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2018年9月26日 (水)

代替的な取引先を容易に確保できない、の意味

流通取引慣行ガイドラインでは、「市場閉鎖効果が生じる場合」として、
 
「「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,
 
非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,
 
代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,
 
事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,
 
新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう」
 
と説明されています(第1部-3(2)ア)。
 
ここで、
 
「代替的な取引先を容易に確保することができなくなり」
 
と言っている部分については注意が必要だと思います。
 
というのは、市場の競争の実態によっては、取引してくれる取引先を見つけてくるのは大変なことも少なくないからです。
 
たとえば無名の中小企業がまったく新規の商品を開発して販売店で販売しようと思っても、簡単には販売店は取り扱ってくれないかもしれません。
 
パナソニックの創業者である松下幸之助氏の伝記などを読むと、幸之助氏が自転車用の砲弾型ランプを自転車屋に売り込むためにどれだけ苦労したかが述べられており、商売の難しさを実感させます。
 
つまり、良いものを作れば販売店は喜んで取り扱ってくれるのだ、というのは、取引の実態に合わないことが多いのです。
 
ところが、そういう商売の難しさを知らない人間が、この「容易に確保」という文言を文字どおりに解釈すると、代わりの販路を見つけるのが「容易」でなかったので違法だ、ということを言い出しかねません。
 
言うまでもなく、ここで問題なのは、排他条件付取引などの行為によって、当該行為がなかった場合に比べて容易でなくなったかどうか、なのです。
 
絶対的に「容易」かどうか、ではありません。
 
あくまで「行為ナカリセバ」の場合と比べての、比較の問題であることを見逃してはいけません。
 
これをもし川濱先生流に言えば(おっしゃるかどうかわかりませんが)、競争のベンチマークをどこにおくかの問題だということになるでしょうし、白石先生流にいえば(これも、おっしゃるかどうかわかりませんが)、行為と結果との間の因果関係の問題だ、ということになるでしょう。
 
これは法律論としては当たり前すぎて、それだけにあまりはっきりと言われることがないことなのですが、注意すべき大事な点だと思います。
 
そういう意味では、「容易に」などという、商売をなめたかのような表現は、あらためた方がよいと思います。
 
完全競争を前提に議論する経済学者や、仕事は向こうからやってくるのがあたりまえの役人が、「容易」かどうかを判断するときには、そういう誤解をしないように気をつけた方がよいです。
 
「容易」な商売など、どこにもないのです。
 
これが排除型私的独占ガイドラインの排他的取引の説明になると、
 
「・・・ある事業者が,相手方に対し,自己の競争者との取引を禁止し,又は制限することを取引の条件とすることにより
 
競争者が当該相手方に代わり得る取引先を容易に見いだすことができない場合には,
 
その事業活動を困難にさせ,競争に悪影響を及ぼす場合がある。
 
このように,相手方に対し,自己の競争者との取引を禁止し,又は制限することを取引の条件とする行為(以下「排他的取引」という。)は,排除行為に該当し得る(注12)。」
 
というように、「ことにより」であること(因果関係があること)が必要であると明記しているので、まだ問題は少ないように思われます。
 
わずかな違いですが、誤解を招くか招かないかという意味では、潜在的には大きな違いです。
 
このあたりに、文章を書く人のセンスが表れたりすると思います。

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