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2018年9月27日 (木)

コマーケティングに関する相談事例

医療用医薬品の共同販売(いわゆるコマーケティング)に関する相談事例として、「独占禁止法に関する相談事例集(平成14年1月~平成16年3月)」の事例3(医薬品メーカーによる新薬に関する情報提供活動先医療機関の振り分け)があります。
 
この事例は、
 
「医薬品メーカーが,
 
競争関係にある医薬品メーカーに新薬を供給するとともに,
 
両社間で情報提供活動先医療機関を振り分けることは,
 
独占禁止法上問題ないと回答した事例」
 
ということであり、コプロ、コマーケに関する判断が乏しい日本では貴重な相談事例といえるのですが、残念ながら、その判断内容はほとんど参考になりません。
 
まず、競争業者間の事業提携であるにもかかわらず、拘束条件付取引として分析しています。
 
これは、正しくは不当な取引制限として検討すべきでしょう。
 
確かに相談事例では、A社がB社に販売するという関係があるので、形だけ見れば、拘束条件付取引にあたるといえるのかもしれません。
 
一般指定12項の条文で言えば、
 
「〔A社が〕
 
相手方〔=B社〕と
 
その取引の相手方〔=病院〕との取引
 
その他相手方〔=B社〕の事業活動を
 
不当に拘束する条件〔=MR訪問先の振分け〕をつけて、
 
当該相手方と取引すること」
 
とうわけです。
 
しかし、拘束条件付取引の反競争性の発生機序は、他者を排除するか、被拘束者間の競争(ブランド内競争)を制限するか(競争停止)であると理論的には整理されており、競争事業者間の事業提携で問題とされる競争者間の競争停止(ブランド間競争の停止)をカバーすることができません。
 
そのため本相談事例でも、A社とB社が競合であるという観点からの分析が、少なくとも明示的にはすっぽりと抜けてしまっています。
 
でも本当に問題にすべきは、本件コマーケにより、B社が競合医薬品を積極的に販売することを控えてしまわないか、といった、ブランド間の競争停止の問題であるはずです。
 
相談事例では、
 
「(1)MRの振り分けは,薬効等の説明を行うことにより新薬を早期に浸透させるためであること,
 
(2)A社及びB社はそれぞれ互いの販売活動には関与しないことから、
 
A社及びB社が,MRの活動先医療機関の振り分けを行ったとしても,価格が維持されるおそれはなく,独占禁止法上問題ない」
 
としていますが、(2)の「互いの販売活動」というのは明らかに本件コマーケの対象である医薬品の販売活動のことでしょうけれど、問題は、たとえば、B社の医薬品を使っている病院にはA社のMRもB社のMRも情報提供にはいかない、というようなことが許されるのか、ということなのです。
 
あるいは、A社の同分野(相談事例では「甲医薬品分野」)の既存医薬品を使っている病院にはA社もB社も情報提供に行かない、ということもあるかもしれません。
 
これは十分にありうる話で、本件では市場シェア70%の有力な事業者がいるということなので、共同販売をする以上、ふつうであれば、A社もB社も、その70%のシェアをもつメーカーの市場を食ってやりたいと思っているはずです。
 
そうやって、大きなライバルと対抗するために、小さな競合間で結束していいか、というのが問題の本質のはずです。
 
このように、AB間で競争を控えることについて何ら触れられていないのは、この事例で公取委が不当な取引制限の観点から分析していないためです。
 
確かにA社とB社の間には取引関係はありますが、もしこのような場合に一般的に拘束条件付取引として処理し、価格維持のおそれがあるかどうかを基準にするなら、たとえば、
 
メーカーが小売店に商品を販売する(小売店は消費者に販売する)とともに、
 
メーカーが直営店やインターネットで消費者に直売もする、
 
というよくありがちな商流の場合であっても、メーカーが小売店の販売活動に関与することで価格維持のおそれがあるなら違法、ということになりかねません。
 
本件では、A社の新薬(相談事例では「a新薬」)の情報提供先についてだけ振り分けるということなので、それだけをみているだけでは、a新薬の範囲内での競争制限の有無しか視界に入ってこないことはあたりまえです。それではだめなのです。
 
さらに、もしこのような、純粋なブランド内競争の制限の場合(しかも1対1の場合)にまで「価格が維持されるおそれ」で違法かどうかを判断してしまうと、ブランド内競争は制限しつつ(=共食いは避けつつ)競合他社を食ってシェア(=売上)を伸ばしていく、という競争促進的な面があっても違法、ということになりかねません。
 
本件では、もしシェア70%の競合の市場を食っていくというためなら、共食いを避けることは当然認められてよいと思いますが、相談事例の論理だと、それすら認められない、ということになりかねないのです。
 
販売量の増大が見込める提携なのに、提携したとたんに提携先とガチンコで価格競争をしなければならない、なんていうことになれば、競争促進的であるにもかかわらず事業提携をするインセンティブが失われてしまいます。
 
そういうわけで、この相談事例は非常に問題の多いものであるといわざるをえません。
 
公取委の現在の実務でも、こういう競争者間の事業提携は不当な取引制限として処理するのが通例であり、本相談事例のように拘束条件付取引で処理しているのは異例であると言えます。

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