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2018年9月14日 (金)

相手方が1社の再販売価格拘束

メーカーが、代理店1社に対してだけ商品を扱わせ、その代理店の再販売価格を拘束することは、再販売価格拘束にあたるでしょうか。
 
再販売価格拘束が違法であることの根拠は、流通業者間の価格競争(ブランド内競争)が阻害されるからであるとされています。
 
流通取引慣行ガイドラインでも、
 
「再販売価格の拘束は,流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになることから,通常,競争阻害効果が大きく,原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為である。」(第1部第1-2(1))
 
とされており、流通業者間の価格競争がなくなることが問題なのだと明言されています。
 
そこから当然に浮かぶ疑問は、それでは流通業者を1社しか選任しない場合にはそもそも流通業者間の競争はありえないので違法とはいえないのではないか、ということです。
 
私は流通業者が1社だけの場合には、そもそも流通業者間の競争がないのだから再販売価格拘束をしても違法にはならないことが多いと考えています。
 
ぜったいに違法になることがないのかというと自信がないので「多い」といっていますが、逆に違法になるのはどのような場合なのかといわれると具体例が思い当たりませんし、少なくとも今まで相手方が1社の事例で違法だというアドバイスをしたことはありません。
 
ところが公正取引委員会の立場はちがうようです。
 
 
「メーカーが、自社商品を特定の小売業者1社とのみ取引している場合において、当該小売業者の再販売価格を拘束した場合」
 
は違法とならないのではないか、という質問に対して、
 
「再販売価格の拘束は、通常、競争阻害効果が大きいため、独占禁止法においては、メーカーが、流通業者に対し、「正当な理由」がないのに再販売価格の拘束を行うことは不公正な取引方法として違法となると規定されており、本指針の考え方に照らして、御指摘のような具体例が正当な理由があるとはいえないものと考えます。」
 
と回答されています。
 
でもこれは論理的におかしいのはあきらかで、ここで「競争阻害効果」を「流通業者間の価格競争の減少・消滅効果」と置き換えると、
 
「再販売価格の拘束は、通常、
 
流通業者間の価格競争の減少・消滅効果が大きいため、
 
独占禁止法においては、メーカーが、流通業者に対し、「正当な理由」がないのに再販売価格の拘束を行うことは不公正な取引方法として違法となると規定されており、
 
本指針の考え方に照らして、メーカーが、自社商品を特定の小売業者1社とのみ取引している場合が正当な理由があるとはいえないものと考えます。」
 
と回答していることになり、論理的に矛盾しています。
 
でも、相手方が1社だけだと再販が違法でないと明言している文献って、ほとんど見たことがありません。
 
少し近いことが、
 
山木康孝編著『Q&A 特許ライセンスと独占禁止法』
 
のp259に書いてあります。
 
そこでは、ライセンサーがライセンシーに対して特許商品の販売価格を制限することが違法となるかという説明において、
 
「非独占のライセンス契約であって、当該ライセンス地域内でライセンサーがライセンシーと並行して特許製品を製造、販売しているような場合には、
 
ライセンサーがライセンシーの最低販売価格を制限しておかないと、そもそもライセンスをするインセンティブが減殺される場合もあり得ると考えられる。」
 
と述べた後、
 
「このような場合に、独占禁止法上問題ないものとできるかどうかは、競争秩序に及ぼす影響をみて、個別具体的に検討しなければならない。
 
本制限が許容し得る場合として考えられるのは、上記のような一対一のライセンスであってライセンサー自身による同一地域内での実施を理由とする場合であり、かかる制限がなければライセンスをするインセンティブが減殺されるような場合に限られるものと思われる。」
 
と述べられています。
 
同書ではその少し前に、
 
「特に、マルティプル・ライセンス契約の場合において、複数のライセンシーに対して本制限が課される場合には、ライセンシー間の価格競争が減殺される効果が大きい。」
 
とも述べられており、ライセンシーの数が重要なんだよという立場がにじみ出ています。
 
公取委の方が書いた文献でここまで踏み込んで書いてくれるのって、ほんとうにありがたいです。
 
ここでの記述も、1対1なら問題なしと断言しているわけではありませんが、拘束される相手方の数が重要なのだ、という視点を提供しているだけでも貴重だと思います。
 
以前、ある公取委OBの方(ちゃんと信頼できる方です)が、相手方が1社の場合、ブランド内競争の制限が考えにくいので、再販が違法になることは考えにくい、ということをおっしゃっていて、やっぱりわかってる人はちゃんとわかっているんだなぁ、と思いました。
 
さて、相手方1社の場合にはぜったい違法にならないのかといわれると、世の中にはいろいろな競争があるので、わたしも違法にならないと断言するのは躊躇します。
 
やはり競争法の分析には、具体的な事実関係を聞くことが必要だからです。
 
でも、実際に相談を受けてみると、問題ないといえるようなケースばかりです。
 
拘束されるのが1社だけというのは、だいたい事業者向けの商品であることが多いです。
 
そして、そういう商品の場合、複数の代理店を起用することに合理性がないことが多いのです。
 
結果的に代理店が1社だけになっているということは、ビジネス上の理由があってそうなっていることが多いのであって、これは当然のことです。
 
つまり、そもそもブランド内競争が期待できないような場合が多いわけです。
 
メーカーが多数の販売店を起用する典型的な理由は、需要者が一様でない(差別化されている)場合です。
 
典型的には、需要者が地理的に全国に散らばっている場合です。
 
そのような場合には、メーカーが価格の支配権を放棄してでも多数の代理店を起用することが合理的です。
 
ところが相手方1社の場合を詳しく聞くと、そりゃ複数の代理店を起用するなんて意味ないよね、と思えるようなケースばかりなのです。
 
というわけで、いろいろな相談を受けた経験に基づいていうと、相手方が1社で再販が違法になる場合というのはちょっと考えにくいな、というのが素直な感覚です。
 
排除措置命令が出た事件はすべての消費者向けの商品なので、相手方(卸や小売店)が1社という事例は皆無です。
 
唯一、公取委の相談事例で、医薬品メーカーA社が、卸B社の薬局等への卸売価格に応じてA社からB社への仕切り価格を修正することが独禁法違反となるとした事例があります(平成12年度相談事例集事例4)。
 
こういう相談事例があるので、相手方が1社なら常に適法とも言いにくいのですが、私に言わせればこの相談事例は間違っていますし、そもそも拘束される卸が1社であることを明確に意識した相談事例ともいえないと思っています。
 
つまり、説明の便宜上「B社」と名付けただけで、実は卸一般に同じような仕切り価格の調整をしようとしていた事例なのではないか、という気がしています。
 
回答も、事後的に仕切り価格を調整したり販売手数料を支給したりという拘束の手段ばかりが分析対象になっており、「B社」が1社であるという観点からの分析(ブランド内競争の制限という観点からの分析)がまったくありません。
 
取引の実態としても、医療用医薬品メーカーは通常複数の卸を使うので、相談の事例も、卸1社という点に力点があったとは考えにくいです。
 
なのでこの相談事例は、拘束の手段という点では先例的価値はありますが、相手方が1社であるという点については先例的価値はないと思います。
 
なお、相手方が1社の場合には、委託販売の形にしてしまったり、メーカーとユーザーの直接取引にしてしまったりできることも少なくないのですが、なかなかそういうわけにもいかない場合も多いものです。 
 
なので、正面切って「相手方1社の場合には問題ない」といえる(上述のように、断定はできませんが)ことは、大事なことだと思います。

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