« 2018年11月 | トップページ | 2019年1月 »

2018年12月

2018年12月26日 (水)

無料の会員登録で付与するポイントは景品類か?

先日、とある講習会が終わったあとに質問に来られた方の質問に、
 
「オンラインゲームに無料で登録した人に、ゲームで使えるポイントを付与している。
 
取引付随性がないので景品ではないと整理していたが、消費者庁に念のため確認したら、将来の取引を誘引するので景品類に該当するといわれた。
 
おかしいのではないか?」
 
という質問がありました。
 
あくまで質問者の方からの伝聞ですので、事の真偽は確かめようもないのですが、もし消費者庁の回答がこのようなものだったとすると、私も、消費者庁の回答は間違っていると思いますし、質問者の方にもそのようにお答えしました。
 
質問者の方がご理解されていたとおり、どう考えても、取引付随性がありません(無料の登録は「取引」ではないので)。
 
パターンには、全員にポイントをあげるものと、抽選でポイントをあげるものとがありそうですが、どちらでも同じです(取引付随性がありません)。
 
もしこんなのが景品類に該当するとなると、たとえば、新聞のチラシにクーポン券をつけて、クーポン券持参者にスーパーが50円値引きする、というのも、取引付随性あり、となってしまいます。
 
新聞チラシに付けるクーポン券を、新聞社が費用を負担している(スーパーのチラシではあるものの)場合には、新聞という商品を買わせるためにスーパーで使えるクーポンを景品として付けた、ということも理屈の上ではありえますが、世の中にそのようなクーポンチラシはたぶん皆無でしょう。
 
上記質問のケースでは、そのような新聞社の存在すらなく、どこをどうたたいても、取引付随性は認められません。
 
2つめの、抽選でポイントをあげるパターンも、以前は規制されていたオープン懸賞(取引付随性のない懸賞)と同じです。
 
つまり現在では、取引付随性がない場合には、抽選で応募者に経済上の利益を提供することは、景品規制の対象外です。
 
なので、上記質問の抽選のパターンも、景品類には該当しません。
 
もう一つだけ例をあげれば、もし取引付随性がないのに将来の取引を誘引するからというだけの理由で景品類に該当してしまうとすると、むかしヤフーがヤフーBBをやりはじめたときにモデムを路上で無料で配りまくったような、取引付随性がない行為の典型として語られるようなものまで、景品類になってしまいます。
 
こういう、路上で配る物品は、取引付随性はありません。
 
たまたま手元にあった、長谷川古編『新しい景品規制』p80でも、
 
公道の歩行者を対象とするアンケート調査の回答者の謝礼とか・・・は、仮に顧客誘引手段と認められたとしても、・・・取引付随の要件に該当しない・・・ので規制されることはありません。」
 
と、はっきり書いてあります。
 
今回の消費者庁の回答の意図を忖度すると、
 
モデムはメルカリで転売できるなどそれ自体経済的価値が認められるけれど(なので、配った時点で提供が終わる)、
 
オンラインゲームのポイントはゲームで使う以外価値がので、必ずゲームをすることになるから、将来の有料ゲームという取引に付随するのだ(?)、
 
ということかもしれません。
 
つまり、オンラインゲームのポイントの提供は、実はポイント提供の時点では何も提供されていないに等しく、将来有償のゲームをする段階になってはじめて「経済上の利益」が提供されたとみなされるのだ(?)、という理屈です。
 
いろいろ無理やり考えてみましたが、でもやっぱり、これらの理屈には条文上の根拠がなく、成り立たないと思います。
 
この問題をもう少し深く考えるのに参考になるのが、
 
深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」(公正取引587号、1999年)
 
という論文 です。
 
この論文では、1996年4月に行われた割引券に関する規制の変更について説明するものです。
 
簡単にまとめると、A取引に付随してB取引で使える割引券を提供する場合、変更前は、
 
①A取引に付随して割引券を「提供する行為」
 
 
②B取引において「割引券を使用する行為」(わたしはこれは、提供する事業者の側からみて、「割引券を使用させる行為」というほうが正確だと思います)
 
を分離してとらえ、②は景品類の提供にはあたらないが、①についてはあたる、と考えられていました。
 
これに対して変更後は、①も景品類の提供にはあたらないこととされました。
 
これを今回のポイント付与に応用すると、無料の会員登録者にポイントを付与する行為は、
 
①’無料の会員登録に付随(?)してポイントを「提供する行為」
 
 
②’将来ゲームをするときにポイントを「使用させる行為」
 
に分離でき、現在は①’が(有償取引との)取引付随性が認められても景品規制の対象外(②’はもともと対象外)なのだから、いわんや、無償の会員登録に付随するだけなら、景品類に該当するはずがない、ということになります。
 
