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2018年7月 6日 (金)

「携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30 年度調査)」について

6月28日に公取委から掲題の報告書が出ました
 
あまりにひどい内容で、絶句しました。
 
このところの公取委の報告書は、
 
ビッグデータの報告書では非常に意欲的な議論を展開し、
 
LNGの報告書では緻密な情報収集できわめて説得力のある議論を展開し、
 
フリーランスの報告書では今まで光の当たらなかった分野に切り込み、
 
と、個人的には非常に高く評価していたのですが、この携帯電話報告書の内容は、とても残念です。
 
2年縛りや4年縛りが独禁法違反になりうるというのが大々的に報道されていますが、その根拠が今まで聞いたことがないようなものばかりで、きわめて薄弱です。
 
たとえば、端末とのセット販売について、
 
「端末市場において,MNO各社が販売する端末のシェアは約9割であり,また,前記販売方法〔セット販売〕がMNO各社によって並行して採られているという状況を踏まえれば,前記販売方法〔セット販売〕が,他の事業者の事業活動を困難にさせる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占等)。
 
この場合,MNO相互の意思の連絡が無く,MNO各社の個別の判断に基づくものであったとしても,それぞれの行為が独占禁止法上問題となるおそれがある。」
 
というように、市場シェアが高い事業者(端末シェア9割)の間で並行的な行為が行われている場合にはまとめて市場支配力をみるという議論など、欧州のcollective dominanceの議論をほうふつとさせますが、日本ではそんな議論はありません。
 
(まあ、議論くらいは誰かがしてるかもしれませんが、事件はありません。)
 
その他、そもそもセット販売がどのように反競争効果を持つかについて、同報告書ではわずかに、
 
「通信と端末のセット販売において端末代金を大幅に値引く販売方法は,
 
端末の大幅な割引に誘引される消費者をそのような販売方法を採ることが可能なMNO3社との契約へ誘引するため,
 
MVNOに対し,MNOは競争上優位な地位を獲得する。」
 
というだけです。
 
でも、それほどセット販売が競争優位につながるなら、MVNOもそうするはずであり、そうしないのは、そうする必要がないだけなんじゃないでしょうか。
 
どうしてもセット販売が必要なら、MVNOも端末を仕入れたり、端末を別途購入した消費者に対して端末補助金として現金を渡せば、セット販売と同等の経済効果が出るはずであり、それをしないのは、そんな迂遠なことをしなくても、通話料を安くすることで十分戦えるからなんじゃないでしょうか。
 
MVNOがセット販売ないしセット販売と経済的に同等の販売方法を取れない法律上その他の制限でもあるんでしょうか。
 
2年縛りについては、
 
「独占禁止法の観点からは,
 
2年縛りのないプランの料金が2年縛りを正当化するためだけに名目上設定されたもので,実体のある価格と認められず,
 
全体としてみて利用者を2年間拘束すること以外に合理的な目的はないと判断される場合に,
 
他の事業者の事業活動を困難にさせるときには,
 
独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占,取引妨害等)。」
 
とされていますが、何が言いたいのかさっぱりわかりません。
 
これだと、2年間拘束すること自体が違法(当然違法)、といっているかのようです。
 
それに、ほかの部分にも繰り返し出てくるのですが、
 
「他の事業者の事業活動を困難にさせるときには,」
 
といっても、ただそういっているだけだり、どのようなメカニズムで他の事業者の事業活動を困難にするというのか、何の説明もありません。
 
たとえば、MVNOも2年縛りをすればいいじゃないか、という反論がすぐに思いつきますし、MVNOが2年縛りをしたときにMNOがやるのとなぜ違う評価がなされるのか、本報告書の説明からはわかりません。
 
それに、ここで取引妨害を持ち出すのも大きな問題です。
 
というのは、取引妨害は行為要件による縛りがなく、かつ、市場競争への悪影響も不要ということで、
 
「困ったときの取引妨害」
 
と揶揄されるくらい、なんでも違法にできてしまう、非常に取扱注意の条文です。
 
そこで、こういう「なんでもありじゃないか」という批判に対して、行為がそれ自体不当なものに限定しているので問題はないんだ、と反論されることがあるのですが、2年縛りのどこが、それ自体が不当な競争手段といえるのか、わたしにはさっぱりわかりません。
 
こういう報告書がでると、排他条件付取引はいうにおよばず、たんなる長期間の契約(しかもたった2年!)まで独禁法違反になりかねず、おおいに問題です。
 
下取りした中古端末を国内で販売させないようにすることが独禁法上問題だというのが平成28年の報告書でも指摘されたのですが、このとき、ある携帯電話会社の法務の人に話を聞いたら、
 
