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2019年3月

2019年3月 8日 (金)

有償支給材の早期決済と資材代金調達利息の支払

NBLの連載を書籍化した
 
鎌田明編著『はじめて学ぶ下請法』
 
という本があります。
 
『下請法の実務』や下請法講習テキストが、古い考え方に接ぎ木をしながら改訂を続けているために根本的に叙述の仕方が古い(説明が理論的でない)のですが、それに対してこの本は、さすがに新しいだけあって、説明が現代的で頭にすっと入ってきます。
 
ですが、ちょっと気になる記述があります。
 
同書p135の有償支給材の早期決済の説明において、A〔発注者〕がB〔下請事業者〕に原材料を有償支給して加工を委託する事例をあげながら、
 
「B〔下請事業者〕が金融機関から融資を受けて先払いをしなければならない資材の対価を支払っていたような場合には、Bが負担していた利子相当額の支払い等も認められることになろう。」
 
と解説されています。
 
しかし、これは行き過ぎだと思います。
 
いったいどんな根拠があって、そのような利子相当額の支払いが認められるのでしょうか?
 
民法をみても、商法をみても、そのような利息相当額の支払いを根拠づける条文はありません。
 
当事者間に合意がなくても認められる利息についての規定としては民事商事の法定利率の規定がありますが、たとえば民法404条では、
 
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」
 
としているだけであって、5%の利息が認められるのは「利息を生ずべき債権」であることが前提です。
 
利息を生ずべき債権かどうかは特約や法律の規定(民法575条2項の売買代金の利息)によって決まり、金銭消費貸借ですら、当然には利息は発生しません(民法587条、590条参照)。
 
ただし商人間の消費貸借では年6%の利息を支払う必要があります(商法513条、514条)。
 
でも、「下請事業者が有償支給材を早期決済するために融資を受けたときには融資の利息相当額を支払う」みたいな規定は、どこにもありません。
 
もちろん当事者間に合意もないわけですから、そんな利息相当額の請求権なんて、私法上認められるはずがないのです。
 
下請法違反は公序良俗(民法90条)違反だから請求が認められる、というのも無理です。
 
まず、下請法違反のすべてが当然に公序良俗違反になるわけではないですし、仮に公序良俗違反になっても、公序良俗違反の法律行為の効果は無効になるだけなので、積極的な請求権が発生するわけではありません。
 
たとえば、早期決済の合意が無効だとしたら、弁済期の合意の部分が無効になって、弁済期が下請代金の支払時期まで当然に延ばされる、ということはあるかもしれません。
 
ですがだからといって、下請代金の支払時期よりも前に現に有償支給材の代金を支払ったからといって、その早く支払った分の利息を下請事業者が請求できる(積極的な請求権が生じる)わけではないでしょう(公序良俗は「無効」にすぎないので)。
 
まして、有償支給材代金支払いのための銀行融資の利息なんて、認められるわけがありません。
 
ほかに考えられるとしたら、民法709条の不法行為や703条の不当利得でしょうが、下請法違反が当然に不法行為や不当利得になるわけでもないでしょう。
 
ここのハードルを越えるのは非常に高い(たぶん無理)わけです。
 
それなのに、何の説明もなく当然に、「利子相当額の支払も認められる」といってしまうなんて驚きです。
 
こんなこと、法学部生でもわかります。
 
ということで、公取委の下請法の運用をしている人が、いかに民法を知らないか、これをみるとよくわかります。
 
最近、有償支給材の早期決済をした会社が、早期決済期間について、有償支給材代金の利息相当額を商事法定利率6%で下請事業者に払い戻すよう指導を受けていた事例を目にしました。
 
きっと、下請代金の支払いが遅れたら6%の利息を払うんだから、有償支給材代金を早くもらいすぎたなら利息相当額を払い戻す義務があるんだ、という単純な発想でしょう。
 
でも民法をみても商法をみても、弁済期より早く代金を受け取ったら利息相当額を代金から引かなきゃいけないなんていいう規定はありません。
 
というわけで、上記書籍の記述は誤りですし、公取委はこの運用を直ちにやめるべきです。
 
民法の分かっていない人には、こんな大学生にするような説明からしないといけないので困ります。

公取委に出向中の弁護士のみなさん、下請取引調査室の人たちに、民法を教えてあげてください。
 
あるいは公取委職員のみなさんは、出向してきている弁護士さんに聞いてみてください。

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