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2018年8月30日 (木)

排他条件付き取引の未遂?

排他条件付き取引(一般指定11項)は、
 
「不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。」
 
です。
 
ここで注意を要するのは、あくまで違反行為は、(排他条件付きで)相手方と「取引」をすることです。
 
したがって、たとえば取引の相手方に排他条件を提案して、当該相手方が当該排他条件を嫌って他の事業者と取引をした場合には、「取引」が存在しないので、排他条件付き取引は成立しません。
 
条文にはっきりと、「取引し」と書いてある以上、当然のことです。
 
なので、たとえば、ある事業者が取引先に対して「競業他社とは取引しないこと」という排他条件を提案したところ当該相手方がその条件を嫌って別の事業者に逃げてしまった、という場合、排他条件付き取引は成立しません。
 
比喩的に言えば、排他条件付き取引の未遂罪というのは存在しない、ということです。
 
これは経済学的にみても合理的なことで、排他条件の提案を受けた相手方候補者の誰も排他条件に応じなかった場合(これには、①排他条件を申し出た事業者との取引をしないで別の事業者と取引をする場合と、②排他条件なしで取引をする場合、の2つがありえます)には、なんら競合他社に対して排除効果が発生しないので、違法にならないのは当然、ということもできます。
 
ついでにいえば、排他条件の提案を受けた事業者がその提案を負担に感じたかどうかは、排他条件付き取引の成否には何ら関係がありません。
 
そもそも排除効果が発生するメカニズムとしては、
 
①競合他社のコストを上げる(ライバル費用の引き上げ、raising rivals' cost)
 
②競合他社の残余需要曲線を左にシフトさせる
 
かのいずれしかありえません。
 
このことはライバルの需要曲線と費用曲線をかいてみればわかることです。
 
(消費者厚生に悪影響を与えるメカニズムとしては競争者の意思決定に影響を与えて協調的に行動させる(つまり、限界費用価格設定→寡占的価格設定→独占的価格設定、と移行させる)メカニズムがありえますが、それは「排他」とは関係のないことなので割愛します。)
 
したがって、たんに排他条件を提案するだけであれば、①も②も生じようがないので、排他条件付き取引は成立するわけがないのです。
 
排他条件付き取引が実際に成立すれば、競合他社の流通コストが上がるので、①が成立することはありえますが、成立しなければありえません。
 
排他条件の提案をしただけで競合他社の直面する需要が減少する(②)というシナリオも、ちょっと考えにくいです。
 
排他条件を提案するのにあわせて競合他社の商品を誹謗中傷するようなことをすれば、②も成立するかもしれませんが、それは排他条件の申し出とは別の行為であり、排他条件付取引は成立しないというべきでしょう。
 
排他条件の申し出を受けた相手方が負担に感じたということが仮にあったとしても、そのような事実からは、①も②も出てきませんので、排他条件付取引は成立しません。
 
むしろ、取引の相手方に負担を感じさせるということは、排他条件の提案をした事業者自身の商品役務の、需要者にとっての実質価格を上げることなので、ほんらいその事業者にとっては自殺行為のはずです。
 
それにもかかわらず事業者がそのような(取引相手方に負担を感じさせる)行為を行うとすれば、それは、安心感やブランドイメージなどによる差別化を図るなど、経済合理的な(排除目的ではない)理由に基づくことが多いのではないかと思います。
 
以上で説明したことは経済学を少し知っていれば当たり前のことであり、それだけに、あまり表立って説明されることもないのですが、こういう、基本的な排除のメカニズムがわかっていないと、まったく的外れな判断になってしまいかねないので注意が必要です。

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