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2019年2月 1日 (金)

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
これはそもそも論ですが、減額(4条1項3号)だろうと、利益提供要請(4条2項3号)だろうと、違反は違反なのだから大差ないだろう、というとぜんぜんそんなことはありません。
 
というのは、減額は1項なので外形上3号にあたれば違法になりますが、利益提供要請は2項なので、外形上2項3号にあたるだけでは違反にならず、さらに、下請事業者の利益を不当に害する(2項柱書)ことが必要になるのです。
 
この違いは決定的です。
 
これだけの違いがあるからこそ、減額は差し引き型のみとする理由があるのです。
 
こういうことを考えると、別途支払い型まで減額にするのには相当説得力のある理論的根拠が必要だと思うのですが、公取委ではそのあたり、ちゃんと議論されたのでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。
 
わたしは最近、公取委の下請法運用で、ほんとうにわけのわからないことをいわれた(最終的には引っ込めてもらったけれど)経験があったり、民法上はまったく根拠のない指導がなされているのを聞いたりしているので、正直、最近の公取委の解釈力は非常に劣化しているのではないか、と強く懸念しています。
 
今回の解釈変更も、公取委が問題の本質を理解したうえで組織として議論を尽くして行ったのではなく、いち担当者が従来の運用をあまり理解せず、上もそれを見落とした、という非常に情けないレベルの話なのではないか、と推測しています。
 
なんでも先例重視が良いわけではありませんが、法律の運用はいったん厳しくするともとに戻すのはたいへんなので、変えるにはそれ相応の覚悟が必要だと思います。

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