合には、それに違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)の対象になりますが(景表法36条)、任意の措置ではそのような担保がありません。

措置命令ではたとえば、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し、前記の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない」

というような、将来の行為の禁止も命じられるので、これを刑事罰で担保するのかしないのかは大違いです。

したがって、仮に事業者がすでに任意でとった措置を超える措置を命じない場合であっても、措置命令の必要がないことにはなりません。

ましてや、一般消費者への周知が不十分である(たとえばホームページの見えにくいところにこっそり公表する)場合には、措置命令がでても何らおかしくありません。

というわけで、措置命令を避けるためには、公表もしっかりやるし、再発防止策も万全を期する必要があります。

それでも将来の禁止を刑事罰で担保する必要があると消費者庁が考えれば、やはり、措置命令が出る可能性はあると思われます。

平等原則違反だとか、裁量の逸脱だとかいっても、たぶん無理でしょう。

いちど違反をしてしまっている以上、刑事罰などの法的な担保が何もなくても再発しない、というのはかなりしんどいと思います。

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