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2018年11月30日 (金)

独禁法の行為無価値と結果無価値

刑法の世界には行為無価値と結果無価値の争いがあります。
 
法学部では当然のように教わることなのですが、おおざっぱにいうと、行為無価値というのは、動機や行為の悪質性なども考慮して違法性の有無・程度を判断する立場です。
 
これに対して結果無価値は、生じた結果(つまり人が死んだとか)だけに着目して違法性を判断すべきだという立場です。
 
独禁法の世界でも、似たようなことが議論になることがあります。
 
つまり、競争に与えた影響だけを基準に違法性を判断すべきというのが結果無価値的な発想で、行為の動機や悪質性も考慮すべきだというのが行為無価値的な発想です。
 
ところが、公取委の実務では、行為の悪質性だけが(あるいは、悪質性が過度に)違法性判断で考慮されているフシがある、とわたしはニラんでいます。
 
行為と結果の因果関係を重視しない、というのも行為無価値的発想のあらわれといえます。
 
ですが刑法の行為無価値は、けっして、行為の悪質性だけで違法性を判断する立場ではなく、行為の悪質性も考慮するという立場です。
 
ところが公取委の立場は、前述のように、行為の悪質性を専ら考慮または過度に重視しているように思われます。
 
しかも、刑法の場合には、刑法の目的とは、とか、法と道徳の違いとは、といった、深刻な(まじめな)法哲学的対立があるのですが、公取委実務の場合、そのような深遠な議論があるわけではありません。
 
それよりも、私の目から見ると、「こいつはけしからん!」と審査官や委員の方が思って、どれくらい血圧が上がったか(←比喩です)、というのが違法性の基準になっているような気がしてなりません。
 
さらに問題なのは、公取委が違法性を語る場合、経済学的な発想がぜんぜんなかったりします。
 
たとえば他者排除が生じる場合のメカニズムとしては、経済理論上は、競争者の直面する需要曲線を左にシフトさせるか(残余需要を減らす)、あるいは、競争者の費用曲線を上方シフトさせる(ライバル費用の引き上げ)のどちらかなわけですが(グラフをかけばすぐわかります)、そのどちらであるのかすら意識されていないことが多いように思います。
 
(消費者余剰を減らすメカニズムとしてはもう一つ、需要曲線もコストも不変のまま、需要曲線上を移動する、というメカニズムがあり、これは協調促進的行為や競争緩和的行為の場合に問題になります。)
 
それは、関係者に対する質問の内容や、アンケート調査の選択肢などをみればわかります。
 
こういうのをみると、「審査局って、何も分かってないんだなぁ」と思って、がっかりします。
 
話を元に戻すと、公取委の行為無価値的発想の問題は、結果(反競争効果)を軽視しすぎる点です。
 
もう1つの問題は、結果軽視と関連しますが、公取委が、少なくとも審査局レベルでは、経済学をまったく理解していないことです。
 
どのように反競争効果が生じるかというメカニズムは、経済学の知識があると、手に取るようにわかる(2つのメカニズムがはたらくときは、その区別もつく)のですが、審査局レベルでは、そういう知識の片りんもありません。
 
とくに、垂直的制限や排除系の事件をやっていると、そう思います。
 
審査の発想が、反競争性の立証が不要な談合や優越と同じなのです。
 
談合や優越ばっかりやっていると、頭がそういうふうになっちゃうんだろうなぁ、と、しみじみ思います。
 
経済学を分かったうえで行為の悪質性を云々するならまだわかりますが、そもそも分かっていないので、話が通じません。
 
心当たりのある審査官の方は、ぜひ、経済学を勉強してください。
 
あるいは、垂直や排除系の事件のチームには、エコノミストを入れるべきだと思います。
 
それも、産業組織論がある程度わかっているエコノミストを入れるべきです。
 
(経済学者の委員をふくめ、公取委に来るエコノミストのすべてが産業組織論の専門ではありません。日本に産業組織論の専門家は少ないし、そもそも辞めたあとのキャリアが保証されるような役所でもないので、公取に入ってから一生懸命産業組織論を勉強するエコノミストも少なくないと思います。)
 
独禁法の弁護士が経済学を知らなくても、困るのはその依頼者だけですが、公取委の審査担当者が経済学を知らないと、割を食うのは全国民です。
 
審査担当の方には、それくらいの覚悟を持って、審査に臨んでいただきたいと思います。

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