つまり、将来有償行為に使用する(②)というのに引きずられて提供行為(①)が景品類の提供になるとは考えられておらず、それは運用変更前も変更後も同じだということです。
 
というわけで、いずれにしても、前記消費者庁の回答は誤り、ということになります。
 
もし消費者庁のご担当の方がこのような回答をされているなら、それはまちがいですから、改めていただきたいと思います。
 
もしそのような回答はしていないというなら、今回の記事は訂正しますのでご連絡いただければ幸いです。
 
(不確かかもしれない情報を流すのもどうかなと思いましたが、聞いたところ事実のようでしたし、きわめて実務的なインパクトが大きいと思ったので、書くことにしました。)
 

2018年12月11日 (火)

独禁法で命令を受けるリスクと調査を受けるリスク

わたしは基本的に、独禁法弁護士は、法律家として、問題の行為が独禁法上違法かどうかが判断できることが大事だし、それでほとんど足りる(それすらもできない弁護士も多い)、と考えています。
 
ですが、世の中、それだけでは足りないことも事実です。
 
というのは、企業にとっては公取委の調査を受けるだけでも、評判(取引先から取引を断られる、新卒学生が採用できなくなる、など)や弁護士費用など、大変なダメージだからです。
 
かつて調査を受けた依頼者の件も、命令がでないことはもちろん、どうみても違反になりそうにないケースでした。
 
予定どおりそのケースは、「問題なし」となりました。
 
それでもその後、その依頼者への萎縮効果たるや、すごいものがありました。
 
カルテルや談合なら、別にきわどいところを攻めなくてもビジネス上大した問題はなく、石橋を叩いても渡らないくらいでちょうどいいのかもしれません。
 
ですが、不当廉売や拘束条件付取引など垂直系の違反行為類型は、正常な競争との違いが紙一重ですから、過剰反応のマイナス効果は大きいです。
 
ホンネをいえば、調査をするかどうかは公取の勝手なので、調査を受けるリスクがあるかないかなんて、どうでもいいと思っています。
 
研究者の方が調査を受けるリスクについて分析しているのも、見たことがありません。
 
ですが、依頼者の方々からそういうアドバイスを求められる以上、それに応える必要がありますし、そういうアドバイスは実務家だからこそできるんだろうなぁ、とも思います。
 
(そいうえば、以前、私が所属する第二東京弁護士会で、独禁法の警告事例の研究発表をされた公取委出向経験のある弁護士さんの発表を聞きましたが、あれは面白かったです。)
 
それでも基本的には、公取委が関心を持つかどうかは理屈だけで割り切れないところがあるので、学問的な研究対象になりにくいし、知的達成感もありません。
 
べつに独禁法の理屈がわからなくても、ある程度経験を積めば、できてしまうアドバイスだともいえます(むしろ、理屈が邪魔をすることがあるかもしれません)。
 
ともあれ、公取委の方々には、企業の方々がそんなところに関心を持つのだということをよくご理解いただいた上で、牽制的な調査や、調査対象行為をやたらと広げることは、謹んでいただきたいと希望します。
 
ほんとうに、事情聴取でこんなことを聞かれましたというだけで、「そんなことまで公取は関心を持っているんだ」と思って、会社の人はびびってしまうのです。
 
(まあそういうときには、「公取も仕事だからいろいろ調べるけど、違反にするつもりはありませんよ」とアドバイスはするのですが。)
 
また、企業のほうも、独禁法とはどういう法律で、公取委とはどういう役所なのかを、よく理解してリスク評価をする必要があると思います。
 
お上のやることは正しいと素朴に考えている企業は、調査を受ける可能性があるならやらない、という判断をするのでしょうが、独禁法の世界でそれをやると、まともな競争ができなくなります。
 
このあたりは残念ながら、外資系企業のほうが、リスクを取りながら競争するのがうまいように思います。
 
日本企業はむしろ、違法であることが明白でも、業界慣行や政治的背景で、やめられないことが多い(やめたほうがビジネス上もメリットがあるにもかかわらず)ように思わます。
 
そのあたりが、ドライに徹しられない、ウェットで、残念なところです。

« 2018年11月 | トップページ | 2019年1月 »

フォト
無料ブログはココログ