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2018年10月

2018年10月12日 (金)

東京都の措置命令事件に消費者庁が課徴金を課した事例

ストッキングをはくだけで脚が細くなるなどの不当表示をして東京都から措置命令を受けていた(株)ギミックパターンという会社に対して、消費者庁から課徴金納付命令がなされました
 
都道府県知事には課徴金納付命令の権限がないので、都道府県が調査した案件に課徴金を課すべきことがわかったときにはどうするのか気になっていたのですが、この点については、2014(平成26)年8月26日第170回消費者委員会本会議において、白石座長代理から、
 
「都道府県知事には措置命令権限はあるが課徴金権限がないということは、その事件については消費者庁が受け取って課徴金の手続をするということになるのでしょうか。
 
非裁量制なので必ず手続に入るということなのか、どうなのか、その点を伺えればと思います。」
という質問があり(議事録p14)、これに対して、消費者庁松本課徴金制度検討室企画官から、
 
「・・・今、考えているのは、課徴金納付命令に関する手続については、消費者庁で行うということでございますので、仮に都道府県における措置命令において課徴金を課すべき対象があるとすれば、これは消費者庁のほうで対応していくことになるかと思います。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
さらに続けて河上消費者委員会委員長から、
 
「基本的には、措置命令と課徴金に関する手続というのは、別個に動いていると理解することになるのですか。」
 
という質問がなされ、これに対して消費者庁菅久審議官から、
 
「考えておりますのは、例えば都道府県が調査している場合。
 
1 つは、今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となりますので、そもそも規模基準とかいろいろ考えますと、課徴金の対象になるものが少ないのではないかと思っています。
 
ただ、都道府県が調査した途中の段階で、これが措置命令の後、課徴金納付命令の対象になり得ると判断した場合には、消費者庁にそこで通知ないし知らせてもらうと。
 
そこから先、消費者庁が調査する。つまり、措置命令を都道府県が出して、その後受け取って課徴金額を計算するというのは実務上、非常にやりにくいですので、むしろ途中の段階でわかった場合には、消費者庁のほうに移管なり連絡をしてもらうことを想定しています
 
ただ、実際上は県域内の違反行為にとどまりますので、都道府県の対象の事件で課徴金納付命令の対象になるものは少ないのではないかと思っております。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
こういう回答があったので、私はてっきり、都道府県が調査した案件で売り上げ規模が課徴金対象となるくらいに大きければ消費者庁に移管されるのだと思っていました。
 
でも今回のギミックパターンの処理をみると、東京都で措置命令まで出して、課徴金だけ消費者庁がかける、というようになっています。
 
法律上は、課徴金対象となるくらい違反売上が大きい事件に都道府県が措置命令を出していけない理由は何もないですし、大型事件は消費者庁に移管するあつかいにすると、かえって都道府県は小粒の事件しか扱えなくなってしまって、実質的には改正により権限が縮小してしまったようになり妥当ではありません。
 
なので今後は、本件のように、都道府県で措置命令を出して、消費者庁が課徴金納付命令を出す、という運用が定着するのではないかと思われます。
 
それから菅久審議官の
 
「今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となります」
 
という部分も、考えてみるとそのようなしばりは法律上なにもなくて、公表された東京都の措置命令概要をみても、ギミックパターンの不当表示は同社ウェブサイト上のものなので、違反行為が東京都内に限って行われたというわけではありません。
 
おそらく被害者が東京都に集中しているということもないでしょう。
 
同社の所在地は東京都ですが、それはどの都道府県が(あるいは消費者庁と都道府県のいずれが)処理すべきかという問題とは、あんまり関係ないでしょう(執行のしやすさという意味では関係ありそうですが)。 
 
この事件は課徴金額も8480万円と、けっこうな金額です(三菱自動車の4億8507万円、プラスワン・マーケティングの8824万円についで、歴代3位です)。
 
というわけで、この事件は都道府県でも大きな事件を摘発するんだという先例となるものであり、大変意義深いと思います。 
 
でも考えてみると、大型案件は消費者庁に移管、というのは、消費者庁の都合なのであって、都道府県にしてみらたら、せっかく内偵までして手間暇かけて調査したのに、課徴金がかかるとわかったとたんに手柄をぜんぶ消費者庁に取られてしまうわけで、そんな制度だと都道府県のやる気が萎えてしまうと思います。
 
また、都道府県が仮に消費者庁に移管しても、措置命令もまだ出ていないわけですから、消費者庁が握りつぶしてしまう(というと聞こえは悪いですが、注意にとどめる)ということも、可能性としてはありうるわけです。 
 
これに対して都道府県が措置命令まで出してしまえば、課徴金は義務的ですから、消費者庁はどうしたって課徴金を課さざるを得ないでしょう。
 
つまり、今回のような運用だと、都道府県が掘り起こした案件を消費者庁が握りつぶしてしまう(あるいは、注意にとどめてしまう)ということができないわけです。
 
というわけで、この、措置命令の権限を都道府県に与えつつ、課徴金は消費者庁でしかも義務的、という制度は、正式事件の掘り起こしという意味では、じわじわと効いてくる制度なのかもしれません。

2018年10月 3日 (水)

