マクドナルドへの措置命令について
マクドナルドに対して7月24日、優良誤認で措置命令が出ました。
「東京ローストビーフバーガー」などの商品に成形肉を使っていた、ということです。
しかしこの事件、なんとも評価がむずかしい事件です。
措置命令を読むと、
「ローストされた牛赤身の肉塊をスライスする映像を放送」
するなどした表示が、
「あたかも、本件料理に使用されている「ローストビーフ」と称する料理には、牛のブロック肉を使用しているかのように示す表示」
であるとして、不当表示だと認定されています。
たしかに命令書の別表をみると、肉の塊を包丁で切っている写真が載っています。
ところが措置命令をよくみると、肉の塊を包丁で切る映像だけでなく、商品(「東京ローストビーフバーガー」)の写真そのものも、不当表示としてあげられています。
ではこの事件、いったい何がいけなかったのでしょう。
わたしはこの事件を最初に報道でみたとき、フォルクスが成形肉を「ステーキ」として提供していた事件を思い出しました(2005年11月15日排除命令)。
このフォルクス事件では、「ビーフステーキ」などのメニュー名が、
「あたかも,当該料理に使用している肉は,牛の生肉の切り身であるかのよう」
な表示であり、
「実際には,牛の成型肉(牛の生肉,脂身等を人工的に結着し,形状を整えたもの)であった。」
ので不当表示だ、とされました。
つまり、「ステーキ」という言葉は牛の生肉の切り身を焼いた料理を意味するのだから、成形肉を焼いた料理は「ステーキ」と呼んではいけない、という理屈です。
あくまで、「ステーキ」という言葉の意味の問題であることが、ポイントです。
わたしはこのフォルクスの事件が報道されたとき、まあ確かにステーキって、肉の塊を切って焼いたものっていうイメージがあるから、そういう解釈もあるのかな、と思いました。
といった過去の経緯も考えると、今回のマクドナルドの事件でも、「ローストビーフ」という言葉の意味が問題とされた可能性は大いにあります。
でも、「ローストビーフ」の意味からして、これはやや微妙です。
たとえば『広辞苑』では、「ローストビーフ」は、
「蒸焼にした牛肉」
とだけ説明してあり、固まり肉でなければならないとはされていません。
次に『新明解国語辞典』では、「ロースト」の説明として、
「牛肉や鶏肉などを焼くか蒸焼きにすること(した料理)。「-ビーフ5⃣・-チキン5⃣4⃣」
と説明されており、固まり肉であることを要求していません。
これに対して『大辞林』では、「ローストビーフ」を、
「牛のかたまり肉を天火で焼いた料理。」
と説明されています。
まあ確かに、ローストビーフのイメージは固まり肉を焼くか蒸すかしたもの、というイメージはわからなくもありません。
なので、もし今回の措置命令が「ローストビーフ」をそのような意味だと解釈して(いわばフォルクス事件で「ステーキ」は一枚肉を焼いたものに限ると解釈したのと同様に)、成形肉を使ってはいけない、と考えたのなら、先例にしたがった判断ということもできそうです。
問題は、措置命令が違反だと明示している「ローストされた牛赤身の肉塊をスライスする映像」です。
こういった映像一般が不当表示になるとすると、かなり広告実務への影響が大きいのではないでしょうか。
こういう、大きな塊肉を豪快にスライスするような映像って、広告宣伝では普通にイメージ映像として使われそうですよね。
今回の命令は、そういうイメージ映像もだめだ、とはっきり言っています。
「肉汁のしたたる大ぶりの塊肉を豪快にナイフでカットする映像を流すんだから、実際の商品もそうやって作れ!」
というのは、表示と実際を厳密に一致させるという意味では間違っていないのかもしれません。
でも、それってちょっと、広告の表現の幅を狭めてしまいすぎないでしょうか。
たとえばレストランのメニューの写真や食品サンプル(蠟でできた本物そっくりのサンプル)をみて、大きくて立派なエビフライだったので注文したら実物はずいぶん小さかった、というような経験って、誰でも一度や二度はしているのではないでしょうか。
インターネットの広告でも、こういうイメージ的な表現はいくらでもありそうです。
それも不当表示だというのも一つの見解ですが、法律で取り締まらないといけないものなのかなあという気がします。
ともあれ、どこまでのイメージ映像が広告上一般に許される誇張なのか、今後は厳しく問われることになりそうです。