もともと中古端末の大部分は事業者からのものであり、消費者からの下取りなんて全体からみたらわずかなもので、しかも消費者が使ったものは荒く使われていることが多いから国内では流通させないようにしているだけで、競争制限のつもりはぜんぜんない。
 
でも公取委が中古端末の国内転売制限をやめろというなら、やめますけどね(べつにビジネス上困ることもないので。)
 
という話でした。
 
つまり、公取委の指摘は、ぜんぜんピントがずれている、ということです。
 
今回の報告書でも中古端末の販売制限が取り上げられており、
 
「特に,4年縛りを含め,MNOの端末下取りプログラムを利用する消費者が多い場合に,
 
MNOが下取りした端末について,
 
上記のようにその販売先の事業者に対して国内市場への販売を制限したり,
 
国内で中古端末を販売する特定の事業者に対して販売しない又は著しく不利な条件で販売したりするときには
 
独占禁止法上問題となりやすい。」
 
と述べられていますが、端末下取りプログラムの利用者が「多い」として、そこから中古市場に流れるものが全体のどれだけなのかという視点が、まったくみえません。
 
この報告書が依拠するデータは、要するに各社の市場シェアと消費者へのアンケートだけであり、よくこれだけ薄弱な根拠でこれだけ思い切ったことがいえるなぁと、ほとんどあきれるほかありません。
 
この報告書の中には、「スイッチングコスト」とか「現状維持バイアス」とか、経済学の用語がちらほら出てきますが、ほんとうに意味を分かって使っているのでしょうか。
 
少なくとも、「スイッチングコスト」と「現状維持バイアス」と高い市場シェア(でも1社で過半ところはどこにもない)、だけで、2年の契約が独禁法違反だという結論をみちびくなんて、たいへん乱暴な議論です。
 
この報告書を見ていると、携帯電話市場には、ほかの市場とはちがった独禁法があるんだ、といわんばかりです。
 
(ひょっとしたら公取の本音はそうなのかもしれません。←ブラックジョークのつもり)
 
でも、何の説得的な説明もなしに、2年の契約が取引妨害だという報告書が出たら、それが独禁法一般に適用されるという議論が出てきてもおかしくないでしょう(法律論とは、ほんらい、そういうものでしょう。)
 
この報告書の概要を報道で知ったときは、
 
「また公取は、事件として立件できない(したら裁判所で負ける)行為を実態調査報告書とかでコントロールしようとして、姑息だなぁ」
 
と思いましたが、その懸念は杞憂でした。
 
なぜなら、こんな報告書を真に受けるMNOはない、と思われるからです。
 
くりかえしますが、LNGの報告書であれだけ緻密な分析をした公取とは思えない、きわめて雑で手抜きの報告書です。
 
LNGの報告書が出たときは、外国のLNGメーカーから、「この報告書は公取委の通常の考え方なのか」という意見を求められ、通常の意見だと思う、という回答をしました。
 
もし今回同じ質問を受けたら自信をもって、「通常の考えではない」と答えられます。
 
それくらい、この報告書の内容はひどいです。
 
報道では、公取委の報告書は携帯各社に重い課題を突き付けた、みたいな論調が目立ちますが、お上の言うことが何でも正しいわけではありません。
 
(私が独禁法を専門にしているのでそう感じるのかもしれませんが)とくに、公取委の場合は、そうです。
 
報道各社さんも、もう少し勉強された方がいいと思います。
 
べつに私は、2年縛りや4年縛りが、良いとも悪いとも思いません。
 
でも、良いとか悪いとかの話ではなくて、それを独禁法違反というのは、大きな問題です。
 
独禁法というのは、条文があいまいなだけに、なんでも違法にしようと思えばできる法律です。 
 
それだけに、理論的な基礎づけをきっちりしないといけません。
 
今回、2年縛りが取引妨害にあたりうるという報告書が出たことで、まさに、そういう「何でもあり」の懸念が出てきました(少なくとも、まともな法律家なら、そう思うはずです)。
 
(ただし、現実的なことをいうと、公取委で報告書を作る部署と審査を担当する部署はちがうので、報告書で取り上げられたからと言ってすぐに事件調査に結び付くわけではありません。
 
公取委で報告書作成を担当した人に「この報告書のテーマでの事件調査は今後増えるのでしょうか」と聞いても、「わたしは審査部ではないので・・・」という答えがでるのがおちです。)
 
国家権力は常に国民の基本的人権を侵害する可能性があります。
 
そのような観点から、独禁法の専門家として、また、国家権力の濫用に目を光らせる使命を負った在野法曹として、今回の報告書は見過ごすことはできないと思いました。

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