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2018年9月19日 (水)

混合合併と垂直合併の区別

混合合併は、水平合併でも垂直合併でもないもの、といわれています。
 
そして垂直合併は、取引関係にある当事者間での合併である、といわれたりします。
 
でも私は、この整理では垂直合併が狭すぎて、そのぶん、混合合併が広すぎるのではないか、と感じています。
 
そうではなくて、
 
水平合併を、相互に競争関係にある商品役務を供給する当事者間の合併
 
と定義し、
 
垂直合併を、相互に補完関係にある商品役務を供給する当事者間の合併
 
と定義して、そのいずれにも当たらないものを混合合併と定義するのがよいのではないか、と考えています。
 
こう考えると、たとえば混合合併と整理されている平成29年度相談事例集事例4(ブロードコム、ブロケード)のFCSANスイッチとFCHBAに関する部分も、両商品は需要者からみて補完的な関係にあるので、垂直合併と整理できることになります。
 
なぜこのように考えるのが良いのかというと、混合合併で問題視される相互補完的な商品の抱き合わせは排他条件付き取引と構造が同じだからです。
 
たとえば、
 
メーカーA→販売店B→需要者C
 
という商流でAとBが合併しようとする場合、通常は垂直合併と整理されますが、見方を変えると、
 
メーカーAが商品αを供給し、
 
販売店Bが流通サービスβを供給している
 
と捉え直すことができます。
 
そして、
 
流通サービスβがなければ需要者Cは商品αの便益を享受することができず、
 
商品αがなければ需要者は流通サービスβをそもそも需要しない、
 
という関係にあることからすると、商品αと流通サービスβは相互補完的な関係にあるといえます。
 
そのうえで、
 
流通業者BがAの競争者Xと取引しないこと(いわゆる顧客閉鎖。通常は、排他条件付き取引と整理される)
 
は、Bによる流通サービスが需要者Cにとって重要である(市場支配力がある)ことを前提に、
 
AとBが結託して、流通サービスβ(主たる商品)と商品α(従たる商品)の抱き合わせをしているのだ(それによりAの競争者を排除)、
 
と整理することができます。
 
また、
 
メーカーAがBの競争者Yと取引しないこと(いわゆる投入物閉鎖。これも排他条件付き取引と整理される)
 
は、Aの商品αが需要者Cにとって重要である(市場支配力がある)ことを前提に、
 
AとBが結託して、商品α(主たる商品)と流通サービスベータ(従たる商品)の抱き合わせいているのだ(それによりBの競争者を排除)、
 
と整理できます。
 
このように考えると、たとえばブロードコム、ブロケードの相談事例p29で、
 
「ブロケードグループが製造販売するFCSANスイッチ及びブロードコムグループが製造販売するFCHBAは,
 
共通の需要者であるサーバーの製造販売業者らに販売されていることから,
 
本件は混合型企業結合に該当する。 」
 
という混合合併の説明は、両商品が共通の需要者に販売されるから混合合併だ、といっているように読めて、ちょっと舌足らずです。
 
問題の本質は共通の需要者に販売されているかどうかではないはずです。
 
そうではなくて、この両商品が補完的な関係にある(両方あってはじめて用をなす)ことが問題の本質でしょう。
 
私が混合合併の意味をこのように捉えなおすべきだという理論的な理由は、経済学的には、2つの財の関係は、競合的か、補完的か、の2つしかないからです。
 
つまり、
 
需要の交叉弾力性が正(一方を値上げすれば他方の需要が増える)のが競合商品で、
 
需要の弾力性が負(一方を値上げすれば他方の需要が減る)のが補完商品である、
 
ということです。
 
このような経済学的な整理に従って整理したほうが、前述の抱き合わせと排他条件付取引との同質性の議論をみてもわかるように、問題の本質がよくみえると思うのです。
 
垂直合併の通常の定義である、取引関係にある当事者間の合併、というのは、取引関係という法的な概念(取引当事者間に売買契約が存在すること)にしたがって整理しているわけですが、こういう法的な概念にしたがって整理する場合、往々にして、問題の本質を見失わせることにつながります。
 
では、交叉弾力性がゼロの商品を供給する2当事者間の合併を混合合併と定義するとして、混合合併が反競争的な場合というのはどのような場合でしょうか。
 
私はそのような場合はほとんどないのではないか、と考えています。
 
交叉弾力性がゼロの商品を供給する2当事者が合併するケースには、範囲の経済の追求などさまざまな理由があるでしょうが、基本的には、効率性を向上させるだけなのではないか(反競争的な他者排除のために混合合併が使われることはないのではないか)、ということです。
 
交叉弾力性がゼロの商品でも、たとえばセット割引ができるなど、合併により効率性が実現できる場合はあると思います。
 
そういう効率的な合併でも、新規参入者が単一の市場に参入するだけでは参入できなくなるので反競争的なのだ(市場の開放性が阻害されるのだ)という意見もあるかもしれませんが、そこは大きく議論の分かれるところだと思います。
 
少なくとも、補完的な商品の抱き合わせと、交叉弾力性ゼロの商品の抱き合わせとでは、反競争性発生のメカニズムが違うはずです。
 
(ただし、確かに抱き合わせの事件には、エレベーターと保守工事、OSとブラウザ、プリンタとトナー、など補完的なものも多いですが、人気ゲームソフトと不人気在庫ソフト、新潟札幌線と新潟ホノルル線、など、補完的とはいえないもものいくらでもあり、補完的であることは抱き合わせの違法性の要件ではないことだけは明らかです。)
 
なので、垂直合併と混合合併の線を引くなら、取引関係の有無ではなく、交叉弾力性が負かゼロか、で引くのがよい、と思うのです。
 
そうすることで初めて、混合合併独自の反競争性(あるいはそもそもそのようなものがあるのか)という点に光が当たるのではないかと思います。
 
ただ、世の中ではこんな区別をしているのは見たことがないので、ふつうに議論するときには、広く受け入れられた定義にしたがって議論するほうが、お互いに話が通じるので、よいのかもしれません。

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