流取ガイドラインの競争者間の総代理店契約の規定の削除について

あまり大きな話題になっていませんが、2017年の流通取引慣行ガイドラインの大幅改正(構成が大きく変わっただけで中身はあまり変わっていませんが)では、それまであった「第3部 第1 競争者間の総代理店契約」の規定が全面削除されました。
 
改正以前のガイドラインでは、
 
総代理店の市場シェアが10%以上かつ上位3位以内の場合、競争阻害効果が生じることがある
 
総代理店の市場シェアが25%以上かつ1位の場合、競争阻害効果が生じることとなるおそれが強い
 
として、競争阻害効果が生じる場合には不公正な取引方法(拘束条件付取引)にあたる、とされていました。
 
この競争者間の総代理店契約に関する規定の削除については批判もあり、パブコメ質問137番では、
 
「改正(案)では,現行ガイドライン第3部第1「競争者間の総代理店契約」の項目が削除され,これに伴い競争者間の総代理店に関するセーフ・ハーバー(市場におけるシェア10%以上かつ上位3位以内)も廃止されている。
 
しかし,「流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会」報告書では,「総代理店を取り巻く環境・実態は変化しており,更に実態把握を行う必要がある」と結論付けるのみであり,上記削除・廃止を行うべき根拠は明確に示されていない。
 
総代理店契約は引き続き利用されることのある取引形態であり,判断基準の明確性が求められることから,現行ガイドラインの記載を維持すべきである。(団体)」
 
という、至極まっとうな質問がなされていて、これに対する公取委の回答は、
 
「御指摘については,本指針が制定された当時に問題視されていた輸入品の内外価格差は,現在においてそれほど大きな問題とはなっていないと考えられること,第3部第1の考え方に基づき法的措置を採った事例はないことなどを踏まえ,本年3月に開催した本研究会でも議論した結果,記載を削除することとしました。
 
なお,競争者間で総代理店契約が締結されることにより,仮に我が国市場における競争を実質的に制限するようなケースが生じる場合には,独占禁止法3条の観点から検討されることとなります。」
 
というものです。
 
そもそも競争者間の代理店契約は不当な取引制限として処理すべきなのであって、拘束条件付取引で処理していた旧ガイドラインは理屈としてはおかしいのですが、それはさておくとしても、わたしも全面削除するまでのことはなかったんじゃないかという気がします。
 
この点についてはさらに、 
 
佐久間正哉編著『流通・取引慣行ガイドライン』
 
で、
 
「こうした〔競争者間の総代理店契約については法的措置がなされたことも相談事例で回答されたこともないという〕状況等を踏まえ、平成29年のガイドライン改正では、第3部のうち競争者間の総代理店契約に関する部分は削除・・・することとなった。
 
もちろん、ガイドラインから記載が無くなったことで、競争者間の総代理店契約は独占禁止法の適用対象外になったというわけではない。
 
競争者間の総代理店契約によって市場における地位が高まったことを背景として、不当な取引制限や私的独占が行われる場合には、当然に独占禁止法上問題となり得るものである。」(p232~233)
 
と解説されています。
 
でもこれを文字どおり読むと、総代理店契約自体は問題なくて、それにより市場支配力が高まって、不当な取引制限や私的独占が行われれば、不当な取引制限や私的独占の部分だけが問題となる、といっているように読めます。
 
というか、そうとしか読めません。
 
でも、理屈としてはこれはおかしいと思います。
 
もちろん、国内最大手の競争者は顧客ベースも販路も営業リソースも持っているでしょうから、外国企業が最大手企業を総代理店に任命することで大きな売上を期待できる、ということは十分にありうることなので、結果的に、外国会社が国内最大手企業を総代理店に指名しても独禁法上は問題ない(競争促進的である)ということは、大いにありえます。
 
でもやはり、競争者を総代理店に任命する(その結果、外国企業は他の代理店を任命したり、自ら直接販売したりできない)ということには、それ自体に反競争性が認められることも、十分にありえます。
 
なので、上記佐久間の解説は、理屈としてはおかしいと思います。
 
ですが、これだけ公取と公取関係者が総代理店は問題視しないとはっきりいっているわけですから、実務上のリスクはずいぶんと下がったと言えるのではないかと思います。
 
公取は、ガイドラインや相談事例で建前では非常に厳しいことをいいながら、実際には問題視しない、ということがこれまで多く、流通取引慣行ガイドラインはその筆頭だったのですが、公取委が正面から規定を削除することで事実上問題視しない姿勢を明らかにするということは、たいへん珍しいことです。
 
というわけで、これはこれで、好ましい流れなのかもしれません。
 
ただそれでも、競争者間の総代理店契約にはそれ自体反競争性が認められることがありうる(その代理店に頼むことで売上増大が見込める効果と、その代理店に頼むことで当該代理店の商品との間の競争が無くなり価格が上昇する効果とのバランス)ので、ガイドラインの規定がなくなったとはいえ、競争法上の分析は必要なんだろうと思います。
 
そしてその時に、旧ガイドラインの「シェア25%かつ1位」といった基準は、それなりに意味があるのではないかという気がします。
 
それでも、外国事業者が単独で参入した場合にどれだけのシェアを取れると見込めるかとか、ほかに代理店候補はいないのか、などを考慮する必要はあるものの、シェア25%くらいで問題視するのは、セーフハーバーとして厳しすぎて、実際には、シェア40~50%くらいまで大丈夫じゃないか、という感じがします。

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