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2018年9月13日 (木)

垂直的企業結合における競業他社の情報へのアクセスの問題点

垂直的企業結合では、競業他社への情報にアクセスできるようになることが問題だとされることがあります。
 
たとえば、
 
田辺・深町『企業結合ガイドライン』
 
では、ASMLホールディングNBとサイマー・インクの統合(平成24年度事例集・事例4)に言及しながら、
 
「・・・垂直型企業結合における競争者の秘密情報の入手により、当事会社の競争者が不利な立場に置かれ、市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる可能性がある・・・」
 
とされています(194頁)。
 
でもわたしには、この「不利な立場」とか、「市場の閉鎖性・排他性」ということの(経済的)意味が、いまひとつよく理解できません。
 
競争者が不利な立場に置かれるM&Aの全部が悪いのだったら、効率性を向上させるM&Aが全部悪いことになってしまわないでしょうか?
 
「市場の閉鎖性・排他性」っていうのも、けっきょく、「市場が誰にでも平等に開かれているのが良い競争だ」ということを抽象的に言っているだけであり、競合情報へのアクセスがどのように市場の閉鎖性・排他性につながるのか、そのメカニズムがよくわかりませんでした。
 
垂直合併で競業他社の情報を入手するのは汚い、という感情論はわからないではないですが、でも、だからといってそれがなぜ反競争性につながるのかよくわかりませんし、なにより、競合他社は、そのような、ライバルをグループ内に有する合併当事会社とは取引しなくなるだけなんじゃないでしょうか?
 
そこで調べてみたら、 
 
Steven C. Salop & Daniel P. Cully, "Potential Competitive Effects of Vertical Mergers: A How-To Guide for Practitioners"
 
という論文に納得のいく説明がありました。
 
同論文p22では、垂直統合会社がライバルの情報にアクセスできると競合他社に先んじて競争的行動をとることができ、そのため、ライバルが競争的行動をとるインセンティブを失ってしまい、First-Mover advantageが失われる、と説明されています。
 
さらに、情報を悪用されるのを恐れるライバルが、より高価で品質の劣る他社から購入せざるを得なくなる(involuntary self-foreclosure)という問題点も指摘されています。
 
(ちなみに日本の公取も海外の当局も、垂直統合企業が競合情報にアクセスできることにより市場が協調的になるという点では一致しており、ここで問題にしているのは、そのような協調促進効果以外の反競争性メカニズムです。)
 
これくらいきちんと理詰めで反競争性のメカニズムを説明してもらってはじめて、どうして競合他社への情報にアクセスできるようになることが反競争的なのかが理解できるのだと思います。
 
たんに競合他社が不利になるというだけなら、垂直合併を産業スパイと同レベルで論じていることになり、説得力がありません。
 
(「市場の閉鎖性・排他性」というのは、involuntary self-foreclosureを意味しているのかもしれませんが、はっきりしません。)
 
そういう意味で、公取委の企業結合相談事例集の反競争性メカニズムの説明は甘いといわざるをえません。
 
あまり外国の文献ばかり褒めたくはありませんが、さすがアメリカは議論の厚みがちがうといわざるをえませんし、さすがサロップ教授だなぁ、と思います。
 
役所の文書というのは一度こう書くというプラクティスが固まるとなかなか変えがたいものがあるようですが(平成29年度事例集の事例2(日立金属と三徳)と事例4(ブロードコムとブロケード)にも同様の記載があります)、ぜひ、今後はプロの目からみてもなるほどと思わせるような、説得力のあるものに改善されていくことを希望します。

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